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グレン・マーティンスが手掛ける「メゾン マルジェラ」の序章 マルタンの哲学を現代に

2026年春夏「Co-ed」コレクション

Image by: Maison Margiela

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グレン・マーティンスが手掛ける「メゾン マルジェラ」の序章 マルタンの哲学を現代に

2026年春夏「Co-ed」コレクション

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 白い布に囲まれたショー会場で、小さな音楽家たちの不揃いな音楽が響く中、異様な表情のモデルたちが登場した。よく見ると、口元に4本のステッチが施されている。7月の「アーティザナル」コレクションに続く今回の2026年春夏「Co-ed」コレクションで、グレン・マーティンス(Glenn Martens)による新生「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」の輪郭が、よりリアルに浮かび上がってきた。

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匿名性を示す4本ステッチのマウスピース

 今回のショー会場は、パリ19区に位置する文化施設「サンキャトル(The Centquatre Paris)」。2008年にマルタン・マルジェラが最後のコレクションを発表した場所であり、また今年7月、グレンによる新たなメゾン マルジェラが始動した2025年「アーティザナル」コレクションの開催地でもある。アーティザナルは薄暗い地下階のショーだったが、今回は一転して地上階の明るいホールが会場となった。

 ショーの始まりとともに、会場内のステージに上がったのは子どもたち。7歳から15歳までの61人がオーケストラを形成した。音楽学校に通い始めてわずか2ヶ月の子どもも含まれているという、彼らの純真無垢な演奏に、観客から思わず笑みがこぼれる。そんな中で登場したモデルたちの、一様に固まった表情に目が止まった。開いた口元に見える4本のステッチは、シルバーのマウスピースによるもの。アーティザナルではモデルの顔がマスクで覆われ匿名性が強調されていたが、今回も違った形でそのコンセプトが打ち出されていた。

"メゾン マルジェラとは何か"に立ち返る

 前任のジョン・ガリアーノ(John Galliano)は近年、ストーリーテリングな発表形式をとっていたため、「Co-ed」コレクションがランウェイショーで発表されるのは2年ぶり。新任のグレンは、最初のプレタポルテの発表で、創設者であるマルタンの哲学を継承し"メゾン マルジェラとは何か"に立ち返るようなクリエイションを見せた。

 注目のファーストルックは、メゾンのコードを再解釈したロングコートとパンツ。新たなテーラリングの提案として、ダーツによって丸みを持たせたショルダー構造と、ソケット(肩関節)のラインに沿って形作られたアームホールが特徴だ。襟は排除され、Vゾーンが強調されている。また、メゾンのスタッフが着用している白衣をレザーやデニムに応用。白衣はクチュリエのユニフォームでもあり、アトリエの服作りへの敬意を感じさせた。

 マルタン時代を象徴するVネックと、コットンの紐で結ぶ仕様は、シャツやアウター、ドレスといった多くのアイテムに用いられた。シャツやトレンチコートは、前身頃の切り替えに沿ってドレープした襟を内側に折り込むことでVゾーンが現れる。裏地が反転したかのように、テーラードスーツを薄手のシルク素材で完全に覆ったスタイルは、ミステリアスなムード。

 ウエストコートをドッキングしたアウターに見られるトロンプルイユ(だまし絵)の技法は、メゾンの美学を継承している。パーマネントイヴニングウエアの提案では、タキシードジャケットの首元にシルクスカーフを固定し、そこにハサミを入れてラペルを露出。多くのパンツは股上が極端に深く、マルタンのレファレンスを再解釈した。

フローラルモチーフとデニムの応用

 特徴的なモチーフとして、アーティザナルで提案されたフローラルパターンが落とし込まれた。16世紀の壁紙から引用した花柄がドライバーズニットを覆い、壁紙が剥がれかけたような効果を生んでいる。シルクドレスに施されたスカーフプリントは、ドレープに沿って効果的に配置された。

 テーピングのディテールもマルタンのアーカイヴで、シルクフローラルドレスの上からビニルテープでボディを形作るなど、相反するテクスチャーを融合させている。アーティザナルで発表されたPVCドレスは、PVCのクロシェ編みによる半透明のトップスに。また"可塑化"の技術が、アップサイクルジュエリーのトップスや、レインウエアに変容したシルクジャケットに見られた。

 "アンチモード"の精神を受け継ぎつつグレンらしさが感じられたのは、デニムの応用だ。マルタンのシルエットを踏襲したドレスをはじめ、ウエスト部分にビニルテープを巻いたダメージジーンズなど、あらゆるアレンジでランウェイに登場。"エイズTシャツ"と同様の手法でフローラルのハンドペイントを施したTシャツに、ジーンズをアップサイクルしたエプロン型のスカートを合わせるという、一見するとカジュアルな装いも。

フットウェアとアクセサリーの進化

 フットウェアでは、アーカイヴのヒールレスシューズがパンプスやウエスタンブーツ、ロングブーツに拡大。プレキシヒールもマルタンのレファレンスを引用している。「タビ」クロウはプレタポルテでデビューしたポインテッドのタビパンプス。復刻した「フューチャー」スニーカーは、ハイトップがワイドストラップに置き換えられ、スニーカー全体を包むように進化している。

 アクセサリーでは、グレンが手掛ける最初の新作バッグとして「ボックスバッグ」が登場。ソフトレザーを使用し、サーモフォーミング技術で強化されたエッジが特徴だ。オペラの座席の脇にこぼれ落ちたジュエリーを拾い集めたイメージの「クラスタージュエリー」はデコラティブな輝きを、また透明の樹脂で閉じ込めたジュエリーは儚さを宿している。

 独創的で強いインパクトを残したアーティザナルから、現代のリアリティに落とし込んだプレタポルテまで。グレンの柔軟な手腕が示されたファーストシーズンとなった。メゾンの根幹であるアーカイヴの再構築は、グレンにとってまだ序章に過ぎないとも言える。マルタンの哲学を継承しながら、いかに進化させていくのか。今後の展開こそが、新生メゾン マルジェラの幕開けとなるのかもしれない。

Maison Margiela

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最終更新日:

FASHIONSNAP ファッションディレクター

小湊千恵美

Chiemi Kominato

山梨県出身。文化服装学院卒業後、アパレルデザイン会社で企画、生産、デザイナーのアシスタントを経験。出産を経て、育児中にウェブデザインを学びFASHIONSNAPに参加。レコオーランドの社員1人目となる。編集記者、編集長を経て、2018年よりラグジュアリー領域/海外コレクションを統括するファッションディレクターに就任。年間60日以上が出張で海外を飛び回る日々だが、気力と体力には自信あり。

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