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「アンナ チョイ」が彫刻的なドレスで切り拓く“クチュール”への道

大杉真心

ANNA CHOI

Image by: FASHIONSNAP

ANNA CHOI

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ANNA CHOI

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 アンナ・チョイが手掛ける「アンナ チョイ(ANNA CHOI)」が、ブランド初となるランウェイショーを開催した。案内状には「Couture Runway Show」と記されていた。

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 「クチュール」は本来、フランス語で「縫製」や「仕立て」を意味し、既製服(仏プレタポルテ、英レディ・トゥ・ウェア)とは異なる、手仕事と高度な技術を重んじる服づくりを指す。しかし近年は、ラグジュアリーの象徴として軽やかに使われ、本来の意味が曖昧になる場面も少なくない。

 一方で「オートクチュール(Haute Couture)」は、クチュールとは明確に区別される呼称だ。1945年以降フランスでは法的に管理され、パリのサンディカ(Fédération de la Haute Couture et de la Mode)が認定したメゾンだけが名乗ることを許される。フランスの歴史と制度を背負った言葉である。

 だからこそ、アンナ チョイが今回掲げた"クチュール”がどのようなものなのかが気になった。デザイナーに話を聞くと、その重みを意識しながら、自身のものづくりを深めようとする意欲的な姿勢が見えてきた。

国や文化を軽やかに超えたルーツ

 アンナ・チョイは現在に至るまでさまざまな土地で学び、異なる文化を吸収してきた。兵庫県神戸市に生まれ、韓国籍を持ちながら日本で育つ。東京の文化服装学院、ニューヨークのアートスクール、イギリスのノッティンガム芸術大学で学び、2021年に「ヘンネ(HAENGNAE)」を立ち上げると、「TOKYO FASHION AWARD」や「NEXT BRAND AWARD」特別賞を受賞。2025年には拠点をニューヨークへ移し、「アンナ チョイ」として新たな歩みを始め、今年CFDA(米国ファッションデザイナー協議会)のアジアン・ファッション・アワードのファイナリストにも選出された。

 ものづくりにも異なるカルチャーが交差している。デザイナー自身の韓国的ルーツ、日本の職人による精緻な手仕事、ニューヨークの自由な感性、ヨーロッパのクチュール技法。「自然とチマチョゴリのように胸下から広がるシルエットを描いてしまう」とデザイナーは笑う。生地はニューヨーク、パリ、ミラノで仕入れ、縫製と生産はすべて日本の職人に託す。"自由を象徴する街”ニューヨークで得た感覚を、日本の技術で「Made in Japan」で作り上げることがブランドの軸になっている。

 拠点やブランド名だけでなく、ものづくりへの姿勢も変わった。海外でハイラグジュアリーの世界や最高級の素材に触れる機会が増えたことで、素材選びや仕様への意識も高まったという。「クリエイションとしても、精神性としてもパワーアップした姿を見てもらいたかった」という思いが、このショー開催へとつながった。

出発点はロダン美術館の彫刻

 今季のテーマは、“彫刻的”を意味する「SCULPTURAL」。制作の最中に訪れたパリのロダン美術館で、異なる色や質感、フォルムの彫刻が並ぶ光景を目にし、「今やりたい表現」だと感じたという。古典的な造形美を、モダンでエレガントなドレスへと再構築する。その着想は色や質感にも広がり、各ルックにはそれぞれ異なる女性像と物語が与えられ、一着ずつが“彫刻”として仕立てられた。

 披露したのは、わずか8ルック。「今の自分ができるキャパシティで、一つ一つを高いクオリティで仕上げたかった」と、数を絞った理由を語る。

 会場となった渋谷ヒカリエのホールBも美術館に見立てられ、来場者には展示解説を思わせる一枚が配られた。8人のモデルはランウェイを歩いた後、小さなステージでスポットライトを浴びながら静止し、彫刻のような佇まいを見せた。観客がその周囲を自由に回遊し、ドレスを間近で鑑賞できる演出も、今回のテーマにぴったりだった。

8ルックで描く、個性豊かな“彫刻”

 ファーストルックのアイボリーのロングドレスは、薄いシルクジャージーにボーンを入れ、立体的に仕立てた一着。当初は1枚のドレスとして製作していたが、繊細なシルクジャージーではシルクタフタのボリュームのあるスカートを支えきれず、上下をセパレートへと組み替えたという。プリンセスラインのスカートにあえて鋭い輪郭を肩に与え、凛としたシルエットで、モダンな印象を醸し出す。

 「CORSET DRESS」は、ダークグリーンのレザー、ベルベット、シルクサテンの異素材を重ねているのが特徴。ボーンとパッドでビスチェを構築し、腰まわりは柔らかなベルベットで大胆に膨らませ、そこからシルクサテンが床へと流れ落ちる。硬さ、柔らかさ、流動性という相反する質感を、一つの身体の上に共存させ、見る角度によって表情を変える彫刻的シルエットを描いた。ブラウンの「VEIL DRESS」は、極薄のシルクシフォンを、すべて手作業のまつり縫いで製作。上半身はレオタード構造で、透けて見える脚が美しく、安心してまとえるよう配慮した。

 白い「PAPER DRESS」は、軽やかな表情を持つキャンバスのようなコットンシルクを使ったミニドレス。内側にはパニエやボーンを仕込み、硬く構築した部分と柔らかく広がる。ベージュの「RIBBON DRESS」は、乾いた質感のシルクタフタの縁や胸元の大きなリボンに、3ミリほどの細いワイヤーを忍ばせ、動かすことで大胆なフォルムを描いた。

 赤い「FOLD DRESS」は、一枚のシルクを、デザイナーいわく「バスタオルを一枚巻いたよう」なイメージで折り、寄せ、胸元の一点から立体に。縫い目を極力つくらず布そのもののドレープを生かすことで、豊かなシルエットを引き出す。マットゴールドのスパンコールをまとったドレスは、鱗を思わせるシークイン刺繍が印象的。「このファブリックを見つけた時、絶対にタイトなタートルネックで、大胆に開いたドレスを作りたいと思った」という。ボリュームのある付け袖には、ヘンネ時代から続く持ち味が現れている。

 ラストを飾ったのは、ブラックの「SUIT DRESS」。スーツ生地として用いられるイタリア産の梳毛ウールを、シルクオーガンザの重なりでドレスへと再構築した。シャープなスーツ地と透けるボリュームが交差し、スカートの内側からは歩くたびに艶が覗く。このルックのみメンズモデルが着用。「ドレスは女性だけのものではない」という中性的な強さが、彼女の考える現代のエレガンスを浮かび上がらせた。

ミキモトのパールがもたらす説得力

 スタイリングの完成度を高めたのが、日本を代表する世界的なハイジュエリーブランド「ミキモト(MIKIMOTO)」のジュエリーだ。

 アンナ チョイは今年7月、パリ・オートクチュール期間中に発表されたミキモトの新作ハイジュエリー「レクラ(L'éclat)」のためにドレスを制作した。その縁から今回のショーでは、ミキモトのコレクションからブラック、ゴールド、ホワイトのパールを用いたチョーカーやピアス、リングをルックに添えている。

 最高峰のジュエリーにふさわしいドレスであることが、アンナ チョイの目指すラグジュアリーの水準を裏づけていた。

“クチュール”で見据える次の景色

 今回発表されたようなドレスは、日常で袖を通すものではない。レッドカーペットや式典、パフォーマンスなど、特別な瞬間にこそ映える服だ。今後はニューヨークのアートギャラリーなどで同コレクションを展示し、要望に応じたメイドトゥオーダーも視野に入れる。さらに後日には、8ルックのエッセンスを落とし込んだプレタポルテも披露する予定だという。非日常の造形を日常へとつなぐ道筋まで含めて、アンナ チョイのものづくりは広がり始めている。

 デザイナーにパリ・オートクチュール・ファッションウィークへの出展を目指しているのかと尋ねると、「重い歴史があり、自分にはまだ足りていない部分もある。経験と勉強を積み重ねなければならない」と慎重に言葉を選んだ。一方で、「チャンスがあれば、飛び込みたい」と続ける。

 今回のショーは、アンナ チョイにとって一つの決意表明だった。"クチュール”という言葉の重みを意識しながら、自分が信じる服づくりの純度を高めていく。その先を見てみたいと思わせるショーだった。

photography: monami

文・大杉真心

Mami Osugi

ファッションジャーナリスト

文化女子大学(現文化学園大学)でファッションジャーナリズムを専攻、ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)でファッションデザインを学ぶ。「WWD JAPAN」記者として海外コレクション、デザイナーズブランド、バッグ&シューズの取材を担当。2019年、フェムテック分野を開拓し、ブランドや起業家を取材。2021年8月に独立後、ファッションとフェムテックを軸に執筆、編集、企画に携わる。2022年から文化学園大学と文化服装学院の非常勤講師を務める。

最終更新日:

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