Lifestyleニイハオ、ザイチェン

上海の日常 ときどき アート|コラム連載 - ニイハオ、ザイチェン vol.6

上海滞在生活の日々を綴るコラム連載「ニイハオ、ザイチェン」。東コレデザイナー、海外での企画生産を経てアパレルメーカーのアジア展開を担当する佐藤秀昭氏の視点から中国でいま起こっていることをお届けする。第6回のテーマは「アート」。アートシーンにおいては日本の50倍以上の市場があるという中国。その中心地と言われている上海で開催されていた展覧会を中心に、日常で触れたアートを紹介する。

(文・佐藤秀昭)

— ADの後に記事が続きます —

 この駄文を綴っている3月25日現在、中国で無症状の人を中心に新型コロナウイルス感染者が相次ぎ、昨日の上海の新規感染者は2269名。ゼロコロナ政策を進める中国では震え上がる人数だ。多くの住居は48時間以上封鎖され、住人はほぼ毎日PCR検査を受けなくてはいけない状況となった。今は上海の誰しもが今までの日常を失い、その緊張の中で生きている。早々に小中学校の授業はオンラインに切り替えとなり、公園や動物園、美術館や映画館も次々と閉鎖され、楽しかった夢の国にも今は渡れない。

 さらに、中国国内の他都市から上海に入る場合は48時間以内のPCR検査の陰性証明が必要となり、中国の航空会社の国外から上海への直行便は5月1日まで停止となった。そのため、いつもは人で溢れかえっている観光地にも全く人がいない。10日ぶりの出勤の朝、そこには中野正貴の「TOKYO NOBODY」を彷彿とさせる、見たことのない上海があった。

 イベントも中止が相次ぎ、3月25日から予定されていた上海ファッションウィークも残念ながら延期となった。この週末も、3月から始まったばかりの「奈良美智展」を見に行く予定だったが、美術館が閉鎖されたため行けず。

 子曰く、郷に入れば郷に従え。こんなときはじたばたしても仕方ない。奈良美智の描く、視線が鋭いどこか反抗的な「少女」たちに逢いたかったが、今回は少し時を戻して、上海の日常で僕が触れたアートについて紹介したいと思う。

◇ ◇ ◇

チームラボ・ボーダーレス(EPSON teamLab無界美術館)

  お台場に次いで世界で2番目となる、2019年11月に開館した常設美術館、「チームラボ・ボーダーレス・シャンハイ」。

 館内に決まった順路はなく、境目のないボーダーレスに広がる世界を自分の意志で彷徨う。プロジェクションマッピングで表現された立体的な異空間の中、自分と世界との間にある境界、そして時間の連続性に対する認知の境界線などを感じることができる。まさにチームラボの掲げるコンセプトを体感できる展示だった。

 周りを見渡せば、映し出される色鮮やかな光の中で写真を撮る若い女性が非常に多い。中国のSNSの中でもチームラボの作品の投稿を見かけることが多く、そのSNS映えする作品群は中国のZ世代にも受け入れられていると感じた。

 また、上海で地下鉄の構内やモールのエントランスなど、誰もが目に触れられる場所でチームラボの数々のインスタレーションを目にすることができる。日常と非日常の境界線もそこにはない。

お台場のチームラボ常設展は今年終了へ:
ヴィーナスフォートや「Zepp Tokyo」が閉館、パレットタウンの再開発に伴い

ダニエル・アーシャム (天安千樹 1000TREES)

(会期:2021年12月22日~2022年6月16日)

 2021年12月にオープンしたイギリスの建築家トーマス・ヘザーウィックのデザインによる「天安千樹 1000TREES」では、そのオープニングの展示企画として、ダニエル・アーシャムの展示「コンテンポラリー・ルネッサンス」が行われていた。

 「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ハンティング・ワールド(HUNTING WORLD)」との協業や、ポケモンをアートピースに昇華させることで、世界中に名を馳せる彼の作品を間近、かつ無料で見られたことは非常に幸運だった。また、館内にはKAWSの作品もあり、このように上海では商業施設内で図らずもアート作品を目にする機会も多い。

ダニエル・アーシャムってどんな人?:
色覚異常の現代アーティスト ダニエル・アーシャムを紐解く20の質問

塩田千春(龍美術館)

(会期:2021年12月19日~2022年3月6日)

 2019年に六本木の森美術館でも開催されていた塩田千春の「The Soul Trembles/魂が震える」展が、「龍美術館(ロン・ミュージアム)」にやってきた。この美術館は世界的な美術コレクターである劉夫妻が私費を投じて、「西岸」というかつての工業地帯の埠頭に建設された上海のアートスポットの一つである。訪れてみると、塩田さんの展覧会が中国本土初上陸ということもあり入場制限がされるほど盛況だった。

・家から駅までの電車代 70円
・駅から美術館までの自転車代 30円
・妻へのお土産のポストカード 280円
・事前予約した美術館のチケット代 5000円

 チケット代は決して安くはないため、どのような人たちが来館しているかを見るのも個人的には美術館に来る一つの楽しみだ。来館者はファッションの文脈においてもカッティングエッジなZ世代も多かったが、思った以上に子連れや年配の方も多かった。

 天井が高く開放的なコンクリートの打ちっぱなしの館内に広がる、赤と黒の糸が紡ぐ美しさは写真には映りきらないし、言葉でも表現し切れない。僕が感じた赤と黒に彩られた死の香りと生の力はプライスレスだと思った。

◇ ◇ ◇

 中国の経済はコロナ禍において減速はしつつも、なおも成長を続ける。ことアートシーンにおいては日本の50倍以上の市場があり、その中心は100以上の美術館を有し、ビエンナーレや大きなアートフェアも開催している上海だと言われている。

 日々が動き、さらに未知の日常は進むが、この街でもパンデミックが1日も早く鎮静化し、すぐそこにあるアートに触れられる「普通の日常」が戻ることを望む。

星野源「日常」

佐藤 秀昭(Hideaki Sato)

群馬県桐生市出身。早稲田大学第一文学部卒業。在学中に、友人とブランド「トウキョウリッパー(TOKYO RIPPER)」を設立し、卒業と同年に東京コレクションにデビュー。ブランド休止後、下町のOEMメーカー、雇われ社長、繊維商社のM&A部門を経て、現在はレディースアパレルメーカーの海外事業本部に勤務。主に中国、アジアでの自社ブランド展開に従事。家族と猫を日本に残し、2021年9月からしばらくの間、上海長期出張中。

ニイハオ、ザイチェン メインヴィジュアル

前回記事では古着街を紹介:
上海に吹くサステナブルの優しい風|コラム連載 - ニイハオ、ザイチェン vol.5

最新の関連記事
Realtime

現在の人気記事

    次の記事を探す

    Ranking Top 10

    アクセスランキング