
暑い夏の午後、冷房の効いた部屋や心地よい木陰でページをめくる時間。そんな読書時間をさらに特別な体験に変えてくれるのが「香り」の力。嗅覚は脳の感情や記憶を司る部分に直接働きかけ、集中力を高めるとともに、物語の景色を引き出す想像力を刺激してくれます。
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そもそも、文学作品や本、図書館をモチーフにしたフレグランスは、実は数多く存在します。目に見えない香りは、言葉と同じように記憶や感情を呼び起こし、まだ見ぬ情景や物語を想像させるもの。文学と香りは、豊かなイマジネーションを通じて、深く響き合う親和性の高い表現なのです。
FASHIONSNAPでは現在、夏の読書を楽しむサマーリーディング*特集を掲載中。今回は文学と香りの親和性に着目し、本にまつわるフレグランスを紹介。ページをめくる高揚感や古い紙の匂い、静寂に包まれた書庫を思わせる香りで、視覚だけでなく五感で物語の世界へ深く潜り込む、新しい夏の読書スタイルを始めてみませんか?
*夏休みやバカンスの長期休暇を生かして読書に没頭しようという欧米の習慣。ビーチやプールサイドといったバケーション、涼しい室内といった幅広いシーンで楽しめるものとして提案されている。
冷房の効いた部屋で、じっくり長編に没頭したい日の香り

エアコンの風が心地よく流れる静かな部屋で、何百ページもある長編小説のページを開く贅沢。そんな特別なひとときには、物語の奥深い世界観に寄り添う、重厚でストーリー性のある香りが重宝します。実在する文学作品をモチーフにしたフレグランスは、時間の経過とともに幾重にも変化する香りのレイヤーが、自分だけの空間で時が止まったかのような感覚をもたらします。文字を追うごとに部屋の空気まで物語の色に染まっていく。そんな没入感とともに、物語の最奥へと連れ出してくれる読書パートナーを見つけてみて。

◾️フレデリック マル「ポートレイト オブ ア レディー」(100mL 5万3130円)
“香りの出版社”がコンセプトの「フレデリック マル(FREDERIC MALLE)」から、ヘンリー・ジェイムズの古典名作「ある婦人の肖像」に着想して誕生。トルコ産ローズをふんだんに使用し、穏やかなインセンスや温かみのあるサンダルウッドがコントラストを描くパワフルな香り。
運命に抗い続ける主人公・イザベルの葛藤を描いた物語のように、時間の経過とともに変化する香りのグラデーションが物語の展開と重なり合い、物語への没入感をいっそう深めてくれます。

◾️ミラー ハリス「スケルツォ オーデパルファム」(100mL 3万3990円)
F・スコット・フィッツジェラルドの最後の長篇小説「夜はやさし」の一節から着想を得た「ミラー ハリス(Miller Harris)」の「スケルツォ」。可憐に咲き誇るピオニーや甘美なタンジェリンに、温かく妖艶なウードが影を落とすコントラストが特徴です。
南仏の眩しい日差しや鮮やかな花々が咲き乱れる情景を呼び起こし、物語の世界へと優雅に誘ってくれます。アーシーなパチョリとシュガーが溶け合い、小説に登場する「お菓子屋さんのショーウィンドウ」を覗いたときのような、甘くノスタルジックな香りへと移ろいます。

◾️シャンブル サンカン ドゥ「オランシェ」(100mL 4万2900円)
“ホテルの部屋”というプライベートな空間と、そこで紡がれる物語をテーマにした「シャンブル サンカン ドゥ(CHAMBRE 52)」。ヴァージニア・ウルフの長篇エッセー「自分だけの部屋」から着想を得た「オランシェ」は、きめ細かなホワイトムスクと優美なローズの香り。
オリエンタルなフルーティフローラルに、ライチのフレッシュな甘みが重なり合い、やがて温かみのあるサンダルウッドやミルクアコードが、静かで心地よい安らぎをプラス。ひとりの時間を静かに楽しむ読書に寄り添い、物語の世界へ穏やかに没入させてくれます。
夏の光を浴びながら、本で世界を旅する日を共にする香り

真夏の太陽が眩しく照りつける日、避暑地で青空の広がるテラス席や涼やかな風が吹く木陰で開く一冊。そんな開放的なロケーションには、日常を飛び出し、未知の土地へ連れて行ってくれるドラマチックな香りがよく似合います。果てしない海風、見知らぬ街の市場を包むスパイス、異国の森の緑。ページをめくる指先から立ち上る香りが背景のグラフィックを鮮明に塗り替え、あたかも物語の主人公とともに旅をしているかのような臨場感をもたらします。

◾️イストワール ドゥ パルファン「1828」(60mL 2万2000円)
歴史上の人物や物語を香りで表現する「イストワール ドゥ パルファン(Histoires de Parfums)」が、SFの祖ジュール・ヴェルヌの生誕年にちなんで名付けた「1828」。「海底二万マイル」や「八十日間世界一周」といったヴェルヌの冒険譚を、爽快なブルーシトラスの香りに乗せました。
吹き抜ける潮風のようなグレープフルーツに、シャープなユーカリ、そしてアロマティックなウッディノートへと移ろいます。帆船のデッキに立ち、水しぶきを浴びながら水平線を見つめているかのような高揚感。日常から離れた未知なる旅へと連れ出してくれます。

◾️ペンハリガン「ザ トラジェディ オブ ロード ジョージ オードパルファム」(75mL 4万8950円)
「ペンハリガン(PENHALIGON'S)」がイギリス上流階級の秘密や愛憎劇を描いたポートレートコレクション。その象徴とも言える「ザ トラジェディ オブ ロード ジョージ」は、壮大なドラマへと引き込むミステリアスな香り。
富を象徴するような芳醇なブランデー、クラシカルなシェービングソープ、そしてすべてを優しく包み込みながらどこか影を感じさせるトンカビーン。一族の家長であるジョージ卿の冷徹さと重厚感を表現したこのウッディノートは、謎が複雑に絡み合う大長編ミステリーのページをじっくり紐解く、贅沢な時間を演出します。

◾️メゾン アンサン「サンタル ティスリット」(50mL 1万6500円)
創設者の父親が創作した架空の文明・アルトガニスを香りで表現する「メゾン アンサン(Maison Ancenis)」。「サンタル ティスリット」は、時空を超える深いイマジネーションへと誘うフレグランス。
未知のスパイスと深みのあるレザーが複雑に絡み合い、砂塵の舞う異境の地のような、エキゾチックで乾いた温もりを放ちます。現実世界から切り離されたSFや、壮大な異世界ファンタジー小説に没頭するとき、この唯一無二の香りが想像力を広げ、未知の文明を踏みしめているかのような錯覚をもたらしてくれます。
静けさに浸り、自分の部屋を「私設図書館」にする日の香り

どこにも出かけず、朝から晩までお気に入りの本だけに囲まれて過ごす休日。そんな至福の時間は、部屋の空気そのものを歴史ある図書室へと変える、空間演出型のフレグランスで彩りましょう。ページを開いたときに漂う古紙の甘い匂い、静かに匂い立つインク、重厚な木製書架の質感。一吹きするだけで室内に深みが生まれ、見慣れたベッドサイドやデスク周りがたちまち静寂の漂う私設図書館へと変わります。自分だけの隠れ家で時間を忘れてストーリーに浸る読書のお供に。

◾️バイレード「ビブリオテーク」(100mL 4万1910円)
フランス語で「図書館」を意味する言葉をそのまま冠した「バイレード(BYREDO)」の「ビブリオテーク」。一吹きで、部屋を格式高くクラシカルな図書室へと変えるシグネチャーの香りです。
古書の風格ある革表紙を思わせるレザーノートに、紙の温かみを宿したプラムのフルーティさ、そしてシナモンやバニラのまろやかな甘みが調和。まるで何十年もの歳月を経た古本の書棚に囲まれているような、時が止まった静寂とどこか懐かしい温もりで包み込みます。

◾️フエギア 1833「ビブリオテカ デ バベル」(100mL 4万8400円)
「フエギア 1833(FUEGUIA 1833)」の「ビブリオテカ デ バベル」は、アルゼンチンの文豪ホルヘ・ルイス・ボルヘスが描いた、世界中のあらゆる書物を収めた迷宮の書庫「バベルの図書館」にオマージュを捧げ、本を開く瞬間の静寂を閉じ込めたフレグランス。
シナモンの温かいスパイスから幕を開け、書きたてのインク、時を重ねた羊皮紙のページ、重厚な革装丁の書物へと香りを変えていきます。知識と記憶、現実と想像が交差する無限の書架に迷い込むようなスパイシーグルマンの香りは、静かな夜の読書を思索の旅へと変えてくれます。

◾️ディプティック「ロー パピエ」(100mL 2万5960円)
「ディプティック(DIPTYQUE)」が紙に染み込んでいくインクのグラデーションを表現した「ロー パピエ」。真新しく真っ白な紙にインクが乗る瞬間の、知的なクリエイティビティを感じさせるフレグランスです。
ホワイトムスクの優美さに、ほんのり香ばしいライススチームアコード、そして繊細なミモザの甘みがそっと寄り添います。重すぎず軽やかに広がる香りは、夏の室内でも心地よく調和し、新品の文庫本を開いたときのような澄んだワクワク感で満たしてくれます。

◾️ヴァレンティノ ビューティ「アナトミー オブ ドリームス ビハインド ザ シーン」(100mL 5万8300円)
「ヴァレンティノ ビューティ(VALENTINO BEAUTY)」のローマ宮殿を舞台にしたコレクション「アナトミー オブ ドリームス」。その中の「ビハインド ザ シーン」は、宮殿にある隠された書庫とその秘密に迫るウッディスパイシーな香り。
ベチバーの土っぽく乾いた落ち着いた香りから、その静寂を破るように、ヘーゼルナッツの芳醇で香ばしい甘みが広がります。革装の本がびっしりと並ぶ本棚の裏側に隠された、未知の物語や秘められた駆け引きを描き、いつもの部屋が謎と優雅さに満ちた秘密の書斎へと姿を変えます。
photography: Katsutoshi Morimoto, creative direction: Riko Miyake, editing: Mayu Kamitamari (FASHIONSNAP)
【連載:サマーリーディング📕🌻🏖️】
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