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"香りだけ"を頼りに自分の好きを探る ノーズショップの「嗅覚プロファイリング」を体験

文・木村耀

【フレグランス特集】香水を選ぶとき、ボトルのデザインやブランド名、香りの説明文など、さまざまな情報を手がかりにする。しかしそんな香水選びの常識をいったん取り払い、香りそのものと向き合う体験が、「ノーズショップ(NOSE SHOP)」が提供する「NOSE SHOP SALON」で行われている。

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 今回は同店で、香りの好みを探るプログラム「嗅覚プロファイリング」を体験。香りを嗅いで感じたことを言葉にしながら、自分でも気づいていなかった香りの好みを探っていくプログラムだ。

NOSE SHOP SALON

完全予約制・1回1組限定のパーソナルカウンセリングを提供。ライフスタイルや香りの好み、使用するシーンなどをヒアリングしたうえで、一人ひとりに合わせた香水を提案する。所要時間は60分。香りの専門教育を受けた選抜スタッフがカウンセリングを担当する。

所在地:東京都渋谷区神宮前5-48-2 ふらりと表参道 2F
営業日:[金]18:00/20:00、[土・日・祝]11:00/13:00/16:00/18:00 ※各回完全予約制
料金:4400円〜5500円
※店舗概要は2026年10月時点

◾️公式サイト

まずは「どんな香りを使いたいか」をカウンセリング

 カウンセリングを担当するのは社内で香りの専門教育を受けたスタッフ。普段どのように香水を使っているか、どんな印象を与えたいか、香水を使う際の希望などのヒアリングからスタートした。今回は、「自分の定番と呼べるような香りを見つけたい」と伝える。

 続けて、「バニラのような甘い香りや、土っぽさを感じるアーシーな香り、重厚な香りは苦手。普段は比較的、軽やかで爽やかな香りを選ぶことが多い」と、大まかに好みを話す。ここで話した内容と、来店前に提出するアンケートをもとに、スタッフが試す香りを用意する。

ブランドもボトルも伏せて、"香りだけ"で判断

 いよいよ香りを試していく。ここで特徴的なのが、ブランド名や香水の名前、ボトル、コンセプトなどが一切見えないことだ。並べられたムエットを順番に嗅ぎ、「好き」「どちらでもない」「苦手」の3段階で分類していく。判断の基準はあくまで自分の感覚。ブランドネームやボトルデザインなどの情報に左右されることなく、香りだけを頼りに、順番に提案される合計10種の香りを選別する。

 「どれも香りはいいんですけど、実際に使うことを考えると……」(体験者)、香りそのものの良し悪しではなく、自分がつけたいかどうかという視点で考えると、評価が変わることにも気づいた。さらにスタッフからは、「どんな香りに感じましたか?」と問いかけられる。ここでは、香りそのものを正確に説明することよりも、嗅いだ時に自分がどう感じたのかを言葉にすることが大切。上手く伝える必要はないという。

「みかんを食べたあとの手みたい」「草原っぽい」「広い景色を感じる」「色に例えると水色」など、思いついたままの言葉で伝える

「好きな香り」と「つけたい香り」は違う?

 香りを試していくうちに、単純な好き嫌いだけでは整理できない感覚も見えてきた。香り自体は好ましく感じても、実際に自分が身につけることを考えると少し違う。最初はそれほど強く惹かれなかった香りが、何度か嗅ぐうちに「自分が使うならこれかもしれない」と感じることもある。スタッフとのやり取りを重ねながら、最初の回答から少しずつ条件を変えた香りが追加されていく。最初に苦手と答えた要素をあえて含む香りが出てくることもあり、自分の好みをより細かく探っていくような感覚に。

 カウンセリングが進むにあたり、初めに伝えていたアーシーな香りの正体は、ベチバーやシダーウッドなど、植物の印象を比較的強く感じさせる香料であることが判明。しかし意外だったのが、これらの要素を含むフレグランスが好意的な位置に入ったこと。

 スタッフによると、苦手だと思っている土っぽさを感じる香りも、フルーティさや酸味、爽やかさが加わることで、印象が変わった可能性があるとのこと。

「木や根に由来する香りが極端に苦手というわけではなく、オリエンタルなニュアンスやフルーツとの組み合わせなど、香りの重なり方によっては使えるのかもしれないですね」(スタッフ)

 これまで自分ではひとくくりにしていた苦手の中にも、実は細かな違いがあることが分かってきた。

10種類の香り、その正体を明かす

 10種すべてのムエットを嗅ぎ終えたところで、いよいよ香りの正体が明かされる。


 苦手だと思っていた植物的な香りも、フルーティな要素が加わることで「好き」と感じることに気づく。例えば、ボディノートにシダーウッドを内包する「アンドレア マーク(Andrea Maack)」の「デュアル」(写真右から2番目)は、トップノートにレモンの要素が含まれることで、弾けるような清々しい印象を覚え、好みの分類に。一方で、果物の香料が含まれていても、スパイスの要素が強い香りやバニラの甘さが前面に出る香りは苦手という結果になった。

 しかしバニラを含む「イストワール ドゥ パルファン(Histoires de Parfums)」の「1899」(写真右から3番目)は好みの分類に。「色に例えると水色のような、クリアな感じがする」(体験者)。スタッフによると、ボディノートのアイリスが花々しく香り立ち、トップノートのイタリアンベルガモットとも相まって、バニラをスイーツとしての印象ではなく、一つの花として認識したのではないかとのこと。

 こうして並べてみると、「フルーティが好き」「バニラが苦手」といった単純な分類ではなく、どんな要素と組み合わさった時に心地よく感じるのかまで見えてくる。

肌にのせると、また印象が変わる

 香りの正体が分かったところで、気になった香りを肌にのせて試用。ムエットで嗅いだ時と肌にのせた時では香りの立ち方が変わるとのことで、この日最も好みに近かった、トルコ発「ニシャネ(NISHANE)」の「ハジワット」はベースにシダーウッドを含み、トップノートにパイナップルやグレープフルーツが重なる香調。吹きかけた直後に感じる爽やかな印象はやがて落ち着き、ベースにある要素が徐々に感じられるものだった。ここでは時間の経過による香りの変化も確認する(同店ではシアージュチェックと呼ぶ)。

「香水を吹きかける場所に正解はないので、好きなところにつけていただくのが一番ですが、目的によっておすすめの部位がございます」(スタッフ)

 スタッフによると、香りをしっかり漂わせたい場合は手首だけでなく、肩まわりやうなじにつけるのもおすすめ。反対に、仕事や食事の場など、香りを強く広げたくない場合は、服で覆われるお腹まわりにつける方法も。香りは下から上へ立ち上がるため、膝裏などにつける人もいるそうだ。

 自分の生活やシーンに合わせて香り方を調整できることも、体験を通して知ることができた。

自分だけの「プロファイリングシート」

 体験の最後には、今回選んだ香りや苦手だった香り、香りに対するコメントなどをまとめた「プロファイリングシート」が手渡される。その日のコメントや実際にまとった時の香り方を確認するシアージュチェックの結果なども記録されている。担当スタッフが手書きで仕上げたシートは、単なる香水選びの結果というより、その日に自分がどんな香りに反応したのかを残す記録のようでもある。なお、同店では商品を販売していないが、希望すればここで出合った商品を後日配送で購入することも可能。


 香水を選ぶとき、つい「自分はこの系統が好き」と過去の経験やイメージから判断してしまうけれど、ブランドもボトルもコンセプトも知らず、ただ香りを嗅いでみると、自分が思っていた「好き」と実際の反応には意外なズレがあることを発見した。今回の体験で分かったのは、お気に入りのフレグランスを見つけることだけが正解ではないということ。どんな香りなら心地よく感じ、どんな要素が加わると苦手になるのか。香りを選ぶという行為を通して、自分自身の感覚を細かく知ることができた。

「香りと向き合う研究の場所に」 ノーズショップ中森友喜CEOが語るサロンの目的

——ノーズショップ サロンをオープンした背景を教えてください。

 普段の店舗ではできないことをやりたい、という思いから構想を始めました。ここでは商品を買っていただくことを目的にはしておらず、一人ひとりのお客さまとじっくり向き合いながら、香水の接客そのものを研究開発するR&Dのような場所として考えています。ここで得たお客さまの反応やデータを蓄積し、将来的にはサロンで生まれたメソッドを店舗にも導入していきたいのです。

——サロンでは、なぜ香り以外の情報を伏せた状態から始めるのでしょうか?

 香水には、香り・ヴィジュアル・ストーリーという3つの要素がありますが、ここではあえて香りだけに向き合ってもらいます。「フローラルが苦手」「ウッディが好き」といった香りのカテゴリーは便利な一方で、言葉から受け取るイメージによって、自分の本当の反応を決めつけてしまうこともあります。ブランド名やボトル、コンセプトを一度取り除くことで、純粋に香りを嗅いだときの自分の感覚に向き合っていただきたいんです。

——「香りの言語化」も、この体験の重要なポイントですね。

 ノーズショップが考える香りの言語化は、香りそのものを説明することではなく、香りを嗅いだときの自分の反応を言葉にすることです。

 これまで香りの言語化に取り組んできたなかで、人が香りを嗅いだ時の反応にはいくつかのパターンがあることが分かってきました。その蓄積をメソッドに落とし込んだのが、このサロンです。

——体験のゴールは、好きな1本を見つけることではない?

 そうですね。自分が好きな香り、苦手な香りの「方向感」を知ってもらうことがゴールです。香りを嗅いで出てきた言葉や反応をもとに、その人の好みをカルテ(プロファイリングシート)として可視化します。

 香水の情報を説明してもらう機会はあっても、「その香りが自分にとってどうなのか」を、時間をかけて考える機会は、なかなかないと思います。自分の感覚を知ることで、これから香水を選ぶときの手がかりにもなるはずです。

——今後、サロンで培った接客メソッドをどのように展開していきたいですか?

 今はまだ実験の段階で、お客さまと一緒にメソッドを開発しているような感覚です。最終的には、ここで生まれたメソッドを全店舗に広げ、スタッフ全員が活用できるようにしたい。香りを一方的に説明するのではなく、お客さま自身が、自分はどんな香りを好きと感じるのかを知るところから始められる。そんな接客につなげていきたいと考えています。

photography: Hikaru Nagumo(FASHIONSNAP)

文・木村耀

Hikaru Kimura

FASHIONSNAP 編集記者

学生時代に外資系ファッションメディアでアシスタントを務めたのち、大学卒業後、ファッション誌で編集として従事。2025年12月からレコオーランド「FASHIONSNAP」でビューティエディターとして幅広い分野を取材・執筆。プライベートでは坂本裕二や今泉力哉などの脚本家が描く日本語表現が好きで、彼らの作品を何度も見返すオタク気質。趣味は作詞作曲。公私問わず言葉を綴っている。

最終更新日:

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