Mottonamete (2019)
Image by: Mayuko Sato
ファッションの世界でも活躍する若き写真家を紹介する連載「若き写真家の肖像」。12人目は2016年 第14回写真「1_WALL」でグランプリを受賞し、「バルムング(BALMUNG)」の2020-21年秋冬コレクションの撮影を手掛けた27歳の写真家 佐藤麻優子。
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ー桑沢デザイン研究所出身なんですね。
グラフィックデザイナーになりたくて入学しました。中退後はデザイン事務所に入社しました。
ー在学中から写真を?
当時は写真を仕事にしていこうとは全く考えておらず、1年生のときに授業で少し習ったくらいです。ただ、広告デザインの授業ではよく自分で写真を撮って課題の制作をしていました。あとは学校の図書室で写真集を見るのが好きでした。
ー写真を撮るようになったきっかけは?
高校生の頃から毎年友達と2人でディズニーランドに行っていたんですが、ハタチになった頃から急につまらなく感じはじめて。それでなんとか楽しもうとディズニーランドを出てすぐのニューデイズで「写ルンです」を買って、周りの人たちが楽しんでいる中で自分たちがつまらなそうにしている様子を撮り始めたのがきっかけです。
ーディズニーランドがなぜ急につまらなくなったのでしょう?
年はとっていくのに成長がないようにみえる自分の状況に、大きな焦りがあったからだと思います。帰りのことや仕事のことを考えてしまい集中できなかったり、遊ぶことに罪悪感があったり。ずっと現実逃避をしていたから、もう現実逃避が出来ないところまで来ていたんだと思います。あとは夜、ロマンチックな空間の中で幸せそうな恋人たちと共に過ごすのがちょっと辛くなってしまって。(笑)
ーデザイン事務所在籍中にコンペティション「1_WALL」でグランプリを受賞。
周りの人がやりたいことをやって成果を出していく中、自分は良いのかどうかわからないものを毎日寝不足になりながら制作することに虚無感を感じて。本音を隠して話したりと、当時は本当に死んでいるみたいに生きていました。これまでの人生ずっと「ずば抜けてコレ」という特技もなかったので闇雲ではあったんですけど、もうこのまま生きていきたくない、という限界が来て「1_WALL」に応募しました。
ー写真部門に応募した理由は?
直接的なきっかけは「写真面白いから出してみたらいいんじゃない?」と、信頼しているデザイナーの先輩が言ってくれたことです。そして当時は本当は何がしたいのか、自分は何が好きなのかを考えることが多かったので、無意識にデザインの本より写真集を多く観ていたことや、写真にまつわることをしているときは楽しかったな、ということに気づいたこともあって、写真部門への応募を決めました。ただそのときは「写真家になろう!」という具体的な展望はなく、とにかく「今いる環境から抜け出さないと多分本当に死ぬ、何もない自分に何でもいいから目に見える結果をくれ」と思っていたのが正直なところです(笑)。
ーグランプリ受賞後、写真家としてのキャリアをスタート。
グランプリ受賞者の個展の開催が決まったタイミングで、今所属している事務所の方から写真雑誌のインタビューを受けたんです。その時は今後について、「デザインの仕事をしながらなんとか写真も続けていきたい」と答えたのですが、その数日後に事務所の方から「フォトグラファーのエージェンシーはやったことがないけど、実験的に一緒にやってみないか」とお声掛けいただき、そのまま所属して、写真の仕事を生業にしていこう、ということになりました。
ー直近の仕事は?
書籍や雑誌、あとは広告や写真集など。人物を撮ることが一番好きなのでそういったお仕事をいただくことが多いです。
ーインスピレーションはどこから?
媒体に関わらずかなり多様なものから影響を受けていると思います。実体験はもちろん、昔からネットサーフィンが好きで、写真に限らず好きな画像を集めたりしています。
ー好きな写真家は?
好きな写真はたくさんありますが、はじめて好きになった写真家は原久路さんです。元々画家のバルテュスが好きで、原さんが「バルテュス絵画の考察」というシリーズを制作なさっていたことで学生の頃に知りました。実体はあるけど掴みきれないものになぜかとても惹かれるところがあり、原さんの写真は何か刺さる感覚があるんです。
ー佐藤さんの作品は日常を切り撮ったものが多いですね。
自分では日常という認識はないのですが、個人制作のものは、自分が生きていて実際に感じたことしか責任を持って人に発信することはできないと思っているので。必然的に普段の生活範囲を写したものが多くなっているかもしれません。
ー作品からはどこか鬱々とした印象を受けます。
自身のマイナス感情を起点に撮っているからかもしれません。そういう世界が感覚としてしっくりくるというところもあります。でも、自分では笑えるものとして作っているものもあるんです(笑)。
ーネガティブな内面を出すことに躊躇いは?
話は少しズレますが、高校生のときまでは第一印象を守ろうと、必死に自分を隠していました。そのほうが大人からの評判も良いしモテるので(笑)。多分、本当の自分の価値観を晒して人に受け入れられないのが怖かったんだと思います。でも自分で守ろうとしていたとはいえ、勝手なイメージを持たれることを楽しめなくなって、今は逆にさらけ出すことの方が楽になりました。例えば私はアダルトコンテンツが昔から好きですが、それを恥ずかしがることに違和感を感じたり。人によってバランスがあるとは思うのですが、自分の場合は正直にすべてを、特に写真では出すようにしています。
ー作品はどういうフローで作っているんですか?
少しではありますがデザイナーをしていた経験からか、絵コンテから作る方法が自分にはしっくりくる感覚があって。一番最初に、その時の自分の気持ちや感覚をある程度はっきりさせるためにキーワードを書き出し、その後簡単な絵を描いてどんなものを撮りたいのかを考えます。撮影場所のモノの配置など、時間があるときは事前に構図を細かく決めることも多いです。もちろん即興で撮ることもありますが。
ー毎日写真を撮っている?
スマートフォンでは大体毎日撮ります。以前、渋谷PARCOの企画で参加させてもらった「apartment」というブックに載っている写真は全てスマートフォンで撮影したものです。
ー今はフィルムが多いですか?
元々はいつの時代かをわかりづらくしたいという目的があったためフィルムしか使っていませんでしたが、最近はフィルム自体が割と主流になったので、逆にデジタルも積極的に使うようになりました。
ー機材へのこだわりは?
特にないです。個人的な制作では、デジタルはNIKON D3100という古い入門機を使っています。フィルムは制作でも仕事でもペンタックスの中判を主に使用しています。
ー中判フィルムを使う理由は?
きっかけは事務所の方に「仕事で撮るなら中判がいい」と言われたからですが、自分はどちらかといえばセットアップの写真が多いので、肌に合っている感覚もあって中判を使い続けるに至っています。
▶︎次のページ 人物写真、セルフポートレートを撮る理由。良い写真の定義とは?
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