
FASHIONSNAPでは、サマーリーディング*の季節に合わせて、ファッションと読書をめぐるさまざまな潮流を取材した特集を掲載中。6本目となる今回は、本を読む行為そのものをファッションの視点から捉え直す、“本のための装い”にフォーカスする。
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*夏休みやバカンスの長期休暇を生かして読書に没頭しようという欧米の習慣。ビーチやプールサイドといったバケーション、涼しい室内といった幅広いシーンで楽しめるものとして提案されている。
目次
入荷のたび即完売 「NINE STORIES」が読書に特化したアイテムを作る理由
本を持ち歩くためのアイテムとして、読書家たちから熱い支持を集めているのが、ハンドメイドブランド「ナインストーリーズ(NINE STORIES)」の読書に特化したプロジェクト「ロスト ガールズ ブックス(LOST GIRLS BOOKS)」のブックポーチだ。代官山蔦屋書店をはじめとする全国の書店や映画館で開催しているポップアップでは、開催初日にアイテムが完売してしまうこともしばしば。オンラインストアも欠品が続いており、今年6月に「ボンジュール レコード(bonjour records)」で開催したポップアップは、初日から行列ができたという。

ボンジュール レコードのポップアップで販売した「LOST GIRLS BOOKS」ブックポーチ(3300円)
Image by: ジュン
ナイン ストーリーズの始まりは約15年前。学生時代からものづくりが好きだったというデザイナーのかとうさおりさんがハンドメイドで制作したアイテムのオンライン販売をスタートした。当初はネックレスなどのアクセサリー類が中心で、ペンケースなどの布小物は実験的に制作していた。

Image by: NINE STORIES
読書に特化したプロジェクト「ロスト ガールズ ブックス」を立ち上げたのは2016年ごろ。当時、かとうさんは読書を「専門家やマニアのための少しスノッブなもの」と捉える空気を感じていたという。いち本好きとして、読書文化がこのまま衰退してしまうのではないかという危機感も抱き、若い世代に向けて、もっとカジュアルに本の魅力を発信できないかと考えた。「私は読書と同時に、ファッションやおしゃれも大好き。当時は、“おしゃれと読書は対極であるべき”というような風潮を感じていて、堅苦しく、面白くないと思っていました。入り口が何であれ、本を読む人が増えて、読書の楽しさが伝われば。私が好きな音楽や映画などの文化を語る際に『文学』は外せない要素の一つなので、いつか本に関係のあるものを提案したいとも長らく考えていました」と説明する。
プロジェクト名の「LOST」には、以前から惹かれてきたという「書かれなかったこと、話されなかったこと、失われたこと」への思いを込めた。かとうさんは女性作家の文章に感銘を受けることが多い一方、かつて女性が男性名の筆名を使って作品を発表した歴史や、古典や名作を選び、評価してきた側にも男性が多かったことに対し、問題意識を持っていた。ならば「女性の視点で書かれ、選ばれたものを読みたい」。そんな思いから「GIRLS」を組み合わせたという。「一見して意味が分かりづらいところも気に入っています」とかとうさん。
ロスト ガールズ ブックスを代表するアイテムになったブックポーチが生まれたきっかけは、子どもの頃からの大の読書家で、いつもバッグの中に数冊の本を入れているかとうさんが、持ち運びに便利な本が数冊入るサイズのポーチを自分用に作りはじめたことだったという。「ブックカバーすらつけるのが億劫なズボラな性格なので、簡単に使えることも重要な条件。ちょうど良いものが見つからなかったので、自分で作ることにしました」と、かとうさんは振り返る。読書家ならではの視点から生まれた読書家のツボを押さえたブックポーチは、作家やライター、読書家たち、書店員など、実際に文章や本に関わる機会の多い人々の間で話題を集め、口コミを通じて次第に人気を集めた。書店からの問い合わせも相次ぎ、販売個数は直近約5年で5〜10倍程度には増加しているという。

デザインの際に大切にしているのは、「カルチャーの香りがすること」「商品自体はシンプルであること」。自由奔放なカラーの組み合わせも重視しているという。
Image by: NINE STORIES
ポップアップイベントなどで対面するブランドの支持層は、「自分の好きなことや趣味、大切にしていることを確立し、ファッションやカルチャーなどさまざまなことに好奇心旺盛で、精神的に自立した印象の女性が多い」という。その支持層からも見えてくるのは、かとうさんがプロジェクト立ち上げ時に感じていた「おしゃれと読書は対極」という感覚が、薄れつつあることだ。服も、本も、映画も、音楽も、自分の感性を形作るカルチャーとして並列に楽しむ。そんなかとうさんに共感する消費者が広がっていることが、ロスト ガールズ ブックスの人気からうかがえる。本を汚さず持ち運ぶという実用品でありながら、「私は何を読む人なのか」を持ち物として表現する。ロスト ガールズ ブックスのブックポーチが支持される背景には、読書そのものが再びファッションやライフスタイルの一部として捉えられ始めた今の空気がある。

かとうさんはサマーリーディングをテーマにしたZINEを、8年間毎年夏に発表している。(写真は2026年版)
Image by: NINE STORIES
📍NINE STORIES
公式オンラインストア(現在は全品完売)のほか、取り扱いのある書店や、イベントなどで購入可能。入荷後は即完売してしまうことも多いため、入荷情報は公式インスタグラム(@saori_ninestories)をこまめにチェックして。
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手触りのある読書体験を提案 「Puffy Book Club」のブックカバー
布団を模したパフィーなブックカバー「Puffy Bed Book」をシグネチャーとする韓国・ソウルの「パフィーブッククラブ(Puffy Book Club)」は、イ・ミソさんとイ・ジウさんの姉妹が2020年に立ち上げたブランド。IVEや&TEAM、aespa、NCT WISHといったK-POPグループのライブ衣装やMV衣装を度々手掛けていることでも知られ、ブランド名の通りファブリックと綿を活用したパフィーな質感の“ふかふかで楽しいアイテム”を発表している。



「Puffy Bed Book」(52000ウォン、約6000円)
Image by: Puffy Book Club
ブックカバーを作りはじめたきっかけは、ミソさんが大学時代に図書館でアルバイトをしていた際に、視覚障害のある子どもたちのための触覚絵本(布絵本)制作プログラムに参加したこと。多様な質感の生地や材料を活用し、手で触れて感じながら読む本を作る過程がとても興味深かったという。今後は、ブックカバーを作るだけでなく、イ姉妹が好きな本やZINEを紹介し、作り手の好みやインスピレーションをファンと共有する活動も少しずつ広げていく予定だ。

Image by: Puffy Book Club

Image by: Puffy Book Club
📍Puffy Book Club
韓国国内以外への発送は、公式インスタグラム(@puffybookclub)へのDMかメールにて個別対応を行っているほか、日本ではアジアブランドに特化した越境EC「60%」、セレクトショップの「SHEEP」でも取り扱いがある。公式サイト
ページに挟む“小さな宝物” 「MOIRA x MEL」のシルバーしおり
2021年に、現在は日本在住のデザイナー メリケ・タンゲルリ(Melike Tangerli)さんが、トルコ・イスタンブールで始動した、ハンドメイドジュエリーブランド「モイラエックスメル(MOIRA x MEL)」は、シルバーや天然石を使用したブックマーク(しおり)を発表している。建築や自然からインスピレーションを得た有機的なフォルムと、エッジィでロマンティック、神秘的なデザインが特徴。

うさぎや花、星をデザインしたブックマーク(4万4300〜4万6700円※公式サイトではうさぎは完売)。
Image by: MOIRA x MEL
インスピレーション源になったのは、「日常のアイテムをシルバーに変えたい」という想い。メリケさんは「読む本を選ぶということは、とても特別なことであり、本と過ごす時間は極めてパーソナルで親密なものだと信じています。だからこそ、ページとページの間に挟んでおける特別で大切なもの、その読書という体験の一部となるような“小さな宝物”を作りたかったんです」とコメントした。

Image by: MOIRA x MEL

Image by: MOIRA x MEL
📍MOIRA x MEL
2023年に東京へ拠点を移したMOIRA x MEL。公式オンラインストアのほか、セレクトショップ「SHEEP HARAJUKU」の店舗とオンラインストア、海外の次世代クリエイターを集めたファッション・アートのECサイト「APOC STORE」などで手に入れることができる。公式インスタグラム(@moiraxmel)
本自体もファッションのひとつ 「Mourir d’ennui」の表紙を見せるブックカバー
出版社勤務を経て独立し、パルコのフリーペーパー「GOMES」の編集などを手掛ける2000年生まれの編集者 miyuwakiさんは、2025年に「働きながらもチャーミングに本を読み続けること」がコンセプトのブランド「ムーリールドヌイ(Mourir d’ennui)」を立ち上げた。ブランド名はフランス語で「死ぬほど退屈」を意味し、新聞や本にまつわるアイテムを発表している。

「panty book cover」(1500円)。レースの種類は時期によって変わる。
Image by: Mourir d’ennui
ムーリールドヌイのシグネチャーアイテムは、下着のように薄いレース素材でできたブックカバー「panty book cover」。「あなたが読む、その本自体もファッションのひとつ」という考えから、表紙が外から透けて見えるデザインを採用。何の本を読んでいるか周りにアピールしながら、本を可愛く着飾ることができる。
制作のきっかけについてwakiさんは、「いわゆる読書好きではない、流行に敏感な若い女の子にこそ、文芸の力が必要な気がしていて、そういう人に対して、どうやってテキストへ接触するハードルを下げることができるかと考えた結果、ファッションの力を利用したいと思いました」と語る。

ムーリールドヌイでは、不定期で新聞を発行。商品を購入すると同梱されており、単品の購入も可能。
Image by: Mourir d’ennui
📍Mourir d’ennui
商品は公式オンラインストアで販売するほか、イベント等でも販売。8月31日と9月1日には、初台HOFFでイベントを開催する。wakiさんのオールマイベストな1冊は「スペインの宇宙食」(菊地成孔)。公式インスタグラム(@mourir_dennui)
誰かの書いた物語や言葉が、どこかの誰かを勇気づける。文学を楽しむことは孤独な嗜みかもしれないが、そのバックグラウンドには人間たちの連帯の歴史がある。インディペンデントなクリエイターたちひとりひとりの情熱的な表現も、現代の読書ブームにポジティブなエネルギーを与えているようだ。
最終更新日:
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