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ロレックスやカルティエはなぜ「名品」と呼ばれるの?——時計の基本の「キ」第2回

山本晃弘編集一井智香子

Image by: Antoine Pividori © Cartier

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 世界の時計を20年以上取材してきた山本晃弘氏に、腕時計初心者であるFASHIONSNAP編集部員の素朴な疑問に答えてもらう連載。腕時計の選び方を学んだ第1回に続く第2回は、ロングセラーの“名品”と呼ばれる腕時計は、なぜ愛され続けているのかについて。5つの時計ブランドそれぞれに、納得のストーリーが存在していました。

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「名品時計」って、どんな時計のこと?

腕時計の世界では「名品」という言葉をよく耳にします。ほかの時計とは何が違うのでしょうか。

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山本晃弘

名品とは、ただ人気がある時計でも、高価な時計でもありません。デザイン、技術、歴史、すべてが高いレベルで完成されていて、古さを感じさせない時計です。

ファッションにも、白いシャツやデニム、トレンチコートのように、時代を超えて愛される定番があります。腕時計にも、それと同じような存在があるのです。

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山本晃弘

私は、名品とは「比較のものさしになる時計」だと考えています。新しい時計が発表されるたびに、「ロレックスと比べるとどうか」「タンクのようなデザインですね」と語られる。それだけ、多くの時計づくりの基準になってきたということです。

そして、名品には必ず物語があります。その時計が生まれた理由や背景を知ることで、自分がどんな時計に惹かれるのかが見えてきます。だから私は、名品とは「自分らしい1本に出会うための教科書」だと思っています。

なぜロレックスは腕時計の基準になったの?

時計選びの"教科書"ともいえる名品を、いくつか教えてください。まず思い浮かぶのは「ロレックス(ROLEX)」。人気が高い理由はなんでしょうか。

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山本晃弘

「高級時計といえばロレックス」。そう思っている人は多いでしょう。でも、ロレックスが世界中で支持されている理由は、高級だからではありません。繊細な精密機械だった時計を、「毎日使える腕時計」へと変えたブランドだからなのです。

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1926年に誕生した「オイスター」は、ブランド初の本格的な防水ケースを採用した腕時計です。それまでの腕時計は、水やホコリに弱く、日常使いには強いとは言えませんでした。この防水ケースで、それが解決されたのです。その後、自動巻き機構「パーペチュアル」が加わり、「毎日着けられる腕時計」という新しい価値を築いていきます。私たちは今、雨の日でも旅行先でも、気兼ねなく腕時計を使える。その当たり前をつくったのが、ロレックスでした。

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今年100周年を迎えた「オイスター」は今も進化し続けていて、腕時計の基準であり続けています。ロレックスが名品である理由は、ブランド名でも価格でもなく、「腕時計とはこうあるべきだ」という基準を作ったことにあります。

ロレックス 「オイスター パーペチュアル 41」

Image by: ROLEX

自動巻き(Cal.3230)、パワーリザーブ約70時間、ケース径41ミリ、SS×18金イエローゴールド(イエローロレゾール) 142万8900円

カルティエ「タンク」は100年以上前のデザイン?

「カルティエ(Cartier)」は女性に人気が高いブランドですが、中でもなぜ「タンク」は男女ともに選ばれるのでしょう。

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腕時計は、本来は時間を知るための道具です。しかし、カルティエの「タンク」は、その常識を大きく変えました。「時間を見る道具」であると同時に、「身に着けるデザイン」として完成させた時計だったのです。

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1917年、ルイ・カルティエが着想を得たのは、第一次世界大戦で活躍した戦車(タンク)を真上から見たシルエットだといわれています。無骨な兵器をモチーフにしながら、完成した時計は驚くほど端正でエレガントでした。

ケースの左右をまっすぐに伸びる縦枠が文字盤を包み込み、ローマ数字のインデックスと青焼き針が静かな気品を漂わせる。その完成度は、100年以上が経った今もほとんど変わっていません。流行に合わせてデザインを変え続けるのではなく、完成されたデザインだからこそ変える必要がなかったのです。

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「バーバリー(BURBERRY)」のトレンチコートや、「エルメス(HERMÈS)」のケリーバッグのように、時代を超えて受け継がれるデザイン。「タンク」もまた、その一つと言えるでしょう。

実際、この時計は芸術家や建築家、映画監督など、美しいものを見極める感性の人たちに愛されてきました。彼らが惹かれたのは、豪華さではありません。無駄を削ぎ落としたプロポーションの美しさです。

100年以上前に生まれたデザインがいまも古さを感じさせないという事実は、それだけで名品である理由になるのです。

カルティエ 「タンク ルイ カルティエ」(CRWJTA0079)

Image by: Antoine Pividori © Cartier

高効率クォーツムーブメント、ケースサイズ29.5×22ミリ、ホワイトゴールド(ケースにブリリアントカット ダイヤモンド153個〈計約1.19ct〉)、アリゲーターストラップ 479万1600円(9月発売予定/予定価格)

オメガ「スピードマスター」は、なぜNASAに選ばれたの?

「オメガ(OMEGA)」の「スピードマスター」は、“月に行った時計”として有名ですね。

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山本晃弘

1969年、人類はアポロ11号で初めて月面に降り立ちました。ニール・アームストロングやバズ・オルドリンの腕には、「スピードマスター」がありました。このエピソードだけを聞くと、「月に行った時計だからすごい」と思うかもしれません。しかし、本当に注目すべきなのは、その前にある物語です。

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私は以前、NASAでアポロ計画のイクイップメント責任者だった航空宇宙工学者ジム・ラーガン氏にインタビューする機会がありました。

彼は1964年、宇宙飛行士が使うクロノグラフを選ぶ責任者として、各メーカーの腕時計を集め、徹底的な耐久試験を実施。「最初は10社に声をかけました。しかし、NASAが求める条件を満たし、環境テストまで進めたのは3社だけでした」。ラーガン氏は、当時をそう振り返ります。

試験内容は、高温、低温、真空、衝撃など、宇宙空間を想定した11項目の過酷なものでした。「試験で故障する時計もあって、最後まで残ったのはスピードマスターだけだったのです」。その言葉が、今も強く印象に残っています。腕時計は、美しいだけでは名品にはなれません。本当に優れた時計とは、極限の状況でこそ、その価値が証明されるものです。

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NASAが選んだのは、ブランドではありません。広告でもありません。ただ1つ、「極限でも動き続ける」というテスト結果の事実です。その結果、「スピードマスター」は1965年、ジェミニ計画における宇宙飛行士の公式装備品として認定され、その後のアポロ計画でも人類の挑戦を支える存在になったのです。

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私はその取材で、「スピードマスター」の価値は「月に行った時計」という肩書きではなく、「試験に耐え抜いた時計」であることだと感じました。どんな状況でも正確に時を刻み続ける。その信頼があったから、人類は未知の世界へと踏み出せたのです。

半世紀以上経った現在も、「スピードマスター」は、基本的なデザインを大きく変えることなく受け継がれています。もちろんムーブメントは進化し、仕上げも洗練されています。しかし、その根底にあるのは、「挑戦を支える道具」という思想なのです。

オメガ 「スピードマスター ムーンウォッチ ブラック ホワイト」(SS)

Image by: OMEGA

手巻き(Cal.3861)、マスター クロノメーター認定、パワーリザーブ約50時間、ケース径42ミリ、SS 155万1000円

ジャガー・ルクルト「レベルソ」の文字盤が反転する理由は?

「ジャガー・ルクルト(JAEGER-LECOULTRE)」の中でもずっと人気が高い角型の腕時計「レベルソ」は、文字盤が反転する仕掛けが特徴的ですね。

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山本晃弘

名品には、必ず「なぜ、それが生まれたのか」という理由があります。ジャガー・ルクルトの「レベルソ」ほど、その理由がはっきりしている時計も珍しいでしょう。

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1930年代、イギリス軍将校の間では、インドでポロを楽しむことが流行していました。激しい試合では、腕時計の風防が割れてしまう事故が相次ぎます。「プレー中でも壊れない時計は作れないか」。その相談を受けて誕生したのが、「レベルソ」でした。

ケースをくるりと裏返すと、文字盤が内側に隠れる。時計そのものを守るという、驚くほど大胆な発想でした。普通なら、「傷が付かない時計」を作ろうと考えます。ところが、ジャガー・ルクルトは、「時計を裏返す」というまったく新しい発想で問題そのものを新しい価値に変えたのです。そして裏蓋は、イニシャルやエナメル画を施す「自分だけの表現のキャンバス」へと進化しました。

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山本晃弘

「ウォッチメーカーの中の、ウォッチメーカー」と呼ばれ、多くの時計ブランドからも一目置かれてきたジャガー・ルクルト。「レベルソ」は、その哲学を象徴する1本です。

ジャガー・ルクルト「レベルソ・クラシック・スモール・モノフェイス」

Image by: JAEGER-LECOULTRE

手巻き(Cal.846)、パワーリザーブ約50時間、ケースサイズ35.78×21ミリ、18Kピンクゴールド)312万4000円

パテック フィリップ「カラトラバ」はドレスウォッチの頂点?

あと1本、名品を選ぶとしたら何でしょう?

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山本晃弘

「パテック フィリップ(PATEK PHILIPPE)」の「カラトラバ」ですね。「腕時計の王様」と聞くと、多くの人がパテック フィリップを思い浮かべるでしょう。しかし、このブランドの価値は、価格でも希少性でもありません。「この時計は、自分の代で終わるものではない」。そう考えて時計づくりを続けてきたことです。

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山本晃弘

1932年に誕生した「カラトラバ」は、装飾をそぎ落とした究極のシンプルを目指したドレスウォッチでした。華やかさを競うのではなく、本当に美しいものは時代が変わっても色あせない。そんな哲学が、この時計にはあります。

私はパテック フィリップを取材するたびに、単に新作時計を作っているのではなく、未来へ残す時計を作っているという印象を受けます。だからこそ、流行ではなく、50年後、100年後も美しく見えることを前提に設計するのです。

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山本晃弘

時計は、時を刻むだけではありません。人の人生も刻んでいくのです。パテック フィリップは「腕時計の王様」と呼ばれますが、「時間を最も大切にしてきたブランド」だと思っています。

パテック フィリップ「カラトラバ 5227G」

Image by: PATEK PHILIPPE

自動巻き(Cal.26-330 S C)、パワーリザーブ最大45時間、ケース径39ミリ、18金ホワイトゴールド 769万円

名品を知ることは、自分を知ること

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山本晃弘

名品とは、値上がりする投資対象の時計でも、誰もが知っているブランドでもありません。時代を超えて人の心を動かす物語を持った時計です。ですから、私はその時計が歩んできた物語に惚れてほしいと思っています。

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山本晃弘

ロレックスには「発明」、カルティエには「デザイン」、オメガには「挑戦」、ジャガー・ルクルトには「創造」、パテック フィリップには「受け継ぐ」という哲学があります。

名品を知るのは、高級時計を買うためだけではありません。その時計が歩んできた歴史や思想を知ることで、自分がどんな価値観に惹かれるのかが見えてきます。

※商品価格は2026年8月現在の価格です。

 次回は、名品に共通する「長く使える条件」を手掛かりにしながら、自分らしい腕時計の選び方を考えていきます。

最終更新日:

文・山本晃弘

Teruhiro Yamamoto

服飾ジャーナリスト / AERA STYLE MAGAZINE WEB編集長 兼 エグゼクティブエディター

「メンズクラブ」で編集者のキャリアをスタートしたのち、「ELLE a table(現ELLE gourmet)」「GQ JAPAN」「アエラスタイルマガジン」の3誌を創刊。2019年にヤマモトカンパニーを設立し、新聞、雑誌、WEBでファッションや腕時計について執筆する傍ら、ブランドの広告制作やコンサルティングを行っている。スイス現地での時計展示会やファクトリー取材は、20年以上にわたる。

ビジネスマンや就活生に着こなしを指南する「服育」アドバイザーとして、また、郷里である岡山のRSK山陽放送でラジオパーソナリティとしても活動中。著書に「仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。」がある。

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