
上:有隣堂 BASEGATE横浜関内店、下:BUNKITSU TOKYO

上:有隣堂 BASEGATE横浜関内店、下:BUNKITSU TOKYO
出版不況が叫ばれる一方で、近年は若い世代の間で「読書」をカルチャーとして捉え直す動きが改めて広がっている。しかし、相次ぐ書店の閉店には歯止めがかからない。その主要因として指摘されているのが、書籍販売の粗利率の低さだ。そうした厳しい状況下でも収益性を担保し、生き残りをかけるべく、ファッション雑貨や飲食をはじめとした「非書籍」カテゴリーに注目する書店が増加している。FASHIONSNAPでは、サマーリーディング*の季節に合わせて、ファッションと読書をめぐるさまざまな潮流を取材。シリーズ4本目となる本記事では、「有隣堂」と「文喫」の事例や独立系書店の動向を交え、「本を売る場所」から変わり始めた書店の現在地を、小売りの視点から紐解く。
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*夏休みやバカンスの長期休暇を生かして読書に没頭しようという欧米の習慣。ビーチやプールサイドといったバケーション、涼しい室内といった幅広いシーンで楽しめるものとして提案されている。
目次
なぜ書籍販売は粗利率が低いのか、背景と現状
日本出版インフラセンターによると、全国の書店数は2026年3月末時点で9993店。 最多を記録した1998年度の2万4237店舗の約4割となり、 調査開始の1994年度以降初めて1万店の大台を割った。経営を圧迫している主要因として、約22%という書籍販売の粗利率の低さや、返品数の多さによる運搬コストがよく挙げられる。
一般的な買取型の小売りでは、販売店が商品を仕入れ、売れ残れば在庫リスクを負う。一方、日本の出版流通では、書店は新刊などを、一定期間内であれば返品できる「委託販売制度」が広く採用されている。その分、書店の取り分は定価の2割程度にとどまることが一般的だ。出版社と全国の書店をつなぎ、商品の配送や返品などを担うのが「取次」と呼ばれる販売会社。出版社が価格を決める「再販制度」と、売れ残った出版物を返品できる「委託販売制度」、そして取次を中心とした流通網の組み合わせが、日本の出版流通の大きな特徴となっている。
本が売れた時代の薄利多売モデルは、出版不況の現代において各社の首を絞めている。そこで2023年10月、紀伊國屋書店、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、日本出版販売(日販)の3社は、書店主導の出版流通改革を目指す共同出資会社「ブックセラーズ&カンパニー(BS&Co.)」を設立。今年6月には、2028年3月末までに書籍仕入れの5割を直仕入れ(取次を通さずに版元から直接仕入れること)に切り替え、書店の粗利率30%を目指す共同声明を参画書店15社と共に発表した。
しかし、こうした改革が全国すべての書店に行き届いているわけではない。依然として利益率の課題が残る中、書店の生存戦略の鍵になるのが、書籍というジャンルの枠を超えた「小売り・体験業としての場づくり」へのシフトだ。
売り場面積の8割を「非書籍」に 有隣堂が挑戦する知的好奇心が生まれる場づくり
大型書店チェーン「有隣堂」は、2018年にミッドタウン日比谷内にアーケード型複合ショップ「ヒビヤ セントラル マーケット(HIBIYA CENTRAL MARKET)」を開業。書店を「本を販売するだけの場所ではなく、知的好奇心を起点に新しい価値観と出会う場所」として再定義し、プロデューサーにはクリエイティブディレクターの南貴之を起用した。
同店では、書籍、衣服、雑貨、飲食などを一つの世界観で編集。多様な商品をテーマや利用シーンで結びつけることで、モノの背景や作り手の想いを伝える「小さな街」のような空間を作り上げた。約8年間の運営を通して得た最大の知見は、「異なるカテゴリーの商品やサービスであっても、明確なコンセプトと編集方針があれば、一つの世界観として成立する」ということだったという。
このノウハウを活かし、今年3月にオープンした「有隣堂 BASEGATE横浜関内店」は、3フロアの合計売り場面積約1485平方メートルのうち、約8割をファッション雑貨や飲食などの非書籍カテゴリーが占めている。地下1階にダイニングやアートギャラリー、1階に横浜由来の雑貨や食品、そして2階に書籍売り場とコワーキングスペースを配置し、「BOOK・WORK・LIFEが交わる空間」を設計した。アパレルや雑貨の取扱ブランドとしては、すべてのアイテムをボタニカルダイの染色技術で色付けしたリラックスウェアの「ようじょうくん(YOJUKUN)」や、2025年に日本に上陸した米国初のキャリーアクセサリーブランドの「スレッド(THREAD)」などがある。ようじょうくんは、有隣堂としては同店が初の取り扱い店で、スレッドは同店の売り場規模が日本最大だという。







1階の物販スペース
Image by: 有隣堂
有隣堂 BASEGATE横浜関内店の内観
有隣堂の担当者は、こうした売り場作りについて「非書籍商品の導入は、粗利率の改善だけが目的ではない」と語る。
「書店が長年培ってきた『選ぶ』『組み合わせる』『意味を与える』という編集力は、雑貨やファッション、食やアートにも応用できる。アパレルや食への興味をきっかけにその背景にある文化を知り、関連書籍を手に取る。逆に、本から得た知識が実体験に繋がる。MD(マーチャンダイジング)を単なる商品構成ではなく、『空間での過ごし方』や『回遊性を高める体験設計』として捉えることで、相乗効果が生まれると考えている」。実際に、食事を目的にした来店者がアートや本に触れ、本を探しに来た来店者が雑貨や飲食に関心を広げるなど、異なる来店目的が交わることで店舗内の回遊や滞在の選択肢が広がっている。
オンラインで効率的にモノが買える時代だからこそ、自らの足で訪れ、五感を刺激され、偶然の出会いを楽しむ。それが、これからのリアル店舗に求められる条件だという。
生活の中にいかに読書時間を組み込むか 「文喫」の提案するサードプレイス
書籍販売だけの利益に依存しない実験的な書店経営の例として、2018年12月に1号店を東京・六本木にオープンした“入場料のある書店”「文喫」にも注目したい。文喫は、出版取次大手の日本出版販売(日販)グループが立ち上げ、現在は同社の100%子会社である「ひらく」が運営する。同社の山元佑馬 取締役文喫事業責任者は「書店は人と文化がつながり、人の心を豊かにする場所。社会の価値がウェルビーイングに移行していく未来にこそ、書店の存在価値は高まると考えた」と語る。消費のトレンドが「モノ消費」から「コト消費」へと移り変わる中で、書店で過ごす体験にこそ新たな価値があるという考えから、入場料制というマネタイズモデルを確立した。
昨年9月には、4店舗目としてニュウマン高輪に「BUNKITSU TOKYO」をオープン。店舗面積は3300平方メートルを超え、約10万冊の蔵書と223席のカフェラウンジを備える旗艦店だ。再開発地域への出店を強化することで、まちづくりにおける「カルチャーインフラ」としてのブランドポジション確立を目指し、業態の枠を超えた「サードプレイス市場」に狙いを定めている。

Image by: ひらく

Image by: ひらく
BUNKITSU TOKYOの店内の様子
「今後の成長の鍵は、縮小する出版市場を、いかに伸びている市場(カフェやワークスペースなどの時間消費需要)と掛け合わせるかにある」と山元氏は分析する。2025年度の既存店(六本木、名古屋・栄、福岡・天神)における入場料売り上げは前年度の2倍以上となった。読書ファンだけでなく、日常的に本を読まない人の生活にも「本のある空間」を提供することが、ブランドの成長に直結しているという。近年は本に関連するIPを活用したイベント企画によってIP関連の雑貨と書籍の併売効果も見られる。現在六本木店で開催している「『恐竜アート博物館』刊行記念展」では、同書に登場するアーティストやクリエイターによる作品を約100点展示販売しており、関連する本と雑貨だけでなく10万円以上するアート作品も売れている。今後は、さらにその相乗効果を高めることを目指しているという。
個性確立、人の集まる場に 「独立系書店」に経産省も注目
大手書店が新たな業態を模索する一方で、個人経営などの小規模な「独立系書店」の動向も見逃せない。韓国や米国などでは、独自の品揃えや店づくりで特色を打ち出す独立系書店の新規開業が近年目立つ。日本では、2012年にNUMABOOKSと博報堂ケトルの協業で開業した、東京・下北沢の新刊書店「本屋B&B」を筆頭に、飲食の提供やイベントスペースとしての空間活用によって書店を人の集まる場に転換する動きが進んできた。ただし、書店数全体としては、年間400〜500店前後の減少がここ数年続いている。これに危機感を抱いた経済産業省は、2025年6月に「書店活性化プラン」を発表。中小書店に対するDXサポートや新規出店に向けた支援策など打ち出している。
アパレル業界が近年では、「服を売る」ことから「ライフスタイルを提案する」へと大きくシフトしたように、書店という小売店の在り方も変化している。オンラインでも気軽に本が買える時代に、わざわざ書店に足を運ぶ人たちは皆、知的好奇心を刺激するモノとの偶発的な出合いを求めている。書店が人々に選ばれる場所になるために必要なのは、ただ他店と同じくベストセラーを並べるだけにとどまらず、“ブランド”として個性を際立たせること、そしてその価値を最大化する空間と店頭を設計する編集力だ。何を売るかだけでなく、何を選び、何と組み合わせ、どんな文脈で届けるのか。モノそのもの以上に「ここで買う理由」を作れるかどうか——。書店が模索する生き残り方には、アパレル業界を含めたこれからのリアル店舗を考えるヒントが詰まっている。
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