
東京・下北沢を中心に北は福島から南は福岡まで、国内に18店舗を展開する古着屋「デザートスノー(DESERT SNOW)」。その指揮を取るのが、鈴木道雄 社長だ。全店舗の従業員数は100人超、古着卸や飲食店なども運営するグループ全体の売り上げは32億円(2025年度)にのぼる。国内有数の古着屋チェーンを築き上げた鈴木のこれまでの歩みと、業界の現状、そして今後のビジネスの展望を聞いた。
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高校には進学せず15歳で古着屋アルバイトに
1978年生まれの鈴木社長の出身地は、東京・恵比寿。ファッションの目覚めは早く、初めての古着は中学生のときに上野の古着屋で買った「リーバイス(Levi’s)」の「501」だったという。その後、渋谷や原宿の古着屋を頻繁に巡るようになったほか、当時古着の売買が盛んだった代々木公園のフリーマーケットにも出入りするようになり、自分が買い集めたものを売る経験を積みながら、古着屋スタッフや愛好家らとの交流を深めていった。古着熱が高まった結果、中学卒業という節目に鈴木社長は大きな決断を下す。中高一貫の私立校に通っていたものの、高校には進学せず、埼玉県の古着屋「フラフープ(HULAHOOP)」でアルバイトとして働き始めたのだ。

中学卒業時は競馬の騎手になるか古着屋になるかで迷ったという
そこで鈴木社長は、フリーマーケット時代からの知り合いで、フラフープでバイヤーとして働いていた越芳宏氏と親交を深める。18歳のときに、越氏から一緒に古着屋を始めないかという誘いを受け、ふたりが神奈川・小田原に出店したのがデザートスノーの1号店だ。同店を運営するなかで、鈴木社長は次の一手を考え始める。休日によく足を運んでいた東京・町田の人出の多さと、古着屋の価格水準を見て「町田に出店したら勝てる」という確信を持ったのだ。ただ、越氏に町田への出店を提案したものの、賛同が得られなかったために、鈴木社長は「絶対に売れるから、自分にやらせてもらえないか」と持ちかけ、1998年に若干20歳で町田にデザートスノーを出店した。その後、越氏は2000年に千葉にデザートスノーを出店し、今も同地で鈴木の会社とは別会社として運営を続けている。

「古着はビジネス」独立時から多店舗化を目指す
古着屋オーナーは、自身のファッション観を追求して個性的な品揃えや凝った店構えにこだわるが、鈴木社長は「最初からビジネスとして割り切っていたので、多店舗化を目標にしていました。10店舗くらいはできるかなと思っていましたね」と、独立当初からビジネスに徹した姿勢で将来を見据えていた。

鈴木社長はその頃から「価格では絶対に負けない」という信念を持っていた。デザートスノーが業界内で独自性を持てた要因のひとつが、パキスタンでの仕入れルートをいち早く確立したことだ。そのきっかけになったのは、偶発的な出来事だ。タイで仕入れを行っていた従業員が、とある要件でアフガニスタンに赴いた際、途中で寄ったパキスタンの街に古着が大量に溢れていることを目にしたのだ。当時パキスタンは、欧米から支援物資として送られてきた古着の集積地となっていた。取り引きされていた古着の価格は非常に安かったものの、「質はめちゃくちゃだった」と鈴木社長は明かす。その混沌とした状況から、鈴木社長はクオリティの高いアイテムが仕入れられる独自のルートを構築した。現在はタイに常駐する3人のバイヤーが、パキスタンの現地パートナーと連携しながら仕入れを行っている。
コロナ禍下北沢で出店を加速した理由
30年近く古着業界を見てきた鈴木社長には、市場の浮き沈みを読む独自の感覚がある。「古着の人気の波って7〜8年周期になっている印象があるんです。2003年頃に、小さいサイズしか売れなくなってしまい、古着屋が得意とする大きめのサイズ感では対応できなくなりました。その後、2010年頃に復調しましたが、2012〜13年頃にまた落ちて。2017年頃にまた良くなってきそうな雰囲気を感じていたところ、2020年にコロナ禍が訪れました」。東京に最初の緊急事態宣言が発令されたのは、デザートスノー下北沢3号店のオープンを翌日に控えていたタイミングだったという。

インタビューは2026年6月にオープンしたデザートスノー原宿店で行った
鈴木社長は下北沢の新店舗で、海外に買い付けに行けなくなった同業者に向けて卸売を始めただけでなく、コロナ禍が長引くなかで下北沢という街にチャンスを見出した。「渋谷や原宿は、街の様子が定点カメラで見られるようになり、人が集まりにくい雰囲気になっていたんです。ですが、下北沢には定点カメラがなかったので、若者を中心にたくさんの人が集まっていました」。そこで鈴木は、下北沢にさらに3店舗を出店したのだ。そしてコロナ禍と時を同じくして、若者を中心とした古着ブームも到来。下北沢には古着を求める若者たちが大挙して押し寄せ、デザートスノーは売り上げを大きく伸ばした。



「安さ」は古着の大切な魅力
2020年のブーム以降、古着の相場は大きく上昇した。一部の希少なヴィンテージアイテムに数百万円、数千万円という高値が付けられているだけでなく、少し前までワゴンセールで売られていたようなアイテムに数万円の価格が付けられていることも少なくない。それに対して鈴木社長は「本当に価値があるものは高くてもいいと思うんですが、手に入れやすい値段であることも古着らしさだと思います」と、安さが古着の大切な魅力のひとつだというこだわりを見せる。

鈴木社長は、2026年現在の古着市場をどう見ているのだろうか。「古着人気は少し落ち着いたと感じています。ですが、2000年代のように古着人気が大きく崩れることは、今後はないと考えています。当時、古着はニッチな存在でしたが、今はファッションの中のひとつのジャンルとして認知されている。ですので、全身を古着で揃える人が減ったとしても、コーディネートのなかで一点だけ古着を取り入れる、というような需要は続くのではないでしょうか」。
古着ビジネスのネクストカミングは「倉庫型」
市場の成熟を分析しつつ、鈴木社長は今後のトレンドについてもはっきりとした見方を示す。「ファッション業界を俯瞰すると、デフレ傾向にあるのではと感じており、そこに敏感に反応したお店が人気になると思います。原宿や渋谷のような一等地のお店は、観光客がお土産目的で買い物をするところ。感度が高い人たちは、郊外に出て安い古着を求める時代が到来する気がします。最近は、30代の若手古着屋オーナーたちが郊外に倉庫型の古着屋をどんどんオープンさせており、今後はそういった業態が激戦区になると見ています」と話し、倉庫型業態への参入については、すでに社内で検討が進んでいるという。

日本有数の観光地である原宿には、近年チェーン系古着屋の出店が増えている。福岡発の「古着屋 西海岸」は2018年に原宿に進出。大阪を本拠地とする「古着屋JAM」は2021年に原宿に進出し、現在は同エリアで2店舗を運営している。そんな中、デザートスノーは2024年に渋谷店をオープンしたものの、原宿店をオープンしたはそれから2年後の2026年だった。

原宿店のオープンが遅れた背景には、原宿の老舗古着屋「ベルベルジン(BerBerJin)」との関係性があった。鈴木社長はベルベルジンの山田和俊代表と旧知の仲であることに加え、鈴木社長の妻が以前ベルベルジンで働いていたという縁もある。デザートスノーの出店を進めていた鈴木社長は、原宿でも物件を探し続けていたが、あるとき山田代表から冗談交じりで「ミッチー(鈴木の愛称)、原宿には来ないでね(笑)」と言われたという。だが、ベルベルジンが2025年にデザートスノーの根城と言える下北沢に系列店を出店し、その店舗の契約前に山田代表から鈴木社長に「下北沢に出店する」という連絡があったため、「じゃあうちも原宿にお店を出してもいいかな」と考え、原宿出店に至ったという。


イチオシは「遊び心があるデザイン」が多い韓国古着
デザートスノーの最新店舗である原宿店の品揃えは、3つの軸で構成されている。1つ目はオーソドックスなアメリカ古着。2つ目は、ラグジュアリーブランドのバッグやアパレル。そして3つ目は韓国で買い付けた古着だ。ラグジュアリーアイテムは、ブランドアイテムの買い取りを行うグループ企業を活用して仕入れており、世界中から観光客が集まる原宿という土地柄もあり、インバウンドからの需要が非常に高いという。

アメリカ古着を扱うコーナー

ラグジュアリーブランドを扱うコーナー

韓国古着を扱うコーナー
デザートスノー社内では「トレンド古着」と呼んでいる韓国古着は、これまで渋谷109やビブレ、マルイなどでポップアップを開催し、若い女性からの反応が強くあったという。「ディスイズネバーザット(thisisneverthat)」や「マルディメクルディ(Mardi Mercredi)」といった韓国ブランドに加えて数多く揃えるのが、「ナイキ(NIKE)」などのスポーツブランドのアイテムだ。「韓国のライセンスアイテムは、日本では許可が下りなさそうな遊び心のあるデザインが多いので面白い」と鈴木社長は言う。




今後のデザートスノーについて、鈴木社長が描いているヴィジョンは単なる店舗数の拡大ではない。「お客さまに楽しんでいただける、コンセプトがしっかりとしたお店を作りたいですね。例えば原宿店は店舗が大きいこともあって、お客さまの滞在時間がとても長いんです。ですので、カフェを併設してくつろいでもらったり、エンターテインメントとして楽しんでもらえる空間にしていきたいですね」。



古着屋原宿店の一角には希少なヴィンテージピースを集積した部屋も備える
最後に、現在の鈴木自身の古着との付き合い方について聞いた。古着ビジネスの当事者として、今どんな古着に興味を持っているのか。
最近どんな古着を買いましたか?


実は最近は、自分用の古着はほとんど買っていないんです。ですが、妻のためにヴィンテージのジーンズやカバーオールをよく買っています。今は大きめサイズが人気なので、妻に合う小さめサイズの古着が安いんですよ。よく着てくれるので嬉しいです(笑)。
では、鈴木さんご自身が好きな古着は?


1990〜2000年代の全然知られていないマイナーなスケーターブランドが昔から好きですね。「この部分にこんな生地を使うんだ」とか「こんな場所にスカルプリントを入れるんだ」というような発見があるのが楽しいんです。人気が高いメジャーブランドとは違って価格も手頃なので、面白いものを見つけたら全部キープしています。
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