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マメ クロゴウチは第2章へ、「制服」を通して見出すファッションスタイルとは

文・芳之内史也

2027年春夏コレクション

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

2027年春夏コレクション

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2027年春夏コレクション

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 パリの喧騒のなか、静かに響き渡った「何かを書く音」。鉛筆が紙を走る摩擦音は、学生時代の景色を想起させると同時に、ブランドの新たな物語のページがめくられる瞬間を象徴しているようだった。

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 黒河内真衣子が手掛ける「マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)」が発表した2027年春夏コレクションは、創設から16年目を迎える同ブランドにとって、次なるフェーズへ突入する記念碑的なコレクションである。ブランドの第2章と位置付ける今季、提示されたテーマは「Uniforms(制服)」だ。

私小説から「集団の記憶」へ

 マメ クロゴウチのクリエイションはこれまで、黒河内自身の私的な記憶や、日常の些細な機微を咀嚼して普遍性へと繋げるアプローチが真骨頂だった。しかし第2章の幕開けとなる2027年春夏コレクションにおいて、彼女の眼差しは自身の内面から、無数の他者が共有する集団の記憶、すなわち社会的な「客観」へと開かれた。

 近代哲学の祖であるイマヌエル・カント(1724〜1804年)は「認識が対象に従うのではなく、対象が認識に従う」と説き、客観的だと信じている世界は、実は人間の主観的な認識の枠組みを通して構成されていると主張した。この哲学的命題は、今季のテーマである「制服」というコードの本質と重なる。制服は本来、没個性的で画一的な客観的ルールの象徴であるが、それを身にまとう者たちは、日々の着用という反復のなかで、プラスチックカラーを外したり、パンツをボンタンに変えたり、ウエストを折り曲げミニスカートのようにしたり、ソックスをルーズにしたりとその客観的な枠組みに自らの主観を介入させ、独自の着こなしを構築していくのである。

 黒河内は制服を着るという行為に、日本の工芸世界に見られる「うつし(写し)」の精神を重ね合わせている。過去の型をなぞる反復行為の中で、担い手の身体性や感覚、時間の差異がわずかに滲み出る「うつし」の美学。それは、記号性を持つ客観的な型を繰り返すことで、逆説的に主観的な個性が創出されるプロセスに他ならない。製作にあたり、黒河内は森伸之の「東京女子高制服図鑑」や「制服図鑑通信」といった書籍を通じ、日本の制服の歴史を深くリサーチ。時代によって移り変わるパンツのシルエットや着続けることで柔らかさを持つようになる学ランの襟元など、ミクロな視点で採集された主観性が、今季の核となっている。

「チェックへと移ろう」テキスタイル

 ショーは、学校生活の1日の移ろいを追体験するかのような構成で展開された。音楽家の日野浩志郎が書き下ろしたオリジナル楽曲は、朝から夕方へと移ろう時間帯の中での、奔放さと緊迫感、学びと遊びという二つの相反する要素を、経糸と緯糸のように編み上げ、空間を支配していた。

 ランウェイの序盤を飾ったのは、日本の学ランを再解釈したコートやジャケット。スタンドカラーはマメ クロゴウチ独特の”マメカーブ”で描かれ、学ランのプラスチックカラーではなく柔らかな素材をレイヤードすることで着やすさに配慮した。また、今季を象徴したのが、無地がチェックへと移ろい、ブレザーとスカートが溶け合いながら1着のドレスへと仕立てられたルックだ。プリントではなく、職人との綿密な連携により一つの織機で生み出したジャカード織りのテキスタイルで、この視覚的なグラデーションは、定められた制服をいかに着崩すかという、思春期特有の捉えどころのない揺らぎを表現している。

学生たちの「小さな反抗」の記憶をモードへ

 「制服そのものを再現するのではなく、そこから生まれた記憶の所作や着こなしを、どうブランドのスタイルに落とし込むか」。黒河内の言葉通り、ショーが進むにつれ、Ai Kamoshita(鴨下亜衣)によるスタイリングはより自由で遊び心溢れるものへと変化する。ハーフジップなどを駆使し、制服と運動服が混ざり合ったような部活前のレイヤードスタイルが登場。かつてのヤンキーカルチャーを彷彿とさせるボンタン風のボリュームパンツや、緩めたネクタイなど、誰かと同じ服を自分らしく着ようとした小さな反抗の記憶が、現代のワードローブとして描き出された。

 制服特有のノスタルジーは、小物類においても発揮された。プレイフルなニュアンスを添える校章風のブローチやカラフルなハイソックス、さらに日本の老舗メーカーとの協業が今季の世界観をより強固なものにする。「ムーンスター(MOONSTAR)」とのコラボレーションでは、上履きを着想源としたブランド初のスニーカーを製作。久留米市で150年以上にわたり培われてきた確かな技術と、マメ クロゴウチらしい有機的なカーブが共存している。「ツチヤカバン(TSUCHIYA KABAN)」と2シーズン目となる取り組みでは、キャンバス素材のスクールバッグや、フラワーモチーフ付きのレザーバッグなどが披露された。

客観のルールから主観を解き放つ、新たなスタイル

 ショーの終盤、ルックは再び序盤の端正な出立ちへと回帰していく。ラストを飾ったのは、直営店でスタッフが着用している実際の制服を、今シーズンのテキスタイルとテクニックで仕立て直したルック。過去の記憶を辿る旅から、現在進行形でブランドを支える現代の制服へと繋ぐ、知的な帰結が見て取れる。

 今回掲げた「制服」というテーマは、前述の通り、インスピレーション源を個人の私小説から社会的な客観へと大きく開いたように映る。しかし、彼女が真にスポットライトを当てたかったのは、没個性的なルールのなかで各々が独自に発揮していた主観性であった。これまで黒河内は、自身が日々経験してきたことを深く掘り下げ、日本の文化や職人によるクラフトマンシップをリンクさせることで、世界にも通用するオリジナリティを模索し続けてきた。客観的な枠組みをスタート地点に据えた今季も、結局のところ彼女が最も重きを置いているのは、それを着る人間の主観なのである。

 第一ボタンまで留める端正な着こなしもあれば、ルーズに着崩すスタイルもある。画一的な制服というベースがあるからこそ、服を手にした顧客一人ひとりが独自の着こなしを構築できるその余白をデザインすることこそが、黒河内が今季辿り着いた「マメ クロゴウチが生み出したい新たなスタイル」なのだ。均一性のなかに生じる揺らぎを見つめた同コレクションは、第2章へと突入したブランドの現在地と、その先の未来を確かに提示していた。

最終更新日:

文・芳之内史也

Fumiya Yoshinouchi

FASHIONSNAP ディレクター

1986年、愛媛県生まれ。立命館大学経営学部卒業後、レコオーランドに入社。東京を中心に、ミラノ、パリのファッションウィークを担当。国内若手デザイナーの発掘と育成をメディアのスタンスから行っている。2020年にはOTB主催「ITS 2020」でITS Press Choice Award審査員を、2019年から2023年までASIA FASHION COLLECTIONの審査員を務める。

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