イッセイ ミヤケ デザイナー近藤悟史
Image by: ISSEY MIYAKE
8月5日に逝去した三宅一生のものづくりを継承するひとりである「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」のデザイナー近藤悟史。10月にパリで2年半ぶりに開催したランウェイショーの後日、ショールームで2023年春夏コレクションにまつわるユニークなアプローチや、師匠である三宅一生の存在、そしてこれから先の未来へと引き継いでいくレガシーについて話を聞いた。
自分たちにしかできないことを
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「一生さんから学んだことは計り知れない」と近藤。2007年にイッセイ ミヤケに入社し、「プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ(PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE)」や「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE)」などのデザインチームを経て、2017年に三宅デザイン事務所に移籍。2019年から「イッセイ ミヤケ」を率いている。その全ての活動において三宅氏の存在は大きかった。
「視野がとても広く、社会のこと、ものづくりの姿勢など、多岐にわたって日々色々なことを教えていただきました。その全てが自分の中に財産として残っています」。
彫刻のようなフォルムが特徴の今シーズンを象徴するシリーズ「TORSO」
特に影響を受けたのは、デザインやクリエイションへのアプローチだ。
「好奇心を持って、常に探求していくことがものづくりのスタート。ただ服を作るだけではなく、デザインというものに対して深く向き合って取り組むこと。人々の生活を豊かにしたり、希望が持てたり、ポジティブになれたりするものを、一つでも多く世に送り出す。それが理想であり、自分たちにしかできないことなのだと学びました」。
「自分らしいものを」「プロセスを大事に」など、三宅氏の哲学は今のイッセイ ミヤケに引き継がれている。そして「beyond(=〜の向こうに、〜を越えて)」「前へ」といった言葉もよく口にしていたという。
「今までトライしていないことはなんだろう? 自分たちに足りないものは? と自問自答しながら、課題を解決することで一歩進む。そうやってこれからも、自分たちらしいものを作っていけたら」。
曲線を取り入れたシルエットのコートや、円形プリーツ加工を施したジャケット
呼吸するかたち
そんなものづくりの精神が新たな形で注ぎ込まれたのが、パリで発表された2023年春夏コレクションだ。イッセイ ミヤケは素材の探求が服作りのベースとなることが多いが、今回はアプローチが全く異なっていた。
「新しいかたちを模索したい」という考えから、あらゆる彫刻をリサーチ。そして陶磁器の原料となる粘土を常滑から取り寄せ、近藤をはじめデザインチーム一人一人の手で、感性のままにオブジェを制作する。次に布を使って彫刻を作ることにチャレンジし、出来上がった形を服のディテールに取り入れていったという。
「何回も造形を作り、手で探り当てていくという作業でした。作ることがだんだんと楽しくなり、命を吹き込む感覚で"柔らかなスカラプチャー"を目指していったのです」。
有機的なシルエットが特徴の無縫製ニットシリーズ
今シーズンのテーマ「呼吸するかたち」とは、新しく自由なフォルムの衣服を意味する。素材に関しても身体との関係を意識し、100%植物由来の原料によるポリエステル繊維を東レと共同開発した。部分的にプリーツを施した立体的なドレスは、モデルが歩くたびに弾み、まるで鼓動しているかのよう。
「見たことがないもの、出会ったことがない質感、人に驚きを与えるようなものを提案していきたい、という思いは常に心にあります」。
そういった自由な感覚から、布の彫刻を思わせるフォルムや有機的なシルエットのドレス、円形プリーツのシャツやコートといった表現豊かなデザインが生み出されていった。
体をイメージした抽象的な彫刻をグラフィック化し、ニットで表現したシリーズ(右)
ショーの演出もドラマティック。月夜に夢の中で不思議な体験をするというストーリーを、照明やダンスで表現した。ラストは日の出を思わせる光の中に、多様なスキントーンのドレスをまとったモデルたちが登場。それぞれが飛んだり跳ねたり、躍ったりしながらランウェイを駆け抜けていく、自由で躍動的なフィナーレとなった。
ものづくりの命を引き継いでいく
フィジカルのランウェイショーとしては2年半ぶりの今回、三宅一生のポートレートがスクリーンに映し出されたショーの冒頭、そしてフィナーレと、2回の大きな拍手が沸き起こったのが印象的だった。その様子を舞台裏のモニターで見ていた近藤もまた、様々な感情が込み上げてきたと振り返る。
「グッとくるものがありました。スタッフやモデルたちも、前に進もう、笑顔で行こう、と良いムードで。このコレクションから希望を感じ取ってもらえたら嬉しいです」。
トルソーやスキントーンといった身体と服の根源的な部分に立ち返りながらも、新しい日々の始まりを予感させる。ものづくりの命を絶やさず、未来へ引き継いていくイッセイ ミヤケの新たな一歩が踏み出された。
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