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「クチュールは究極の日常」 オートモード平田が問いかける“ファッション”の本質

橋本知佳子

Image by: Kiyo(FASHIONSNAP)

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 「オートモード」とは、帽子の世界でいうところの「オートクチュール」。東京で暮らしている庶民としては、なかなか自分のために仕立てた帽子をかぶって出掛ける機会もなく、仕立て帽子のことをつい「美術品」のような、鑑賞対象として見てしまう。

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クチュールと聞くと、みなさん華やかな非日常の世界を連想されるんですが、本当はもっと日常に根ざしたもの。大量生産ではなく、個人の悩みや日常生活におけるストレスを解決するために、お客さまとイチから一緒にお作りする。世の中を探しても見つからない、個人の問題提起に職人が向き合って生まれる帽子は、お客さまにとって究極の日常で、その人そのものでもあるんです。

 そう話すのは、帽子アトリエ「オートモード平田(Haute Mode Hirata)」の創業者 平田暁夫の孫であり、3代目のデザイナーである平田早姫と平田翔。

 3代にわたるアトリエの世代交代を象徴するシーズンとなったオートモード平田の2027年春夏コレクション。フィッティング風景とショーを振り返りながら、日本の帽子業界の礎を築いた祖父の哲学を継承する新世代が、現代に提案する「オートモード」とは何かを紐解く。

 日本を代表するモディスト(帽子デザイナー)である平田暁夫が1955年に創業した帽子アトリエ、オートモード平田。平田暁夫は、パリの帽子モディストの第一人者 ジャン・バルテ(Jean Barthet)に師事し、その技術を日本に持ち込んだ。三宅一生、川久保玲、山本耀司との仕事から、皇室のためのオーダーメイドまで、幅広いクリエイションで知られる。

 オートモード平田は、平田暁夫の死後、娘の欧子と孫の早姫、翔の3人が技術と伝統を継承。欧子によるフルオーダーと一点物を制作する「アキオ ヒラタ オウコ(Akio Hirata OHKO)」、早姫が手掛けるオートモードの技術と歴史を日常使いのアイテムに落とし込む「エイチ.エイティー(H.at)」、ベーシックな型にモディストならではの捻りを加える翔の「ショウ ヒラタ(SHOW HIRATA、旧 saki et show)」の3ブランドを通して“現代におけるオートモード”を発信してきた。そして、今後は早姫と翔が中心となってアトリエを率いていく。

 世代交代の契機となる2027年春夏コレクションの舞台となったのは、平田暁夫が生前友人たちと度々帽子を囲んでのホームパーティーを開いていたという東京・広尾のギャラリー「maison d’H」。会場には決められた席はなく、ゲストは立食パーティーのような穏やかな空気の中でが歩くモデルたちを囲んだ。会場では、展示されているショーピースの試着が可能で、ゲストたちもデザイナーに招かれたパーティー客の1人として、そのクリエイションに触れることができた。

 オートモード平田が「Rakuten Fashion Week TOKYO(以下、東コレ)」に初参加したのは、1年前の2026年春夏シーズン。平田暁夫の生誕100年を記念して開催されたランウェイショーだった。平田暁夫が作った型をオマージュした帽子作品を中心に、3人の作家による独創的かつ実験的な創作を交え、技術と伝統に裏打ちされた造形美が追求された。

 帽子は、全身に占める割合こそ洋服と比べると少ないが顔の印象や全身のバランスに与える影響は大きい。帽子が持つファッションアイテムとしての「力強さ」を表現した前回に対して、今シーズンはよりその「精神性」や「哲学」に立ち返った。

「帽子が先に語り出さないように」

 コレクションの出発点になったのは、平田暁夫が1番大切にしていたという「帽子はかぶる人にとっての額縁である」という言葉。額縁は、飾る対象そのものを変化させることはないが、その見え方を大きく左右する。人間にとっての額縁である帽子をどこまで作り手が作り込み、どこからが「かぶる人に委ねられる」のか。着用者の魅力を引き立てる最高の額縁には、人それぞれの個性を活かす“余白”があり、着用者が帽子をかぶることで初めて立ち上がる佇まいがあるのではないか、帽子は常に作り手が「個」としての着用者に向き合うことで作り上げられていくものなのではないか、2人は「額縁」という言葉をそう解釈した。

 一方で、翔は「オートモード平田の原点である個に向き合う精神に立ち返ると同時に、変えていきたいのは帽子にこびりついた固定観念」だと話す。現代社会で帽子が「上級者向けアイテム」だと思われやすい最大の理由は、ひとつひとつのデザインが持つ歴史的な背景が記号としてキャラクターになってしまっていること。帽子は本来、身につける人の個性を引き出す自己表現のためのツールであるにも関わらず、ハンチングを被るとニュースボーイやパン屋さんを連想し、中折れ帽を被るとキザに見られるといった、“その人自体よりも帽子が先にキャラクターを語ってしまう”逆転現象が起きていると指摘する。そこで、ショウ ヒラタでは、ブランドが探求し続けている、既存の帽子のコードから、構想や素材使いを少しだけ「逸らす」ことを改めて今シーズンのテーマに設定した。

 「すごく綺麗な部屋より、ちょっと気が抜けている方が良い。きっちりした形より、少しフォルムが崩れているものの方が余白の美を感じます。完璧なものよりも、少し不安定なものの方にグッとくる。そうした感覚を表現していきたい」と翔は語る。

 アウトドアハットはサテン生地を使うことでエレガントな要素を取り入れ、キャップは基本構造を組み直して輪郭をわずかに逸らした。ブリムを変形させたハットは折り返し方によってバケットハットにもセーラーハットにもなる自由さを持たせるなど、被る人の属性やキャラクターを固定化しないスタイリングの自由のあるデザインを追求した。花のコサージュのついたカンカン帽は、ブリムを1箇所大袈裟に垂らすことで違和感を取り入れた。独創的なカーブを美しくかつ自然に実現されているのも、オートモード平田の高度な技術の賜物。モデルが着用したウェアは、榎本光希が手掛ける「アタッチメント(ATTACHMENT)」の最新コレクション。榎本の作るシンプルでありながら、ディテールや素材に対しての探究心が覗くウェアとハットが共鳴し、より明確な人物像が浮き彫りになった。

Image by: Haute Mode Hirata

Image by: Haute Mode Hirata

Image by: Haute Mode Hirata

 「私たちから見ると、洋服はとても自由。何か別のアイテムと融合したジャケットなど、奇抜なアイテムもみなさん上手に取り入れていらっしゃいます。でも帽子はフォルムの印象が固定化されているからこそ、そこから逸脱することに抵抗を感じる方が多いのではないでしょうか。少しでも新しい、見たことのない帽子をお見せすることで、帽子の楽しさをお伝えしていきたい」と早姫。エイチ.エイティーの大胆であり洗練されたエレガントなフォルムは、「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」のウェアの身体に溶け込むようなフォルムとマッチし、自立した力強い女性像を描き出している。

Image by: Haute Mode Hirata

Image by: Haute Mode Hirata

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 これまでも、顧客向けにショーをすることはあったが、前回の東コレ参加を機に、これまで接点が希薄だったスタイリストや新規客層への認知が拡大したというオートモード平田。1年間でリース数は倍増するなど、目にみえる反響があったという。同時に、東京を拠点とするデザイナーズブランドのデザイナーたちとも交流を深めるきっかけになり、ショーでの着用やコラボレーションに発展している。さまざまな色を持つブランドとのコラボは、帽子が多様な人に似合う「自由なファッションアイテム」であることの証左で、互いに魅力を引き出す良い相乗効果が見られる。

「YOHEI OHNO」が26年秋冬で発表したH.atとのコラボハット

「AKIKOAOKI」が26年秋冬で発表したH.atとのコラボハット

帽子はまるで人間そのもの

 祖父母も両親も帽子を作る家庭に生まれ、自然に帽子作りに関心を持ったが、一度は別の道に進んだという早姫は、「2014年に祖父が亡くなり、お世話になっていた方々が“笑顔で送る会”を開いてくださいました。その場には、祖父が作った帽子を身につけた方が1000人以上駆けつけてくださったんです。子どもの頃から、アトリエで両親が帽子を作っているところは見ていましたが、それほど多くの方々が帽子を被って一堂に会する瞬間を見たのは生まれて初めてでした。人が被ると、帽子ってこんなにも命を吹き込まれるのかと感動した瞬間でした」と原体験を語る。


今回の会場「maison d’H」オートモード平田の創業者、平田暁夫が「帽子を感じるギャラリーにしたい」と設えた空間です。ここに幾度も人を招き、杯を交わし、帽子を囲んで語らってきました。きょうも、その続きの午後として皆様をお迎えします。
(コレクションノートより)

 平田暁夫が開いていたパーティーには、ファッション業界だけでない各界の著名人が集まり交流を深めていたという。幼少期に何も知らずにその風景の一部になっていたという2人。「今思うと、その光景はとても豊かだった。帽子をかぶる人が減った現代に、帽子業界が1番盛り上がっていた時代を経験していない僕たち孫世代が改めて自分たちなりの“パーティー”をすることに意味があるのかもしれない」と話す。

 モデルをパーティーの来場客に見立てたスタイリングでは、ブリムの角度や顔の見え方、傾きを細やかに調整した。頭から爪先までの全身を大きな空間として捉えると、ハットによる顔周りの見え方が与える影響は大きく、少しの違いで柔らかさを与えたり、緊張感を感じさせたり、全身が引き締まる。

 早姫と翔が現代に提案する、平田暁夫の「額縁は額縁」という言葉は、ランウェイを歩いてくるモデルたちの姿を見るとよく理解できる。帽子アトリエであるオートモード平田が、他ブランドのウェアを借りてまでランウェイショーを行う理由は、帽子の真価は人間が不在では表現できないからに他ならないのだろう。

ドレスコードではございませんが、叶いますなら、お気に入りの帽子とともにお越しくださいませ。帽子の集うひとときを、皆様とご一緒できましたら幸いです。

 インビテーションに書かれている言葉を読んで、ショーの日の朝、久しぶりに被る帽子を取り出してみた。2人の言葉を思い返しながら鏡の前に立つと、自分の頭の上に帽子が乗っているだけで、自分の表情が普段より明確に見えてくる気がする。帽子に馴染みの薄い人が増えたかもしれない現代においても、自己表現としてのファッションが、その人をらしさを明確にしてくれるのだとオートモード平田は教えてくれる。

全ルックを見る

Haute Mode Hirata 2027年春夏コレクション

2027 SPRING SUMMERファッションショー

最終更新日:

文・橋本知佳子

Chikako Hashimoto

FASHIONSNAP 編集記者

東京都出身。映画「下妻物語」、雑誌「装苑」「Zipper」の影響でファッションやものづくりに関心を持ち、武蔵野美術大学でテキスタイルを専攻。大手印刷会社の企画職を経て、2023年に株式会社レコオーランドに入社。ファッション小物・アクセサリー、繊維企業を中心に取材。

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