「"今の時代"が面白い」:篠山紀信、SHOOP、リステア清水博之が語るヌードの現在
左)リステア 清水博之 、中央)シュープ ミリアン・サンスと大木葉平 右)篠山紀信
Image by: genki nishikawa
左)リステア 清水博之 、中央)シュープ ミリアン・サンスと大木葉平 右)篠山紀信
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「"今の時代"が面白い」:篠山紀信、SHOOP、リステア清水博之が語るヌードの現在
左)リステア 清水博之 、中央)シュープ ミリアン・サンスと大木葉平 右)篠山紀信
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スペイン・マドリッドを拠点に、大木葉平とミリアン・サンスが手掛ける「シュープ(SHOOP)」が、写真家・篠山紀信とコラボレーションしたカプセルコレクションを発表した。「Nude is Beautiful」を標榜するこのコレクションは、篠山の写真集「Nude」(1970)と「28人のおんなたち」(1968)から、ふたりのデザイナーが作品を精選。写真作品とファッションの新しい融和を独自の視点から捉え、グラフィックTシャツから、フーディー、ニット、デニムパンツ、スカーフ、ネックレス&リングまで、ストリートネイチャーなシュープらしいアプローチによって生み出された。世代を超えるコラボレーションを実現させたのは、篠山のアトリエ跡地に店舗を構えるリステア(RESTIR)CEOの清水博之。マドリッドからはビデオ電話で、彼らが、篠山のアトリエで顔を向き合わせた。(敬称略)
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―今回のコラボレーションは、どのような経緯を辿ってきたのでしょうか。
リステア 清水:今季から取引をさせていただくシュープは、ずっと気になる存在でした。コレクションはもとより、東京コレクションで小松菜奈さんをモデルに起用したり、話題作りの仕掛け方においても気になっていましたね。展示会で色々と見て、リモートで話をさせてもらううちに、そろそろ始めようと。ただ、普通にスタートしても面白味に欠けるんじゃないか。一緒に取り組めることを見つけようというきっかけから、僕たちだけでなく第三者が入ることで、きっと双方の魅力を引き出せると。そこで篠山先生の名前を出させてもらったんです。
シュープ 大木:お話をいただいた最初は、「僕たちがこれほど偉大な写真家の方とコラボできるのか」というのが正直なところでした(笑)。すぐに篠山先生宛に手紙を書かせていただいて、快諾くださったときは本当に嬉しかった。これまで大きなブランドとコラボする機会もありましたが、自分の中で、今も感動を覚えているほどです。ミリアンも、本当に光栄な機会をいただいて、感謝していると言っています。
リステア 清水:ダメもとではありました(笑)。先生もブランドのことをご存知じゃないと思うから。ただ、僕たちは、将来に期待していたので。
篠山:僕のアトリエのところに来る前からリステアさんのことは知っていたけど、あの店は自分には関係がないや、自分みたいなのが着る服じゃねえやって思ってた。でもね、縁があって伺って着てみたら、みんなお世辞で可愛いとか言うんだけど、すごく良いんですよ。それからリステアさんを気に入って色々と買ってるんです。それで今日、あなたたちの作品(カプセルコレクションの赤いニット)を初めて着たんだけど、本当にすごく良いなと思いましたよ。良い縁で結ばれたと思う。僕は、歳をとってますからね。「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」じゃなくちゃ嫌だとか、「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」じゃないと嫌だなんて言わないの。「着心地が良くて、着ていて気持ちがいいな」って言うのが僕なんですよ。だけどね、今回に限ってはそれ以上の何かがあったね。着ていると、僕が、新しい表現者としてもっといろんなことができそうな気がするね。さすがですよ。
Image by: シュープ
リステア 清水:エッジの効いたデザインをやっている若手ブランドが、篠山先生の50年前の写真をどうアップデートして、どういう化学反応が起きるかにはすごい興味があったんです。
篠山:まあ、作家というのは、やっぱり“今”撮っているものが一番だと思っていいんだよ。そうでないとね、やっぱり物を作れない。でもね、新たに50年前の作品をやると、新しい息吹というのか、パワーというのか、そういったものがどんどん湧いてくるようだった。古いって感じは全然しない。それに、今の時代にすごい合ってるじゃん。そういう気がすごくした。その写真を彼らが選んでくれて、新しいエネルギーを注いでくれて、僕もね、若返った気持ちがしていますよ。頑張りますよ、私も。
―大木さんは先生の写真を知ったときのことを覚えていますか。
シュープ 大木:僕は小さい頃からスペインに来ていて、篠山さんの写真は、タンブラーや写真・アート系のブログであったりインターネットを介して知りました。アートの大学に通っていた学生の頃、写真集「Nude」を見る機会があって、そこから急激に興味を惹かれていきました。だから、今回のコラボで、僕たちから使用させていただきたいとリクエストしたのが、この写真集の作品なんです。先生の昔の写真ではあるけど、今みても、すごい新鮮に感じられる。やっぱり古びない作品だ、と改めて思いました。色々な作風がある先生の作品の中でも、ダークでミステリアスな要素を感じたものを選ばせていただきました。直観的に、シュープと合いそうだなと思って。
篠山:はじめ、彼らがどういう作品を作られているのか見たことがないから写真を送ってもらったんだけどね。おふたりのブランドは、若い人が「今はこんなもんだろう」と騒いでいる感じが全然ないんですよ。密かな……ミステリアスが感じられて、落ち着いている。僕は、いろんなテーマでいろんな形で写真を撮るけれど、僕の作品には、秘密めいた大きなパワーがあるんですよ、実は。それを僕の中に見出し、作品にしてくれたのはすごく嬉しかったですよ。
―写真作品を洋服でどのように表現しようと考えたんですか?
篠山:僕は、どういうふうにやるか全然考えてなかったよ。それは、彼(大木)に聞いてみたい。だけどね、第一印象として僕自身がすごい似合うなと。僕はこういうのを着たことがないのにね。それから、赤という色も、これまで着たことがない。
リステア 清水:男性が着る赤って、本当に難しいですよね。どうしても野暮ったくなってしまう。女性が着る赤とはまるで違います。
シュープ 大木:僕たちのコレクションでも、赤は特に取り入れにくいカラーだったんですけど、先生の作品をジャカードニットで表現したいと思ったときに赤と黒のバランスが良いんじゃないかと思い至ったんです。カプセルコレクション全体と、それぞれのアイテムについて、真っ先に考えたのが「着やすい服を作る」ことでした。性別を問わずに着られることも、アイテムのラインナップに表れています。そして、今回はやっぱり、篠山先生のファンの方にも気に入っていただけるようなものを作りたかった。コレクションとしても、あるいは、アーカイブとして後世に残るような品番を作りたかったんです。
篠山:うん。残りましたね。
―スローガンとして掲げられたのが、「Nude is Beautiful」。このセンテンスはどなたが綴られたのですか。
シュープ 大木:ミリアンが考えました。ストレートに篠山先生といったらヌード。ヌードが美しいというシンプルなフレーズなんですが、先生と以前お話しさせていただいたときに、僕たちが選んだ50年前の写真について「この写真は今は撮れない」とおっしゃったのが印象に強く残っていました。インターネットがこれほど普及した今、自由な表現があるはずなのに、アート表現としてのヌードでさえも規制が厳しくなる一方です。
リステア 清水:アンチテーゼのような?
シュープ 大木:はい、そうですね。皮肉ではないですが、時代を捉えているようにも感じたのです。
―ヌードは、先生が長年向き合われてきたテーマかと思います。しかし、今は撮れない……
篠山:昔はね、週刊誌や写真集といった紙の印刷メディアでしたから、店の置く場所や、見る対象に関して、ある程度チェックができたんですよ。今はスマホをぱぱっとしたら誰でも見れちゃうから、取り締まりのチェックがすごくうるさいんですよね。昔よりも今の方が、制限は増えただろうね。
シュープ 大木:そうだと思います。インターネットでアート作品が見られるマス(大衆)が拡張することで、それまでは限られた枠というか、理解している人が見るものだったのに、すべての人が見られるようになった。そこで何らかの倫理的な問題が発生する。一方で、キャンセルカルチャーのように、ひとりが傷つけてしまったり、インターネット上で不満を持ったら、全員で対象を一斉に攻撃する、と。そういう、何か自分たちがやっていることの枠を超えて、みんなが監視するように見てるから問題が起きているのかなと思っています。
篠山:日本で言うと、今の週刊誌も、ヌードがダメだってわけじゃない。ただね、袋綴じになっていて、切らないと見られない。僕が一番初めにやったけど、樋口可南子さんはアンダーヘアまで出してましたよ。今そう撮るとなったら、みんな、すごくビクビクしながらやっているわけ。だから、時代によって、ヌード……写真全体がそうなんですけど、必ず、制限や規制があるんです。ない国はない。今回のようにね、ファッションでもこれはアートだから。見るからにただ猥褻な芸術じゃないというところを縫いながら、表現者であるってことだよね。でもね、どれがアートで、どれが猥褻かっていうのは、僕はそんなこと関係なく、どっちだって良いじゃねえかと思ってる。こういう風に着てみて、一番に気持ちいいと思えるものがいい。これがアートだから、裸だから良い悪いだとかって、そんなことは全然思ってない。似合うじゃん、俺に。
リステア 清水:50年前に撮っていたヌードと、今撮るヌードって感覚は違うんですか?
篠山:そうだね。僕が開拓をしながらヌードというのが見れるようになっちゃったけれども、それをいいことに、安易にばかばか撮ってるのもいる。僕は、あんまり今の裸の写真でいいなあと思うのはないし、僕自身も飽きてきちゃったのかも(笑)。今は、50年前のように撮ってもね、こんなに新鮮な感じで撮れるかはわからないね。
シュープ 大木:偶然、今回の制作を進めているときにNetflixで「全裸監督」を観たんです。その中で、篠山先生の写真集が出てくるんですよ。宮沢りえさんの「Santa Fe」が、いかに革命的なヌード写真だったのかが描かれていた。それで、かつての時代というのを感じましたね。
篠山:あの時はやっぱり、週刊誌というのはサラリーマンが駅の売店で買って、電車で読んで網棚に捨てて降りていってたんだ。でも、宮沢りえのヌードは、お父さんが買って、家まで持って帰って、子どもも見てた。「お父さん、これ学校に持っていい?」と言ったら、「だめだ。これは俺のものだからもう一冊買ってやる」ってなってた。そのくらい、ヌードと人の関係が革命的に変わっちゃった出来事がいろいろとあったんだよ。
リステア 清水:僕も、親父が持っていたのを覚えています。
篠山:まあ、写真というのは、自由で何を出してもいいよっていう表現ではない。そこが、僕は面白いと思う。そういう中で色々なことを考えながらやっていくわけ。
シュープ 大木:最近だと、インスタグラムとかでは少しでも乳房が見えたら、AIがアルゴリズムで判断して、アップされる前にBANされる。セクシュアリティや人種の問題にもまた、センシティブな時代ですよね。
スペイン在住の写真家 Alex Cascallanaが篠山紀信をオマージュして撮影したルック写真
Image by: Alex Cascallana
―シュープのおふたりが、今回、ルックヴィジュアルを撮影するにあたって、身近で縁のある人をモデルとして招いて撮影されたと聞きました。
シュープ 大木:はい。被写体に僕たちの親交のある方達を起用したのは、自然体な美を持っていると僕たちが確信している周りの人に声をかけたから。あとは、そこまでヌードじゃないですけど、ちょっと脱いでもらったので、プロジェクトを理解してくれるような人を探したときに、クリエイティブ系のアーティスト、表現がわかるような人だったというのもあります。また、このエディトリアルは僕たちのスペイン人の友人でもある写真家のアレックス・カスカジャーナ(Alex Cascallana)という方に撮っていただきました。もともと彼も、篠山先生の作品が大好きで、先生の作品を彼なりにオマージュした撮り方をしています。
篠山:僕が今服をもらって、日本のモデルでヌードというシーンを撮りなさいとなった時に、思いつきもしないような写真なんだよね。だから、例えば「あの本のあれに何か似てるよな」だとか、そういう感じが全然ない。そこが面白い。だから、撮った人の中には、「篠山っていうのは、自分の中で考えるとこういうことなんだ」というのがあるんだろうね。
―写真家のアレックスさんはおいくつぐらいの方なのですか?
シュープ 大木:31歳ぐらいですね。生まれ育った国も世代も違うと、先生へのオマージュだとしても、彼なりの視点が入って……
篠山:例えば、今、日本で30代のカメラマンというのがすごくたくさんいるわけだけど、そういう人たちって僕の写真を見てないわけがないんだよね。僕の事も知っている。意識してる人もいる。やっぱりその人たちが撮る写真って、僕の写真と全然違う。そこが面白いんだよ。
シュープ 大木:そうですよね。今回被写体になってもらった、赤のニットを着ている女性もロンドンで活躍している写真家で、彼女曰く、先生の写真は海外の写真家にも、アングルやヌードの撮り方なども含めて、たくさんのインスピレーションを与えていると言っていました。
篠山:日本のそういう人たちが撮った写真で、「これは僕の自信作と言っていいでしょう」っていう写真集を送ってくれるような人気カメラマンがいるんだけど、僕の写真に似てる写真なんてないんだよ。そこがね、やっぱりクリエイターって面白いし、だからすごいと思う。スペインの人も、ヨーロッパの人も、みんな僕のことを意識しながらも、撮ってる写真が違うんだから。
リステア 清水:とても貴重な言葉をいただけました。千差万別ということですね。先生の名前が世界的に有名になるのっていつからなのでしょう。
篠山:やっぱり、彼らがセレクトしてくれた写真の時代。1969年。学生の講演会がヨーロッパであって、その時に若い人たちが食い入るように見てましたね。でもさ、その当時から50年も経ってる。50年前の若者と今の若い人の両方が良いって言ってくれるのは、なんか最高だなっていうのとね、「今撮ってる俺の写真も見ろよ」って。もっと良いんだよ~。お前ら古いんだよ~。3倍いいよ、3倍って言いたい(笑)。
シュープ 大木:(笑)。今回、あえて昔の写真を使わせていただいたのは、篠山先生があるインタビューで、時代に撮らされている……その時点の篠山さんが撮られた“今”を、僕たちが捉えている今の服に落とし込んだら面白いと思ったからです。
篠山:それは、絶対に落とし込むべき。だから“今の時代”がすごく面白い。
リステア 清水:これが10年前だったら、新鮮じゃなかったかもしれませんね。
篠山:なーに、新鮮だよ(笑)。今でも、50年もやってる人は自分のオリジナリティが続いてるからやれてるわけ。ファッション好きだとか、ヌード好きだけじゃ続きませんよ。ねえ、リステアさん?
リステア 清水:はい。おっしゃる通りです(笑)。
―「時代」は、今回の鼎談の中で何度も触れられてきました。最後に、皆さんにとって、時代と向き合うということについて、お考えになっていることをお聞かせください。
シュープ 大木:時代と向き合ったり、捉えたりする。自分たちが苦手なのか得意なのかさえわかりませんが、強いていうなら、直感的にやっているのだと思います。僕たちは一日一日のインスピレーションに影響を受けている。例えば、コロナ禍になって、ファッション業界も多分にもれず大変なところがあって、その経験を基点にして、服作りをしている意味は何だろうと思うことはたくさんありました。そういうことは、コレクションに反映されていくのだと思います。
リステア 清水:高尚なことはわからないですが、僕らの意識には、常に新しいことを発信するというミッションがある。新しさの基準は、シンプルに、僕たちが新鮮に感じるものだという軸があります。ファッションには当然、トレンドもある一方で、まさに今回のように過去の作品をアップデートして違う切り口で見せるというのも僕たちが提案できる新鮮なもののひとつです。先生もおっしゃったように、シュープは50年前の作品をアップデートしてくれたんです。
篠山:時代は、面白い。面白いと思うことをやっているだけ。今回もさ、リステアさんがいるから面白いんだよ。それで、新しいことやってる。新しいことやっていると「お、いいね、これ」と原動力をもらえる。そういうことがね、続けられるうちは良いんですよ。
大学在学中から活動を開始し、東京を拠点に国内外のデザイナーやアーティスト、クリエイターのインタビュー・執筆などを行う。近年はメディアコントリビューティングのほか、撮影のディレクションやブランドのコンセプトディレクターを手掛けている。
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