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Fashion インタビュー・対談

「ダンヒル」のコラボ相手に抜擢、 写真家・小林健太が見出す"歪み"の中にある本質

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 写真とは何か、本質とは何か—— 湧き上がる探究心と独自の哲学で写真と向き合う若手写真家の小林健太。今年6月、マーク・ウェストン(Mark Weston)が手掛ける英国老舗メンズブランド「ダンヒル(dunhill)」が発表した2020年春夏コレクションに、小林が制作したグラフィックを用いたピースが登場した。写真にデジタル加工を施す手法を得意とする小林が、"歪み"の中に見出した本質とは。ダンヒルとのコラボレーションを振り返る。

―コラボレーションの経緯

を教えてください。

 2年前にロンドンで作品を展示する機会があり、その時からデザイナーのマークさんが気にかけてくれていたようです。今年の2月頃にブランドの担当者の方からメールで連絡を頂いてこのプロジェクトがスタートしました。

―今回のコレクションで制作したアートワークはどういったものですか?

 ブランドのアーカイブから起こした作品と、ダンヒルの銀座と大阪の店舗を撮影し、編集を加えた2パターンを制作しました。ランウェイで使われたのはアーカイブからの作品です。マークさんから送られてきたムードボードをベースに作品を作り、ビデオミーティングやメールなどで細かな部分を調整しながら仕上げていきました。

―直接会ったのはいつだったのでしょう。

 ショー前日のパリのスタジオでお会いしたのが初対面で。マークさんはとてもショー前とは思えないほど落ち着いた様子で、コレクションについてしっかり説明してくれました。その時初めて、自分の作品が服となって出来上がった形を見ました。

―自分の作品を実際にモデルがまとっている姿を見ての感想は?

 初めて生でランウェイショーを見たのですが、会場の作りからライティングまで、まるで一つの映画のセットのように感じました。マークさんの世界観の中で作られた物語の中に自分の作品が組み込まれているというような不思議な感覚でしたね。

―プロジェクトを通じて、新たな気づきはありましたか?

 ファッションならではの素材と素材をどう組み合わせて仕立てていくのか、という点はアートワークに通ずる点だと思いました。僕が関わってきた写真をベースとした作品は、イメージをどれだけいじったとしても、四角という枠と使う素材がだいたい決まっていたのですが、その考えに捉われず、形や素材に対しての表現手段の可能性がグッと広がったような気がします。

―コラボの話を持ちかけられた時、ダンヒルというブランドにどういった印象を持っていましたか?

 スーツなどかっちりとしたクラシックなイメージがありましたが、マークさんがデザイナーになってからは時代に即して新しいことにも挑戦しているブランド、という印象を持ちました。実際に過去のコレクションのコンセプトなど説明を受ける中で、ブリティッシュという軸を持ちながら、新しいスタイルを積極的に取り入れているということが明確に伝わってきました。

―ダンヒルとご自身との共通点はありましたか?

 マークさんの表現の中に、前回は「東洋と西洋」、今回は「クラシックとデジタル」というような相反する要素が存在していて、それを掛け合わせることでコレクションに奥行きを持たせていると感じたんです。僕ももの作りにおいて「陰と陽」の視点を取り入れることがあるので、共通点を見出せました。

―今回のコレクションのテーマは「クラシシズムの破壊」。どう解釈しましたか?

 老舗ブランドのファッションデザイナーが取り組んでいることというのは、ブランドが持つ歴史や文脈からなるコードに則りながらも、それを更新していくということなのかなと。「破壊」という表現を使ってはいますが、全くの"無"にするという意味ではなく、ブランドに脈々と受け継がれてきた伝統的なものと、デジタルだったりデータという新しいものを衝突させる、という行為が破壊的であるのであって、両者が重なる部分を"歪み"という見え方で表現したかったのだと思います。なので、アーカイブのイメージは、あえてデジタルな印象が強調されるよう、直線的なラインや色の濃度の強さを意識しました。

3年前のインタビュー時と比べて。変化は?

 作品のスタイルは変わっていませんが、自分を取り巻く環境は変化したように思います。作品作りにおいては、「ナラティブ=物語性」の視点を常に考えるようになりました。「自分にとっての写真」だったり、「マークさんにとってのファッション」といった、個々がまとっている物語を交流させていく、というところに面白みを感じていて。今回の試みもハイブランドのデザイナーと湘南に住んでいるアーティストという全く異なるバックグラウンドを持つ2人がパリで初めて出会う、という実験的で今っぽいシチュエーションですよね。ランウェイで披露されたあのコレクションがそういった背景を含め、一つの物語を表現しているんだな、と感じるんです。

【関連記事】若き写真家の肖像 -小林健太-(2016年1月掲載)


―前回「写真は『虚構』。実物とイメージのズレに面白みを感じている」とおっしゃっていました。写真観について変化はありましたか?

 「写真とは何か?」という問いは、今も継続して考えてはいますが、もっと俯瞰して捉えることができるようになった気がします。「写真」という言葉は文字通り、「真(まこと)を写す」ということなんですが、西洋の"光を書き出す"という意味の「Photograph」という単語とは少し違った見方を提示している。「絵画」や「彫刻」という言葉とは異なるニュアンスで「真とは何か?」という、人が普遍的に探求する本質的な命題を放っているのが面白くて。

 写真という言葉自体が翻訳の中で生じたズレ、つまり"歪み"を持っていますよね。自分が写真と向き合う中であらゆる種類の"歪み"や異なるもの同士の重なり、揺れ動くものにこそ「真」が現れているのかな、と。僕が作品制作を通して行なっているのは、そういった「真とは何か?」を探求する旅のようなものなんです。なので「アーティスト」というより「写真家」という言葉で自分の活動を捉えています。

―今後の活動や将来挑戦したい表現方法など教えてください。

 11月から群馬のrin art associationで個展を行い、来年には写真集を出す予定です。新しい分野としては、映像にも挑戦してみたいですね。あと今、体の扱い方や"気"といった東洋的な考えを学んでいて身体表現に興味があるんです。それはある種、人体こそが「真」を映し出すカメラみたいなもので、世界を観測して表現するための一番大事な媒体である、という考えのもとに作品を作りたいと思っていて。

 結局の所、ファッションもアートもテクノロジーも、本質的には空間と時間と人体の関係性の在り方の扱い方というところに全てのクリエイションは収束していくと思うんです。その3軸をどう設計して面白く遊んでいくか、といったことを考えながら、今後も作品作りに向き合っていくんだと思います。今回のコラボレーションで、素材や形、イメージと体の在り方などたくさんのインスピレーションを受けたので、それらを反映させながら新しい見せ方にもチャレンジしていきたいです。

(聞き手:今井 祐衣)

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