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【連載:現代アートへの旅】お金のはなし編―アンディ・ウォーホル作品から学ぶ価格の上がり方

【連載:現代アートへの旅】お金のはなし編―アンディ・ウォーホル作品から学ぶ価格の上がり方

>>前回掲載「まず知っておくこと編」はこちら

 現代アートは作品の内容だけではなく、落札価格にも注目が集まる。中には、無名なアーティストによる絵画や買い手にもアクションを求めるような指示書などが作品として売り出され、数十万、数百万、時には数千万円の値段が付き、驚いたことがある人もいるだろう。しかし、レオナルド・ダ・ヴィンチなどの名画と呼ばれる作品に比べたら高額ではないことが多い。

 アートの価格は作品の良さや希少価値など様々な角度により決められる。特に現代アートはその価値を判断する軸が複数あるため価格の乱高下が激しく、同じアーティストが作ったものでも作品によって差が出てくる。今回は、現代アートの中でも価格に広い幅があるアンディ・ウォーホルを例に、現代アートの価格の上がり方について紹介していこう。

 ウォーホルはシルクスクリーンによる作品が有名であり、市場に出回る作品のほとんどがシルクスクリーンを用いたものだ。ウォーホルは、資本主義経済下で氾濫する商品の価値よりも、広告や紙幣などの実体のない部分に価値を置くものに関心を寄せ、その経済システムで自らの作品を流通させることを考え、一つの版を使えばいくらでも刷り出せることができるシルクスクリーン作品を多く制作した。それまでのアメリカでは絵画や彫刻など一点物の作品がメジャーであったため、彼のこのような作品の売り方は異例だった。キャンベルスープ缶や花の作品などは、アート販売のプラットフォーム「Artsy」で十数万円から数十万円程度の値段で取引されることが多く、比較的手に入れやすい。しかし、最大手オークション会社サザビーズで取引されるウォーホルの作品の最高額は日本円で100億円を超え、そのほかの作品も日本円で1点あたり数億円にものぼる。ウォーホルの作品にこれだけの価格の開きが生まれた理由については後で説明するとして、ここまでがウォーホル本人が制作した"本物"のウォーホルの作品だとして値段がつけられている。

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ZOZO本社にもキャンベルスープ缶シリーズが飾られている(2016年撮影)

 ウォーホル作品の中には、ウォーホル本人およびウォーホル作品を管理する財団も黙認する「サンデー・B・モーニング」と呼ばれる海賊版が存在する。ウォーホルが存命だった時から彼が作成した版を使い、ウォーホル本人が刷り出しに関与していないところで別の人が制作した作品である。これらの作品は10万円を超えるか超えないかくらいでさらに安価になる。

 しかしながら、新聞での凄惨な事故写真を刷った作品やジャクリーン・ケネディの肖像など、作品サイズが大きいものやエディションが少ない作品には海賊版は存在しない。作品サイズの大きくしたり部数を絞ることは、ウォーホルはこれらの作品を他のシルクスクリーン作品と別の位相で扱っていたとも言える。だからこそ、希少価値があるとして価格が高騰しやすい。ちなみに複製可能な版画や写真よりも絵画、彫刻などの方が高額になる傾向にある。

 現代アートはいつのまにか値段がつり上がっていることが多いが、プライマリーと呼ばれるまだ誰の手にも渡っていない、いわば新品時の価格はそこまで高くないものがほとんどだ。例えば、ウォーホルが1964年に制作した洗剤のパッケージをそのまま木箱に描いた《Brillo Box(ブリロボックス)》はもともと日本円で10万円ほどの作品だったが、2010年にはおよそ3億3000万円まで価格が上がり、落札された。およそ50年で約330倍の値上がりである。

 初めにこの作品を購入したのはギャラリストでも投資家でもなく、ましてや富豪でもなく、中流階級のアートコレクターだった。ウォーホルから作品を買ったアートコレクターの娘リザンヌ・スカイラーが監督を務めた映画「Brillo Box (3 ¢ OFF)」によると、彼女の父は1964年にウォーホルから直接作品を購入し、サインをもらった。家に飾っていた時も丁重に取り扱っていたこと、また、他の作品を買うために早い段階で手放した経緯があり、状態も良かった。この状態の良さとウォーホルのサイン付きという希少性と真正性が価格をつり上げたと言われている。今や数億円で取引されることの多いウォーホルの作品の中では高額だとして驚嘆すべき価格ではないものの、プライマリーとセカンダリーの値段の開きが激しいこともこの映画の主題の一つとなっている。

映画「Brillo Box (3 ¢ OFF)」予告編より

 バンクシーのように価格が高騰していく様子にも物語を創り上げ、それを操作したり、揶揄したりするようなアーティストもいる。ただ、現代アートが非常に高額であることはほんの一側面であり、実は一生かかっても買えないような作品の方が少ないのである。その楽しみ方は、ファッションをどのように楽しむかに極めて近い。ブランド物が好きか、着こなしが好きか、おしゃれな自分が好きか。アートを買うことも同様に一生好きだと思えるものを持ち続けたり、気分によって買い換えたり......そういった楽しみ方で手に入れた現代アートの中から、超高額な作品が生まれてくるかもしれない。

■檜山真有(Twitter)
同志社大学文学部美学芸術学科卒、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科修了。1960年代のコンセプチュアルアートを研究対象とする。現在は美術館に勤務する傍ら、キュレーターやライターとして活動中。

「現代アートへの旅」バックナンバー
まず知っておくこと編―作品鑑賞を楽しむための4つのポイント

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