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ワークマンの「ファッション重視」路線は正しい戦略か? アンバサダーの視点から分析

店頭の様子

Workman Colors イグジットメルサ銀座店(2023年8月撮影)

Image by: FASHIONSNAP

店頭の様子

Workman Colors イグジットメルサ銀座店(2023年8月撮影)

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ワークマンの「ファッション重視」路線は正しい戦略か? アンバサダーの視点から分析

店頭の様子

Workman Colors イグジットメルサ銀座店(2023年8月撮影)

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 ワークウェアの専門店として日本最大の店舗数と売上を誇るワークマンだが、近年は「ファッション重視」の戦略を進めている。
(文・山田耕史)

 一般客をターゲットした「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」を立ち上げたのは2018年。主力の顧客層である建設技能労働者の数に陰りが見られたため、ららぽーと立川立飛に初出店したのが始まりだ。作業着のワークマンが打ち出す一般客向けの新業態ということで注目度は高く、オープン前の待機列ができるほどの反響を呼んだ。

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 その後、2020年には女性専用売り場を40%に拡大した女性客主体の新業態「#ワークマン女子」 を横浜桜木町駅前のコレットマーレに出店。同店では“インスタ映え”するブースを設け、「インスタ世代」の取り込みも狙った。さらに、2023年には「#ワークマン女子イグジットメルサ銀座店」を改装して「Workman Colors イグジットメルサ銀座店」をオープン。そして「#ワークマン女子」は2024年9月から出店の加速を行い、路面店の全国400店体制を目標にしている。

 私は2019年にワークマンのアンバサダーに就任し、ファッションの専門家という立場から助言を行い、数多くの共同開発製品を世に送り出してきた。今回はそういった私の視点から、ファッション重視を進めるワークマンの今後を考えてみたい。

“ワークマン=派手な配色”だった

 私がワークマンの製品に注目し始めたのは、2015年。冬場のロードバイク通勤で冷える足先の解消法を調べていると、ワークマンで販売しているカプサイシン入りの靴下が良いという情報を見つけ、購入したのがきっかけだった。その後、当時私が愛用していた5本指ソックスの品揃えが豊富なことをブログで紹介したところ、ワークマンのオンラインストア担当者から連絡をいただいたことが、ワークマンとの付き合いのはじまりだった。

 当時、ワークマンで扱っていたウェアは100%作業着だった。作業着を「あえて」ファッションに取り入れる、ということはあったかもしれないが、製品自体にファッション性は全く感じられなかった。ワークマンの担当者も「ファッションの視点でワークマンが言及されたのは山田さんのブログが初めてだった」と語っていた。

 アンバサダー就任前から私は、「デザインをシンプルにして欲しい」ということをワークマンの開発担当者に強くリクエストしていた。当時のワークマンの製品のデザインは非常に派手だった。ブランドのロゴが大きくリフレクタープリントで入っていたり、どの製品にも切り替え配色やカラーステッチなどがあしらわれており、一般的なカジュアルファッションに取り入れるのは難しいデザインの製品がほとんどだった。

タイツやトップスがかかったラック

こちらは2017年9月に開催されたワークマンの展示会で撮影した製品。当時はこのタイツのような、非常に特徴的な柄や、必要以上に大きいロゴが入った製品が数多くあった。

Image by: Koji Yamada

潮目を変えたシェフパンツ

 ワークマンプラス1号店がオープンした2018年頃から、巷でワークマンが話題になり始めた。とはいえ、この頃でもまだワークマン製品のファッション性は高いと言えるレベルではなかった。

 だが、2021年春夏に「超撥水シェフパンツ」が発売されたあたりから、その雰囲気が変わってきた。

ホワイトピンクのようなカラーリングのパンツ

超撥水シェフパンツ

 当時、大手セレクトショップやファストファッションブランドがこぞって発売していたトレンドアイテムのシェフパンツ。そこに、ワークマンならではの高撥水、多収納、リフレクターなどの機能を付与。それが1500円という低価格で発売され、大ヒット商品となった。この頃は既にルーズシルエットがマスでも人気になっており、オーセンティックなワークウェアらしいゆったりとしたボリュームの「超撥水シェフパンツ」は、コーディネートの軸としても充分役に立つアイテムだった。この頃になると、目立つロゴやステッチが入ったアイテムはほとんどなくなっており、カジュアルウェアとコーディネートしても違和感のないデザインの製品がかなり多くなっていた。

 上述の「Workman Colors イグジットメルサ銀座店」のリリース文章には、「ワークマンが得意とする『機能性』は大きく打ち出さずともデザイン性だけでも売れる店舗を目指しています」とある。だが、果たしてワークマンに「デザイン性だけでも売れる店舗」づくりは可能なのだろうか。

ファッションのユニクロ、機能性のワークマン

 同価格帯のライバルとして真っ先に挙げられるのが、ファーストリテイリングの「ユニクロ(UNIQLO)」と「ジーユー(GU)」だろう。既に「国民服」とでも言うべき地位を確立したユニクロ。ジーユーはそのユニクロの“低価格版”としてスタートしたが、現在はトレンドを取り入れた低価格ファッションブランドとして、確固たる地位を築き上げている。「ジーユーを着ていればとりあえず大丈夫」という認識を持っている人は少なくないだろう。実際に、デザインだけを見れば、ジーユーだけでも十二分にオシャレは可能なレベルになっている。

 ファーストリテイリングは創業者である柳井正氏の家業だった紳士服店がルーツとなっている。つまり、最初から「ファッションの企業」だった。今も一流のファッションデザイナーとコラボレーションすることなどにより、「ファッションの民主化」を推し進めてきた。それに対し、ワークマンはファッションではなくワークウェア、つまり機能性を追求してきた企業である。

 一部のスポーツウェアやアウトドアウェアを除き、多くの人はこれまで「ファッション性」で普段着を選んできた。だが、ワークマンは「低価格・高機能」を打ち出すことで、それまでほぼ高価格製品の専売特許となっていた「機能性」を民主化した。「機能性」を基準に普段着を選ぶことが、マス層にも可能になったのである。

どっちつかずのワークマン 復活策は

 機能性よりもファッション性をアピールすることを選択した「Workman Colors」は、ファッション性で大きく先行するユニクロやジーユーに対抗することは可能だろうか。また、近年はワークマンの快進撃の影響もあり、多くのファッションブランドで撥水やUVカットなどの機能性を付与したファッションアイテムが展開されている。既に「Workman Colors イグジットメルサ銀座店」ではデザイン性を重視して開発された製品が販売されているが、「ユニクロ、ジーユーほどオシャレではない。しかし、これまでのワークマンのような機能性もない」という、どっちつかずになっているように思える。

マネキン
マネキン

「ワークマン カラーズ」の展開アイテム
Image by: FASHIONSNAP

 2月5日に開催されたワークマンの2024年3月期第3四半期決算説明会では通期業績予想を下方修正することが発表され、記録的な暖冬による防寒アイテムの伸び悩みと、円安による原材料高騰が主な要因として挙げられた。一般客向けのカジュアルウェアはマークダウンが増加し、その影響により荒利益率が悪化している。とはいえ、一般客向けの製品は売り場の鮮度を高めることを目的に、マークダウンしてでも売り切る方針であることが語られた。つまり、ファッション性重視の製品はあくまで売り場の鮮度を高める「飾り」的な位置付けで、今後も引き続き展開されると思われる。

 今後の成長のために、ワークマンは「幅広い消費者に支持される製品」の開発に注力していくという。その例として挙げられたのが、「AERO STRETCH クライミングパンツ」と、メリノウールアイテムである。

ブルーのパンツ

AERO STRETCH クライミングパンツ

Image by: Koji Yamada

ブラックのインナー

メリノウール 長袖丸首シャツ

Image by: Koji Yamada

 「AERO STRETCH クライミングパンツ」はワークマンの大ベストセラーで、高いストレッチ性と軽量性、3ヶ所のジッパー付きを含む全部で6つのポケットが備えられており、筆者自身も登山やキャンプなどのアウトドア、ロードバイクやジョギングなどのスポーツ、そして子育てなど多彩なシーンで愛用してきた。

子どもを抱く男性

筆者の着用シーン

Image by: Koji Yamada

 メリノウールシリーズのひとつ、「メリノウール 長袖丸首シャツ」は、保温性や吸湿性、抗菌防臭性などの機能性を備えたエクストラファインメリノウールが100%用いられているにもかかわらず、1900円という低価格が魅力で、冬場のインナーとして愛用している。

 これらの製品は、ワークマンらしい「低価格・高機能」を高い次元で実現させているだけではなく、一般的なカジュアルアイテムに合わせても違和感のない、汎用性の高いシンプルなデザインであることが特徴だ。

 ひとことに「ファッション性を高める」と言っても、様々な方法がある。現在、ワークマンはトレンドのデザインを取り入れることで「ファッション性を高める」ことを目標にしているようだが、トレンドデザインは旬の時期が短いので、どうしてもマークダウンからは逃れられない。私としては、「汎用性の高いシンプルなデザイン」という意味での「ファッション性を高める」ことで、顧客層をより広げていくことが、長い目で見るとワークマンにとっては得策ではないかと思っている。ワークマンは、その得意分野である機能性を軸にすることで、これまでのアパレル企業にはなかった、新しい価値観を生み出すことを期待したい。

ファッションアナリスト

山田 耕史

Koji Yamada

1980年生まれ。兵庫県神戸市出身。関西学院大学社会学部在学中にファッションデザイナーを志し、大学卒業後にエスモードジャポン大阪校に入学。のちに、エスモードパリに留学。帰国後はファッションデザインコンサルティング会社、ファッション系ITベンチャーを経て、現在フリーランスとして活動中。

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