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アディダスがサプライヤーを務めるサッカー各国代表のユニフォーム

Image by: アディダス

ピッチ外で拡張する熱狂 “フットボール × ファッション”から読み解くFIFAワールドカップ2026

Riku Ogawa

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アディダスがサプライヤーを務めるサッカー各国代表のユニフォーム

Image by: アディダス

 かつてW杯は、“国同士の戦い”だった。だが2026年の今、その熱狂は90分間のピッチ上だけでは語ることができない。ユニフォームは“応援着”から“ファッションピース”へと変化し、選手たちはスタジアム入りの私服やヘアースタイルまで注目を集めるファッションアイコンとなり、ブランドは次々と“顔”として起用。フットボールは単なるスポーツの枠を超え、各国の伝統や文化、音楽、ライフスタイルを巻き込みながら、世界最大級のカルチャープラットフォームへ変貌しつつある。

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 史上初の3ヶ国共催、史上最多48ヶ国出場という大きな転換点を迎えるFIFAワールドカップ2026。本稿では、その経緯と共に多様化するサプライヤーやアディダスの「トレフォイルロゴ」の復活、ユニフォームのライフスタイル化、SNS時代における選手たちの自己表現などを切り口に、“フットボール×ファッション”の現在地を読み解く。

史上初の3ヶ国共催と史上最多国出場のワケ

 世界最大のスポーツの祭典FIFAワールドカップ(W杯)が、日本時間の6月12日にアメリカ・カナダ・メキシコの北米3ヶ国共催で幕を開ける。

 W杯は、1930年にウルグアイで行われた第1回大会以降、第二次世界大戦の影響による12年の中断を挟みつつ、これまで4年に1度のサイクルで開催され、今大会は第23回大会の位置付け。最大の注目ポイントは、参加国が32ヶ国制から史上最多の48ヶ国制に変更された点だ。第1回大会は、中南米9ヶ国と欧州4ヶ国を加えた13ヶ国で争われたが、次第に16ヶ国、24ヶ国、32ヶ国と出場国枠が広げられ、ついに48ヶ国に拡大。この裏には、FIFA(国際サッカー連盟)の収益最大化とグローバルでの人気向上の狙い(そして政治的な思惑)がある。

 前回大会は、アルゼンチン代表とフランス代表の決勝戦だけでも全世界約15億人が視聴した。これは、全競技で約50億人の累計視聴者数を記録した2024年パリオリンピックの30%に相当し、W杯がスポーツおよびエンターテインメントの両面において世界最大級のイベントであることは明らかだ。さらに、今大会は出場国枠が1.5倍に拡大したことで、総試合数が従来までの​​64試合から104試合へと大幅に増加。これにより、テレビ視聴者数および収益は過去最高を大きく更新すると予想されている。

 W杯史上初の試みである3ヶ国共催も、出場国枠の拡大による要因が大きい。というのも、出場国枠を拡大したものの開催期間自体は各国のリーグ戦との兼ね合いで従来までとさほど変わらず、全104試合を実施するうえで物理的に十二分なスタジアムの数が必要となるからだ。この問題を解決するため、2030年の第24回大会もモロッコ・スペイン・ポルトガルの3ヶ国共催で、2034年の第25回大会が開催されるサウジアラビアでは、10近いスタジアムが急ピッチで建設されている。

 また、スポーツを総合的なエンターテイメントとして設計するアメリカらしく、決勝戦では史上初となるハーフタイムショーが実施され、コールドプレイ(Coldplay)のクリス・マーティン(Chris Martin)が演出を監修し、マドンナ(Madonna)、シャキーラ(​​Shakira)、BTSが出演。UKバンド、ポップスの女王、ラテン・ポップの歌姫、韓国発のボーイズグループというジャンルを横断した四者四様の構成からも、グローバルな人気向上の意図が色濃く見て取れる。このフットボールとエンターテインメントの接続は、試合進行の妨げ、芝生への影響、本来の競技性との乖離などから多くの議論を呼んでいるものの、フットボールがヨーロッパの競技文化から、グローバルなライフスタイルカルチャーへと変化していることを体現しているだろう。

多様化するサプライヤーとデザイン

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アディダスがサプライヤーを務めるサッカー各国代表のユニフォーム

Image by: アディダス

 史上最多の48ヶ国制ということもあり、ユニフォームを提供するスポーツメーカーも多様化した。1998年のフランス大会以降、いずれの大会も「アディダス(adidas)」、「ナイキ(Nike)」、「プーマ(PUMA)」の“サプライヤー3強”が過半数以上を手掛け、今大会もアディダスが14ヶ国、ナイキが12ヶ国、プーマが11ヶ国と、依然として3強の様相は変わらない。

 だが、残る11ヶ国を10メーカーがサポート。「アンブロ(Umbro)」のコンゴ民主共和国や「リーボック(Reebok)」のパナマなど、往年のファンには懐かしいロゴもW杯に帰ってくる。

 そして、飛躍的に向上しているデザイン性も特筆すべき点だろう。以前、こちらの記事で襟付きユニフォームの再燃について触れ、今大会でもフランス代表やウルグアイ代表などがホームで襟付きを採用しているが、世界的にはトレンドは落ち着き、ボディのデザインで各国の文化や伝統、物語を表現する流れにシフトしている。

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2026年サッカーアメリカ代表 ホームユニフォーム

Image by: ナイキ

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2026年サッカーノルウェー代表 ホームユニフォーム

Image by: ナイキ

 開催国の一つ、アメリカ代表のホームは、大胆にはためく星条旗をボディ全体に落とし込み、アメリカらしい愛国心を全面に押し出した1着に仕上がっている。同様に、28年ぶりのW杯出場となるノルウェー代表のホームも、国民の誇りと団結の信念を表現すべく、国旗のカラーリングやグラフィックを大胆にサンプリング。いずれもナショナル・アイデンティティを纏うようなデザインとなっている点が印象的であり、2国ともナイキによるものだ。

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アディダスがサプライヤーを務めるサッカー各国代表のユニフォーム

Image by: アディダス

 アディダスは、日本代表をはじめとする14ヶ国の全てのアウェイユニフォームで、カジュアルライン「アディダス オリジナルス(adidas Originals)」で用いられている三つ葉のトレフォイルロゴを使用した。トレフォイルロゴは、1972年から1995年までカンパニーロゴとしての役割を持っていたが、現在はスポーツラインのパフォーマンスロゴに取って代わられたため、W杯の舞台で見られるのは実に36年ぶりのこと。この背景には、ユニフォームが単なるパフォーマンスウェアではなく、生活に組み込まれるようになったことが挙げられる。

 本来ユニフォームは、選手がピッチで着用する以外、スタジアムで応援する観戦着の役割が強かった。しかし現在では、クラブや国への帰属意識だけでなく、自身の趣味嗜好やカルチャー性を示すスタイルの一部として確立。また、近年世界的に流行したブロークコア(注:英国のフットボールサポーターの服装をモチーフとしたスポーツミックススタイル)や、UK発祥のテラスカルチャー(注:1980年代の英国において立ち見席で観戦していた熱狂的なサポーターたちから生まれたスタイル)の再評価の流れ、ヴィンテージユニフォーム市場の活況が追い風となり、ファッションピースのひとつに再定義され、オフピッチの街中で着用される機会が急増した。これを受け、ホームはクラブや国家のDNAを色濃く反映し、アウェイやサードはオフピッチも想定した実験的かつファッション性の高いデザインを担うようになったのだ。

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2026年サッカードイツ代表 ホームユニフォーム

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 ここで、注目すべきユニフォームを2着ピックアップしたい。まずは、ドイツ代表のホームだ。国旗モチーフの3本ラインのシェブロン柄が目を引くが、これは1990年に西ドイツ代表が最後に着用したホームにトリビュートを捧げたもの。

1990年サッカー西ドイツ代表のホームユニフォーム

 当時の西ドイツ代表は、1982年と1986年の2大会連続でW杯の決勝に進出し(どちらも準優勝)、1990年イタリア大会で16年ぶり3度目の優勝を成し遂げるなど、歴代代表の中でも特に最強との呼び声が高い。そんな伝説的なチームの価値観、精神、一体感を継承しながら、当時の雰囲気を現代的にアップデートしたのが今作なのだ。

1990年サッカー西ドイツ代表のホームユニフォーム

 同時に、3本ラインが両肩から胸の中心に向かって走るデザインは、4度目の優勝を果たした2014年ブラジル大会のホームの胸元をサンプリングしているという。ちなみに、36年前の西ドイツ代表ホームの右胸に鎮座していたのが、トレフォイルロゴである。

 また、ドイツ代表といえば、同国に本社を置くアディダスが70年以上にわたりサポートしてきたが、2027年からナイキ製になることが決定している。この“ドイツ代表=アディダス”の構図が終焉を迎える歴史的な鞍替えは、ナイキとドイツサッカー連盟(DFB)の間で年間1億ユーロ(約184億円)規模の大型契約が締結されたことが主因。噂によると、現在のアディダスとDFBの現行契約額を2倍近く上回るものであり、DFB側は資金面を含めた総合的観点からスウッシュを選択したという。当然、ドイツ国内では「愛国心の欠如」や「アイデンティティーの喪失」といった批判が続出し、いかに現代フットボールが国家や歴史と深く結びついたカルチャーであり、巨大なグローバルビジネスでもあることかを示す縮図となった。

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2026年サッカーフランス代表 アウェイユニフォーム

Image by: ナイキ

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2026年サッカーフランス代表 アウェイユニフォーム

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2026年サッカーフランス代表 アウェイユニフォーム

Image by: ナイキ

 もう1着は、“リベルテ(LIBERTE)”のモデル名が名付けられたフランス代表のアウェイだ。一見すると非常にシンプルな1着だが、実はフランスと開催国アメリカの友好の歴史が描き出されている。ボディのミントグリーンは、アメリカの独立100周年を記念してフランス人たちの募金により1886年に完成した、ニューヨークの象徴である自由の女神像へのオマージュ。さらに、左胸にあしらわれているフランスサッカー協会(FFF)のエンブレム“雄鶏”は、自由の女神像の完成当初の銅色をベースに、グラデーションで酸化していく様子が表現されている。なお、フランスが順当にベスト16まで勝ち上がれば、7月4日のアメリカ合衆国建国250周年記念日に同ユニフォームが着用される可能性もあるそうだ。

相次ぐブランドのアンバサダー起用

ポルトガル代表クリスティアーノ・ロナウドは、世界で最もインスタグラムのフォロワーを抱える人物で、その数は6億6000万超。

 W杯が世界最大級の視聴規模を誇ることからも分かるように、フットボールは現在、最もグローバルな影響力を持つカルチャーのひとつだ。ゆえに、トップ選手がブランドやメーカー以上の発信力を持つことも珍しくなく、ファッション業界が“顔”として彼/彼女らを抜擢するケースが以前までと比べて顕著に増加している。だがそれは、彼らの知名度やスター性を求めているからだけではない。

 現代のフットボーラーたちの間では、ファッション、ヘア、趣味、思想まで含めて、“スタイルを持つ個人”として自己表現することが一般化している。また、多様なルーツやカルチャーを横断するバックグラウンドに加え、鍛え抜かれた肉体や体調管理に取り組む姿勢が世間にクリーンなイメージをもたらし、これが現代ファッションの重視するブランディングや世界観と強く共鳴しやすいのだ。

 その呼び水となったのは、おそらく故ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)だろう。両親がガーナ出身だったこともあり、幼い頃から高校時代までMFとしてフットボールに明け暮れていた彼は、2018年にナイキとのコラボスパイクを発表した際、そのミューズとして当時19歳の若きキリアン・エムバペ(Kylian Mbappe)を起用。

 翌年に発表した「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」2020年春夏メンズ・コレクションでも、ランウェイモデルの1人に当時アーセナル所属のエクトル・ベジェリン(Hector Bellerin)を選出するなど、いち早くファッション×フットボールの文脈を試みていた。

 アンバサダーやキャンペーンの起用に関しては、PSG所属のエムバペと「ディオール(Dior)」や、レアル・マドリード所属のジュード・ベリンガム(Jude Bellingham)とルイ・ヴィトンなど、継続的に関係を続けているところに加え、W杯に合わせて急増。この半年だけでも「バーバリー(BURBERRY)」とアーセナルのエベレチ・エゼ(Eberechi Eze)、「アミ パリス(AMI PARIS)」とPSGのジョアン・ネヴェス(Joao Neves)、「バレンシアガ」とリヴァプールのウーゴ・エキティケ(Hugo Ekitike)といった具合だ。

 一方、ブランドからの起用と並行してSNSネイティブな選手たちを中心に、容姿や服装に強いこだわりを持つ潮流も加速している。かつてフットボーラーは、“ピッチ上で結果を残す存在”の側面が強かった。しかし現在では、スタジアム入りの私服やジュエリー、ヘアに至るまで、そのライフスタイル全体が注目の対象となっている。

 先述のベジェリンは、その象徴的存在だろう。デビュー当時からファッションやヘアの関心が強いことで知られ、自発的にパリコレへ参加していただけでなく、アーセナルとアディダス、LA発セレクトショップ「424」によるトリプルコラボでは、橋渡し役としてプロジェクトに関与。また、ニューカッスル・ユナイテッド所属のニック・ヴォルテマーデ(Nick Woltemade)や、バルセロナ所属のジュール・クンデ(Jules Kounde)は、私服のセンスの高さからファッションアイコンとしての側面も色濃い。

 さらに、千変万化の様相を見せるヘアも現代フットボールを語るうえで欠かせない。2000〜2010年代にもドレッドヘアやコーンロウ、ブレイズを取り入れるアフリカ系選手は存在していたが、現在ほど一般的ではなく、個性的なスタイルとして見られる側面が強かった。しかし2020年代に入ると、その潮流は大きく変化。アーセナルのエゼや、バルセロナのクンデ、チェルシーのジョアン・ペドロ(Joao Pedro)、パリ・サンジェルマンのブラッドリー・バルコラ(Bradley Barcola)、アトレティコ・マドリードのアデモラ・ルックマン(Ademola Lookman)、ASローマのマヌ・コネ(Manu Kone)らに代表されるように、ブラックカルチャー由来のヘアスタイルは、いまや現代フットボールにおける重要な美意識として定着している。

 W杯でいえば、世界最大級の視線が集まる祭典だからこそ、選手たちはプレーだけでなく、ヘアスタイルを通じても個性や創造性を表現してきた。2002年日韓大会のイングランド代表デビッド・ベッカム(David Beckham)のソフトモヒカンや、2018年大会のフランス代表ポール・ポグバ(Paul Pogba)のラインアート、2022年カタール大会のアメリカ代表ウェストン・マッケニー(Weston McKennie)の星条旗を彷彿とさせるポイントカラー、同大会の長友佑都の赤髪など、さながらヘアコンテストとなっている。

 特にブラジル代表は髪型込みでスター性を演出する文化が非常に強い国として知られ、選手たちは信頼する美容師を帯同させることが通例。2002年日韓大会のロナウド(Ronaldo)、2006年ドイツ大会のロナウジーニョ(Ronaldinho)、2014年ブラジル大会のネイマール(Neymar)を超えるアイコニックなヘアをした選手が現れるかは注目だ。

 このように、現代のフットボーラーたちは、単なるアスリートではなく、スタイルや感性までも含めた“新しい男性像”として支持を集めている。だからこそ、約1,100人もの選手が集結する今大会は、ピッチ上のプレーはもちろん、ユニフォームや私服、ヘア、ライフスタイルまで含めて楽しむことも醍醐味だ。

 いま、フットボールはスポーツ以上の存在へと変化している。今大会は、ピッチの外へと拡張されたその熱狂が、あらゆるジャンルを巻き込みながら、ひとつのカルチャーとして世界を横断する“現在地”を映し出すだろう。

最終更新日:

エディター&ライター

Riku Ogawa

WWDとHYPEBEAST出身でプレミアリーグのアーセナルを応援する、食道楽のエディター&ライター。お仕事のご連絡は各種SNSのDMまで。

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