
ファッションの世界でも活躍する若き写真家を紹介する連載「若き写真家の肖像」。11人目は、「ノラ リリー(Nora Lily)」のルックを撮影した写真家・八木 咲。
-出身は?
埼玉県の秩父です。父が写真館を経営していて、保育園に入ったぐらいから、父の撮影について行ってました。
-写真を撮り始めたのは?
物心がつく前から撮り始めていたので、覚えていないんです。写真を撮ろうと決心して始めたわけではなく、気がつけば生活の一部になっていました。
-日本大学の芸術学部写真学科に進学
ずっと写真館を継ぐつもりだったので、父と同じ日芸を卒業したら継げるんだろうと考えたんです。でも、友達や大学の先輩の映像制作などに関わらせてもらっていくうちに、「私も写真で勝負したい」と思うようになりました。今は制作会社に勤めているんですが、3月頃に退職して、フリーになる予定です。まだフリーではないうちはスタート地点にも立てていないと思っていて。今後、映画制作やライブ撮影に誘ってくれている人たちをどのように自分の活動に巻き込んでいけるかということを考えています。
-ヤイエル(yahyel)や水曜日のカンパネラのコムアイなどを撮影
ヤイエルはMVの監督が知り合いで「何かに使いたいから撮ってほしい」とメイキングの撮影に誘っていただいて。楽しい撮影で、気がつけばジャケット写真に使ってもらえて嬉しかったです。コムさんは、2年半ぐらい前に「ナポレオン」というMVのメイキングで写真を撮影したのをきっかけにお話をいただくようになって。「メデューサ」や「ツチノコ」などのMVにも呼んでいただきましたね。あとは、追っかけのようなことをしていて、沖縄のツアーに同行したり、自費でフジロックに行ってフォトグラファーパスをもらったりして、ライブでも撮らせてもらってます。コムさんはすごく魅力的な女性で、今後20年ぐらい撮り続けたいと思える特別な存在です。彼女の記憶を残していきたいと思っています。
-制作会社に入ってよかったことは?
モノづくりの現場に関われたことで写真を通して思いを伝えるということの可能性のについて知れ、写真に対する気持ちが劇的に変わりましたね。あと、ライティングの知識や現場の対応力を学んだことで、環境が変わってもすぐに対応できるようになったので、就職する前よりも自分の写真の幅が広がったと思います。
-カメラは何を使っていますか?
CANON EOS 5D Mark IVとNikon F3、あとハーフカメラが2台ですね。壊れているものを合わせると20台ぐらい持っています。カメラに関わらずすぐにものを壊してしまうんです。
-デジタルとフィルムの使い分けの基準は?
仕事の時は基本的に両方で撮影します。緊張感を出したいときはフィルムに像を焼き付けたいのでフィルムが多いです。動きがあったり、枚数を多く撮るライブ写真などはデジタルで撮っていますね。
-写真を撮るときに意識していることは?
1枚絵で完結する「ザ・広告」みたいなものがあまり好きじゃなくて。写真を見て、匂いや音など五感で感じられる、他人をワープさせられるような引き込まれるものを撮りたいなと思っていて、見てくれている人の時間をどれだけ奪える作品を作れるかを意識しています。そのためには、人の表情や光、形などいろいろな要素が重なった一瞬の奇跡を逃さないことが重要だと思うんです。その奇跡はある程度努力をして、経験値を持った人じゃないと見逃してしまうんですよね。あとは光が重要だと思っていて、太陽光や街灯の光、ネオンもそうなんですが、私的には人の感情やオーラも光だと思うんです。いろいろな人と関わるうちにその光が少しずつ見えてきたんですが、求め続けないと見えなくなって消えてしまいそうなので、これからも光を追い求めたいと思います。
-今後どういう写真を撮っていきたいですか?
私自身、男性の写真家や、女性にしても同性愛者の写真家が撮る作品に惹かれるんです。以前は男性っぽい写真を撮ろうと意識するがゆえ、自分が女だということにすごくコンプレックスを感じていたんです。ただ、3年前くらいにその考え方をやめました。結局どう頑張っても男性にはなれないし、そういう写真は彼らが撮るからこそ魅了できるもの、と気づいたんです。私は私の目線で撮っていけば良いんだと思えるようになってからは、肩の荷がおりたように身軽に感じています。いまは変な意地やプライド、コンプレックスも色々捨ててますね。今の時代にこの場所で自分だから残せるものを撮っていきたいと思っています。特に最近は東京の街が変化しているので、今だからこそ撮れるものが多いなと感じています。
-物心がつく前から生活の一部だった写真の魅力は?
愛があるところですね。私の核には写真があって、敬意を持っているし、いろんな人を巻き込んで、写真で恩返しがしたい。写真で人を傷つけたくないから、愛のある幸せな写真が撮りたいし、届けたいんですよね。写真を使えば見てくれている人の目になれると思っていますし、会話などでは伝えられない自分の性格や魅力も伝えられる気がするんですよね。
-将来どんなカメラマンになりたいですか?
人を魅了できるカメラマンですかね。やはり見た人をワープさせたいし、自分の写真と向き合ってもらえる時間を増やしたいです。流れて忘れられるのは悲しいので、一度見た30分後とかにもう一度見たくなるような写真が撮れるカメラマンになりたいです。
Saki Yagi(八木 咲)
埼玉県秩父出身
日本大学芸術学部写真学科卒業
= Self-Portrait For FASHIONSNAP =
■VOL.1 若き写真家の肖像 -草野庸子-
■VOL.2 若き写真家の肖像 -小見山峻-
■VOL.3 若き写真家の肖像 -小林健太-
■VOL.4 若き写真家の肖像 -高木美佑-
■VOL.5 若き写真家の肖像 -嶌村吉祥丸-
■VOL.6 若き写真家の肖像 -松永つぐみ-
■VOL.7 若き写真家の肖像 -トヤマタクロウ-
■VOL.8 若き写真家の肖像 -Takako Noel-
■VOL.9 若き写真家の肖像 -Yusaku Aoki-
■VOL.10 若き写真家の肖像 - Tseng Yen Lan -
■VOL.11 若き写真家の肖像 - 八木 咲 -