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なぜ文芸誌が再び“ファッション”を特集するのか? 「文學界」編集長に聞く、言語化する意義

聞き手&文佐々木エリカ

Image by: FASHIONSNAP

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 創刊90年超の文藝春秋の月刊文芸誌「文學界」が、「ファッションと文学 again」と題したファッション特集号「文學界」 2026年7月号を発売した。純文学作品をメインに掲載する同誌がファッションを特集するのは、2021年8月号に次いで2度目だ。文芸誌が今、なぜ再び「ファッション」を特集するのか。そして、ヴィジュアルが必要不可欠なファッションをあえて「言葉」で表現する意義とは何か。

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 その背景を探るべく、FASHIONSNAPは文學界の編集部を訪問。出迎えてくれたのは、「コトハヨコザワ(kotohayokozawa)」のプリーツトップスと「タナカ ダイスケ(tanakadaisuke)」のセットアップに身を包んだ、同誌編集長の浅井茉莉子氏と編集部統括次長の清水陽介氏だった。ファッション特集号の立役者として両号の企画・編集に携わったベテラン文芸編集者2人に聞いた、「ファッションと文学」の話。

(左から)「文學界」編集部統括次長 清水陽介氏、「文學界」編集長 浅井茉莉子氏

デザイナーの頭の中を“言語化”して見える景色を求めて

── そもそも、前回の「ファッションと文学」特集号はどのような経緯で企画されたのでしょうか?

清水:我々が作っている「文學界」は、文芸誌の中でも特集に重点を置いている雑誌です。もちろん文学の特集もしますが、ジャズやアート、オカルト、AIなど、文学以外のジャンルも扱っています。どんなものでも言語化されていない領域はあると思っていて、特にファッションに携わっている方々は、ご自身のクリエイションを言葉にする機会が少ないのではないかと感じていました。あれだけ豊かなイメージを持っている方々なので、それを言語化する作業は絶対に面白くなるだろうと考えたのが、企画の始まりだったと記憶しています。

── 清水さんご自身もファッションがお好きな中で、「言語化されていない」と感じることが多かったのでしょうか。

清水:そうですね。展示会でデザイナーさんとお話ししたり、シーズンのステートメントを読んだりしても、短く、ふんわりとした、あまり具体的ではない言葉が多いと感じていました。ですから、その方々の頭の中に見えている景色は一体どのようなものなのだろうかと。小説家の中にも、映像として見えているものを記述することで小説を創り上げていく方が多くいらっしゃいます。それは、ファッションデザイナーも同じではないかと思ったんです。

── 2021年に初のファッション特集号を出された際の反響はいかがでしたか?

清水:正直なところ、文芸誌の読者からは「面白いことをやったね」といった良い反応をいただいたのですが、ファッション業界の方々にはあまり届かなかったという実感でした。服飾学生の方たちなど、普段文芸誌を読まない層に手に取ってもらえたら嬉しいと考えていたものの、そこまでの手応えはありませんでした。

 作家の方々からは、「普段ファッションに興味はないけれど、読み物として面白かった」「あんな文章を書けるデザイナーがいるんだね」といった感想をいただきました。そもそも、私たちの雑誌はモノクロのざら紙で判型も小さいため、ヴィジュアルをほとんど載せられないという制約があります。そうしたハードルも、読者層を狭める一因になったのかもしれません。

教科書的ではない、歪さや過剰さという“特異点”を

── 第1弾の反響が予想したほどではなかった中で、今回「again」として第2弾を企画されたのはなぜですか?

清水:私が一度別の編集部に異動し、デスクとして「文學界」に戻ってきたのが昨年でした。その間に浅井が編集長に就任して。前回の特集は自分たちにとって面白い試みだったという自負はありましたが、読者に届けきれなかった部分など反省点も多くありました。そこで、「もう一度やりませんか」と持ちかけたのが今回のきっかけです。

浅井:前回は、朝吹真理子さんと村田沙耶香さんに「ユキ フジサワ(YUKI FUJISAWA)」の藤澤ゆきさんと一緒に服を作っていただく企画をやりました。そのときから何かグッズを作りたいとずっと考えていたのですが、予算の都合などで難しかったんです。今回はそのリベンジがしたいという思いもあり、「ストフ(STOF)」とのコラボレーションで文學界初のアパレルグッズを製作しました。

清水:グッズを作ることで、私たちが一方的にファッションを取材するだけでなく、読者の方々にも参加して雑誌を楽しんでもらえるのではないかと考えました。そのあたりは前回の反省を踏まえています。

── ストフとのコラボレーションはどのような経緯で実現したのでしょうか?

浅井:元々、私がデザイナーの谷田浩さんと知り合いだったこともあって相談したところ、「面白いからぜひやってみよう」と言ってくださって。デザインはほぼ全てお任せし、受注生産という在庫の残らない形式で、Tシャツとキャップ、バッグ、靴下を作っていただきました。私自身がストフの服を普段から着ているというご縁もありました。

文學界とストフのコラボグッズ

Image by: 文藝春秋

── 特集に登場するデザイナーの人選も、編集部の皆さんが元々注目していた方が中心なのでしょうか?

清水:直接存じ上げなくても、そのクリエイションに注目していた方が基本です。なので、専門家の方から見たら、かなり偏りのあるセレクションだと思います。

── 確かに、「ペイデフェ(pays des fées)」の朝藤りむさんのような方から、アンケート企画では中堅デザイナーたちの中に服飾学校を卒業してまもない新人デザイナーが入っていたりと、人選が非常に興味深いと感じました。

清水:例えば、アンケート企画「あなたにとって、ミューズとは?」への参加デザイナーはもう一人の編集部員を加えた3人で選んでいるので、それぞれの趣味性やマジョリティ志向、マイノリティ志向が反映されています。雑誌として一番つまらないのは、専門外だからといって教科書のようなバランスの取れたものを作ってしまうこと。歪(いびつ)さや過剰さといった“特異点”がないと面白くないと思っています。だからこそ、あえて偏りを強調したセレクションを意識しました。

「文學界」2026年7月号の目次

Image by: 文藝春秋「文學界」7月号

── 巻頭の朝藤りむさんと作家の小川洋子さんの対談は、どのようにして実現したのですか?

清水:前回の反省として、デザイナーの方に執筆をお願いしたところ、アウトプットにかなり差が出てしまい、ご本人たちにも負担をかけてしまった部分がありました。そこで今回は、まず人選をした上で「何ならできそうですか?」とご本人に相談する形をとりました。そのお一人が朝藤さんでした。

 朝藤さんにご相談したところ、一度「考えます」とおっしゃったのですが、別れて30秒後くらいに電話がかかってきて、「小川洋子さんに会いたいです。会えるなら何でもします」と。もちろん、小川さんが普段から特にファッションに興味があるわけではないので、どうしようかとは思いましたが、ご本人も「私がファッション特集に出る日が来るとは」と面白がって喜んでくださいました。実際にお会いすると、朝藤さんが本当に小川さんの作品を読み込んでいらして、作家にとっても熱心な読者と対面する機会は貴重なので、非常に盛り上がった対談になりました。


Image by: 文藝春秋「文學界」7月号

1人の少年の人生を変えた、吉田圭佑のエッセイ

── 文芸誌が「ファッション」を特集する上で、編集方針として重視していることを教えてください。

浅井:ファッション誌との違いは、やはり作家の方々が中心になるという点です。作家の中にもファッションが好きな方は多く、何かを「作る」という点では共通部分があります。デザイナーの言葉を引き出すと同時に、ファッションというテーマを語ってもらうことで、作家の方々のこれまで語られなかった創作に関する新たな一面を引き出せたらいいなと考えています。

 また、例えば対談であれば10ページといった長い紙幅を割くことができるのも、文芸誌という媒体の特徴です。ファッションというテーマを、普段私たちが使っている文芸誌のフォーマットに持ち込むこと自体が、他ではできない試みだと考えています。

── ヴィジュアルが重要な要素を占めるファッションを、あえて「言葉」で表現することの意義とは?

清水:これは私たちの仕事の信念ですが、ファッションに限らず、世の中のあらゆる事象は言語化する努力をすべきだと考えています。自分の言葉で考え、記述することで、世の中の暴力的なストーリーに絡め取られない「個」を確立することができる。言語化しない方が美しい場合もあるかもしれませんが、私たちの役割は、あらゆるものを言語化していくことだと理解しています。

浅井:そして言語化したからこそ、そこからこぼれ落ちるものもまた見えてくる。ファッションの場合は特に、そこからまた「服」という実物に戻っていける楽しみ方があると思います。

── その「言語化する」ことへの強い思いは、今回の誌面づくりや編集スタンスにどのように反映されているのでしょうか?

清水:第1弾では、ヴィジュアルがないと読者に手に取ってもらえないのではないかという不安が捨てきれず、少しヴィジュアルに頼った部分がありました。それはそれで美しい企画にはなったのですが、一方でまだ踏み込めていないところがあると感じてもいて。ですから、今回は「言葉で構成するものにしたい」という思いがまずありました。

「文學界」2021年8月号巻頭のヴィジュアルページ

Image by: 文藝春秋「文學界」2021年8月号

 もう一つは、「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」デザイナーの吉田圭佑さんの存在です。前回、何人かのデザイナーにエッセイをお願いした中で、彼は異常な密度で、深く自身と向き合った文章を書いてくれました。そのエッセイを読んだ、不登校だった高校生の男の子が吉田さんのもとを訪ねてきたそうです。そして吉田さんは、その彼を次のシーズン(2023年秋冬)のランウェイモデルに起用しました。吉田さんが書いた言葉が、誰かの胸に届き、新たな物語が生まれた。言葉の力を目の当たりにした彼に、もう一度書いてもらいたいという強い動機があり、今回再びロングエッセイを執筆していただきました。

浅井:前回の特集では、「ファッション雑誌の真似事になったら格好悪いから、文芸誌らしく作らなければ」と少し肩肘を張っていた部分があったかもしれません。今回は2回目ということもあり、もっと自由に、気楽にやってみようという気持ちで向き合いました。

── 今回は作家だけでなく、魚豊さんやコナリミサトさんといった漫画家の方も登場されていますね。

浅井:元々「文學界」に登場するのは作家に限りません。話すべき言葉を持っている方であれば、さまざまなジャンルの方にご登場いただいています。例えば、漫画家の魚豊さんは、FASHIONSNAPのベストバイのインタビューを拝見して、ご自身の言葉でファッションを語れる方だと感じ、デザイナーの方とお話しいただいたらどうだろうかと依頼しました。文芸誌だからという枠にこだわらず、「この特集でしかありえない組み合わせ」を意識しています。

雑誌は、新たな出会いと創作が生まれる「場」

── 2回のファッション特集を経て、何か新たな発見や気づきなどはありましたか?

浅井:普段は作家の文章を読み、作家と会うことがほとんどです。そのため、文学以外の領域でものを考えて作っている方々の濃厚なお話を聞くこと自体が、私たち編集者にとっても刺激になりました。登場してくださった作家の方々や、文學界を読んでくださっている方にとってもそうであるといいなと思っています。雑誌というのは、普段出会わないものが出会う「場」であってほしい。今回はそれを自分たちも楽しみながら誌面にできたと感じています。

清水:雑誌を作るとき、自分たちに何が還元されるかということはあまり意識しません。むしろ、登場してくださった方々に何か新しいことが起きてほしいと思っています。例えば、今回の小川さんと朝藤さんの対談をきっかけに、朝藤さんが「いずれ小川さんを巻き込んだコレクションを作りたい」と話していました。このように、登場してくださった方が新たなクリエイションのきっかけを得てくれることが、編集者として一番嬉しいことです。

 実際に、吉田さんがブランドのタブロイド誌の発行を始められたり、前回執筆していただいた他のデザイナーの方々の中にも、その後のコレクションのステートメントの長さや書き方が明らかに変化した方をお見かけしたりもしました。そういったことはやはりすごく嬉しいですし、編集者冥利に尽きますね。

── 今後、第3弾の可能性はありますか?

清水:どうでしょうか(笑)。弊社は人事異動が多いので、そのときに「やりたい」というメンバーがいれば、あるかもしれません。この企画は、我々2人だからこそ実現したという側面が大きいので。

── 最後に、今号に興味を持った読者に向けてメッセージをお願いします。

浅井:ファッションも文学も難しく捉えられがちですが、この2つを掛け合わせることで生まれる新しい楽しみ方を見つけてもらえたら嬉しいです。誰もが毎日服を着るように、誰にとっても関係があるテーマだと思うので、新しい視点を発見するきっかけになればと思います。

清水:ファッションが好きな人は、おのずとファッションのことは見ると思います。でも、面白いことは自分の専門外の領域にこそたくさんある。この特集が、文学に限らず映画でも何でも、他のジャンルへの入り口になってくれると嬉しいです。そうして刺激的なデザイナーがもっとたくさん生まれれば、私がまた新しい服を買えるという良い循環になると思います。

浅井:それは文学好きや作家のみなさんにとっても同じですね。この特集をきっかけに、ファッションの世界にいる面白い作り手を知って、楽しんでほしいです。

photography: Katsutoshi Morimoto (FASHIONSNAP)

最終更新日:

聞き手&文・佐々木エリカ

Erika Sasaki

FASHIONSNAP 編集記者

埼玉県出身。早稲田大学国際教養学部卒業後、国内大手アパレルメーカー、ケリング傘下ブランドのMDなどを経験した後、2023年にレコオーランドに入社。現在はウィメンズのデザイナーズブランドを中心に、サステナビリティやSDGs、教育分野も担当。ファッションやカルチャーに加えてジェンダーや社会問題にまつわるトピックにも関心があるため、その接点を見出し、思考や議論のきっかけとなるような発信をしていけたらと願っている。

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