Businessインタビュー・対談

古着ディーラー・起業・M&Aを経験した凄腕ヘッドハンターが挑戦する「出会いと繋がりビジネス」とは?

新サービス「NESTBOWL」を立ち上げた池松孝志氏 Image by FASHIONSNAP.COM
新サービス「NESTBOWL」を立ち上げた池松孝志氏
Image by: FASHIONSNAP.COM

 新しいマッチングサービスNESTBOWL(ネストボウル)がサービスを開始した。設立者は、これまで数々のエグゼクティブ人材をスカウトしファッション企業に送り込んできたエーバルーンコンサルティング代表の池松孝志氏。凄腕ヘッドハンターとして知られる同氏が、コロナ禍で地盤沈下を起こすファッション業界で新しいサービスを立ち上げる狙いは?「大転換期に入った」という人材市場の状況を含め話を聞いた。

池松孝志:1980年生まれ。アメリカ留学時代に古着屋のディーラーを経験。 国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立し代表取締役に就任。 主にエグゼクティブのサーチやM&A案件を担当。

コロナで消える"量"としての販売員。

ー壊滅的な影響が出ているファッション業界ですが、ヘッドハンティング業界でも影響は甚大ですか?

 役職と職種によりますが、やはり全体的に影響がでています。特に店舗スタッフは深刻ですね。コロナ前は、とにかく人手不足の状態が続いていて且つ新しい商業施設のオープンも控えていたので、多少経験不足でも採用するほど強い需要がありました。でも、今はほぼゼロですね。逆に人を減らしている状態のところがほとんどです。店舗運営の形も変わって、今後の店舗スタッフの"量"としての需要は減少していく傾向が続くと思います。リモートワークが難しい職業なので現場に出るスタッフの負担は増えていくでしょうね。これからは最少人数で店舗運営することが求められると思いますし"質"の需要が残る感じでしょうか。

ー本部スタッフは?

 本部スタッフも影響がありますね。特に日本の支社長になる予定だった外国の方が来日できない物理的な問題。ここに関しては、国内の人材でやりくりしなくてはいけないので需要はあります。ただ、社内の人材を繰り上げて対応しているところが多いのが実情ですね。それと年収の問題。ここ数年の高成長で提示年収を上げすぎてしまったブランドや企業が多いので、同じ役職を募集してもだいぶ下がったオファープライスになっています。

ー逆にポジティブに採用強化しているポジションや業界は?

 ファッション業界に限らず、ファイナンスに関わる採用は多いですね。FP&A(ファイナンスプランニング&アナリシス)あたりです。新しい事業をやることで将来的にどれくらいの資金がかかってそこに対してどれくらいの売り上げが見込めるか、のようなプランニングポジションですね。それとデジタルに関わるポジションの需要は高いですね。ただ、凄く良い人しか探していない。今までは、「とにかく誰か探さないといけない」など妥協もあったのですが、今は全く妥協しないです。マーケティングやPR、VMD、営業などの伝統的な職種はほぼ採用がありません。

ー本部がデジタルシフトを鮮明にするなら店舗スタッフは減少していきますね。

 そうですね。これから店舗スタッフで採用される人は1人でどれだけ売れるのか、どれだけ売る手法を持っているのかを厳しく見られると思います。VIPが満足を得られる接客とデジタルリテラシーを持ってコミュニケーションをとれるスキルは必須です。今後は、ハイブリッドで店舗販売とデジタルコミュニケーションを取りながらEコマースの商品提案できる人。そして、それをリンクさせて高価格と低〜中価格アイテムを売り分けられるルートを持っている人しか生き残れない気がします。ただそれに合わせて評価制度もガラリと変わると思うので、店舗スタッフのオファー年収は大幅に上がる可能性は高いですね。

ーラグジュアリーは、回復が早いとも言われていますが。

 反動が凄いので、早そうに見えますがアトリエ機能の回復やデジタルシフトへの対応などでそれでも3年はかかるかもしれませんね。ただ、ラグジュアリーは顧客へのフォローがとても上手で数万円するギフトなどを折を見て送ってロイヤリティを高める施策を積極的に行っています。なので、顧客離れという観点だと心配はしてはいません。

マッサージチェア営業マンの年収が数千万。ヘッドハンターの面白さ。

ーあまり表に出てこないヘッドハンターという仕事ですが、簡単に説明してもらってもいいですか?

 クライアントから「こういうスキルを持った人を探してほしい」という要望を受けて、それに見合った人を探しだしてくる仕事ですね。ざっくりとした要望のものもあれば、業界ではバイネームといって「A会社のBさんをヘッドハンティングしてほしい」という具体的なものもあります。主にエグゼクティブ層やいわゆるトッププレーヤーが対象です。ただ、顧客の求めているキーとなる部分がどこなのかを探り当てて、もっとフィットする人材を紹介することもあります。リサーチ力も必要ですが、顧客と対象人材へのヒアリング力も問われる仕事だと思います。

ーなるほど。新卒でこの業界に入ったんですよね?

 はい、もともと米国の大学に通っていて9.11が起きて現地で就職するのが難しくなってしまったんです。帰国後新卒で入社したのが、シーディエスアイ株式会社(現RGFエグゼクティブサーチジャパン)という外資系クライアントを中心に活動するヘッドハンティング会社でした。

ー学生時代からヘッドハンティングに興味を持っていたんですか?

 いえ、もともと米国の大学に行こうと思ったのも、エア マックス 95が流行ったときに全然買えなくて、「アメリカに行けばいっぱい買えるんじゃないか」と思ったからなんです(笑)。アメリカのファッションが好きだったんですよね。なので、そのために英語だけはずっと勉強をしていて受けてみたら合格したので留学したという感じです。

ーいっぱい買えましたか?(笑)

 全然買えませんでした(笑)。実は渡米前に地元の古着屋さんに営業をかけて古着を卸す契約をしてたんです。なので、とにかく古着を買い付けて日本に卸す仕事に熱中してました。当時は日本で古着ブームが起きていたのですが、米国はのほほんとしていてスリフトショップなどに行けば日本で20万円するリーバイスのセカンドなどが5ドルとかで売っていることもありました。それをハントして生活費を稼ぐのが面白くて。本当は卒業後もアメリカで古着のビジネスをしたかったのですが、テロ以後厳しくなってしまったので帰国したんです。ただ、日本で就職活動をするなかで、何かを見つけにいく仕事がしたいなと思ってヘッドハンティング業界に入りました。

ー最初からファッション担当だったのですか?

 そうです。消費材・小売・ファッションを担当したのですが、初めはかなり苦労しました。そもそも古着で培った知識とかが全く活かせないので、とにかく勉強していろいろな人に会って顔を売っていくということをルーティンにしていました。私が勤めていた当時は、今のようにSNSで連絡というのはほとんどなくてクライアントから依頼を受けて、クライアントの競合または潜在類似会社、そこで可能性がありそうな役職者や人物を調べ上げて、その方に直接電話するんです。一般的に知られているヘッドハンティングの仕事という感じですが、今はそれができる人は本当に少なくなったと思います。ソーシャルで見つけるのが簡単になったので、調査作業がかなり簡素化されてるんですよね。便利になった反面、ソーシャルアカウントが無い人へのコミュケーションができないヘッドハンターも増えた気もします。

ー利便性とのトレードオフですね。ヘッドハンターはかなり高給なイメージですが、実際は?

 イメージ通りですごく良かったです。ただ自分の担当は、やはりフィーが他業界に比べて安いんですよね。製薬や金融、ITはひとり決めるとドカンと入るのですが、ファッションは年収レンジがそこまで高くないのでとにかく数を決めていく勝負でした。おそらく当時は会社で一番人数を決めていたと思います。とはいえ、エグゼクティブやかなり実績を上げているプレイヤーの方たちですから紹介して決めたときのフィーは高額になります。入社するときに「年に3回配られるインセンティブボーナスは、毎回お札が立つよ」といわれたのですが、本当だった事に感動したのを覚えてます。

ーそんな高給な会社を辞めて2008年にエーバルーンを起業します。

 もっと専門領域に集中してやってみたいと思い、独立しました。ただ、起業した途端リーマンショックにモロぶつかりして泣きそうになりました(笑)。一切、求人がなくなって初年度はほぼ売上がありませんでした。ファッション業界にいる中学の同級生から翻訳の仕事をもらったのが初めての売上でした。他にも生命保険会社の営業を探したり、マッサージチェア会社のトップ営業マンを競合企業にヘッドハンティングする仕事など自分の担当外でもとにかく仕事を受けて食いつなぎました。

 マッサージチェアはすごく印象に残っていて、話を受けたときは「マッサージチェアかぁ。これはフィーの期待はできなさそうだな」なんて思っていたのですが、実際話を聞くと年収オファーが数千万円。しかも、そのトップ営業マンが属しているチーム8人全員を同程度の条件でハンティングして欲しいという内容でした。外側から見たら全然高給に思えない業界でも、実は出す人には出すという他業界の知られざる実態が知れたのは良かったです。

ー起業して大変だったのは?

色々な業界の手伝いをするなかで感じたのは、バックオフィス機能の大切さですね。会社員として雇われていたときは、細々した作業や実務はアシスタントがやってくれていたのですが一人になると全部やらなきゃいけなくなる。フロントだけをやっていたときには気が付かなかったのですが、やっぱりそこをアシストしてくれる人がいたから専念できていたんだなって思いました。

ーその後、リーマンショックを乗り越えて順調にビジネスが拡大していきます。

 やはりファッションビジネス、特にラグジュアリークライアントからの需要がかなり上がっていったのが大きいですね。単純にファッションに精通している人というだけでなく、ITや広告代理店のような外部の人も採用対象になって年収レンジが上がっていったのも理由です。ただ、とある高級ブランドの店舗で年間10億円売っている人をヘッドハンティングして同じ商材の違う高級ブランドに移したのですが、全然上手くいかないんですよね。やはり適材適所なんです。会社のカルチャーに合う合わないもあるので、そこも見極めながらやっています。もちろんクライアントの要望が最優先ですが、人材のキャリアもあるので本人の希望なども聞きながら紹介することが多いです。

ー引き抜かれる会社からしたらかなり嫌ですよね。

 むしろ引き抜かれるくらいの人材がいるという面では、魅力的な会社という見方もできますよね。一度、とあるラグジュアリーブランドの人をヘッドハンティングしたら会社側から「半年間は辞めさせない」と当人が言われて困っている相談を受けた事がありました。色々サポートしても事態が収束しないので、その会社に出向いて「自分が後任を連れてきます」と後任を探してその会社に紹介したりもしました。今ではその会社もクライアントになっています。人事ですからいろいろなパターンがありますね。

NESTBOWL立ち上げ

ー8月に新しいサービスNESTBOWL(ネストボウル)を立ち上げたのですが、ファッション業界を対象としたマッチングサービスです。

 【人と人】と【企業と企業】、【人と企業】を結びつけるマッチングサービスです。販売スタッフのキャリアを持った人とそれを求めている企業、カメラマンを探している編集者とカメラマンを結びつけるような目的で立ち上げました。表側はファッションの求人ですが、実は裏側に企業や工場が出会うようなビジネスマッチングのサービスを展開しています。本当は、初めからビジネスマッチングを全面に出そうと思っていたのですが、2月くらいから転職希望者は増えてきて積み上がっていたのにファッション業界の求人数が少なくなってきていたんです。なので一般のユーザーにはまずファッションの仕事を紹介できるようにしました。法人やフリーランスの方がログインをしてもらえれば、ビジネスマッチングサービスにアクセスできるため様々なビジネス解決のヒントとなるものが見つかると思います。

ー人だけでなく企業や工場も取り入れる意図は?

 人を対象に仕事をしていくなかで企業や工場の悩みを聞くようになったのがきっかけです。工場が新製品を開発してもどこに需要があるかわかない、違う会社と上手く連携が取れたらもっと伸びるのにと思うことがあったんです。逆に、スキルはあるのに自分のスキルを求めている企業がどこなのかわからないというのも見てきました。それを可視化して誰が何を持っているのか、誰が何を欲しがっているのかをわかりやすくしていきたいです。実際、私も過去に作ったサービスを売却するときにかなり地道にアナログな手法で売却先を探したりしました。

ー実は会社売却を経験しているんですよね。

 ヘッドハンティングはとてもアナログで狭く深い仕事なので、一般の人がファッション業界に就職転職できるサービスを作ってみたいなと思って2015年にFashionHRを作りました。とても順調だったのですが、これからさらに大きくするなら自分一人では難しいなと思ったんです。その時、新卒で入社した会社がリクルートに買収されたのを思い出したんです。当時、間近で見ていて経営陣が会社を売却するのはどうなんだろと思っていましたが、買収後に会社がすごく成長しているのを見てとてもポジティブに捉えるようになりました。なので、自分よりももっと成長させてくれると思ったITに強い会社に色々打診して交渉して、その中で一番評価をくれたキャリアインデックスさんにお渡ししました。サービス開始して1年ほどだったのでチームもまだ少人数で、タイミングとしても良かったのかなと思います。

ーその時のタイミングで求められるものも変わりますからね。

 そうですね。新しいサービスが手間を省いてくれて、新しい価値創造に繋がることが増えてきた時代だからこそタイミングは意識します。このサービスを通じて、適切なときに適切な何かと繋がれるようになってくれたら嬉しいです。

最新の関連記事

Realtime

現在の人気記事

    次の記事を探す

    Ranking Top 10

    アクセスランキング