アダストリア 福田三千男会長兼社長
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【トップに聞く 2021】アダストリア 福田三千男会長兼社長 「70代向けのブランドも作ったらいいと思っている」

 ウィズコロナ時代の経営の展望を聞く連載「トップに聞く 2021」第7回は、「ニコアンド」や「ローリーズファーム」を展開するアダストリアの福田三千男会長兼社長。多くのアパレル企業が大量閉店やブランド終了、株価の大幅下落に悩まされているなか、アダストリアは比較的ダメージが少なく、現在はコロナ前の株価に持ち直しつつある。紳士洋服店を大手カジュアルチェーンに成長させた福田氏は、2021年のアパレル業界の行方をどう予測するのか。

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■福田三千男
1946年生まれ。1969年に同志社大学卒業。衣料メーカーを経て、1971年に家業でありアダストリアの前身である福田屋洋服店(現ポイント)に入社し、取締役に就任。1993年にポイント社長に就任し、商号をポイントに変更。2004年2月に東証一部に上場。2010年5月に会長兼社長に着任。2015年にアダストリアホールディングス、ポイント、トリニティアーツの3社を合併し、商号をアダストリアに変更した。

―2020年はどんな年でしたか?

 人生でなかなか遭遇できないことが起こった年だった。けれども新型コロナウイルスの流行があったことで、各々がどういう価値基準を持つべきかを考え直すきっかけになったと思う。

―現在の足元の状況は?

 予測より下回っている。初詣や成人式など、年末年始や正月の行事がなくなったことで行動価値観が変わったと思う。特にアパレルは「わざわざ店舗に行ってまで買わねばならないモノなのか」ということが問われていると思う。逆に行事の代名詞のようなものは強かった。おせちは12月の予約販売で早々に全部売り切れたと聞いた。僕もデパ地下に買いに行ったけれども、あれはすごい人だったね。例年と変わらないかそれ以上。

―コロナ禍でファッション消費が大きく変わりました。この変化に対応できましたか?

 オンとオフがあるという前提で話すと、うちはオンの服はあまりやってこなかったので、そういう意味での大きな変化はあまりなかったように思う。だが、これまでの「可愛い、綺麗」といった訴求ではなく、コーディネートしやすい、極力長く着られる、在宅生活にマッチするといった商品提案に変えざるを得なかった。自分でも着るものが変わったしね。ジャケットなんて今日久しぶりに着たから。

―コロナのダメージが大きかったブランドは?

 一番影響を受けたのは「レピピアルマリオ(repipi armario)」という、中学生までを対象にした子ども服のブランド。"子ども服のオン"を提案してきたが、これがものすごく外れてしまった。学校は一時休校になって、当然催し物もなくなって、そうすると着るところがなくなって......ガタガタといって昨年春は5掛けくらいまで落としたんじゃないかな。

―逆に売上が伸びたブランドは?

 「ラコレ(LAKOLE)」が好調だった。"おしゃれな生活"をしていきたいという人のために、2年くらい前からアパレル以外の商品を整理し、生活雑貨に注力してきたことが「巣ごもり消費」に結びついたのだと思う。

―仕入れは削減しましたか?

 発注したものはもちろんカットしないが、我々はもともと従来のシーズンに囚われない生産サイクルを組み、それによって発注のタイミングも変えているので、昨年4月末〜5月は前年比8掛けに発注数を急遽調整することができた。

―対応スピードが早いですね。

 それを実現できたのは、中国の工場で何の商品をどのスピードで作っているかをすべて把握できているから。国内のメーカーでここまで迅速に対応できた企業はなかったんじゃないかな。それでも残念ながらセール販売をせざるを得なかったけれども。そもそも値引き自体が問題だと思っている。

―値引き販売は業界各社でも課題になっています。

 仕組みというのはどんどん変えていかなくてはならない。とある中国のネット販売会社は、Tシャツのプロパーが300〜500円と安い上に、工場の生産スピードが早く、発注から最短1週間以内に出荷していると聞いた。アメリカとオーストラリアでのみで売っているみたいだが、昨年は売上1兆円だったらしい。さらに、5000円以上買うと海外でも送料が無料になる。この価格やシステムをどうやって実現しているかはわからない。こういった企業がどんどん台頭してくるだろうから、価格だけで勝負していくのは難しい時代になると思う。

―海外市場の話を。昨年は韓国から撤退されました。

 これはコロナの影響というよりも社会全体の情勢によるところが大きかった。その代わりに「エーランド(ALAND)」というブランドを日本に上陸させた。我々はグローバル化をテーマに掲げており、現地に進出するだけではなく本国に縁があるブランドやクリエイターを活用するなど「ローカルMD」も重要視している。アジアの中で人気なのはやはり韓国なので、韓国現地での展開は諦めるが、韓国カルチャーを取り入れた事業を日本国内で進めていきたい。

▶オープン初日は行列が話題に
韓国の人気セレクトショップ「エーランド」が上陸、開店前から100人以上が行列

 一番の問題はアメリカ。やっと昨年黒字化できたのに、コロナや社会不安で環境が悪くなってしまった。ニューヨークの店舗を閉めたので、いま米国内には9店舗あるけれども、リアル店舗の消費はもう回復しないんじゃないかと思っている。

―好調な市場はやはり中国でしょうか。

 伸びているね。昨年12月に「ニコアンド(niko and ...)」の大型2号店を上海に出店していて、今年度は計20億円規模までいくと思う。人口規模のレベルが段違いなので、実店舗をある程度広げたらECも開始する予定。

▶中国1号店の詳細
中国の「ニコアンド」大型旗艦店が好調、年末に2号店がオープン

―中国はライブコマースも盛況していますね。

 僕たちもこの間スウェット1型をテスト販売したんだが、5分間で何枚売れたと思う? 3万枚も売れたんだよ。この数字が中国の大きさを物語っている。その分、返品も多いけれども(笑)。中国の生活レベルは格段に上がっていて消費も期待できるので、上海をベースに引き続き注力していきたい。

―日本国内のEC売上は?

 前年は自社ECを8月中旬から9月まで"おやすみ"したので、前年対比では良くて当たり前。けれども自社ECに関しては7月単月でも120%台後半まで伸びたので大きく成長していると実感している。

―EC売上を伸ばすための施策は何か講じましたか?

 自社EC「ドットエスティ(.st)」にショップスタッフが投稿したスタイリングを閲覧できる「スタッフボード(STAFF BOARD)」というコンテンツがあり、これを強化して個人の販売力を高めた。それによってオンライン上でも人と人とのつながりが生まれ、お客様とのコミュニケーションツールとして進化できたと感じている。このつながりがもっと大きくなれば、より面白い世界を作れる可能性がある。それで今計画しているのが、自社ECのリアル店舗バージョン。

―具体的な構想は?

 飲食を除いても30以上のブランドを持っているので、ECのように自社グループのブランドを複数取り扱い、同時に商品を手に取れる店舗にする。例えば同じ白いTシャツでもブランドによって作りが違うし、ネットで写真を見ただけではわからない部分があるだろう? 商品構成や接客方法、支払い方法など従来のやり方を全部変えることで、ファッションに対するワクワク感が生まれるような店にしたい。試験的に数店舗ほど出店したいと考えている。

2020年の大きな取り組みの一つとして、「ウタオ(Utao:)」というシニア層をターゲットにしたブランドを立ち上げたことが話題を集めました。

 60代向けのブランドは前から作りたいと思っていた。ウタオはデビュー以降、評価されているようなので70代向けのブランドも作ったらいいと思っているけれど。逆にヤング向けのブランドは全体的に弱くなってしまったかな。社員の構成比も若年層が薄くなってしまったのでしょうがない部分がある。

▶もっとくわしく
アダストリアが初の60代向けブランド「ウタオ」を始動、新規顧客開拓へ

―ヤングよりもシニア向けブランドを強化していく?

 上場した頃から、赤ん坊からおばあちゃんまで"女性の一生"に寄り添う服を作りたいと思ってきたので、昨年はその目標に一歩近づいた形。ただ、ブランドをやる上で大切なのは、人気ブランドに成長した「ローリーズファーム(LOWRYS FARM)」や「ジーナシス(JEANASIS)」がそうだったように、ニーズをしっかり理解して"自分ごと"として仕掛けていくこと。それを社員に期待したい。

―事業拡大に向けてM&Aの計画は?

 いやぁ、今はアパレルでM&Aする気はないね(笑)。けれども、"手を組んでいく"ということは大切だと思っている。例えば大型店の売り場をシェアするとか。中国では有名スポーツブランドと合同店舗を出店しているし、オンリーショップではない方が消費者にとって便利だしね。こういった業態は日本ではこれまで難しかったと思うけれども取り組んでいきたい。

―アフターコロナはファッションの消費が回復すると考えますか?

 元には戻らないでしょう。2025〜28年に想定されていた世界がいま現実で起こっている。でもこれを機に先を見据えて動いていく元気がある人にとっては、金儲けができる非常に良いチャンスだよね。僕は70代だからもういいかなと思っているんだけど(笑)。

 でも"洋服"って残り続けるのかな?と思うんだよね。果たして今のスタイリングがずっとこのまま続くのか。それはありえないと僕は思う。気候も変わっていくだろうし。着物だってこの100年でかなり縮小したでしょう。

―どういった服が残っていく?

 僕が幼い頃からイメージしているのは「鉄腕アトム」の世界。例えば、着ているだけで健康状態がわかって、一日どう過ごすべきかまで教えてくれるような機能があるユニフォームのような服。

―遠い未来の世界の話のようにも思えますが。

 健康状態がわかる服は、実際にいま開発を考えているところ。今回のコロナの流行でデジタル化だけではなく、サステナビリティへの意識、ライフスタイルの価値観が大きく広がった。アパレルそのものも生活環境とともに大きく変わっていくだろう。

―2021年のアパレル業界はどうなっていくでしょうか?

 わかっていたら苦労はしない(笑)。でも3月までは消費が低迷した状態が続くだろう。資金的に厳しくなるところも出てきそうだし、デベロッパー側も空床になった部分をどうするかという問題がある。一方でニトリさんのようにアパレルでシェアを広げたい企業はたくさんいる。実際に新興のアパレル企業も出てきているしね。それから、消費者がブランドを作っていく時代にもなるんじゃないかな。色々な部分で変わり目になってくるでしょう。"面白い夜明け"になるんじゃないかなと僕は思っている。

―競合が増えていくような印象もありますが。

 いつの時代も競合が減ることはないのよ。"変化初年度"というところで、体を張って動き回る人が楽しめる年になるだろう。

(聞き手:伊藤真帆)

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