セックスマガジン「リチャードソン」の独自性、貫いてきた美学とは

セックスマガジン「リチャードソン」の独自性、貫いてきた美学とは

 今年で創刊20周年を迎える「Richardson」。過激な描写も臆さず、アートとカルチャーの文脈で性を赤裸々に表現し、セックスマガジンとして独自の地位を築いてきた。編集長を務めるアンドリュー・リチャードソン(Andrew Richardson)は、スタイリストやエディターとしてのキャリアを経て、1998年の創刊から「Richardson」を率いている。刺激的なヴィジュアルを貫き続けてきた美学とは?

 「Richardson」の創設は、"チャーリー・ブラウン"の愛称で知られていた「DUNE」元編集長の林文浩(2011年没)に勧められたことがきっかけ。リチャードソンの名でファッションブランドも手掛けており、マガジンは一時休止期間を経ながらも、不定期で制作し続けてきた。

 “セックス”というテーマをアーティスティックな視点で扱う独特なアプローチは、フォトグラファーのスティーブン・マイゼル(Steven Meisel)によって撮影されたマドンナの写真集「SEX」のアシスタントを経験したことにも起因している。第7号で表紙を手がけた荒木経惟や、森山大道、ラリー・クラーク(Larry Clark)といった巨匠らの作品からも大きな影響を受けたという。

 テーマだけ聞くと単なる“エロ”と捉えがちだが、何が違うのか。「ポルノグラフィーは"クライマックス"に持っていくまでの過程を描いているけど、僕らはクライマックスには興味がない。その一部を切り取って、見る人を考えさせる作品を作っているんだ。肉体的に刺激するのではなく感性を刺激する、といった感じかな」。



 「創刊した当時は扱うテーマがセンセーショナルで、パンクな姿勢が評価された。限られた部数だったけど皆がその一冊を欲しがったんだ。しばらくして7年間のブランクが空いたのにも関わらず、人々の記憶には残っていた。創刊以来、フォトグラファーからライターまで一流のクリエイターを起用してクオリティを高く保ち続けたからこそ、支持されているのだと思う」と創刊からこれまでを振り返る。

 最新号のミューズには、キム・カーダシアン・ウエスト(Kim Kardashian West)を起用。スティーブン・クラインによって撮影された挑発的なポーズの表紙は、発表と共にSNSで拡散され話題となった。「彼女はとてもクールで賢く、そしてパワフルな女性。初めて会った時、普段テレビやゴシップで見たり聞いたりする彼女のイメージとは全く違う印象を持った。そのコントラストを表現したかったんだ」。

 

 撮り下ろしでは雑誌と同じく20年前に公開された今敏監督のサイコスリラーアニメーション映画「パーフェクトブルー」をテーマに選んだ。「映画の中のパラドックスな世界観が、キムの人生と重なって面白いメタファーだと思ったんだ。それに日本は好きな国だし、アニメを引用してキムを描きたかった」。タイトルは「PERFECT KIM」。東京の景観にキムの写真を合成し、陰湿で狂気をはらんだコンセプチュアルな世界観を表現した。キムのヌードが披露されているほか「アメリカン・サイコ」で知られる作家ブレット・イーストン・エリス(Bret Easton Ellis)によるインタビューを含め、約30ページにわたってフィーチャーしている。

 インタビューでは、幼少期や両親の離婚、2016年に起きたパリの強盗事件や夫であるカニエ・ウェストとの関係など、これまであまり語られなかったキムのパーソナルな過去にも踏み込んでいる。撮影時については「アリス・マリー・ジョンソンの件(終身刑を言い渡された受刑者に対し、今年5月キムが大統領に恩赦を直訴した)でちょうどトランプ大統領から電話がかかってきて、異様なシチュエーションだった。でも彼女は取り乱すことなく、とてもプロフェッショナルだった」と明かした。

 「もちろんいつも出版されるまで楽しみだけど、怖さもある。良いと思ってくれる人もいれば、不快に思ったり嫌悪感を持つ人もいるだろうから。でもそれは受け手の自由で、僕たちは法に触れない限り自分たちの好きなもの、美しいものをプリントしていくし、コンテンツが過激すぎるといって自制することはない。これからも自分たちの感覚に素直に『美しい』と思うものを作り続けていきたい」。

■リチャードソン:公式サイト

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