マッシュホールディングス 近藤広幸社長
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ウィズコロナ時代の経営の展望を聞く連載「トップに聞く 2021」第9回は、マッシュホールディングスの近藤広幸社長。首都圏では緊急事態宣言が延長し、アパレル各社のリアルの売上はさらに大きな打撃を受けるなか、同社は2021年も出店を加速させる。狙うのは、百貨店のメンズ売り場。2005年のファッション事業参入以来、順調に規模を拡大してきた同社の新たな経営戦略を聞いた。
■近藤広幸
1975年生まれ。バンタンデザイン研究所卒業後、建築デザイナーを経て、1998年にCGグラフィックの制作を手掛けるスタジオ・マッシュを設立。1999年に株式会社マッシュスタイルラボに社名変更。2005年からファッション事業に参入し、「スナイデル」などの展開を開始。2012年にマッシュホールディングスを設立。ビューティ、フード、直近では不動産など幅広い業界に事業を広げている。
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―2020年を一言で表すと?
アパレル業界だけではなく社会全体が大きく変わり、単純に「大変な年」だった。
―足元の状況はいかかですか?
リアル店舗のみの数字になると低いかもしれないが、1月の売上はグループ全体で前年比約95%で推移している。
―仕入れ削減などの対応策はとられましたか?
展示会ベースの初期発注に対しては例年の70~80%に削り、その代わりにコロナ禍での急遽できたニーズや売れ筋があれば、新規で商品開発をしてトータルで100%に持っていきなさい、という話をした。
―施策は奏効しましたか?
例えば「ジェラート ピケ(gelato pique)」では削減した分、「あつ森(あつまれ どうぶつの森)」とのコラボなどを投入した。予算よりも多く生産したが、結果的に好評を得ることができた。「絶対に売れる」と確信できたものは「積む」勇気も必要。
―ECの売上は伸びていますか?
2020年8月期は前年比162%に伸びた。EC化率も11ポイント増の29%だったが、昨年9月以降の実績では33%まで成長している。ただ、これからはこの実績と対比していくことになるので、それが今後の課題。
―コロナ渦でも好調だったブランドは?
ジェラート ピケは巣ごもり需要が追い風となった。あとはコロナが直接的な要因ではないが「スナイデル(SNIDEL)」はリブランディングが軌道に乗ってきた頃にコロナが感染拡大したので、大きくは下がらずなんとか切り抜けられた。
―コロナ禍はルームウェアの実需が高まりました。スナイデルからも「スナイデルホーム(SNIDEL HOME)」が昨年9月にデビューしましたが、部屋着関連が売れたのでしょうか。
外に着ていくような服も売れたという実感がある。
―意外ですね。外着が売れた要因は?
スナイデルはもともとファンからの支持が強いブランド。コロナで外に出かける回数が減ったことで、例えば今まで外着に3ブランド買っていたものを1ブランドに減らすとか、絞りをかけていったときに選ばれたというところもあると思う。
―逆にマイナス影響を受けたブランドは?
まず一つは、すごく好調だったコスメブランドの「セルヴォーク(Celvoke)」。ルージュの売り上げが主軸だったので、マスクの必要性により苦しい状況が続いている。ファッションでいうと「ファーストレディー」をテーマに置いている「セルフォード(CELFORD)」はすごく伸び盛りのブランドで、入卒園のシーンでは特に定評があったが、これらの行事が中止になってしまったのが大きな痛手だった。3~9月くらいまではかなり厳しかったが、秋冬コレクションに関しては「特別な日に着ていける服」などデザインの幅を広げたので、年末にかけてやや持ち直してきた。
―コロナ禍ではコスメ業界全体が苦戦が強いられていますが、対策は講じていますか?
スキンケアと、売上が伸びている目元のカラーアイテムの強化を進めている。トーンではリニューアルに着手し、セルヴォークに関しても、コロナ前から進めていた改善案に優先的に取り組んでいるところだ。
―スナイデルでもビューティーライン「スナイデル ビューティ(SNIDEL BEAUTY)」のローンチを控えています。
準備期間をしっかりとって進めてきたプロジェクトで、デビュー時は85型を用意する。はじめはカラーアイテムやスキンケアラインが中心となるが、香りモノにもかなり力を入れていて、アイテムはフランスで開発している。ベストまでクオリティを上げた状態で新たなラインナップとして投入する予定だ。
―飲食事業を手掛けているところはかなりの打撃を受けています。
対策は一生懸命やっているが、当社もかなり絶望的な感覚。「アズール エ マサウエキ(AZUR et MASA UEKI)」というワイナリーフレンチレストランではペアリングを提供しているが、夜7時までしかアルコール類を出せないとなると業態的にはかなり厳しい。また、12月にオープンした新業態の蕎麦屋はコロナ以前に計画していたものだが、僕としても大変な時期にやってしまったと感じている。
―コロナの感染拡大を受けて課題は?
新しく生まれるニーズに対してのスピード感が足りなかった。意思決定はかなり速いスピードで取り組んだつもりで、実際にスナイデルホームやジェラート ピケとあつ森コラボは好評を得られたが、シャープのようにマスクの生産にすばやく対応できたかというとそうではなく、躊躇して服に集中しすぎてしまった。各ブランドからマスクは販売しているものの、個別に独自開発している状況。1回作って売れるというニーズが分かったのなら、全ブランドが手を組んで素材開発をすれば原価率を抑えて手に取りやすい価格で売ることもできたはず。多くのブランドを持っているからこそ、企業力を活かすべきだったとすごく反省している。
―マッシュと言えば若手のイメージを思い浮かべる人も多いです。
年が明けてから若手にもたくさんチャレンジしてもらっている。例えば、若手からのアイデアをしっかり形にするために、役員会でチーム別で若手社員にプレゼンをしてもらい、内容が良ければその場でバンバン採用していくということをやっている。今回はコロナを乗り越えるために半年後には何かしらの形でマネタイズが発生するようなアイデアを募集をしていて、1月だけで5つほどのアイデアを採用しているところ。3ヶ月後には売り出す計画だ。
―アイデアは主に商品開発についてですか?
商品だけではなく、売り方やコラボレーション企画、生産体制などあらゆることが対象。若手社員とベテラン社員の意見が一致すれば「これはいける」という確信にも繋がるし、社員にとってもアイデアが採用されればモチベーションにもつながる。小さなブランドを作れそうなアイデアも出ているので、すごく面白いと感じている。
―2021年の出店計画は強気です。
春夏シーズンは44店舗のオープンを予定している。移設や改装する店舗が11店舗で、あとはすべて新規出店。とんでもない計画ですね(笑)。閉める店舗は数件なので、相当純増となる予定。
―コロナ禍はしばらく続きそうですが、リアル店舗は重要なチャネルですか?
もちろん。2020年は例年通りの意欲的な出店とはいかなかったが、人気ブランドについてはこちらにリスクがないような形で誘致していただくことが多く、業界内では出店数が多かった方だと思う。コロナのせいで急遽空いてしまった一等地に関しては社をあげて取りに行く。
―出店先の比率は?
いま力を入れているのが百貨店なので、商業施設よりも百貨店の方が多い。
―百貨店業界も苦しい状況が続いていますが。
マッシュホールディングスとしてはこれからメンズによりチャレンジしたいと思っているところ。百貨店のメンズブランドのラインナップは僕が高校生のときから変わっていない。16年ほど前にウィメンズの百貨店売り場に参入したときも同じ状況だった。「百貨店の景色を変えてやる」という気持ちでスナイデルや「フレイ アイディー(FRAY I.D)」「ミラ オーウェン(Mila Owen)」を出店し続け、15年経った今は景色を変えることができたと自負している。それをメンズでも取り組む。最終的には「マッシュが参入してきてからメンズのフロアや構成が変わったね」と言ってもらえたらおもしろいなと思っている。
―メンズ事業では「ジェラート ピケ オム(GELATO PIQUE HOMME)」が年商25億円突破と好調ですね。
ジェラート ピケ オムは50億円規模のブランドにしていこうと決めている。そのためにメンズコスメラインのローンチに向けて準備を進めている段階。マッシュビューティーラボの開発チームとタッグを組み、ナチュラルオーガニック成分を主体としたメンズコスメを作っているところだ。
―メンズコスメ市場は注目を集めています。
盛り上がってほしいが、まだメンズコスメで成功しているブランドはないと感じている。マス向け以外の商品でマネタイズできているブランドは少ないので、その隙間を狙っていきたい。
―2021年8月期の通期予想について教えてください。
売上高の目標は830億円としている。この数字は9、10月ごろに立てたもので、インフルエンザの流行など例年のマイナス影響を折り込んでいるものの、2度目の緊急事態宣言が出ることは想定していなかったので楽観視はできない状況。
―営業利益は黒字を確保できる見通しですか?
決算期が8月なので、まさにコロナの影響を受けた決算になると思うが100%黒字確保を目指す。
―今後力をいれていくブランドや事業は?
メンズ事業のほかに、会社として「ウェルネスデザイン」をスローガンに掲げているのでビューティー関連、そしてスナイデルホームで「美容パジャマ」を打ち出したように「身も心も美しくする」事業やプロジェクトには力を入れていきたいと思っている。あとはマッシュホームズを立ち上げたので「住」にも取り組み、オシャレ感がありながらリラックスできる衣食住を提案していきたい。
―高齢化が進んでいますが、シニアの市場についてはどのように考えていますか?
マーケティング的には考慮していかなくてはいけないところだが、「売れること」が目的にならないようにしないといけない。「売れること」が全てになってしまったら、長持ちしないブランドになってしまうと思うから。僕らの事業は「これがあったら喜ぶだろうな」「このテイストのブランドがなんでないんだろう」など、ハテナが出たものを解決したいという発想から生まれたものが多い。仮に売れなかったとしたら、概念を体現できていないだけだから修正していけばいい。まずは「数字以外のプライド」を大切にしたいと思っている。
―M&Aは検討していますか?
話をいただくことはあるが、戦略的にM&Aをして社を大きくすることに興味がないのが正直なところ。十数年前に「コスメキッチン(Cosme Kitchen)」を仲間に招いたので可能性としてはゼロというわけではないが、当時のコスメキッチンは2店舗しかなく赤字事業だった。けれども僕がコスメキッチンは世の中に必要だと思い、そして何よりも好きだったからM&Aを決め、コツコツと挑戦を続けた結果、事業として大きく成長させることができた。今後もコスメキッチンのように可能性があり、情熱のある人々に出会うことがあればM&Aをすることがあるかもしれない。
―IPOは視野に入れていますか?
いつでも上場できるように気を使って運営はしているが、目標には掲げていない。今はファッション以外にビューティーやフードにも参入していて、人体に影響のある商売をしているという自覚があるので、上場してもしなくても信頼できる企業であり続けることを目指す。
―今年のアパレル業界が今後どうなっていくでしょうか。
ノームコアムーブメント以降、ファッションに対してアゲンストな空気が流れていたが、そのムードが少しずつなくなってきている気がする。ファッションをより楽しめる時代になってくれたらすごく嬉しいし、エキサイティングだなと思う。
(聞き手:伊藤真帆)
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