ケンゾー 2023年秋冬コレクションのショー&パーティー
Image by: KENZO / Koji Hirano
衝撃のデビューより、はや一年。新アーティスティック・ディレクターNigo(ニゴー)による「ケンゾー(KENZO)」が、3シーズン目となる2023年秋冬コレクションを発表。過去2シーズンと同じく"REAL-TO-WEAR"というコンセプトに徹しながらも、新しいケンゾーの一面を覗かせた。パリで開催されたランウェイショーと盛大なアフターパーティーから、ケンゾーが現代にどのように受け入れられ、なぜ多様な文化のコミュニティから支持を得ているかを紐解く。
ザ・ビートルズの名盤がタイトルに
会場となったのはパリ8区のサル・プレイエル。1927年に開業し数々のクラシックオーケストラの公演が行われてきた由緒あるコンサートホールだ。ランウェイとなった2階のステージはケンゾーを象徴する赤で覆われており、中央にはグランドピアノを設置。その周囲にも椅子が置かれ、舞台と客席を一体化させるユニークな会場デザインとなっている。
客入れ中のBGMとして聴こえてきたのは「RYDEEN」や「FIRECRACKER」といったYMOの楽曲で、ショーの9日前に逝去した高橋幸宏氏を追悼。同氏は特に70年代、ケンゾーを愛用していたそうだ。
「The White Album」と添えられたコレクションタイトルは、英国を代表するバンド、ザ・ビートルズの9枚目のセルフタイトルアルバム「The Beatles」の愛称に由来する。二枚組の同作は、白い素地にバンド名がエンボスされシリアル番号が振られただけのミニマルなアートワークのため、そう呼ばれるようになった。アルバムとして一貫性があるというよりは、様々な曲調を詰め込んだベスト盤的な作品であり、「今回のコレクションと重なるところがある」と、前日に行った取材でNigoは語っている。
袴パンツやモッズスーツ、日本と英国からの引用
BGMが止み、ステージに姿を現したのは、クラシックのテクニックで洋楽アーティストの楽曲をカバーする日本のグループ「1966カルテット」。ザ・ビートルズの「Help」のメロディーが奏でられ始めると、ショーのオープニングとして登場したのは日本人モデルのUTA。作務衣のディテールを落とし込んだジャケットと袴のようなワイドパンツのセットアップに身を包み、頭にはイギリスらしいメルトンのベルハットを被っている。
今回のコレクションもNigo自身が所有する膨大な衣服アーカイヴから多く着想を得たといい、60年代のモッズ風3つボタンスーツやタータンチェック、アノラックパーカーやジャージなど、随所にイギリス文化からの引用が見られる。ハンティングジャケットや、Nigo就任以来初のコラボレーションである「ハンター(HUNTER)」のブーツはカントリームードを加速させ、また同氏が影響を受けてきたという故ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)のパンク精神も感じられた。初登場のスニーカーにも注目だ。
ハンターとのコラボブーツ
Image by: KENZO
モダンに蘇る高田賢三のレガシー
創設者 高田賢三のレガシーへの敬意も忘れることはない。メゾンのアイコンとなったボケフラワーは、バンドThe Whoのターゲットグラフィックを模して登場し、アーカイブから引用した80年代のブロークンストライプ、イギリスの国花であるローズのプリントはコレクションを鮮やかに彩る。高田賢三が初めてパリで構えた店舗「ジャングルジャップ」のオープン年である1970という数字は、ワッペンとしてスタジャンやケープに配された。ティアードとフリルのスリップドレスも、80年代の高田作品へのオマージュだ。
前述の作務衣の他に、法被や剣道着、刺し子など、日本の伝統を引用しつつもモダンにアレンジ。日本製のデニムは、そのバリエーションの多さから力の入れようが伝わってくる。
最後に「All You Need Is Love」の楽曲が響きわたる中、計60ルック総出のフィナーレへ。モダンブリティッシュを柱としながら多様な年代とカルチャーがマッシュアップされた、まさにベスト盤のコレクションであった。
音楽、ファッション、多彩なゲストが集うパーティー
ショーが終わると、1階のホワイエがアフターパーティの会場へと変貌。特設ステージではラッパー リル・ベイビー(Lil Baby)によるライブパフォーマンスが、ケンゾーキッズらが集う満杯の会場を沸かせた。
この日、特に印象を残したのはファッションと音楽の強い結びつきだ。Nigoの盟友であるファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)をはじめ、プッシャ・T(Pusha T)、トロイ・シヴァン(Troye Sivan)など、著名音楽プロデューサーから若手ミュージシャンまで豪華ゲストが集結。来場したロンドン出身のシンガー アーロ・パークス(Arlo Parks)は、ケンゾーの印象について「Nigoによるケンゾーはクリエイティビティの爆発。若々しい色使いや表現力で、ブランドに新しいエネルギーを吹き込んでいるね」とコメントした。
動画クリエイター・モデルとしてマルチに活躍するkemioは「特にニットやデニムが可愛くて好きです。今日のゲストを見れば一目瞭然ですが、世代を問わず周囲を巻き込んでいくNigoさんの力はすごいですね。みんなで一つのクリエイションを作り上げている感じがします」と話す。モデル・俳優の大平修蔵は「ロゴモチーフを自在に操りながら、ロゴがなくともケンゾーだとわかるシンプルで大胆なデザインが僕ら世代に刺さっているのだと思います」と、Z世代への影響力について触れた。
kemio
Image by: Koji Hirano(FASHIONSNAP)
大平修蔵
Image by: Koji Hirano(FASHIONSNAP)
井上ヤマト
Image by: Koji Hirano(FASHIONSNAP)
高橋らら
Image by: Koji Hirano(FASHIONSNAP)
父の影響でクラシックやザ・ビートルズを聴いて育ったというモデル・DJの井上ヤマトは「ショーミュージックに興奮しました。Nigoワールドに吸い込まれていくような感覚でしたね」と高揚感に包まれたランウェイを振り返る。ショーモデルを務めたUTAは「ファーストルックで出ると伝えられたのはリハーサル直前! 光栄でしたがリハーサルではうまく息もできないほどに緊張して。でも本番では良い緊張感に変わって、歩いていて気持ち良かったです」と、安堵の表情を見せた。
UTA
Image by: Koji Hirano(FASHIONSNAP)
Nigoがアーティスティック・ディレクターとして参画してから2年目。時代や文化のミクスチャーが幅広い世代を惹きつけているようだ。ケンゾーの今とこれからを示すように、熱気に満ちた一夜となった。
photo: KENZO / Koji Hirano
text: Ko Ueoka
composition & edit: Chiemi Kominato (FASHIONSNAP)
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