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量産ではできないことを “アートウェア”が支持を集める「TOLIGHT」が描く花の世界

聞き手&文伊藤真帆

Video by: FASHIONSNAP

聞き手&文伊藤真帆

 ヴィンテージの布を繋ぎ合わせた服に、手描きであしらった色鮮やかな花が咲き誇る、世界に一つだけの服。ブルームペインターの青山明生(あおやま めい)が手掛ける「トライト(TOLIGHT)」による服は、そのすべてが手作業による一点物だ。そのトライトの活動に今、ベイクルーズや伊勢丹だけではなく、「サムシング(SOMETHING)」や「シテン(CITEN)」といった量産ブランドも注目し始めている。唯一無二の服作りはどのように始まり、どこへ向かうのか。インタビューを通じてトライトで描く独自の花の世界とクリエイションの源泉を探る。

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青山明生のインタビューカット


■青山 明生(あおやま めい)
1992年東京都生まれ。文化服装学院アパレルデザイン科を卒業後、「ミュベール(MUVIEL)」でプリントや刺繍などの企画デザインに携わる。2016年に第90回装苑賞でrooms賞を受賞。2018年春夏シーズンに前身となるブランドを立ち上げ、2021年春夏シーズンから本格活動を開始。服に直接花を描く作風で知られ、「ジャーナル スタンダード(JOURNAL STANDARD)」系列のブランドとの協業などにも取り組んでいる。

4年の低迷期を経て生まれたアート服

⎯⎯ブランドをスタートするまでのキャリアを教えてください。

 文化服装学院を卒業後、最初は新卒でミュベールに入ってデザイナーとして4年ほど働き、在籍中に装苑賞でrooms賞を受賞したタイミングで独立してブランドを始めました。でも資金がなかったので、立ち上げ当時はドゥロワーで派遣社員として働きながら、制作活動をしていました。

⎯⎯ものづくりや絵を描くこと自体は、もともと好きでしたか。

 子どもの頃から絵を描くのが好きで、「絵を描いたら落ち着く子」と言われていました(笑)。父が広告代理店、母がアパレルの仕事をしていて、母にはよく美術館に連れて行ってもらうなど、幼い頃から絵や服が身近な環境で育ちました。母はマティスの作品が好きで、家にも飾っていたので、マティスの色彩の激しさや鮮やかさ、太い絵のタッチから自然と影響を受けた部分もあるかもしれません。私自身は服も好きだし、コラージュするのも好きだったので、いつか服と絵を融合させたいという気持ちがずっとありましたね。

ライブペンティングの様子
ライブペンティングの様子

古着などにアートを描き込む際に使用する画材は「アクリルガッシュ」と呼ばれる不透明水彩。マットな発色が特徴だ。ペインティングはすべて独学で技術を身につけたという。

⎯⎯ブランド名「TOLIGHT」の由来を教えてください。

 TOLIGHTは「明るい方に向かう」という意味があります。私の名前が「明生(めい)」で、「明るい」に「生きる」と書くので、それも重なっていて。メインのモチーフにしている花が光の方向に咲くので、絵を描くことや服を着ることで、明るい方を向いて暮らしていけるという気持ちを込めています。

⎯⎯トライトの活動を本格的にスタートしたのはコロナ禍でした

 コロナ前からTOLIGHTという名前でブランドはやっていたんですが、当時はいま作っている一点物とは違って、ミュベールのような量産できるブランドになりたかったんです。でもブランドを始めた当時は本当にお金がなさすぎて......その中でコロナ禍になってしまって、家の中で作れるものって何だろうと考えた時に、プリントよりも手描きしてしまった方がいいんじゃないかと思って。オンラインで細々と売ろうと、布のバッグに描いたり、コロナ禍でお花屋さんも閉まっていたので、スーパーで買ったお花を空いたワインのボトルに生けていたんですが、あまりにも映えないからボトルに描いたりもしました。

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プレスプレビューで展示された作品
プレスプレビューで展示された作品
プレスプレビューで展示された作品
プレスプレビューで展示された作品
プレスプレビューで展示された作品
プレスプレビューで展示された作品
プレスプレビューで展示された作品
プレスプレビューで展示された作品
プレスプレビューで展示された作品
プレスプレビューで展示された作品
プレスプレビューで展示された作品
プレスプレビューで展示された作品
プレスプレビューで展示された作品
プレスプレビューで展示された作品

プレスプレビューの会場では古着やバッグのほかに、使用済みの洗剤ボトルやお菓子のパッケージにアートを施した作品も披露した。

⎯⎯モチーフは花がメイン。

 東京のコンクリートジャングルで育ったので、逆に自然を求めるようになったのかもしれません(笑)。小学校は芋掘りをするような自然豊かな学校だったので、自然は元から好きでした。

⎯⎯古着を用いた一点物が人気を集めています

 既存の古着に直接描いているものもありますが、ブランドのメインとしては、ヴィンテージのテーブルクロスや布団カバーを解体して作った服にアートを足して販売しています。

⎯⎯工程がとても多くなりますよね。それでもその選択をされたのはなぜでしょう。

 大企業にできないことをやった方がいい、ここにしかないものを作らないと「この世界では生き残れない」と思うようになったことが大きいです。自分の持っている技術をすべて出さないと見向きもされない時期が4年ほど続いたので、「これで売れなかったらやめよう」という気持ちで、できる限りをやった結果、少しずつ見てもらえるようになりました。古着の倉庫に仕入れに行くとかわいい布がたくさんあって、シミがあっても、上から絵を描いてしまえばプラスになるので、捨てずに生かしたいという思いもあります。

アイテムのディテール

布団のシーツの柄にアートを描き足すことも。

⎯⎯一着の服が完成するまで、どのくらいの時間がかかりますか。

 ものによって異なりますが、ヴィンテージのレースを使った代表的なアイテムだと、仕入れに行って、解体して、洗って乾かして、パターンを割り出して、裁断して、縫い上がってから描く、という流れになります。50着を作るのに数ヶ月かかり、そこから1ヶ月以上をかけて1着ずつアートを描いていきます。

⎯⎯描く時にはどんなことをイメージしていますか。

 絵を描くのはセッションみたいな感覚があって、即興で進めています。その時の季節や場所の空気みたいなものも反映されているような気がしています。

⎯⎯モチーフは実在する花がベースになっているのでしょうか。

 なんとなくベースとなるものはあります。ただ、そのままコピーするのではなく、「この色は実際には存在しない」とか「この花ならこの葉っぱではないはずだ」という具合に脚色を加えています。現存するものからインスピレーションを受けながら、そこに自分なりの解釈を乗せています。

⎯⎯植物以外のモチーフに挑戦したことはありますか。

 最初のコレクションはF1レーサーのアイルトン・セナをテーマにしていて、車を描いていました。風景なども描いたりしましたが、やはり花がしっくりきます。まだ描いていない花や知らない植物も世界にはたくさんあるので、そういうものを見に行って、現地で描くようなことにも挑戦してみたいですね。

ライブペインティングで仕上げた背景紙

ライブペインティングで仕上げた背景紙。「今後は雑誌の撮影現場で描いたり、プロップとして空間プロデュースなどもやっていきたいです」(青山)

出産を経て改めて気付いた花の力

⎯⎯トライトとして転機は?

 最初に大きな取り組み先となったベイクルーズさんとの協業ですね。コロナ禍で開いたイベントをバイヤーさんが見てくださってお声がけいただいたのがきっかけです。初めは「ジャーナルスタンダード(JOURNAL STANDARD)」の表参道 ladies店で花瓶と服を売ったのですが、好評だったようで、「ジャーナルスタンダード ファニチャー(JOURNAL STANDARD FURNITURE)」など他のブランドでもコラボレーションさせていただくことになりました。ウィンドウにもアートを描くという提案もしてくださったことで認知が広がったように思います。それから伊勢丹さんでもポップアップをやらせていただいたりと、活動の場が増えていった実感があります。

⎯⎯ポップアップやコラボ以外では、オンラインで販売していますが、完売が続いていますね。

 とてもありがたいことなのですが、一点物なので、すぐに新作を投入するというのが難しくて......。

⎯⎯まもなく1歳になるお子さんがいらっしゃるとのことですが、子育てをしながら活動を続けるのは大変ではないですか。

 本当に大変です。(子どもを)寝かしつけた後に制作しています。夫が積極的に家のことを引き受けてくれるので、本当に助かっています。

作品

乳児期に使用した哺乳瓶やミルク缶にもアートを施し、特別な一点物に。

⎯⎯活動を続けていられる原動力は何でしょうか。

 トライトがない人生でいい、と思えないんですよね。やっといろんな方に少しずつ見てもらえる機会が増えてきたのに、ここで止めることもできないので、やるしかないという気持ちで制作しています。

⎯⎯子どもが生まれたことで、活動への意識が変わった部分はありますか。

 より多くの人に知ってもらいたい、貢献したいという気持ちが生まれるようになった部分はあるのかもしれません。チャリティ的な取り組みへの関心もそうですし、病院の壁に描いたり、小児用の病院に描いたりというアートの場を広げる活動にも興味が出てきました。

⎯⎯今後挑戦してみたいことはありますか。

 これまでは洋服や雑貨など、ものに花を描くことが中心でしたが、車やホテルの壁面といった大きな空間に花を描くことに挑戦してみたいですね。花には、人の気持ちを明るくしたり、前向きな気持ちや生命力を与えてくれる力があると信じているので、その力を生かして、多くの人が日常的に訪れる場所に花を描くような活動にも取り組んでいきたいです。アーティストやクリエイターなど異なるジャンルの方々とのコラボレーションなども通じて、花を描くという表現の可能性をもっと広げていけたらと思っています。

 お客さまは子育て世代の20代後半から40代が多いですが、80代のおばあちゃんが買いに来てくださったり、若い男の子も最近来てくださっていて。性別も年齢も国も関係なくお花はどこにでもあって身近なものなので、今後はファッションに限らず、インテリアなどを入口に、さらに間口を広げていけたらと思っています。

インタビューカット

日頃のリフレッシュは子どもや家族と過ごす他に、高い場所から東京を見渡すことも好きだという。「街を眺めていると、自分はまだこの街のほんの一部にしか届いていないと感じる。その感覚が、もっと大きな表現をしたい、もっと多くの人に届けたいという気持ちにつながっています」。

最終更新日:

■TOLIGHT 販売スケジュール
・2026年7月22日(水)〜7月28日(火)
会場:ISETAN SALONE
所在地:東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア 1・2階

・2026年8月中旬
TOLIGHTオンラインストア

・2026年9月後半
会場:SELECT BY BAYCREW'S
東京都港区虎ノ門2-6-3 虎ノ門ヒルズステーションタワー 3階

聞き手&文・伊藤真帆

Maho Ito

FASHIONSNAP 編集記者

東京都出身。高校時代に編集者を志し、デザインもわかる編集者を目指して美術系専門学校でグラフィックおよびウェブデザインを学ぶ。ウェブメディア「ORICON STYLE(現・ORICON NEWS)」で編集を経験後、カナダでのワーキングホリデーを経て、2014年にレコオーランドに入社。ライフスタイル領域をメインに担当後、現在はシニアエディターとしてデスク業務のほか、セレクトショップや百貨店・商業施設、ECといった小売関連企業を中心に取材。企業のトップに取材する連載「トップに聞く」を担当している。一児の母。趣味はボードゲームと謎解き。


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