
三宅香帆
Image by: FASHIONSNAP
「推し活」「言語化」「労働と読書」。こうした現代社会のムーブメントを、鋭くも当事者として愛のある鮮やかな言葉で解き明かしてきた文芸評論家の三宅香帆。間違いなく近年の読書カルチャーの拡大に貢献する一人である彼女がこの夏、自主企画のブッククラブ「Miyake Book Club」を立ち上げた。参加者は会場、オンラインを含め約300人と注目度の高さが伺える。
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今回のサマーリーディング特集では、ブッククラブの立ち上げ経緯から、読書文化の現在や書店の可能性、三宅個人のファッションの話まで縦横に語ってもらった。
三宅香帆|みやけ・かほ
1994年生まれ、高知県出身。京都大学 大学院人間・環境学研究科 博士後期課程中退。著書「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」が新書大賞2025で大賞を受賞。他に「『好き』を言語化する技術」「考察する若者たち」など。今年は新刊「推したちとどう生きるか」「『夫婦』不在社会」を出版。YouTubeやPodcastでは幅広いトピックについて取り上げている。
note|YouTube|Podcast
目次
90分“皆んなで読書”する ブッククラブをスタート
──三宅さんは京都の書店「CAVA BOOKS」と共に不定期開催の「Kyoto Reading Bookclub」を企画し、企業や書店とも多くのブッククラブを開催しています。今回ご自身のブッククラブを始めようと思ったのはなぜでしょうか。
ほとんどのブッククラブは大きく2種類に分けられると思っていて。課題図書が決まっていて、それについて話すか、テーマを与えられて本を紹介し合う“ビブリオバトル”的な形式です。どちらも「読んできた本の感想を話す」点は共通しているのですが、その前提さえ、読書をもっと“開く”と考えると、やりようがあるかもしれないと感じていたんです。
それから、よく新刊イベントを行うのですが、たいていは発売してからすぐの開催になる。短い期間で読んで来てもらう必要があるのが参加者の方々になんだか申し訳なく。「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」と書いているのに、「いやいや、読んでもらう前提だと参加ハードルが高くないか?」と思いまして。であれば、一緒に読めばいいじゃないか!という気持ちで始めました。
💡そもそもブッククラブって?
複数の人が同じ本を読んで集まり、感想や意見を語り合う活動やコミュニティ。本を通じて他者と交流しながら、読書体験をより深く楽しく育む場として幅広く活用されている。書店だけでなく、図書館やカフェ、イベントスペースで行われることも。
──下北沢の書店「B&B」で行った第1回は、90分が読書タイム、その後1時間程度がトークというプログラム。海外ではサイレントブッククラブ*という形式もありますが、日本ではまだ多くない印象です。
すでに読み終わっている人は別の本を読んでいたし、調べながら読む人、お手洗いに行く人もいて自由な空間でしたが、自分としては案外集中できたのは収穫でした。参加者コメントでは、「人が読んでいると、自分もいい意味で『読まなきゃ』という気持ちになる」というポジティブなものが多かった。同時に読むことで不思議な一体感が生まれたのは新たな発見です。読書の時間を確保するハードルを下げられたのも成果でしたが、その後も質疑応答の形にすることで「感想を言わなければいけない」プレッシャーを減らしたのも思ったより反応が良く、学びになりました。
*アメリカ・サンフランシスコで2012年頃に誕生し、参加者が本を持ち寄り、会場で黙々と読むのがメインのブッククラブの形式のひとつ。

──感想を言い合うのはブッククラブの醍醐味のひとつではないのでしょうか。
もちろん、なるほどと思う感想の応酬はとても楽しいものですが、そういう空気に持っていくのはかなり手腕が問われるといいますか。本の感想を言い合うのって、そもそも結構センシティブだと思うんです。参加者同士の空気感にも左右されますし。見知らぬ人の感想に対して「自分は違う視点で......」と切り込んでいくのはカロリーが高い。私自身も、どんな人が来るか気になってしまうタイプなので、さまざまなブッククラブがある中で今回のような形式があってもいいじゃないかなと思ったんです。
──次回以降の改善点や、さらに挑戦してみたいことはありますか。
人によって読むスピードが違うので、読書時間帯だったら何時に来てもいいスタイルにしてみるのはどうかと考えています。ふらっと立ち寄れるような空気感だといいなと。環境的にも“開いていく”方法も試してみたい。例えば野外シネマのように屋外での開催も面白そうですし、夜の美術館で開催するのも夢ですね。知っているけどいつもとは違う雰囲気の中で本を読む体験はイベントとしてもアリなんじゃないかと構想しています。
ブッククラブが人をつなぎ、書店が地域をつなぐ
──昨今は海外を中心にブッククラブが盛り上がっていると感じます。三宅さんにとって、改めてブッククラブの面白さとはなんでしょうか。
2つあると思っています。ひとつは課題図書を決めてもらえること。自分ではなかなか手が伸びない本や、積んでしまいがちな本でも、課題図書だとある種の期限ができて読もうという気になれる。もうひとつは、本が好きな同じ趣味の人に会える点です。日常生活で同じ本について語る場は多くないじゃないですか。そういう人にとってブッククラブは同好の士を見つける場として機能すると思います。
──読書(好きなもの)を介して他者と繋がれる場でもあるということだと思うのですが、日本でも最近は特に独立系書店が個性的なブッククラブやイベントを主催している事例が多くなっているのではないでしょうか。
増えてきているなというのは、私の体感としてもあります。ブッククラブに限らず、独自の視点でゲストを招いたイベントなども、各店の色が出ていて面白いものが多いなと思います。
──三宅さんが気になっている書店のイベントはありますか?
大阪・駒川の「トイ ブックス(toi books)」*さんのイベントはついどんな企画なのかチェックしてしまいます。オリジナルグッズも素敵なんです。
*2019年に本町にオープンし、2025年に現在の駒川に移転。書籍が「“答え”だけではなく新たな“問い”を与えてくれるもの」として、“問い”を生む本を揃える。刊行記念イベントをはじめ芥川賞受賞作予想や対談、フェアなど多角的な催しをオフライン・オンラインで企画している。
トイブックスのオリジナルトートバッグ。ギャグ漫画家の藤岡拓太郎によるイラスト入り。
東京・三軒茶屋にある「トワイライライト(Twililight)」*さんは自分たちで出版も手掛け、書店でもあり制作も担うという形態がユニーク。インディペンデントに企画を考えていく書店さんは視点が面白いと感じます。
*2022年オープン。新刊・古本を扱い、シャツから靴下、レコードまで幅広く販売。書籍の出版やオリジナル商品の制作も行うほか、ギャラリーやカフェを併設。
トワイライライトのInstagramはほぼ毎日更新。店主の熊谷充紘さんが綴る、日誌のような投稿がクセになる。
──都心部の独立系書店は“そこに行く理由”となるような個性が光っていますね。地方の新しい書店で気になっているところはありますか?
地方の書店だと、福井・敦賀の「TSURUGA BOOKS&COMMONS ちえなみき」*さんや青森の「八戸ブックセンター」*さんが印象的です。どちらも行政が携わりながら、地域の公費で書店を作るという取り組み。書店って買いたいものがなくても意外とふらっと立ち寄りやすくないですか?そんな入り口の広さを生かして、地域の老若男女が集まる新たな形のコミュニティスペースを目指している。大人が集まるブッククラブだけでなく、子ども向けに絵本の読み聞かせもあり、書店と地域がつながる新たな試みとして注目しています。
<ちえなみきを紹介する三宅さんのYouTube>
*ちえなみき:JR敦賀駅前の複合施設 TSURUGA POLT SQUARE 「オッタ(otta)」内に2022年にオープン。丸善雄松堂と編集工学研究所による官民連携での運営で、3万冊を超える書籍を取り扱う、本屋と図書館を融合した場に。
<八戸ブックセンターを紹介する三宅さんのYouTube>
*八戸ブックセンター:2016年にオープン。全国でも珍しい公設・公営書店。ベストセラーにこだわらない選書や、本を“探し当てる”楽しさを掻き立てる空間設計、店内の書籍を自由に読めるスペースの設置など独自の運営で地域住民に愛されている。
──書店が閉店するニュースが続く一方で、地域における書店の存在意義についてはどう思いますか。
地方では特に、書店が街のコミュニティと結びついているケースが多い気がします。震災で被災した地域が復興して、新しく書店がオープンしたときに「街が戻ってきた感じがする」という声を聞いたことがあります。街に書店があるということは、ある意味では文化度の象徴になっている。毎日ではなくても、行きたいときに行けるというのが大事なんだと思います。書店に行くと気になる本が偶然目に入ったり、知らなかった作家との思いがけない出合いがある。これはデジタルでは再現できない魅力であり、豊かな経験のひとつだと思います。

「時の洗礼を超えた」読書で自分の時間軸を取り戻す
──ミュウミュウのリーディングクラブを筆頭にラグジュアリーブランドが読書や文学に目を向けています。そういった動きはどのように見ていますか?
現代社会は価値のつけ方が難しい時代だと思っていて。お金や売り上げだけでも価値を測れないし、かといって特定のブランドや商品に対して「みんなが好きなもの」という共通項も無くなってきている。そんな中で、古典や読書のようなクラシカルなものに改めて目を向けているということなのかなと。
読書ってさまざまな娯楽、表現の中でも圧倒的に歴史が長い。映画でさえ19世紀末からですが、古典的な書物は紀元前まで遡れる。読む行為はどんなに早くても一定数の時間が必要になる。そうした「時の洗礼を超えたもの」としての読書は、ショート動画や瞬発的なドーパミンコンテンツの対極にあるのではないかなと。
──加速度的な情報社会で“自分の時間”を生きるために読書が広がっている?
ショート動画にも面白いものはたくさんあれど、つい流し見してしまって、気がついたらその時間軸に飲み込まれて、自分自身が“ショートに切り刻まれる”感覚になることが私にもあります。時間の流れ方がまったく違う読書に没頭すると、ゆっくり自分の時間軸に戻っていくような感覚になります。SNSや情報社会に疲れた人にこそ、少しずつでも、この体験をぜひしてみて欲しいなと思うんです。


──私見ではあるのですが、先行して読書文化が若年層に広がり、「#Booktok」*のようなムーブメントが起こっている海外では「読書=クールなもの」として受け入れられていると感じています。日本でも読書のクールさがもっと浸透するために何が必要だと思いますか?
読書がもっと広がって欲しいと思う身としてもジレンマを感じるところですね。ハードルの低さを重視するあまり、クールさを忘れてしまうというか。「誰でもウェルカム」になりすぎると共通の話題や盛り上がるポイントが見えにくくなり、結果的に会が“ぼやけて”しまうことがあります。
そういう観点でファッションブランドのブッククラブは良い事例だと思うんです。同じ服が好きな人って、なんとなく似た雰囲気をまとっていることが多いじゃないですか。“クラスタ”ごとのブッククラブは参加する前から自分に合いそうかがある程度見えてくるので、より没頭できるでしょうし、持ち帰る感情の温度も高いのではないかと。既に多様なブッククラブがあるからこそ、思い切ってカルチャーを絞った集まりがあっても面白いと思います。
一過性のブームではない読書のクールさを伝えると考えると、最近はブッククラブなどで取り扱うジャンルを広げたらどうかと思うんです。最近メディアで取り上げられる読書文化の文脈では現代小説のイメージが強いですが、1980年代のような知性や読書がクールなものだった時代は海外文学や人文書も当たり前のように読まれていた。そうしたものを読む面白さ、クールさも今後はアピールしていけたらと思っています。
*#Booktok:TikTok上で本や文学について語り合うコミュニティ。感想を言い合い、書籍を紹介し合うといった投稿が見られる。

ファッションを“健康的に推す”には
──三宅さんはご自身のYouTubeでファッションについて話す機会も多い印象があります。ファッションと読書に共通点はありますか?
運命の1冊、運命の1着に出合うのはどことなく似ていると思います。本も服も、たくさんある中で失敗しながら試行錯誤して、自分に合うものと出合えたとき、人生が動いたような感覚になります。自分が好きな作家が誰かにとってはそうじゃないのと同様に、服も似合うかどうかはあれど、それは優劣ではない。そんな前提のもと、心が震える1着との出合いを探す旅の楽しさが似ていると感じますね。
──三宅さんはメディアに出る際に、「マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)」や「コトハヨコザワ(kotohayokozawa)」など日本のデザイナーズブランドを着用されていることが多いですよね。意識的に選んでいるのでしょうか。
日本の女性デザイナーのブランドに惹かれることは多いですね。体型的にフィットするというのもありますが、それ以上に着ると励みになる気がするんです。この作家にしか書けない文体、切り取り方があるように、女性のデザイナーだからこそできるシルエットの美しさと着心地のバランスがあるのではないかと素人ながらに感動します。「フェティコ(fetico)」や「オダカ(ODAKHA)」も、ニットやレースのようなそれ自体は普遍的なものを「こんな見せ方があるのか!」と驚くような美しいファッションとして見せてくれる。それを自分がまとった時に体温がぐっと上がるというか。冷え性の私にとって、心臓から血液が行き渡るあの感覚はありがたいです(笑)。
──素晴らしい言語化をありがとうございます(笑)。デザインやストーリーなど、服を買う時に特に意識するポイントはありますか?
私は着物を見たり、着るのも好きなのですが、日常着としてのファッションアイテムでも染め物の色合いや組み合わせに心が惹かれることが多いです。最近だとコトハヨコザワのグリーンのデニムに一目惚れしました。コトハさんのデニムって個性的なデザインでも、穿いた時のシルエットが綺麗に整うのが秀逸だと思います。深夜に脱稿した勢いで一気に3、4本オンラインで購入したこともあります(笑)。物自体に惹かれることもありますが、デザイナーさんのインタビューを読んだりして好きになることも多いです。
──具体的にはどんなところに惹かれるのでしょうか。
ものづくりへのリスペクトを感じると引き込まれますね。買った時は知らずに、後からインタビューやコレクションレポートなどでデザイナーの人柄、考えに触れた時も、より愛着が増します。最近だと、「文學界」のファッション特集を興味深く読みました。「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」の吉田さん(デザイナーの吉田圭佑)の寄稿も本当に素晴らしかったです。
──最近、特にぐっときた買い物はありましたか。
タイに旅行に行った時に、魚の変な絵が描いてある服を買って元気が出ました(笑)。旅先で書店やセレクトショップに行くのも好きなんです。独自のセレクトやコンセプトが立っているお店はそこでしか経験できない服との出合いが必ずある。北海道によく行くのですが、札幌の「トーア(TOR)」さんは毎回「何だこのブランドは!」となることが多くて楽しいです。
──新刊の「推したちとどう生きるか」では、過剰な消費ではなく推しとの“持続可能な関係”を提案しています。ファッションもトレンドサイクルが激しく、その目まぐるしさに疲れてしまうこともあります。ファッションを健康的に推すにはどうしたらいいでしょうか。
トレンドを追うことの疲労感の正体のひとつは人と比べることだと思います。追いつかなきゃいけない、人が着ているのを見て自分もそうしなければいけないと思ってしまう。でも、自分の中のときめきを大事にしていると、その感情は持続しやすい気がします。どこが好きなのか言語化してみることをおすすめします。
──最後に、読書カルチャーとファッション、このふたつの世界がこれからどのように交わっていくことを期待しますか。
ジャンルが越境していくとき、意外なものがフィットしたときのインパクトは大きいと思うんです。日本のデザイナーさんが映画や書籍をインスピレーションにされることはよくあると聞きますし、作家さんをはじめ文学の世界には服好きが密かに大勢いる。そのふたつがもっとつながっていったら、おもしろいことが起きると思います。

photography: Yusuke
【連載:サマーリーディング📕🌻🏖️】
最終更新日:
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