
Image by: Yujiro Saito

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あなたは今、なぜその街で暮らし、その仕事をしていますか?
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FASHIONSNAPでは、今年3月に開催された2026年秋冬ウィメンズシーズンのパリファッションウィークの取材と並行して、パリで暮らし、パリで働く、キャリアも職業も在住歴も異なる4人の女性クリエイターを取材。「新しいことを始めたい」「なぜ今、自分はこの環境にいるんだろう」──ふとそんな問いが頭をよぎる“今”こそが、実は人生の岐路かもしれない。迷える人の背中を押してくれる、四者四様の挑戦と選択の話。
#04 「H VEGAN BENTO」 白石浩子

4人目はパリで人気のヴィーガンケータリング「H VEGAN BENTO」を主宰する白石浩子さん。ファッション業界のプレスとして東京で約7年間キャリアを積んだのち、30歳を過ぎてから単身パリへ渡った。フランス人との結婚や2児の子育ての中、大病をきっかけにヴィーガンの道へ。パリのファッションウィークで感じた「ヴィーガン弁当がない」という小さな気づきは、世界のラグジュアリーメゾンからオーダーが届くケータリングビジネスへと結実。今年5月にフランス語の料理本を出版した。
目次
パリに来るまで:ナンバーナインの立ち上げメンバーとして過ごした東京
⎯⎯ 元々、東京ではどういったお仕事をされていたんですか?
新潟出身なのですが、東京への憧れが強く、洋服も大好きだったので、東京の洋服屋さんで働くために上京しました。東京に来てからは古着屋の「デプト(DEPT)」などでアルバイトをしたり、スタイリストのアシスタントをしたりして。その後、知人だった宮下貴裕さんが「ナンバーナイン(NUMBER (N)INE)」を立ち上げると聞いて、お手伝いのような形で、立ち上げ当初から販売員やプレス担当として原宿の同潤会アパートの裏にあったショップで働きました。ナンバーナインでは約7年間働いたんですが、東京での生活に少し疲れてしまって。漠然と「海外に行きたいな」と思い立ち、なぜ行き先にパリを選んだのかは覚えていません。
その時にはすでに30歳を過ぎていたので、学生ビザでパリに来て語学学校に通いました。ファッションウィークの度に友人たちがたくさん日本からくるので、ショールームやコーディネートの手伝いをしていました。元々は1年間で帰るつもりだったんですが、1年は本当にあっという間だったのと、語学学校にいるのは皆外国人だからフランス人の友達はできないし、結局みんな英語で話してしまってフランス語をあまり習得できなかったので、学生を延長することにしたんです。
⎯⎯ 語学はパリでイチから学んだのですか?
渡仏前に数ヶ月間だけお茶の水のアテネ・フランセに通ったんですが、日常生活で使う言葉とは全然違っていて正直あまり役には立ちませんでした。結局パリのレストランでアルバイトをして現地のお客さんと会話をしたのが一番学びになった気がします。学生を延長し、パリで暮らし始めて2年目に、フランス人の現夫に出会って結婚し、10年ビザがおりました。
⎯⎯ ヴィーガン弁当を作り始める以前はパリでどのような仕事をしていましたか?
パリに来てから子どもを産む前まで、「H COUTURE」という名前でリメイクドレスを作っていました。蚤の市で見つけた何世紀も前のレースやベロアの端切れやアンティークのビーズなどが大好きで、それらをハンドメイドで繋ぎ合わせて一点物のドレスを作っていたんです。はじめは友人たちが買ってくれていたんですが、バイヤーさんの目に留まり東京のセレクトショップにも置いてもらえました。古いボロボロの素材なので着るたびにどこかが破けて(笑)。それがコンセプトでもあるので“味”としてあえて修理せず、審査の厳しい百貨店には置けませんでした。
ナンバーナイン時代も、仕事の傍らでそのシーズンのモチーフで小さなぬいぐるみ作っていました、昔から手を動かして何か作るのが好きで、それが今料理になっているんだと思います。
仕事:「無い」から作った 自宅のキッチンで生まれるお弁当
⎯⎯ ヴィーガン弁当屋「H VEGAN BENTO」を始めた経緯を教えてください。
ファッションウィークに合わせて日本から来る友人たちが、みんなとにかくケータリングやお弁当を探していたんです。私もコーディネートの手伝いをする中でいろいろな店にオーダーをしていたんですが、どこもラインナップは同じようなものばかり。特に、ヴィーガンの選択肢がとても限られていたんです。
私はパリに来てから大きな病気をしたことをきっかけにヴィーガンになったのですが、世間のヴィーガンのイメージってすごく「寂しい」じゃないですか。当時のパリには、玄米ときんぴらとひじきの煮物、といった彩りのないものか、キヌアやシリアルの上にひよこ豆と紫キャベツを乗せた「ブッダボウル」のようなものしかありませんでした。そこで、ヴィーガンのお弁当がないなら自分で作ってみようと思い立ち、試作をしてみました。最初は本当に趣味のような感覚で作ったものを知り合いのコーディネーターさんにお出ししたところ評判になり、次第に口コミで広まって、日本からくる方々のためにお弁当を作るようになったのが始まりです。
それが2019年の秋ごろ。その後すぐにコロナ禍になり、日本から誰も来なくなってしまいました。でもその時にはすでに口コミでパリを拠点にするメゾンの方々にも知られていたので、コロナ禍でもたくさんオーダーをいただいて。パリのお客さんが増えてきたので、2020年に個人事業主としてのビザ登録をし、正式に事業として立ち上げることになりました。正直まさか自分がヴィーガン弁当屋さんになるとは思っていなかったので今でも驚いています(笑)。

⎯⎯ クライアントはファッション関連が多いですか?
そうですね。ファッションウィークのタイミングでは、ショーやショールーム用のお弁当を作っていて、ファッションウィーク期間外は基本的にファッション誌やブランドのカタログなどの撮影用ケータリングが中心です。稀に結婚式のケータリングや、個人の誕生日のホームパーティ用のケータリングをオーダーいただくこともありますよ。
⎯⎯ 2026年秋冬シーズンはどのブランドのケータリングを担当しましたか?
ショーのバックステージでいうと、「グラウンズ(grounds)」と「ヴィクトリア・ベッカム(Victoria Beckham)」ですね。あとは「シャネル(CHANEL)」のショー後のイベント用のケータリング、「エルメス(HERMÈS)」と「ザ・ロウ(The Row)」のショー運営スタッフ用のお弁当も担当しました。1月のメンズウィークでは、「カラー(kolor)」、「オーラリー(AURALEE)」、「メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)」です。「アンダーカバー(UNDECOVER)」も、パリでショーを行う時は毎回作らせていただいてます。
あと、先日シャーロット・ランプリング(Charlotte Rampling)の撮影でのお弁当オーダーがあり、私は作っただけで会っていませんが、気分が爆上がりでした(笑)


⎯⎯ 毎日のようにオーダーが入っているそうですが、1日のスケジュールを教えてください。
前日の夜に翌日の仕込みをして、当日は早朝からご飯を炊いて、焼いて、揚げて、詰めて……。お弁当を留める紐を切ったり、献立を印刷してカットしたりといった作業も基本的に全て自分一人でやっているので、本当に慌ただしいです。ブランドにもよりますが、一件あたり30〜40食を自宅の家庭用キッチンで用意しているので、仕事は早朝から深夜までかかります。でも、本当に料理が好きだから、気力でなんとかできている、という感じ。あとは、食べた人が「美味しかった」と言ってくれることがエネルギーになっています。

白石さんの仕事場である自宅のキッチン
生活:息子の絵がソロイストのTシャツに
⎯⎯ 移住のきっかけが「東京での暮らしに疲れた」からとのことでしたが、パリではそういったストレスはないですか?
ないですね。プレス業務は特に毎日たくさんの人に会ったり連絡を取る必要がありますが、田舎育ちなので都会でたくさんの人と毎日コミュニケーションを取らなくてはいけない環境が得意じゃなかったんだと思います。「誰もいないところに行きたい」みたいな感覚でした。
あとは、東京は街に情報が溢れていて、求めていない情報まで視界に入ってくるのが苦手でした。一方でフランスでは誰からも干渉されないし、自分からアクションを取らなければ情報も入ってこない。そういう空気感がなんだかすごく楽なんです。きっとこのお弁当の事業だって、日本だったら実現するのはもっと難しかったんじゃないかと思います。私は料理学校に通ったこともなく、特別な資格を持っているわけでもない。パリでは特に資格が必要ないですが、日本では開業までに超えなくてはいけないハードルがもっと多かったと思います。

⎯⎯ H VEGAN BENTOを始めてからは、子育てと仕事はどのようなバランスで両立してきましたか?
子どもは今17歳と13歳で、もう大きくなったので手がかからなくなりました。お腹が空いたら勝手にUber Eatsも頼んでくれます(笑)。パリには働いているお母さんが多いので、シッターさんに送り迎えをお願いしたり、公園で遊んできていただいたりがしやすいです。私も子どもたちが小さい頃はよくお願いしていました。
⎯⎯ お子さんの絵が「タカヒロミヤシタザソロイスト. (TAKAHIROMIYASHITATheSoloist./以下、ソロイスト)」のコレクションに使用されています。そもそも、宮下さんと出会ったきっかけは何だったんですか?
宮下さんとの出会いは、21歳か22歳の頃、知り合いに連れて行ってもらった原宿のレコード屋さんの事務所で会ったのが最初だったと思います。すぐに仲良くなって以来の飲み友達です。
イラストを使用してもらったのは2016-17年秋冬コレクション「YOUTH」が最初です。オスカー(息子)は絵が大好きでしょっちゅう描いており、それを見た宮下さんが気に入って「コレクションに使いたい」と言ってくれて。パリから原画を送りました。
ニットやシャツ、アウター、スカーフ、スニーカーなど、たくさんのアイテムに使ってもらって私は感激しましたが、息子は当時まだ7歳でことの重大さをわかっていたかどうか…(笑)。
その後も2019年春夏コレクションでもコラボのような形で参加させていただきました。ソロイストが「ステューシー(STÜSSY)」40周年のためのチャリティTシャツを作った時には広告にモデルとして参加させてもらったり、とても可愛がっていただいています。
⎯⎯ 今でも宮下さんとの交流は続いていますか?
東京に行くたびに毎回会っていて、LINEもほぼ毎日(笑)。内容は、相談事から「今何を食べているか」などたわいのない話までさまざまです。
最近はタイミングが合わず家族で会う事は少なくなりましたが、宮下さんは子どもと同じ目線で本気で遊んでくれるので子ども達も大好きで。私が会話に入れないくらい話が盛り上がっていますよ。
以前夏休みに会った時、オスカーが漫画の「NARUTO」にはまっていることを話したら、その年のクリスマスにサプライズでNARUTOの漫画本全72巻がパリに届いたんです!。重い段ボールが届き何かと思ったらびっくり!感激でした。
⎯⎯ 美味しいヴィーガン弁当を作るために大切にしていることは?
まず、お弁当の蓋を開けたときに喜んでいただけるような彩りや美しさがあること。なるべく季節の野菜を入れるようにしていて、植物性タンパク質も入れて。あとは甘味と酸味、塩味のバランスでしょうか。味付けは味噌や醤油、塩麹などを使用した日本の味にしていて、野菜は基本的にこちらで手に入るできる限りオーガニックのものを選びます。
⎯⎯ 味付けは日本風なんですね。パリでは「おむすび権米衛」に行列ができていたり抹茶ブームが起きていたりと、日本食の人気を感じます。
そうですね。多くの人が「お弁当」や「おにぎり」という言葉を知っていて、ここ数年は日本人が手掛けるおにぎり屋さんやお弁当屋さんがすごく増えています。でもベジタリアン向けはあっても、ヴィーガンだけを専門にしているところは私の知る限りないんです。卵焼きが入ってしまうとヴィーガンにならないですし、日本の味付けのベースにある「出汁」が鰹節から取られているのでヴィーガンにするのが難しいんですよね。
⎯⎯ 自身で考案したレシピで、特にお気に入りのものを教えてください。
「カラナマック(Kala Namak)」という種類のブラックソルト(ミネラルを含む黒い岩塩)は硫黄のような香りが特徴で、食材と混ぜると本物の卵のような味になります。豆腐ベースのサラダにヴィーガンマヨネーズとブラックソルト、胡椒だけを入れて、カボチャのマッシュで色付けをした「卵を使わない卵サンド」はとても人気です。
H VEGAN BENTO公式インスタグラム(@hveganbento)より
自家製のベジミートボールは、ソイミートから自分で作ります。木綿豆腐を手で潰して、酒と醤油を混ぜ、250度程度の高温のオーブンに入れて10分おきに裏返しながらカリカリになるまで焼き、マッシュルームと生姜、玉ねぎ、玄米、黒米、黒豆を潰して混ぜて丸めます。
⎯⎯ 美味しそうです…!5月にレシピ本も発売しました。
白石さんのインスタグラム(@hirokoshiraishi)より
インスタを見てくれた出版社の方から連絡をいただいて。普段から作っているレシピから、本のために開発したものまで、全部で約60のレシピを掲載しています。フランスの出版社から発行されるので全てフランス語なんですが、Amazonでも取扱いがあります。
いつもは目分量で入れている調味料を全て1g単位で測らないといけなかったので、本当に時間がかかりました。疲れすぎて、本の中に写っている私の顔がめちゃくちゃ疲れてます(笑)。そういう意味では心残りもありつつ、現時点で出来る範囲での“完璧なもの”ができたと思います。通常のケータリング業務と並行しての制作だったので大変でしたが、無事に最終チェックが終わったときはホッとしました。
⎯⎯ 「ヴィーガンレシピ」への需要も高まっているんですね。
最近は卵や乳製品のアレルギーを持っている方も多いですし、ヴィーガンは肉や魚、乳製品が食べられない方も誰もが食べることができます。動物愛護の観点から選択する人も増えていて、以前よりもヴィーガンのニーズが高まっているのを日々感じています。
⎯⎯ これから挑戦したいことについて教えてください。
自分のお店を構えるのが夢です。理想は「深夜食堂」*のような、コの字型のカウンター席のある「ヴィーガン居酒屋」。ケータリングは今後も続けていきたいので、まずは週に2日くらいから始められたら嬉しいです。お弁当だとどうしても食べてもらう時には冷めてしまうので、コの字型のキッチンの中で作った料理を温かいうちにすぐ食べてもらえる場所が作りたいです。
*深夜食堂:安倍夜郎による同名漫画を原作としたテレビドラマ。第4部、第5部はNetflixオリジナルシリーズとして世界に配信されている。

店を作るなら「左岸がいい」と白石さん。レストランや人が多い9区や10区、11区ではなく、静かでシックでなエリアで物件を探し始めているという。昨年末にパリで開催したポップアップ居酒屋は大盛況だった。
おまけ:白石さん流ヴィーガンマヨネーズのレシピ💡
<材料>
- 植物油:(オリーブオイルは香りが強いのでクセのない米油などがおすすめ)120g
- 豆乳:70g
- マスタード:大さじ1
- 梅酢:大さじ1(または酢 大さじ1と塩小さじ2/3)
- 砂糖:小さじ2
→ブレンダーで混ぜれば完成✨

En cuisine avec Hiroko: 100 recettes végétales d'une Japonaise à Paris (French Edition)
著: Shiraishi, Hiroko
写真: Perkins, Dorothée
メーカー: Editions de la Martinière
発売日: 2026/05/15
photography: Yujiro Saito
title design: Chiaki Sato
◾️連載:パリで暮らす、パリで働く
- #01 ヘアアーティスト Yui Ozaki
- #02 フラワーアーティスト 守屋百合香
- #03 ジャーナリスト 冨田ユウリ
- #04 「H VEGAN BENTO」白石浩子
最終更新日:
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