
Image by: Yujiro Saito

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あなたは今、なぜその街で暮らし、その仕事をしていますか?
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FASHIONSNAPでは、今年3月に開催された2026年秋冬ウィメンズシーズンのパリファッションウィークの取材と並行して、パリで暮らし、パリで働く、キャリアも職業も在住歴も異なる4人の女性クリエイターを取材。「新しいことを始めたい」「なぜ今、自分はこの環境にいるんだろう」──ふとそんな問いが頭をよぎる“今”こそが、実は人生の岐路かもしれない。迷える人の背中を押してくれる、四者四様の挑戦と選択の話。
#01 ヘアスタイリスト Yui Ozaki

1人目はヘアスタイリストのYui Ozakiさん。ニューヨーク、東京、ロンドンを経て、今年からパリへ移住した29歳。世界的なトップヘアスタイリストであるホリー・スミスが率いるコアチームメンバーとして、今シーズンもロンドン、ミラノ、パリのファッションウィークに参加した。昨年には、ブリティッシュ・ファッション・カウンシルが次世代の重要な役割を担う存在として選出する、若手クリエイター50名「2025 NEW WAVE:Creatives」の一人に選ばれるなど、注目を集めている。
目次
パリに来るまで:興味のある環境を求め続ける
⎯⎯ ヘアスタイリストを志したきっかけから教えてください。
子どもの頃からファッション誌を読むのが好きで、特にエディトリアルフォトを見るのが好きでした。誰が作っているんだろうと思って雑誌のクレジットを調べていく中で、ヘアスタイリストという職業を知って。それまでは、てっきりヘアはすべて美容師さんがやっているものだとばかり思っていたので驚き、興味を持ちました。
⎯⎯ パリに移住する前は、ニューヨークやロンドン、東京でも活動されています。
ずっと海外に興味があったので、名古屋美容専門学校を卒業してすぐに日本でヘアスタイリストの師匠について2年ほど経験を積み、その後ニューヨークに移住しました。当時好きだったヘアさんがニューヨークを拠点にしていたのと、学生時代に一度訪れてとても好きな街だったことが理由です。ニューヨークでも約2年間アシスタントをしていました。
コロナ禍で一度帰国し東京で3年ほど働いた後、次に海外に行くならコマーシャルフォトが中心のアメリカよりも、ファッションの仕事が多いヨーロッパで作り込んだヘアやウィッグの勉強がしたいと考え、ロンドンに引っ越しました。ロンドンでもまた2年程暮らし、世界で一番ファッションの仕事が多いパリに行くことを決めました。今パリに来て約1ヶ月(取材当時)です。その時自分が興味のある環境を目指して転々としています。

⎯⎯ 尊敬しているヘアスタイリストは?
ホリー・スミス(Holli Smith)さんです。卓越したスタイリング技術はもちろん、お人柄も本当に魅力的で、一人の人間としてもアーティストとしても心から尊敬しています。ホリーさんも昨年ニューヨークからパリへ拠点を移されたのですが、ある現場で偶然ご一緒した際に「ファッションウィークは一緒に仕事をしてほしい」と誘っていただけて。2026年秋冬のファッションウィークは、ホリーさんのチームのメンバーとして、ロンドン、ミラノ、パリを共に回りました。

ファッションウィークのバックステージ
Image by: Yui Ozaki
仕事:トップクリエイターが指名、パリコレの「ヘア」の仕事って?
⎯⎯ 2026年秋冬ファッションウィークではどのブランドのショーに参加しましたか?
ファッションウィーク中はひとりのボスとしか仕事をしないと決めているので、ボスが決めた仕事を一緒に回りました。ロンドンの「バーバリー(BURBERRY)」に始まり、ミラノで「トッズ(TOD’S)」と「ボス(BOSS)」、パリに戻ってきて「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」、「ジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)」、「ホダコヴァ(HODAKOVA)」、「ガブリエラ ハースト(GABRIELA HEARST)」の計7ブランドです。先シーズンは13ブランドだったのでもっと過酷でしたね。
⎯⎯ ファッションウィークはどのようなチーム体制で回るものなんですか?
ボスが指名した数人による「コアチーム」がボスと一緒にファッションウィークを回っていて、その下に各ショーごとに集められるアシスタントが20〜30人程度付きます。私は今ホリーのコアチームに入っていて、今回で3シーズン目になります。国籍も世代もバラバラのメンバーが集まっています。
⎯⎯ コアチームの仕事内容について教えてください。
ショーの前に行われるヘアメイクテストへ同行し、ショー当日にはアシスタントたちに指示を出したり、最終チェックをしたりします。ヘアメイクテストではブランドのディレクターのOKが出るまでボスと一緒に数パターンヘアスタイルを作り提案します。最終的な方向性が決まったら、ショー当日までにウィッグやエクステのプレップ(準備)をします。ファッションウィーク中はほぼ1日も休みがないですね。

ファッションウィーク中の様子
Image by: Yui Ozaki

ファッションウィークで制作したウィッグ
Image by: Yui Ozaki
⎯⎯ ファッションウィーク期間外はどのような仕事をしていますか?
個人で雑誌やブランドのヴィジュアルルック、コマーシャルの仕事もあって今のところバランスよくできていると思っています。ロンドンに住んでいた時に契約した事務所に今も所属しているので、現在はロンドンのクライアントが多いです。
⎯⎯ 新しい環境で個人の仕事を獲得するために、どのようなアクションをしていますか?
ロンドンに引っ越した直後は、まずとにかくネットワークを広げるために、たくさん作品撮りをしました。気になっているフォトグラファーたちに、合計すると100人以上は連絡したと思います。ダメもとなので、100人にDMして、10人から返事が返ってきたらラッキーです。
そして半年間、週4くらいのペースで大量の作品を撮影し、ポートフォリオを充実させていったことが半年後に少しずつ実際の仕事につながっていった実感がありました。どうしても仕事だと制限のある表現しかできないことが多いので、自分の作家性や得意なことを存分に表現する機会を作るのは大切だと思います。パリでもまたこれから作品撮りを頑張っていく予定です。
Yuiさんのインスタグラム(@yuiozakihair)より
⎯⎯ 自主制作の機会が増えると費用面の負担が大きいのでは?
それが、ありがたいことに海外ではモデル代やスタジオ代は大抵がフォトグラファー持ちで、ヘアスタイリストが支払うのはウィッグやエクステ代などの材料費程度。ある意味気軽に取り組めます(笑)。
⎯⎯ なるほど。仕事場でのコミュニケーションは英語ですか?
基本そうですね。パリも英語が話せる人が増えてきたと聞きます。でもやっぱりフランス語が話せないとどうしてもローカルのチームには入れないらしいので、今「デュオリンゴ」を頑張ってます(笑)。
⎯⎯ 仕事で一番苦労するのはやはり言語ですか?
言語ができないと、作品の細かいニュアンスを正確に伝えるのが難しかったり、ローカルのチームの会話のスピードについていけなかったりするので、ロンドン時代から苦労しています。仕事でのコミュニケーションの際にはできるだけ具体性のあるリファレンスを探したり、絵を描くなど、ヴィジュアルで説明する準備をしっかり作るように心がけています。
作品作りの面でも、求められるもののレベルがとても高いので、常に自分がやったことのないもの、自分自身の想像も超えるものを作らないといけない環境なので過酷ではあります。常にしごかれていて、その分成長も感じます。
⎯⎯ ニューヨーク、東京、ロンドン、パリと色々な環境を経験し、働き方の違いや求められるスキル、カルチャーの違いなどを感じることはありますか?
撮影の仕方は同じでも、好まれる作品の雰囲気はだいぶ違います。ニューヨークは活気がある印象なのに対して、ロンドンはもっとクールな雰囲気だったりと、周囲の人のキャラクターも結構違っている気がします。パリではまだがっつり作品撮影を組んでないですが、聞いた話によると、コーヒーとブレックファーストが大事だから朝の撮影は朝食の時間が1時間あるらしいです(笑)。それと比べると日本はちゃんと香盤通りに時間を守っていて効率的ですよね。
⎯⎯ 昨年にはブリティッシュファッションカウンシルが選ぶ「2025 NEW WAVE:Creatives」の1人に選ばれました。
本当に突然連絡が来て、レッドカーペットを歩くことになり驚きました。ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開催されたファッションアワードに招待していただき、アナ・ウィンター(Anna Wintour)をはじめ、ハリウッドスターやデザイナーなど、ファッション業界の有名人がたくさん集まるとても華やかな場で、参加できたことはとても良い経験でした。誰も知らない状態でロンドンに移住したので、2年間必死に頑張ってきたことが報われて、自信に繋がりました。これからもひとつひとつの撮影を大切に、良い作品を作り出せるように頑張ります。

2025 NEW WAVE:Creativesのレッドカーペットの様子
Image by: Yui Ozaki
⎯⎯ パリには一番多くのチャンスがあると同時に競争も激しいと思いますが、どういう点が自身の評価につながっていると感じますか?
自分の意見を持っている人の方が評価される環境なので、受け身でいるのではなく常に自分から提案できるようにすることは意識しています。
あとは、メイクアップアーティストは女性が多いイメージがあると思うんですが、ヘアスタイリストは力仕事な側面もあるからか男性が多いので、女性的なニュアンスを求める作品作りの際など、女性のヘアスタイリストという点にも需要があるんだと思います。
⎯⎯ 今後のキャリアの目標は?
いずれは自分がキースタイリストとしてパリコレの仕事をしてみたいし、メゾンブランドとの仕事もしたいと考えています。

生活:頑張れるのは娘のおかげ
⎯⎯ パリに引っ越してきて約1ヶ月が経ち、暮らしてみてどうですか?
引っ越してきたばかりですが、すでにすごく好きな街だなと感じています。それがこの街の雰囲気からなのか、住んでいる人たちのおかげなのかはわからないですが、しばらくはこの街に住みたいと既に思えています。ロンドンではあまりなかった感覚なので、空気が合っているだと思います。
⎯⎯ 円安の影響はかなり大きいのではと思いますが、ヨーロッパでの暮らしが長くなると特に物価の高さは負担にならないものでしょうか。
こちらの仕事を受けてフランスならユーロ、イギリスならポンドで稼ぐようになれば、もらえる額もこちらの物価や生活水準に合っていきます。周囲の最近移住してきた友人たちをみていても、最初の1年さえなんとか耐えれば、そのあとはうまく回っていっている印象です。
⎯⎯ 周囲にも同世代の移住者は多いですか?
日本からパリに引っ越しているクリエイターは多い気がします。日本である程度キャリアを積んだ人は、ワーホリができる期間中に一度は海外に挑戦したいと思うだろうし、ファッションの仕事はやはり一番パリに集中していてチャンスも多いので。元々日本で知り合った友人たちも今はほとんどみんながパリに来ていて、切磋琢磨してきたパワフルな友人たちがたくさん集まっている環境という点でもすごく楽しいです。
⎯⎯ プライベートでは一児の母でもあります。海外での仕事と子育てはどのように両立していますか?
娘を産んで半年で一緒にロンドンに渡りました。娘はロンドンでも日本でも、パリでも保育園に通っていて、子どもの頃から様々な環境に触れることができているので良いのではないかと思います。また、フランスは職場に子どもを連れて行きやすい風潮があるので、可能な範囲で連れていっていますし、夫のサポートにも助けられています。もちろん大変なことも多いですが、同時に、今モチベーション高く仕事を頑張れているのは娘のおかげ。仕事だけでは得られない素晴らしい道がたくさん開けたと思っています。

娘を連れて仕事をするYuiさん
Image by: Yui Ozaki
photography: Yujiro Saito
title design: Chiaki Sato
◾️連載:パリで暮らす、パリで働く
最終更新日:
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【パリで暮らす、パリで働く】の過去記事
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