Image by: FASHIONSNAP
トレンドの最前線を行く者、映画の最新作も気になるはず──。今月公開が予定されている最新映画の中から、FASHIONSNAPが独自の視点でピックアップする映画連載企画「Fスナ映画部屋」。
今回は、良質恋愛群像劇のヒットメーカー 今泉力哉が脚本を務め、Vシネマやピンク映画界を牽引している城定秀夫がメガホンを取ったR15指定のラブストーリー「愛なのに」をセレクト。編集部員によるゆる〜い座談会付きで本作を紹介します。
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愛なのに
気になるあらすじは?
古本屋の店主・多田(瀬戸康史)は、昔のバイト仲間 一花(さとうほなみ)のことが忘れられずにいた。一方、一花は亮介(中島歩)と婚約中。結婚式の準備に追われる彼女は、亮介とウェディングプランナーの美樹(向里祐香)が男女の関係になっていることを知らずにいる。その頃、店主である多田が営む古本屋では女子高生 岬(河合優実)が通い、多田に何度も求婚を迫っていた。
■愛なのに
公開日:2022年2月25日(金)
監督:城定秀夫
脚本:今泉力哉・城定秀夫
出演:瀬戸康史、さとうほなみ、河合優実、中島歩、向里祐香、丈太郎、毎熊克哉、オセロ(猫)
公式インスタグラム
一足先に「愛なのに」を観た、同い年編集部員2人による ゆる〜い座談会
普段はアートやカルチャー関連のほか、東京のデザイナーズブランドなどを担当。今泉力哉監督作品「アイネクライネシナハトムジーク」の主題歌、斉藤和義の「ベリー ベリー ストロング〜アイネクライネ〜」は名曲です。"〜自分の仕事が一番辛いと思う奴にはならな〜い♪”
マサミーヌ:「性の劇薬」や「アルプススタンドのはしの方」など、Vシネマやピンク映画界を牽引している城定秀夫と、良質恋愛群像劇のヒットメーカー 今泉力哉がタッグを組んだ今作「愛なのに」。
フルカティ:2人がお互いに脚本を提供しあってレイティングR15のラブストーリー2本を制作するというプロジェクト「L/R15」の第1弾作品だね。
マサミーヌ:この異色コラボを聞いた時、フルカティはどう思った?
フルカティ:観る前の率直な感想は「とんでもないエロ映画だったらどうしよう」だね(笑)。
マサミーヌ:(笑)。実際はどうだった?
フルカティ:R15指定だから当然エッチなシーンもあるんだけど、久々に映画を「ふふっ」と笑いながら観た!今泉力哉が得意とする「嘘みたいだけど本当にありそうな話」が、城定監督らしい遠巻きの定点長回しで撮影されることで、異様なほどリアルになるというか。
マサミーヌ:終始笑えるよね。「異様なほどリアル」と言いたくなる気持ちもよくわかる。
フルカティ:現実世界においての恋愛も、好意がある人同士はずっと駆け引きをしているわけではないし、好意を寄せる相手との会話も、緊張を経ながら徐々に打ち解けていくものだと思うんだけど。そういう恋愛における「緊張と弛緩」を台詞と映像で観させられた、という感じがした。だからこそ、たまにどっきりとするくらいリアルな時がある。
マサミーヌ:なるほど。私も「ドラマや演劇のように、俳優陣が大げさなくらいわかりやすい演技をする作品も好きだけど、やっぱりどっきりとするくらいリアルな映画もいいな」と本作を観て思えたよ。
フルカティ:年の差の純愛も、大人たちの欲まみれでどたばたな恋愛も「嘘みたいなほんとうの話かも……?」「なんだか既視感があるな……」と観れるからこそ、ただの恋愛映画にとどまってない気がしたんだよね。
マサミーヌ:本作は女子高校生の岬が、瀬戸康史演じる古本屋の店主 多田に恋をする「歳の差純愛」と、多田が長年片思いをしている女性 一花ゲスの極み乙女のドラマーとしても活動する ほな・いこかの名演技!、その婚約者 亮介を取り巻く「欲にまみれたドタバタ恋愛」が同時進行で描かれている。
フルカティ:「私も高校生の時、同い年よりも30歳を過ぎた大人の方が魅力的に見えていたな」とか自分の恥ずかしい記憶を思い出したよ(笑)。今泉力哉は、誰しもが抱える「心の柔らかいところ」というか、できれば思い出したくない記憶をちょっと憂鬱になるくらい思い出させる天才だと思う。
マサミーヌ:瀬戸康史演じる多田も、少しだけおませな学生が恋をしてしまうような雰囲気が滲み出ていて素晴らしかったね。
フルカティ:今までの瀬戸康史のイメージとはちょっと違う役だった!
マサミーヌ:「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督最新作「偶然と想像」でも印象深かった中島歩も印象に残る良い役なんだよ。
フルカティ:本作に出てくる男性は総じて情けないんだけど、その情けなさが可愛らしくもあったね。
マサミーヌ:男性に限らず、登場人物たちは全員「愛」にまっすぐ。それ故に、真面目かつ真剣に「愛」について考えた上で行動しているはずなんだけど、第三者視点から見るとなんとも滑稽というか、喜劇っぽいというか……。
フルカティ:全員「好き」という感情が原動力になっているんだけど、全員が絶妙に噛み合っていないし、その様がシリアスに描かれているわけでもないから喜劇のように見えるのかもしれないね。
マサミーヌ:「今泉力哉の作品は少し苦手意識があるんだよな」と思っている人にこそ、観て欲しいね。
フルカティ:たしかに今泉作品ファンはもちろん、今泉力哉入門作品としても最適かも。
マサミーヌ:本作のタイトルは"なのに"という逆説を意味する接続詞でタイトルが途切れているけど、フルカティは「愛なのに」に続く言葉はなんだと思った?
フルカティ:すごい難しい質問するね(笑)。「愛なのに、欲だね」か「愛なのに、うまくいかないね」かな。マサミーヌは"なのに”に続く言葉はなんだと思った?
マサミーヌ:「愛なのに、いぢけるな」か「愛なのに、黙らせるな」かな。
フルカティ:なるほど。……観客によって異なる回答が得られそうなおもしろい質問だね!本作を観た人全員に聞いて回りたい。
マサミーヌ:本作は、主な登場人物である6人で話が進んでいくけど、誰の視点に立って観るかで"なのに”に続く言葉は変わりそう。
フルカティ:来月は城定秀夫が脚本を務め、今泉力哉が監督を務める映画「猫は逃げた」も上映予定。こちらも楽しみ!
【もう観た!? Fスナ映画部屋アーカイブ】
・ロバート・パティンソンとウィレム・デフォーのW主演映画:「ライトハウス」
・フランス映画がアツい:「Summer of 85」
・UA栗野とミキオサカベが語る:「マルジェラが語る"マルタン・マルジェラ"」
・令和のスター・ウォーズ誕生:「DUNE/デューン 砂の惑星」
・あなたも"やられた!"と思うはず?:「アンテベラム」
・完全"復活"を世界最速考察:「マトリックス レザレクションズ」
・ファッション業界のタブー!?:「ハウス・オブ・グッチ」
・超豪華キャストで送るウェス・アンダーソン監督最新作「フレンチ・ディスパッチ」
【ネタバレ注意!】鑑賞後に読みたい、もっと「愛なのに」の話
ここからは、同い年編集部員である「フルカティ」と「マサミーヌ」による、ネタバレありきのゆるい座談会をお届け。「愛なのに」観劇後の余韻に浸りながらゆる〜くどうぞ。(本当にゆるいです!)
【⚠ネタバレ注意⚠】
フルカティ:終盤のシーンで、岬の両親が多田に対して高校生である岬に"恋文"を送ったことを糾弾した時に多田が言った「愛を否定するなよ!」という言葉は、この映画を端的に表す良い台詞だな、と思った。
マサミーヌ:多田の叫びは言い換えると「"愛なのに"否定するなよ」だったわけだからね。
フルカティ:他の登場人物たちとは異なり、手紙や相手のために言葉を丁寧に紡ぐという対話が、多田と岬の関係にとって大事なことだったと思っていて。
マサミーヌ:2人は体の関係がなさそうだしね。コミュニケーションの方法として言葉しかない2人から文通や対話を奪って黙らせるのは酷だよね。
マサミーヌ:これは個人的な見解だけど、本作の中で多田と岬以外はあまり「言葉」や「発言」を気にしていないのかな、と思った。
フルカティ:どういうこと?
マサミーヌ:物事を断定するような「です」「ます」ではなく、曖昧さを残す「かも」という文末が多かった気がするんだよね。例えば、亮介は「あ、えっと、違くて〜」みたいな回りくどい喋り方が特徴的で、自分の意志を明確に伝えることを回避しながらも、どんどん話を進めてしまう傲慢さがある。
フルカティ:言われてみればそうだね。
マサミーヌ:多田と岬の関係性が、その他の登場人物の関係である「多田と一花」「亮介と一花」「亮介と美樹」の関係性の対になっていることは確かで。言葉だけで繋がっている良好な関係性(多田と岬)と、性行と曖昧な言葉だけで繋がっている関係性を描いていたのかな、と。
フルカティ:年の差や、心より体を求めてしまうことなど、一見生々しく見えてしまうようなシーンも、全体的にコミカルかつ軽やかに描かれているからか親しみやすい作品だった。
マサミーヌ:「好きだからこそ体だけの関係は嫌だ!」と言いながらも結局は一花の言葉に流されてしまう多田も、「これが最後だから」と言いながら美樹との不貞関係をだらだらと続ける亮介も、「最悪」という一言で片付けることは出来るんだろうけど、軽快に描かれているからか不思議と不快な気持ちにはならなかったよね。
フルカティ:そうそう。感情移入しやすいキャラクターが少ないというのも関係ありそうだよね。美樹から「亮介さんって、セックス下手ですよね」と言われるシーンとかあっけらかんとしすぎて笑ってしまったもん(笑)。
マサミーヌ:亮介はあの場で美樹に自分の至らなさを指摘してもらえてよかったよ(笑)。
フルカティ:そうだね。一花が多田を頼る理由は「亮介の性行の不満」なわけだから、亮介が腕を磨けば一花は多田からは離れられるかもしれないもんね。
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