
古島真子ColorfulBosaiCreation代表
Image by: FASHIONSNAP(Atsuya Sano)

古島真子ColorfulBosaiCreation代表
Image by: FASHIONSNAP(Atsuya Sano)
本日9月1日は防災の日。熊本地震や各地で相次いだ豪雨被害を受け、改めて災害への備えの重要性を感じた人も多いのではないでしょうか。ただ、重要性は分かっていても、忙しい日々の中で後回しにしてしまったり、何から始めればいいのか分からなかったり──。そんな防災を、自分らしく、無理なく続けられるものに変えようとしているのが、防災士の古島真子さんです。繊維商社出身でファッション業界とも縁が深い古島さんは、「十人十色のカラフル防災」を掲げ、2024年に防災専門会社ColorfulBosaiCreationを設立。防災を“正しく備えなければならないもの”ではなく、“人生をハッピーにするための手段”と捉える古島さんに話を聞きました。
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古島真子(まこぴ)/ColorfulBosaiCreation代表
1990年生まれ、東京都出身。2014年にお茶の水女子大学グローバル文化学環を卒業後、繊維商社のモリリンに入社。その後、デロイト・トーマツ・コンサルティングを経て、2022年から一般社団法人unistepsでジャパンサステナブルファッションアライアンスの事務局を担当(現在も継続)。並行して、防災スタートアップのソネリスでも勤務。2024年に株式会社ColorfulBosaiCreationを立ち上げた。
強迫観念では人は動かない
──古島さんの活動コンセプトである、「十人十色のカラフル防災」という言葉に込めた考えを教えてください。
古島真子(以下、古島):防災の活動を始めて、すぐにぶち当たったのが「みんな、あまり防災に興味がない」ということでした。大きな災害が起きた直後には防災意識が高まりますが、徐々に薄れていく。なぜ普段から意識してもらえないんだろうと考えると、防災って地味で、難しくて、堅苦しい。さらに「これをやらないと命が危ない」というような強迫観念で迫ってくるところがある。それが人を遠ざけているんじゃないかと思ったんです。
例えばファッションのように、防災も普段から「やりたい」「楽しい」と思ってもらうにはどうしたらいいんだろう。そう考えて思い至ったのが、防災を強迫観念としてではなく、楽しく、明るく伝えることです。私はそれを「ハッピーに防災を伝える」と表現しています。
防災についての活動を続けている中で、「防災リュックは何がおすすめですか」「おすすめの避難セットを教えてください」とよく聞かれます。真剣に考えた末に行き着いたのが、「分からない」ということ。なぜなら、人によって求めることや必要なものは千差万別で、誰にでも当てはまる“最強セット”のようなものは実際にはないんですよね。一人ひとりにぴったり合った防災があるはず。それを私は「十人十色のカラフル防災」として伝えています。
──古島さん自身も、最初から防災意識が高かったわけではないんですよね。
古島:その通りです。東日本大震災の後は私も準備しましたが、保存食としてエナジーバーを買っても、気付いたら賞味期限が切れている。そんなことを繰り返していました。私は大学時代から東日本大震災の被災地である岩手の陸前高田に通っていて、ボランティアなどの活動の中で震災を経験した方たちとも親しくなりました。ある時、「この人たちがこんなに震災について伝えてくれているのに、自分は何も実行できていない。このまま災害が起こってケガをしたり、最悪亡くなったりしたら、顔向けできない」と心から思ったんです。
でも、そうは言っても私は根っからの三日坊主。自分がやらざるを得ない環境を作らなきゃと思って、その解決策として防災士の資格を取ることにしました。資格を取ったのが2020年。その後は企業向けに防災コンサルを行うスタートアップ企業などでも経験を積み、2024年に防災を専門に起業しました。

携帯トイレやコンタクトレンズを入れた、古島さんが毎日持ち歩いている防災ポーチ

モバイルバッテリーは、気分がアガるようにステッカーを貼ってカスタム
「どんな食べ物ならテンションが上がりますか?」
──「十人十色のカラフル防災」といっても、自分には何が必要かを考えるのはなかなか難しそうです。どうやって見つければいいのでしょうか。
古島:私が行っている「カラフル防災ワークショップ」では、最初にその人自身のことを聞きます。家族構成、住んでいる場所、家は戸建てか集合住宅か、車を持っているかといった基本的なことに加えて、「どんな食べ物を食べたらテンションが上がりますか」「自分の弱点は何ですか」などと質問します。
弱点というのは、例えば私は目が悪いのでコンタクトレンズが必要ですし、お腹が痛くなりやすい人もいれば、日頃から薬を飲んでいる人もいる。アウトドアが好きか嫌いか、潔癖症か、といったことも聞きます。10個ほど質問をして、まず「あなたはどんな人ですか」ということを一緒に棚卸しするんです。
──「どんな食べ物ならテンションが上がりますか」という聞き方が面白いですね。
古島:そこが「カラフル防災」のキモなんです。私は「防災は何のためにやるんですか」と聞かれたら、「人生を丸ごとハッピーにするため」と答えています。もちろん日常生活は犠牲にしたくないし、楽しんでいたい。さらに、人生の中で起こるかもしれない「もしも」の災害の時だって、できるだけハッピー度を下げたくない。そういう時こそおいしいご飯を食べたいし、「薬がない」「生理用品がない」といった辛い思いもしたくない。だったら、自分がハッピーでい続けるためには何を準備すればいいんだろう、と考える。その一つとして「テンションが上がるご飯」を聞いています。
──非常食も「これを買わなければいけない」というものではない?
古島:非常食については、今は本当に多くの選択肢があります。生姜焼きだってありますし、おしゃれな缶詰にパウチ食品と、おいしいものがたくさんある。長期間保存ができるパンと聞くとカンパンをイメージするかもしれませんが、今はふわふわで5年間も保存できるパンもあります。ヴィーガン食品もさまざまなものが揃います。
それから「ポリ袋クッキング」という方法もあります。耐熱性のあるポリ袋にお米と水を入れて、袋を縛って鍋で湯煎すれば、ご飯を炊くことができる。これを知っていれば、自宅避難の場合は必ずしも特別な非常食を大量に用意する必要はなく、ある程度日持ちがする普段の食材を使うことが可能です。非常食をたくさん買えば、お金もかかるし場所も取ります。「ちょっとした工夫で普段の食材が使えるんだ」と知ってもらう方がコスパもいい。それはすごく伝えたいです。
防災グッズは「持ってもいいと思える重さ」でいい
──皆さんのカラフル防災の参考になるように、古島さん自身が普段持ち歩いている防災グッズも教えてもらえますか。
古島:本当に最小限です。コンタクトレンズ、携帯トイレ、おりものシート、絆創膏などを小さなポーチにまとめて、バッグを替える時もそのポーチだけは入れ替えています。避難時に持っていく防災リュックには旅行用の洗顔用品や生理用品なども入れていますが、毎日持ち歩くポーチにあまりたくさん入れると、日常が辛くなっちゃう。持ち歩くのが嫌になって置いていった日に災害が起きたら意味がないので、私の最小限は今、このくらいです。
──ネックレスとして、小さな笛も身につけていますね。
古島:これが一番持ち歩いているものです。例えば家が倒壊して生き埋めになった時、「助けて」と声を出し続けても意外と声は届かないし、体力も使うので、HPを削られちゃうんですね。笛なら少しの息で遠くまで音を届けられるので、気付いてもらえる可能性が高くなります。
この笛は福井県鯖江市の眼鏡屋さんが作っているもので、カラーバリエーションもあってかわいい。それだけではなく、人間や救助犬の耳に聞こえやすい周波数まで計算されています。好きすぎて、委託販売もさせてもらっています。

笛のネックレスは、福井の眼鏡工房が手掛ける「エッフェ(effe)」のもの
──モバイルバッテリーは「最低○mAh」といった基準はありますか。
古島:容量は大きい方がもちろんいいし、スマートフォンを1回分くらい充電できるといいと思います。でもスマートフォンによって電池容量も違いますし、これも一概には言えません。それよりもどれくらいの重さかも大事です。「このバッテリーは重くて持てない」という友達も結構いるので、自分が「これなら持ってもいい」と思える重さでいいと思います。とにかく自分が持てる範囲で。あとは、普段から家やオフィスにいる時に充電しておくようにするのもいいですね。
──FASHIONSNAPの読者に身近なところでは、普段の服装やシューズも防災を意識して選んだ方がいいのでしょうか。
古島:私は普段の服装は気にしすぎないようにしています。防災のために毎日がハッピーではなくなってしまったら、本末転倒ですから。ただ、避難時に持ち出す防災リュックには羽織りや露出が少なくて動きやすい着替えを入れています。シューズは歩きやすいものがいいですが、今は歩きやすさとおしゃれを両立できるデザインのシューズも多いですし、歩きやすさのためにデザインの選択肢が狭まってしまうことも少なくなっている。ピンヒールを履く時は、ペタンコ靴も持ち歩くようにしています。
アパレル店舗は、まず「空間」を見直す
──個人として防災にどう向き合うかを聞いてきましたが、企業としてはどんな準備が必要でしょうか。特に、販売員が多数働くアパレル企業や店舗では、どのような考え方で防災に取り組めばいいですか。
古島:お客さまがいる店舗の防災は、オフィスで求められる防災とは異なります。アパレルショップの場合、洋服や什器など、たくさんの物が置かれていますよね。普段の利便性から商品をたくさん積んだり、おしゃれなライトを置いていたりすると思いますが、地震で揺れた時にケガにつながるものはないでしょうか。VMDとのバランスもありますが、まずは空間を見直すことを一番に考えてほしいです。
その上で、店頭のスタッフさんには災害が起こったら自分の身を第一優先にしてほしい。「お客さまを守らなければ」と考えると思いますが、まずは自分です。その上で、どれだけお客さまを適切に誘導できるか。そこでうまく誘導できずに混乱してしまうと、「あの店舗の誘導は良くなかった」という印象が残り、後々のレピュテーションにも影響します。どこに避難するのか、災害時にどう対応するのかを、アルバイトやパートを含めた全スタッフにしっかり伝えておくことが基本です。

取材日には「ナイキ(NIKE)」の厚底サンダルを着用。おしゃれと歩きやすさを両立
──大雨などの災害時に、店を避難者に開放するか否かといった判断も企業によって分かれます。
古島:もちろんさまざまな事情はありますが、いざという時にどうしようもない状況にいる人たちに手を差し伸べてくれる店だったかどうかは、後々まで印象に残ることも多いです。それは「どういう企業でありたいか」という部分にも大いにつながると思います。
しかし、いざ災害が起こってから、その場で避難者を受け入れるかどうか最適な判断をするのは難しいですし、店頭スタッフにはそれを決める権限がないかもしれません。だからこそ、あらかじめ会社や店として話し合って、「うちはこういう方針です」と決めておく。そうすれば、災害が起こった際に店頭スタッフも「ここにいていただいて大丈夫です」とお客さまに案内しやすくなります。経営層も含めて、災害時にどういう会社でありたいのかを、日頃から考えておくことが重要です。
──古島さんが立ち上げたColorfulBosaiCreationでは、企業向けの防災支援にも力を入れていますね。
古島:今、特に力を入れているのが企業の防災マニュアル作りの支援です。BCP(Business Continuity Plan。緊急事態が発生した際に被害を最小限に抑え、災害後も事業を止めない・早期復旧を目指すための事業継続計画)を作っている大企業は多いですが、東日本大震災の直後に作った、細かい文字がずらりと並んだ分厚いBCPがあっても、誰も読んでいない、社員に伝わっていないという会社は実際に多いんです。それでは、いざという時にちゃんと動けません。
ColorfulBosaiCreationでは、内容はもちろん、ヴィジュアル表現も含めてちゃんと社員に伝わる防災マニュアルを作り、研修まで行っています。個人向けに行う防災ワークショップももちろん大切ですが、それだけでは防災に興味を持ってくれたり、実行に移してくれたりする人の数はどうしても限られる。会社という「箱」で防災に取り組めば、その中にいる何十人、何百人、何千人という人たちの防災レベルを一度に上げることができます。それで、企業向けの取り組みをいま強化しています。個人事業主だったころから、個人向けの防災ワークショップや学校や自治体向けの防災セミナーには取り組んでいましたが、対企業で防災事業を広げていくために、2024年に法人化しました。
「防災で稼ぐ」ことで、防災を広げる
──今後、どのように防災の活動を広げていきますか。
古島:私の中では二軸あります。一つは、防災の実業家としてビジネスでちゃんともうかるようにすること。「仕事として防災に携わりたいけど、お金にならないから違う業界に行きます」と話す学生に、これまで何人も会ってきました。これは社会にとって非常に大きな損失だと思います。そういう思いを持った優秀な人たちをちゃんと雇って、「十人十色のカラフル防災」というコンセプトで企業や地域、一人ひとりの防災レベルを上げていきたいです。
「防災事業で稼ぐな」という声ももちろんあります。防災事業は無料であるべき、というイメージがある。でも、サステナビリティや環境の分野もそうですが、社会的にいいことをしている人がお金がなくて疲弊して、辞めてしまうのは非常にもったいないことだし、誰にとっても良くないと思うんです。だから、ちゃんと稼ぐ。私がその背中を示すことで人材が入ってきて、防災という分野そのものが発展していけばいいなと思っています。「稼ぐぞ」という気持ちも込めて、ColorfulBosaiCreationはNPOではなく株式会社にしました。
古島さんのインスタグラム(@makopi_to_bosai)から
──もう一つの軸についても教えてください。
古島:防災インフルエンサーになりたいです。 まだSNSのフォロワー数などはそれほど多くないんですけど、もっと発信力を高めたい。SNSならお金を払わなくても誰でも情報を見ることができるので、「楽しんで見ていたら、すごく学びがあった」「防災って意外と楽しい。やった方がいい」という空気を社会の中に作っていきやすいと思うんです。
防災の専門家というと学者や行政の方などが中心で、私のようなキャラクターは結構珍しい。だからこそ、私はあえてそっちの方向には行かず、このままでいるのがいいなと思っています。専門家からたくさん学んで、それをより多くの人たちに届きやすい形で発信する。今、防災の情報が届いていない人たちと、専門家をつなぐ架け橋みたいな役割になれたらいいなと思っています。

防災を身近に感じてもらうため、居住地の神奈川・茅ヶ崎のネイルサロンや居酒屋などでも防災ワークショップやイベントを開催している
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