クリーマ 丸林耕太郎社長
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ウィズコロナ時代の経営の展望を聞く連載「トップに聞く 2021」第11回はクリーマの丸林耕太郎社長。コロナ禍でハンドメイドブームが起こり、市販の使い捨てマスクが不足した時期には手作りマスクの販売を強化するなどプラットフォームの強みを発揮し、念願のIPOも実現させた。2021年はワクチンの普及で巣ごもり消費が減速するという見方もあるが、今年は何を仕掛けるのか。
■丸林耕太郎
1979年生まれ。慶應義塾大学在学中にプロとして音楽活動に取り組んだ経験を持つ。大学卒業後、2004年にネット広告大手セプテーニに入社。営業部長や事業部長などを歴任し、2008年に退職。2009年3月に赤丸ホールディングス(現クリーマ)を創業し、2010年5月にCtoCマーケットプレイスサービスを開始。現在は出店クリエイター数約21万人、月間の流通総額13.3億円の規模に成長している。2020年11月に東証マザーズに上場した。
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―新型コロナウイルス感染拡大から1年が経ちました。この1年をひとことで表すと?
「怒り」。だって、シンプルに腹が立ちません? 卒業式や甲子園も中止になり、その年頃でないと楽しめないイベントができなくなっているこの状況に。コロナで職を失った人もいるし、こんなのは悲しすぎる。僕は「愛」と「怒り」が創造の源泉にあると思っていて、2020年はこの「怒り」を感じる対象となったコロナに負けたくないという思いで怒りを力に変え、何ができるかを突き詰めた一年だった。
―市販の使い捨てマスクが品薄となった時期に政府からマスクの転売・高額販売の禁止措置が出ましたが、出品を継続したことでも注目を集めました。
マスクの販売そのものを止めるプラットフォーマーもいたが、僕らは管理を徹底した上で逆に販売を強化する方針に振り切った。あの状況で高い値段で使い捨てマスクが転売されているのは本当に腹が立ったからです。当時、手作りマスクの販売を継続することに賛否両論があったかもしれないが、クリエーターの力で社会の課題を解決する一つの機会になったし、このタイミングでクリーマを使ってくれたユーザーさんはリピートしてくださっていることも分かっているので、判断は正しかったと思う。
―マスクのほかにコロナ禍で取引が増えたカテゴリーは?
インテリアを中心としたリモートワーク関連アイテムやワンマイルウェア、アウトドア商品、あとは食品も伸びた。
―クリーマでもワンマイルウェアが売れたんですね。ファッションのカテゴリー自体は拡大していますか?
順調に伸びている。アパレル業界でもECがすごく伸びているし、「服をオンラインで買う」という習慣が定着してきたように感じている。ハンドメイドのマーケットプレイスはいわゆる「DtoCブランドの集合体」のようなものなので、オリジナリティのあるものを宝探しのような感覚で楽しんでもらえているのではないかと思う。
―コロナ禍にハンドメイドを始めた人も多かったと思います。クリエイターの新規登録で目立った傾向はありましたか?
今までネット販売に対してあまりポジティブじゃなかったような方々の参入が多かった。特に伝統工芸関連の出店や出品はかなり増え、結果も出ていると聞いている。以前から伝統工芸産業の力になれるのではというイメージがあったので、伝統工芸師さんから実際に「ネットでこんなに売れるんだ」といった声をいただくとやっぱり嬉しい。
―昨年11月にはIPOを果たしました。公募価格の1.4倍の初値を付け、期待の高さが伺えました。
会社を立ち上げた時に10年以内に上場するという目標を掲げて準備をしてきた。結局11年半が経ってしまったが、業績を含めてIPOの条件を全てクリアできたのが昨年だった。投資家の方々から期待をいただいているというのは感じているが、株価は浮き沈みがあるもの。僕らは本質的にやるべきことをやって事業や会社の価値をあげていくことに尽きる。
―中国語圏でもサービスを展開していますが、手応えは?
高い評価をいただいているが、まだテストマーケティングの粋を越えていない規模なので本格展開はこれから。"勝ちパターン"を越境でも作っていくことが目下の課題。本格展開にはもう少し時間がかかると思っています。
―リアル店舗の休業やイベントの中止は打撃となったと思います。
リアル店舗もイベントも売上高が順調に推移していたので、ダメージがすごく大きい。リアル店舗はコロナ禍で5店舗から2店舗に減らしたほど。
―コロナの流行が落ち着いたら再び出店を再開する方針ですか?
出店したいとは思いつつも、現状は未定。検討はしていきたい。
―毎年1月に開催している「ハンドメイドインジャパンフェス」に関して、今年はオンライン開催でした。
今年はリアル開催を断念せざるを得なかった。この状況の中でもイベント運営スタッフはもちろん、クリエイターの方々からも「何かやろう」というお声をいただいてオンライン開催を決めたが、本当はやっぱりリアルでやりたい。
―クリエイターの皆さんもイベントの場を重視されているんですね。
全国から3000人超のクリエイターが参加する日本最大級のクラフト・ハンドメイドイベントに成長して、クリエイターにとってもやりがいを見つけられる場所になっているという自負はある。
ハンドメイドインジャパンフェスは「クリエイターから作品を買う」という概念が定着しておらずユーザーの購買につながらなかった時期に、音楽でいうフジロックのようなカルチャーの勃興になるリアルな場を作らないと成功しないという危機感から生まれた。今もカルチャーを盛り上げたいという気持ちは変わらないので、安全が確保できる状況になったらリアルの場で再開したい。
―コロナ禍の反省点はありますか?
正直、あまりない。マスクの販売に向けて準備を進めていた時もそうですが、リモートワークだったが各チームの動きがとにかく早かった。なので反省というよりも、いいチームになったと実感できたことの方が強い。
―今期(2021年2月期)は第3四半期時点で大幅な増収増益を達成するなど好調ですが、来期はこの実績と対比することになります。
国内でもワクチン接種が始まり、巣ごもり消費も減少していくという見方もある。ただこれまで通り、「我々のやるべきことは何か」を誰よりも深く考え、誰よりも早く高い精度で実行することが成長に繋がると考えています。小手先で考えてできる仕事なんていうのは、中長期的に考えるとうまくいかなくなることが多い。「良いクリエイターの作品が集まっていて、このサービスを使うと良い作品に出会える」という本質的なことが何よりも重要なので、そこを徹底的に突き詰める。具体的な取り組みで言うと、ハンドメイドマーケットプレイスに付随する新サービスの拡充を加速させていきたいと思っている。
―CtoCマーケットプレイス市場で競合にあたる「ミンネ(minne)」もコロナ禍で成長しています。差別化についてはどのように考えていますか?
今も昔も、差別化はそこまで狙っていない。事業サービスの背景には思想があり、その思想に基づく戦略がある。この思想の違いが戦略の違いになり、結果的にアウトプットが変わってくるもの。なので僕らの戦略で言うと、いかに1つの問題に対して深く考え、早く実行できるかが最大の差別化になるのだと思う。
―CtoCマーケットプレイス事業の将来像は?
マーケットプレイスを皮切りにリアル店舗やイベントで新しい流通のかたちを作ってきた。マーケットプレイス単体でも100億円を超える規模になってきたが、まだまだ大きくできる。今はクラウドファンディングサービスやオンラインワークショップといった新しい仕組みを順次導入しているところで、物流支援など色々な新サービスも検討している。この「クリーマ経済圏」を成長させ、クリエイターの活動を完全なかたちでサポートできるプラットフォームに進化させていきたい。
―新規事業の展開も視野に入れていますが、構想について教えてください。
音楽家や現代アーティスト、フォトグラファー、漫画家など、いまのマーケットプレイスで展開していない違う領域のクリエイターに対してエンパワーメントできるようなサービスを考えているが、あくまで検討段階だ。
―M&Aに興味はありますか?
興味はある。昨年8月に「ハローサーカス」事業をM&Aしたが、IPOした今はより大胆なこともやろうと思えばできる。「クリエイターを応援する」というテーマの中で、既存事業との連携性が高いものがあれば前向きに検討したい。
―今後もリモートワークは継続の方針ですか?
当面は基本的にリモートになりそうだが、フルリモートは考えていない。僕は以前から「つよく、やさしく、かっこいい会社を作る」と言い続けていて、そういう会社を作るにはやっぱりスタッフ同士の直接のコミュニケーションや信頼関係が絶対に重要。業績が良い時は多くの問題は表面化しないものだが、大きな困難に直面するような局面においては、リモートでスタッフの関係性が希薄な状態だと間違いなく崩壊する。それに、シンプルに仲間と一緒にいる方が楽しいじゃないですか。リモートワークの効率は一定して高いので、うまく組み合わせながら体制を整えていきたい。
―最後に、企業としての将来像を教えてください。
この会社は「最大多数の人々を元気にできることは何だろう」という問いから生まれた。CtoCマーケットプレイス事業はあくまでその第1弾という位置付けで、世の中にはもっとさまざまな課題や願いがある。創業時からの思いはブラさずに、あらゆる領域で「愛ある事業」を展開していきたい。
(聞き手:伊藤真帆)
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