
「独創性とは、起源に戻ることである」。スペインの大聖堂 サグラダ・ファミリアを手掛けた建築家 アントニオ・ガウディ(Antoni Gaudi)はこう言った。人は誰しも、現在の自分を形作る源となった「オリジン」を持っている。「ターク(TAAKK)」デザイナーの森川拓野にとってのオリジンは、「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」での下積み時代で培った、一切妥協せずクオリティを追求する服作りの美学だ。その中には、ファッションフォトグラフィーの巨匠で、三宅一生が敬愛した写真家 アーヴィング・ペン(Irving Penn)も含まれる。「当時のイッセイ ミヤケには、アーヴィング・ペンの素晴らしさは知っていて当然という空気感があった。正直僕はよく分からなかったけど、分からなくちゃいけないから、彼の写真をひたすら見ていた」(森川)。
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2012年にタークを立ち上げ、今ではファッションの聖地 パリでコレクションを発表するようになった森川。ふとしたタイミングで、自身のクリエイションを形作っているものは何かと自問自答した際に浮かんできたのが、イッセイミヤケ社で過ごした20代の日々であり、アーヴィング・ペンだったという。「好きというか、こびりついている」。そう語るペンを着想源としたタークの2027年春夏コレクションは、単なるノスタルジーや先人へのオマージュではなかった。
ファーストルックで登場したのは、タークのアイコン的な手法の一つとなっている「テープ刺繍」を進化させたアイテム。テープ刺繍の中をくり抜くことで、レイヤードしたインナーが露出する仕組みがユニークだ。ブラックのアウターの下にミントグリーンを忍ばせ、浮かび上がらせるスタイリング手法は、意図的に背景にニュートラルな色調を用いることで、被写体そのものを際立たせるアーヴィング・ペンの制作アプローチに通底している。

秋田県出身で自然に囲まれて育ってきた森川にとって、花も自身を形作る重要なピースだ。その中でも特に森川は「花が朽ちる瞬間」に美を感じるといい、デジタルグラフィックで作り上げた“枯れかけの花”をコレクションに落とし込んでいる。瑞々しさだけではなく、朽ちゆくものからも美をすくいとる眼差しは、アーヴィング・ペンの代表作の一つ「FLOWERS」で映し出された世界観と共鳴しており、ここでも森川のペンに対する深いリスペクトを感じ取ることができる。


自身の原点に、これまでのブランドの歩みを融合させているのも興味深い。タークは2026年秋冬コレクションで初めてレザーアイテムを発表したが、今回も継続。前シーズンと異なり、あえて刺繍などを入れないシンプルなデザインに仕上げていることで、穴あきテープ刺繍や花のグラフィックといったアイコニックな意匠をより一層際立たせ、コレクション全体の完成度を底上げしている。


2026年秋冬で協業した「4℃」との継続したコラボレーションも見逃せない。「4℃」とのジュエリーは、「あるがままが美しい」という森川の物事に対する考え方を反映し、鉱石をそのままの姿でシルバーと融合。無骨ながらも洗練された佇まいは、衣服のシアーな素材感やスパンコールの煌めきと調和し、スタイリングに知的なコントラストをもたらしている。また、レザーブランド「ユハク(yuhaku)」との初のコラボベルトは職人が手染めしたもので、光と影の移ろいを映したようなグラデーションがシンプルなスタイリング全体に深みと躍動感を与えた。



今回のショー会場は、前シーズンと同じシテ建築遺産博物館。設置するランウェイの高さをミリ単位で完璧に一致させたほか、ショー後にモデルがランウェイに留まり来場者にディテールを見せるなど、全ての演出を前回と揃えた。見せ方におけるノイズを極限まで削ぎ落とすことで、観客の視線を服そのもののディテールと、クリエイションの進化に集中させることを目指したという。
「自分探しの旅」として海外に出ていくケースがあるように、人は自らの個性を探すとき、外にそのヒントを求めがちである。しかし、真のオリジナリティとは、上辺の目新しさを追い求めることではない。自らの起源を深く、愚直に掘り下げ、アイデンティティに昇華させることにあるのではないか。その答えを示すかのように、若き日の森川に“こびりついた”原点は、時を経て色褪せるどころか、タークという新たな生命の血肉となり、ランウェイの上で花開いた。
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