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香水市場は「ネクストニッチ」へ! ブルーベル成田浩明CCOが語る、香水市場とブルーベルのこれから

【フレグランス特集】日本のフレグランス市場は、ここ数年で大きな変化を遂げている。コロナ禍を機に、閉じられた空間を香りで彩る習慣や、SNSを通じた情報発信、そこから生まれたニッチフレグランスの台頭など、若年層を始め老若男女が香りを楽しむようになり、市場を取り巻く環境は変わり続けている。そんな日本のフレグランス業界を長年にわたり牽引してきたのが、数多くの海外ブランドを日本に導入・展開してきたブルーベル・ジャパン(以下、ブルーベル)だ。

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 今年新たな経営体制へと移行し、ブランドポートフォリオの拡充やリテール環境の刷新など、新たな取り組みを進めている。4月には、日本ロレアルで「ランコム(LANCÔME)」や「メゾン マルジェラ フレグランス(Maison Margiela Fragrances)」などの事業部長を歴任した成田浩明氏がCCOに就任。長年ビューティ業界の最前線で市場とブランドを見てきた成田CCOに、日本のフレグランス市場で起きている変化や今後の可能性、そして新体制のブルーベルの新戦略について聞いた。

成田浩明:1987年生まれ。早稲田大学卒業後、2011年に日本ロレアルに入社。「ランコム」でマーケティングを経験後、2018年に外資食品会社へ転職し、ブランドマネージャーを務める。その後、クラランスでマーケティングディレクターを経て、2020年にロレアルに復帰。フランス本社でアジア太平洋地域のマーケティングディレクターなどを務め、2023年からは「メゾン マルジェラ フレグランス」「ランコム」「ヘレナ ルビンスタイン」などの事業部長を歴任。2026年4月にブルーベル・ジャパンに入社、現職。

香水が「他人のため」から「自分のため」へ 日本市場が成長した理由

⎯⎯ まず最初に、成田CCOの視点から、日本のフレグランス市場の変化を教えてください。

 私が2011年にビューティ業界に入ったとき、百貨店ブランドにおける香水の売上比率は約2%ほどだったと記憶しています。当時ランコムでアイメイクとフレグランスのマーケティングを担当していましたが、本国からは「なぜ日本では香水が売れないのか」と繰り返し問われていたぐらいです。

 その根本には、日本独自の文化的背景があったと考えています。香りを他者に押しつけることへの抵抗感、いわゆる「スメルハラスメント」の概念が市場の拡大を阻んでいた。フレグランスを楽しむ土壌自体が、まだ十分に育っていなかったのです。

⎯⎯ 転換点はいつ頃だったのでしょうか?

 よく「コロナがきっかけ」と言われますが、その直前の2018年から2019年頃にはすでに市場が少しずつ伸び始めていました。自己表現やウェルビーイングを大切にする風潮が高まり、特に若い男女を中心に、フレグランスを通じた自己表現の土壌が整いつつありました。

 そしてコロナがその動きを一気に幅広い世代へと浸透させました。家に閉じ込められたとき、香りが生活を豊かにする選択肢の一つになり、キャンドルやディフューザーも含め香りが生活のあらゆる場所に入り込みました。今や百貨店のラグジュアリーコスメ市場では約20%まで香水のウェイトが高まっています。

「ニッチがメインストリームに」 SNSが変えた香水の選び方

⎯⎯ 直近2〜3年の傾向としては、どのような変化を感じていますか?

 「ニッチがメインストリームになってしまった」というのが率直な意見です。もともとニッチフレグランスは「自分だけが知っている」という限定的な意味合いを持っていたので、文字通りニッチだった。ところが今、そのニッチフレグランスが日本のラグジュアリー香水市場において最も大きなカテゴリーになっていて、もはやニッチという言葉自体が矛盾を抱え始めているのではないでしょうか。

⎯⎯確かにニッチフレグランスは急激に広がった印象があります。

 背景にはSNSとの親和性があると思います。フレグランスを楽しみたいけれど、どれを試せばいいのかわからない若年層がたくさんいる中で、特にInstagramやTikTokで、言葉で形容しがたい香りをヴィジュアルと文字、音を組み合わせたコンテンツが約4〜5年前から目立つようになりました。SNS上では、新しいものを発信する傾向があり、ニッチフレグランスが流れやすい。それを見た人たちが、知らなかったブランドや香りに興味を持ち、購入するフローを生み出しました。

⎯⎯ フレグランス市場は、まだ広がりの余地があるのでしょうか?

 今まさに問われているのは、「その次」です。フレグランスに入門した人が次の1本、2本目を選ぶとき、メインストリーム化したニッチに向かうのか、それともさらに“別の”ニッチを追い求めるのか。消費者がどちらに向かうのか、まだ明確ではありませんが、ここが最も注力すべきポイントだと考えています。

 フレグランスの市場シェアは、百貨店のラグジュアリーコスメ市場だけを見れば約20%ですが、ドラッグストア・バラエティショップ、専門店、ホームセンターなど全チャネルを合算するとまだ6〜7%程度※で、まだまだ小さいと言えます。

 ただ、私はこの流行が一過性のものだとは思っていません。今20〜30代でフレグランスを使い始めた層が、10年後には30〜40代になる。その間に新しい顧客が入ってきて、また積み重なっていく。市場全体が時間とともに成熟していく構造が、ゆっくりと、しかし確実に形成されていくでしょう。

次のトレンドは「機能」と「アジア」

⎯⎯ これから日本市場で成長するカテゴリーは何だと思いますか?

 一つは、フレグランスの「ファンクショナル化(機能化)」です。アジア市場全体として、メイクもスキンケアも、あらゆるカテゴリーが機能的になってきています。フレグランスも例外ではありません。「読書に集中したいときの香り」「熟睡するための香り」「仕事終わりの心を落ち着かせる香り」 「スポーツの前にモチベーションを上げる香り」といった細かなニーズへの対応が、次のトレンドになると考えています。

 もう一つが、アジアフレグランスの台頭です。欧米ブランドが引き続き力を持ち続ける一方で、日本人やアジア人の感性にぴったり合う香り、例えばアロマティックで落ち着く香りを作る上では、アジアフレグランスのほうが圧倒的に強い。この流れはすでに始まっており、今後ひとつの大きな市場になっていくでしょう。

 ブルーベルでも、シンガポール発のニッチフレグランスブランド「メゾン ド ラズィ(MAISON DE L'ASIE)」の取り扱いを昨年開始しました。今後は日本・韓国・中国など、さまざまなアジアフレグランスをブランドラインナップに加えていく予定です。

「ブルーベル 2.0」で描く新たな成長戦略

⎯⎯ブルーベルでは、新しいブランドの取り扱いを増やしている一方で、大きなブランドがブランドホルダーに移行するケースが増えています。現状をどのように捉えていますか?

 ブルーベルの本質的な役割は、無名だったブランドを時間をかけて日本に根付かせ、消費者から愛されるブランドに育て、そして独立させることです。なので現状は、正しいビジネスモデルの結果だと思っています。

 直近ではコティのブランド群がブランドホルダーに移行し、いくつかのニッチブランドも独立していきました。もちろん短期的に売り上げが下がる厳しさはありますが、これはビジネスモデルが機能した証拠でもあります。ブランドが巣立っていくことを嘆くのではなく、次の才能ある芽を見つけ出し、根付かせ、また送り出す。世界には次々と新しいブランドが生まれています。そのサイクルを早く回し続けることが、ブルーベルの存在意義そのものだと考えています。

⎯⎯ 具体的にはどのような取り組みを進めているのでしょうか?

 まず社内体制をスリムアップして「ブルーベル 2.0」と呼んでいる新体制に移行しています。より動きやすい組織のもと、新しいブランドをハンティングし、これまで試していなかった日本への導入手法を検討しています。

 リテール環境の刷新も急務です。約2年をかけてリノベーションを進め、百貨店以外の商業施設にも新しいリテールデザインを広げていく計画です。

⎯⎯ ブルーベルで新ブランドを導入する際、アジアブランドをという話もありましたが、選定の基準を教えてください。

 最も重視しているのは、香りとブランドの想いです。そのブランドにちゃんとした骨のあるストーリーがあるかどうか。マーケティング寄りで「売るためのブランド」だと感じた瞬間に、導入の話はストップします。日本のお客さまに自信を持って紹介できるブランドのストーリーとユニークネスがなければ、成功は難しいからです。なるべく創業者本人と直接会って、ブランドの理念や各香りの特徴、他ブランドとの違いを突っ込んで聞くようにしています。

⎯⎯ 現在の好調ブランドは?

 売上でいうと、「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」「ランバン(LANVIN)」「コーチ(COACH)」といったファッションフレグランスがボリュームとしては非常に大きいです。 また、ニッチフレグランス全般が非常に好調ですね。「ペンハリガン(PENHALIGON’S)」をはじめ、多くのニッチフレグランスが堅調に成長をしています。

⎯⎯ ブルーベルとして、今後注力していくフレグランスブランドを教えてください。

 アジア発ブランドもそうですが、今後の柱として育てていきたいのが、フランス発「マティエール プルミエール(MATIERE PREMIERE)」やその他のニッチフレグランスブランドです。創業者のオーレリアン・ギシャール(Aurélien Guichard)は世界的な調香師で、高砂香料工業(日本有数の香料会社)のパフューマーとしても知られる著名な方です。彼はグラースにある自身の畑でバラ、チュベローズ、ラベンダーを栽培し、それらを原料として香り作りをしています。この原料主軸のストーリーは、成分や背景をきちんと理解した上で商品を選びたいという日本の消費者の感性にとても合っていると感じています。

 SNSへの反応を見ていても、これまではヴィジュアルがきれいなものやおしゃれなものが目立っていましたが、最近はノートをしっかり説明しているものや、香りの成分がきちんとわかるものへの反応が高くなっています。消費者の香りに対する知識の高まりを感じますし、香りの成分や構成を詳しく知りたがるのは、日本の消費者の特徴でもあるように思います。

 他にもフランス発「メゾン クリヴェリ(Maison Crivelli)」にも注目しています。調香師が今までにない香りの組み合わせを独創的なマインドで作り上げたブランドで、海外ではニッチフレグランスのトップ3に入るほど人気があり、日本でももっと挑戦できると信じています。「パルル モア ドゥ パルファム(PARLE MOI DE PARFUM)」も、マーケティング次第でより日本人に受け入れられると期待しています。

左から:メゾン ド ラズィ、パルル モア ドゥ パルファム、マティエール プルミエール、メゾン クリヴェリ

⎯⎯ 今、世界中で新しいフレグランスブランドが誕生し日本にも上陸しています。それに伴い、ディストリビューターも増えている印象です。競合が増える中で、ブルーベルの強みは?

 一番の強みは顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)の総合提案力です。ブルーベルではオフラインとオンライン双方に高い専門性を持っています。我々の販売員の香水に対する知識と理解の深さは、日本の香水市場においてトップクラスであると自負しています。これは長く日本のフレグランス市場を牽引してきたその接客技術は、何物にも変え難い価値であり、脈々と受け継がれている強みだと思います。技術力は簡単に取得できるものではありません。販売員を通じた香りの提案力と、ブランドのキュレーション力は、他社と明確に差別化できる点だと考えています。それに加えて、主要オンラインプラットフォームにおけるブランドに合わせた提案力を兼ね備えています。

CCOミッションは、フレグランス、ファッション、フード事業の三位一体ビジネスの推進

⎯⎯ 4月に現ポジションに就任しました。成田CCOとしてのミッションは?

 ブルーベルはフレグランス・化粧品のほか、ファッション・アクセサリー、フード&ビバレッジの事業を展開しています。私のミッションは、この3つの事業にバランスよく力を注ぐことですね。フレグランス・化粧品は立て直しを、ファッション・アクセサリー、フード&ビバレッジは活性化する必要があります。

 ファッション・アクセサリーは「マノロ ブラニク(Manolo Blahnik)」が主力となっていますが、2年以内に4〜5ブランドを擁する事業に育てることを目標に、アップカミングブランドの導入を交渉中です。

 フード&ビバレッジでは、「クスミティー(KUSMI TEA)」がアフタヌーンティー需要の高まりを背景に順調です。今後はオンラインでのギフト需要の獲得と、単独カフェのオープンを目指しています。また、ブルーベルグループとして海外で展開しているショコラティエなど、コネクションを活かした日本導入も検討しています。

“ネクストニッチ”を提示 香り探しを変える新業態

⎯⎯ 最後に、フレグランス市場において、これからのブルーベルが目指す未来について教えてください。

 ニッチがメインストリームになりすぎた今の市場が次に何を求めているか、その答えをブルーベルが出さなければいけないと思っています。メガブランド化したニッチの、さらにその次に来る「ネクストニッチ」をきちんと見つけ、お客さまにユニークな形で届ける。これをただただやり続けることです。日本のフレグランス市場はまだまだ伸びしろしかなく、一過性のトレンドではないと確信しています。

⎯⎯ ユニークな形とは?

 実店舗については、有楽町マルイに今年オープンしたコンセプトショップ「セントリウム」での学びを活かした新業態「セントリアル」を、来年上半期にオープンする予定です。セントリウムではブランドの垣根を越えて、香調別にさまざまな香りを体験できることが特徴です。セントリアルの詳細はまだお話しできませんが、フレグランスの新しい選び方を提案できると思っています。また、勢いのあるブランドについては、独立店舗としての出店も視野に入れています。

 そしてオンラインも強化していきます。ブルーベルのECサイト「ラトリエ デ パルファム」を「セントリアル ドットコム」に切り替えていく準備を進めていて、来年上半期の導入を予定しています。ブランドと商品をただ並べる形ではなく、「自分はどんな香りを試せばいいのか」をガイドできるような体験設計を目指しています。

⎯⎯ オンラインでのフレグランス購入は難しいと感じる消費者も多いと思います。どのようにアプローチしていきますか?

 おっしゃるとおりで、目に見えない香りをオンラインで買うのはまだハードルが高い。だからこそ、私たちが目指しているのは購入サイトではなく、「ディスカバリーサイト」です。

 ブルーベルは約20年分の購買データを保有しています。年代別、性別、そして「この香りを買った人が次に何を買ったか」といったクロスブランドのデータをAIと組み合わせながら、他にはないレコメンデーション機能を作り上げていきます。

⎯⎯ ビジネスの具体的な数値の目標を教えてください。

 私自身の個人目標として、2028年までに全3事業部で2桁成長を達成し、会社全体で2桁億円規模の利益を出すことを目指します。

■ブルーベル・ジャパン 公式オンラインストア:ラトリエ デ パルファム

(聞き手:福崎明子、上玉利茉佑)

最終更新日:

上玉利茉佑

Mayu Kamitamari

FASHIONSNAP 編集記者

鹿児島県生まれ。東京外国語大学言語文化学部スペイン語専攻卒業。同大学院でラテンアメリカ文学について学び、修士課程修了後、2024年にレコオーランドに入社。国産から外資、韓国コスメまで幅広くビューティ分野を担当する。学生時代はスペイン舞踊部でフラメンコを踊る傍ら、アメリカ・ヴァージニア州とスペイン・バルセロナへの留学経験を通して、極度の甘いもの好きになる。趣味は海外ドラマとアイドル鑑賞で、「ギルモア・ガールズ」と「フレンズ」は50回以上視聴。

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