

ロンドンのファッションシーンに、活気が戻りつつある。2027年春夏シーズンのロンドンファッションウィーク(London Fashion Week、以下LFW)は、9月17日から21日までの5日間にわたって開催され、47のショーと23のプレゼンテーションが行われた。英国ファッション協議会(BFC)によると、認定バイヤーの来場者数は前年比19%増(うち海外バイヤーは同41%増)を記録。国内外からの関心が再び高まっていることをうかがわせた。
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ロンドンの注目トピックス
今季の見どころとなったのが、英国の老舗バッグブランド「マルベリー(Mulberry)」から誕生した、クリストファー・ケイン(Christopher Kane)が手掛ける新ライン「マルベリー バイ クリストファー・ケイン(Mulberry by Christopher Kane)」のデビューショー。2023年に自身のブランドで最後のショーを開催して以来、ランウェイから離れていたケインの本格復帰に、会場は祝福ムードに包まれた。
また、「マックイーン(McQUEEN)」は、ブランドの原点であるロンドンで2001年以来25年ぶりにLFWの公式スケジュールに復帰。しかし、会期終了後にはクリエイティブディレクターのショーン・マクギアー(Seán McGirr)の退任が発表され、結果的に今回が彼の手掛ける最後のコレクションとなった。
こうした復帰や新たな船出が話題を集める一方、ロンドンのファッションシーンを支えるブランドの成熟も、今季の見どころとなった。創業20周年を迎えた「アーデム(ERDEM)」と、独自のロマンティシズムを追求してきた「シモーン ロシャ(Simone Rocha)」は、それぞれが築き上げてきた美学を土台に、独自の世界観を豊かに広げ、表現を更新し続ける姿勢を印象づけた。170周年の「バーバリー(BURBERRY)」は、ランウェイに加え、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)でトレンチコートの歴史をたどる展覧会「The Burberry Trench: Crafting an Icon」を開催し、ブランドの文化的価値を発信した。

ヴィクトリア&アルバート博物館で開催された「The Burberry Trench: Crafting an Icon」
Image by: Burberry
新世代の存在感も増している。若手サポートプログラム「NEWGEN」では、今年のLVMHプライズのファイナリストに選出された「ペトラ ファガーストローム(PETRA FAGERSTRÖM)」をはじめ、「フランチェスカ レイク(FRANCESCA LAKE)」「エー レター(A LETTER)」「リザ キーン(LIZA KEANE)」らが初のランウェイショーを披露した。また、今季からドーバー ストリート マーケット パリ(Dover Street Market Paris)の支援を受ける「ポーリン・デュジャンクール(PAULINE DUJANCOURT)」は、持ち前の繊細で詩的な表現をそのままに、ものづくりの精度を一段と高め、コレクションの完成度を大きく引き上げた。今年「オールセインツ(AllSaints)」のクリエイティブディレクターに就任したアーロン・エッシュ(Aaron Esh)による「アーロン エッシュ(Aaron Esh)」は、ライブハウスを舞台にショーを開催。「オン(On)」とのコラボレーションも発表し、勢いを感じさせた。

ポーリン・デュジャンクール / アーロン エッシュ
日本から参加した「トーガ(TOGA)」は、「ACCLIMATISATION, ADAPTATION, LIBERATION(順応、適応、解放)」をテーマに、デザイナーの古田泰子が酷暑のパリで目にした肌の露出が多い装いと、高温多湿な東京でも重ね着をする人々のスタイルを融合。スポーツウェアの機能性とレイヤードを掛け合わせ、変化する気候に対応した洗練されたワードローブを提案した。夏の猛暑が深刻化するヨーロッパでは、暑さを前提とした軽やかな服づくりが、ミラノやパリにも共通する今季の大きな流れとなっている。
目次
BURBERRY
ダニエル・リー(Daniel Lee)が手掛けるバーバリーは、1960〜70年代に名を馳せたテキスタイルアーティストのセリア・バートウェル(Celia Birtwell)とコラボレーション。ブランドのヘリテージに、手仕事ならではの温もりや不完全さの美しさを重ねた。象徴的なハウスチェックはギンガムチェックやストライプへと姿を変え、花柄や顔のモチーフを添えることで、柔らかな表情を獲得した。これらのモチーフはプリントにとどまらず、ジャカードや刺しゅうへと展開され、コレクションに豊かな表現をもたらしている。



軽やかなシルクタフタを用いたトレンチコートやレインウェア、ドレスには、ブランドらしい機能美と軽快さが共存。洗いをかけたシルクやコットンには着込まれた衣服のような風合いを持たせた。さらに、ベルトやエポレットといったトレンチコートの象徴的なディテールをトロンプルイユで表現するなど、伝統的なクラフツマンシップと現代的な感性を融合。ランウェイにはラッパーのセントラル・シー(Central Cee)も登場し、会場を沸かせた。
ERDEM
米テキサス州出身の女装パフォーマー、バルベット(Barbette)を今季のミューズに据え、歴史的な円形劇場ラウンドハウス(Roundhouse)でショーを披露した。1920年代のパリで空中ブランコの名手として活躍したバルベットは、ジェンダーの境界を超えた美しさで人々を魅了し、ジャン・コクトー(Jean Cocteau)やマン・レイ(Man Ray)にも影響を与えた人物。舞台衣装に着想を得たフェザー使いのドレスや、ブラジャーやショーツなどのランジェリーを取り入れたテーラリングを通じて、フェミニンとマスキュリンの対比を探求した。



継続する「バブアー(Barbour)」との協業では、ワックスドコットンによるバブルシルエットにフレンチジャカードを組み合わせ、実用性と装飾性を融合。歴史の表舞台では語られてこなかったクイアカルチャーの記憶を現代的なエレガンスへと昇華する、アーデムらしい美学が結実したシーズンとなった。
Simone Rocha
6月にはピッティ・イマージネ・ウオモ(Pitti Immagine Uomo)のゲストデザイナーとして初のメンズ単独ショーを開催し、ロンドンでは久しぶりにウィメンズのみでショーを構成した。着想源は、カラヴァッジョの絵画「キリストの捕縛」。アイルランド・ダブリンの邸宅で長年、別の画家の作品として飾られ、1990年代に再発見されたという逸話から、日常に潜む思いがけない美しさに目を向けた。



ワークジャケットをオペラコートのような優雅なシルエットに仕立て、実用的なアイテムにロマンティックな要素を織り込む。折り返した襟の裏にはバラのコサージュを忍ばせ、下着をあえてのぞかせるなど意外なディテールを随所に散りばめ、官能性と親密さを漂わせた。
McQueen
長年にわたるパリでの発表から、今季はブランドの原点であるロンドンへと戻り、街の反骨精神と宗教画の神聖な世界観を重ね合わせた。着想源は、ピエロ・デラ・フランチェスカ(Piero della Francesca)の絵画「キリストの洗礼」に描かれた天使と、ロンドンのレイブカルチャー。モデルたちは悪魔の角を思わせるヘアスタイルで登場した。サヴィル・ロウの老舗「ハンツマン(Huntsman)」との協業による端正なウールスーツに加え、くすんだチュールを身体に巻き付けたようなドレスや、アイコニックなスカルモチーフをクロシェ編みで表現したドレス、銀色の葉の装飾を散りばめたダイナミックなドレスなど、多彩なルックが披露された。



さらに、創業者と縁の深いジュエリーデザイナーであるショーン・リーン(Shaun Leane)によるハーネスや、アーカイブジュエリーの復刻も。クチュールを思わせる刺繍や精緻なテーラリングなど、一着一着の完成度は高い。しかし、マックイーンに期待される、既存の美意識を覆すような革新性や、見る者の感情を揺さぶる表現には、今一歩届かなかった印象が残る。マクギアーの退任が発表された今、神話化されたブランドを継ぐことの難しさを改めて感じさせる。
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