ヨウジヤマモト プールオム 2021年秋冬コレクション
Image by: フィルムより
2021-22年秋冬の「ヨウジヤマモト プールオム(Yohji Yamamoto POUR HOMME)」は、ステートメントを背負い、いつも以上にパンクの匂いがする強い服を並べた。目新しいのはフックを装飾として使うデザイン。さらには、装飾品としてのマスクの新しい可能性を提示している。
(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎)
ファーストルックは、当然のように黒一色。コクーンシルエットのコートの素材は、このブランドにしては珍しいウェットスーツ用途のネオプレーンだ。背中にはゴシック体で「Born to be Terrorist(テロリストとして生まれて) 」や「I‘ am Proletariat(私は労働者階級)」などの文字が踊り、シャツにはピストルが描かれている。ヨウジ流の言葉遊びかもしれないが、これらを着て街を歩くほどの危うさが、世界の今を表しているのかもしれない。
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ダークなスタイルの中で目立ったのは、装飾としてのフック。黒地に白のステッチが印象的なミリタリージャケットは、身幅を調節できるフックが主張している。機能に裏打ちされたデザインだが、18ものフックが一列に並んでいるので、フェティッシュかつパンキッシュな匂いが漂う。パンツのふくらはぎにも同様のフックが並んでいて、これは大人のためのパンクスーツだと膝を打った。
シンプルなテーラードスーツは、散りばめられたステートメントの存在感が際立っている。ここ数シーズンは手書きの日本語の文字が多く使われてきたが、今シーズンはゴシック体の英文がメイン。唯一の日本語のネクタイ(「引責辞任」、「適応障害」)もゴシック体だから、よりストレートに文字が伝わってくる印象を受ける。
襟巻きトカゲのような大きな襟のレザージャケットやシワ加工のレザージャケットは、久しぶりに強烈な男らしさが香るアイテム。何かに怯える女性の顔が描かれたシャツ、肩にギターが描かれたシャツなど、1枚で存在感のあるシルクのシャツも充実している。
今シーズンのトピックは、ヨウジの服に合ったデザインのマスク。「ART」などの文字が書かれたものや、ジッパーで開閉できるもの、フックが施されたものなど、様々なバリエーションで提案した。コロナが長引く中、顔周りの装飾品としての可能性を感じさせる。
中盤からは、モデルが歩くスローモーションの映像に静止画のルック画像が差し込まれ、着用アイテム品番と素材が明記された。雰囲気を感じたいジャーナリストには不要なのかもしれないが、バイヤーやユーザーには嬉しい構成だろう。
様変わりしたこの世界に、ただ従うだけではないという強い意思を感じさせる服。いつの時代も失わない攻めの姿勢があるからこそ、ヨウジは無敵なのだ。
文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧
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