Image by: Yujiro Saito

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あなたは今、なぜその街で暮らし、その仕事をしていますか?
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FASHIONSNAPでは、今年3月に開催された2026年秋冬ウィメンズシーズンのパリファッションウィークの取材と並行して、パリで暮らし、パリで働く、キャリアも職業も在住歴も異なる4人の女性クリエイターを取材。「新しいことを始めたい」「なぜ今、自分はこの環境にいるんだろう」──ふとそんな問いが頭をよぎる“今”こそが、実は人生の岐路かもしれない。迷える人の背中を押してくれる、四者四様の挑戦と選択の話。
#02 フラワーアーティスト 守屋百合香

2人目はフラワーアーティストの守屋百合香さん39歳。生後半年の息子と共に2020年にパリに移住し、パティシエの夫と3人家族で暮らす。2025年に自身のアトリエを構えた。2026年秋冬シーズンはミュウミュウ、オフホワイトなどのショーやイベントの装花を手掛けるなど、ファッション関係の仕事も多く、「madame FIGARO」や「MilK JAPON」などでコラム連載を持つライターとしての一面も。競技ダンス選手を引退後にゼロから積み上げた新たなキャリアと子育ての「地続き」な日々についてを聞いた。
目次
パリに来るまで:競技ダンス選手からフラワーアーティストに転身
⎯⎯ フラワーアーティストになった理由から教えてください。
10代の頃からフランス映画やフランス文学に興味があったので大学では仏文科に進学しました。18歳の時に競技ダンスに出会い、アマチュア選手として全国大会で入賞するほど夢中になりました。大学卒業後は競技ダンスのアマチュア選手をしながら法律事務所の秘書として働いていたんです。
20代半ばで競技ダンスの引退を考えるようになった時、偶然インターネットで見つけたパリのお花屋さん「Rosebud fleuriste」の作品に衝撃を受け、その場ですぐにパリ行きの航空券を取り、実際にそのお花屋さんに会いにいきました。感動を伝えると、フランスには「スタージュ(研修)」制度があると教えていただき、私も学びたいと思いました。
⎯⎯ すごい行動力です。
帰国してからは、そのお花屋さんで過去に修行した経験のある師匠に弟子入りしました。もともとお花が好きだったのもありますが、情熱を向けていたダンスの引退が見えていた時期に出会ったというタイミングも後押ししてさらにのめり込み…。平日は秘書の仕事を続けながら、週末は師匠のところでアシスタントをする日々を2年弱過ごし、貯金と語学の準備を整えて2014年にワーキングホリデーで渡仏しました。無事念願だったそのパリのお店でスタージュとして働くことができたんですが、実際に働いてみると小売店としてのお花屋さんではなく、空間の装飾に興味があるのだと気がついて。
なので、スタージュ期間を終えた後はインテリアショップでアルバイトをしつつ、2015年に独立してお花の仕事を、最初は知人の仕事から少しずつ始めました。ワーホリ期間が終わって一度帰国してからは、しばらく東京とパリを行き来しながら暮らして、結婚や出産を機に2020年ごろから拠点をパリに移しました。
仕事:個人のクリエイティビティを尊重する文化
⎯⎯ ファッションウィークに関わる仕事やファッション関連の仕事も多いかと思いますが、普段はどのように働いていますか?
まず定期装花と言って、大体週1回のペースでパリ市内のギャラリーやセレクトショップ、レストラン、カフェ、ファッションブランドのショップのショーウィンドウを飾るお仕事をしています。これに加えてイベント装花、撮影のスタイリングなどがあります。
ファッションウィークの期間には、これに加えてショールームの装花やショーのお仕事が加わるので忙しくなりますね。「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」のVIPイベントの装花や、2026年秋冬のウィメンズファッションウィークでは「オフ-ホワイト™(OFF-WHITE™)」、「ミュウミュウ(MIU MIU)」のショー会場のVIPスペースのお花を今回初めて任せてもらいました。また、「セリーヌ(CELINE)」の撮影のお花も担当しました。

Image by: 守屋百合香

Image by: 守屋百合香
オフ-ホワイト™のVIPルーム用の花の一部。(ショー会場はセキュリティが厳重で設営中の撮影ができないため守屋さんのアトリエで撮影)

Image by: 守屋百合香

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NYのバッグブランド「サヴェット(savette)」のショールームの花
⎯⎯ ファッション関連の仕事するようになったきっかけは?
最初にファッションウィークに関わったのは2014〜2015年のワーホリ中でした。百貨店に勤めていた同年代の友人から島田順子さんへ贈る花束を依頼されたんです。ファッションウィーク期間中の「ジュンコ シマダ(JUNKO SHIMADA)」のプレゼンテーション会場に花を届けた際に初めてパリコレの空気に触れ、ファッション業界の方々のクリエイションに対する情熱や熱気に強く惹かれました。また、2015年の「ディオール(Dior)」のショーで40万本のデルフィニウムを使った丘がセットとして登場したことが印象的で、花とファッションのクリエイティブな関わりに興味を持つようになりました。
その後「オーラリー(AURALEE)」が初めてパリに来た時にもお花を担当させてもらうことになるなど、最初は日本のブランドの仕事から始まりました。営業メールを送ったりもしましたが、一度ご一緒した方々に口コミで紹介していただいて得た機会が一番多かったです。
⎯⎯ 仕事の上で感じる、パリならではのカルチャーはありますか?
コミュニティ文化というか、小さな村みたいな世界です。移民がいきなり入っていくハードルはとても高いけど、ちょっとしたきっかけで壁を超えることができて、その輪に入るといろいろな人に紹介してもらえます。口コミが何よりも重要。そして一度しっかり作品を見てもらい、本当に認めてもらえたら、個人のクリエイターにも大きなチャンスをくれる人がいる。日本の方がイメージする「花屋=業者」像より、クリエイターやアーティストとして、個人のクリエイティビティを尊重する文化が強いと感じます。

「フランス人は良く言えばおおらかで、悪く言えば適当。会場に行ったら聞いていた話と全然違うという仕事も多々あります。でもその分臨機応変に対応する力がつく。フランス人の帳尻を合わせる力ってすごいと思います。最終的に良いものができればOK、という感じ」
⎯⎯ パリで支持される仕事をするために心がけていることはなんですか?
「外国人」であり、ネイティブと同様のコミュニケーションは難しいので、誰かと同じものを作っていたら私に声がかかることはないと思う。かといって特別に奇抜なものを作ろうという気もなくて、ミニマルでシンプルながら自分らしい、個性やスタイルが見えるものを作りたいと考えています。周囲の方からよく言われる作風の特徴としては、「ポエティック」、「ミニマム」、「スカルプチュアル」、「繊細」などでしょうか。競技ダンスからは音楽性や身体が持つ有機的なシルエットの美しさを、仏文学からは詩情を学んだと思っていて、そうしたものが現在の作風に活きていると感じます。
守屋さんのインスタグラム(@maisonlouparis)より
⎯⎯ 昨年からパリの11区にアトリエを構えています。2015年に独立してからの10年間はどのような環境で仕事をしていたんですか?
以前は自宅兼アトリエにしていたんですが、大人だけなら我慢できるけど、子どもが生まれてからは流石に手狭で困ったので本格的に探し始めました。何をするにしてもきっとフランス生まれのフランス人より時間がかかるし、大変なことも多いですが、少しずつでも昨日の自分よりも成長できるように頑張っています。いまだに車を持っていないのでカーシェアサービスを利用していますし、まだまだ理想に追いついていない部分も多いですが、そんな中でもアトリエを持てたことは成長を感じる大きな節目になりました。

アトリエでは、フラワーアレンジメントのワークショップも開催している
⎯⎯ 家に限らず、物件は紹介してもらわないとなかなか見つからないと聞きます。
自宅は、ずっと日本人にしか部屋を貸していないという日本人の大家さんから借りています。アトリエは、商業用物件を借りるのはさらに大変なので苦労しましたが、この物件は散歩中に偶然募集の貼り紙を見つけたんです。大家さんの電話番号しか書いていない貼り紙、つまりエージェントが仲介していない物件だったので、すぐに連絡したら、2日後には鍵を受け取ることができるほどスムーズに決まったのでラッキーでした。
⎯⎯ 外国人という立場によって、花の仕入れなどで苦労することはありますか?
日本人だからとかパリだからとか関係なく、東京でも同じことで、業界で働く者として、仲卸さんと良い関係性を築くのは当然とても重要です。東京の市場では師匠に紹介していただいた仲卸さんによくしていただいていますが、パリではまず名前を覚えてもらうところから始まります。彼らにとっては聞き慣れず発音もしにくい名前なので、はじめの頃はなかなか覚えてもらえなかったけど、それはもう仕方がないこと。でも生花は仕入れがすごく重要なので、諦めずに何度も通ったり、毎回少しでも何かを買って信頼関係を築いたり、基本的なことですがどのスタッフさんにもきちんと挨拶をするなど、コミュニケーションを丁寧に取ることを心がけています。たまたまインスタグラムで仕事を見てもらったら態度が変わったことも。一度認めてもらえると、とてもスムーズだし親切です。
夫と仕事のスケジュールが合わず、子どもを頼めない時にはランジス市場(東京ドーム50個分の敷地を持つ世界最大級の卸売市場)に子どもを連れていくことも珍しくないんですが、みなさんお菓子をくれたり、いつも温かく接していただき感謝しています。
⎯⎯ 安心しました。日本ではどんな仕事をしていますか?
年に2回は日本に帰るようにしていて、一時帰国した際にはNHK「あさイチ」の博多華丸・大吉さんと一緒に15分間のフラワーアレンジメントに挑戦するコーナーに出演させていただいています。何よりの親孝行だと思っています(笑)。ワーホリ中に働いていたインテリアショップが当時日本の雑誌でもよく取り上げられていて、雑誌をご覧になったNHKのプロデューサーさんがプライベートで来店された時に店にいた私に興味を持ってくださって。当時書いていたブログから現在のインスタグラムまで10年以上ずっとチェックしてくださっていたようで、声をかけていただきました。ちょっと恥ずかしくもありますがすごく嬉しかったです。帰国することをインスタに載せると、日本のフォトグラファーやブランドの方から撮影の依頼をいただいたりもします。
⎯⎯ これから挑戦したいことは?
具体的な短期目標で言うと、今年は法人化するための準備を進めています。また、文章を書くことも好きで、エッセイの連載もいただいているので、そうした花とは異なる表現ももっと育てていきたいと思います。ファッションウィークでショー関係のお仕事ができるようになったのもつい最近なので、引き続き頑張って広げていきたいですね。
あとは、もうすぐ私も10年ビザ(5年以上フランスに合法的に居住した外国人が取得できるビザ。B1レベル以上のフランス語能力の証明義務が必要)が取れるようになるので、DELF(デルフ、フランス語学力資格試験)の勉強をしています。何年も暮らすと、仕事には困らない程度の語学力は身につきますが、生活に慣れる分成長が止まる気がして。

花は作品であると同時にコミュニケーションツールでもある。

生活:花が文化に根付いた街で
⎯⎯ 生後半年で一緒に移住したお子さんが今年6歳。子育てしながらキャリアを築きやすい環境ですか?
子育てに関しては、メリットとデメリットがありますし、迷うことは常にありますが、子どもが多様な価値観の中で育つことには大きな意味があると感じています。フランスでは、希望すれば生後間もない子も保育園に預けて働くことができるんですが、私は個人的にもう少しゆっくりしたかったので、週5日預けられる公立ではなく日数が自由に選べる私立を選んで、保育園のうちは週3日だけ預けるスローペースで仕事を始めました。私立と言ってもこちらは結構安いんですよ。他にもベビーシッターさんをお願いするハードルも日本よりとても低く、私もよく知人にお願いしています。仕事の都合や教育方針、スケジュールなどに合わせた幅広い選択肢があるのが良いところだと思います。
⎯⎯ 移住した直後からスローペースでキャリアをスタートすることに不安はありませんでしたか?
自分で選んだことなので。それに、フリーランスだからということもありますが、あまり仕事と家庭を切り離して考えていないんです。子どもを連れて仕事にも行くし、今ではファッションウィーク中で忙しい時は子どもを車に乗せて一軒配達してから学校に送り、その後また仕事して、子どもをお迎えに行って公園で遊んで、一度帰宅して夫に預けてもう一軒仕事に行く、みたいな。どちらも生活の中にあって地続きなんですよね。それが自分にとって心地が良くって。
⎯⎯ 改めて、パリのどんなところが好きですか?
フランスには「アール・ド・ヴィーヴル(Art de vivre、暮らしの芸術)」という言葉があります。日常生活の中の美しさを大切にするというその考え方が、花が街の中の文化に根付いていることやお花に対する人々の感性にも表れているのを感じるところです。

photography: Yujiro Saito
title design: Chiaki Sato
◾️連載:パリで暮らす、パリで働く
- #01 ヘアアーティスト Yui Ozaki
- #02 フラワーアーティスト 守屋百合香
最終更新日:
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