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次世代デザイナー連載「私のマインドマップ」: No.9 江上千晴(CHIHARU EGAMIデザイナー)

江上千晴のプロフィール
江上千晴のプロフィール

次世代デザイナー連載「私のマインドマップ」: No.9 江上千晴(CHIHARU EGAMIデザイナー)

江上千晴のプロフィール

 これからのファッションシーンを担うデザイナーが、自身のルーツを5つのキーワードから紐解いていく連載「私のマインドマップ」。第9回は、衣装制作を軸に活動を続ける江上千晴。神戸ファッションコンテスト2018で特選を受賞し、その特典としてローマのファッション学校 Accademia Costume & Modaへ留学。在学中に国際プロジェクト「TRANSMISSIONS」に選出され、Cristobal Balenciaga Museoaで作品を展示。2021年に帰国し、衣装提供やアートピースの制作を行いながら、活動の幅を広げている。

「私のマインドマップ」アーカイブ記事はこちら


No.9 江上千晴(CHIHARU EGAMIデザイナー)

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江上千晴のプロフィール
黒いストライプのアイテムを纏ったモデル
白いストライプのアイテムを纏ったモデル
白いストライプのアイテムを纏ったモデル
黄色いストライプのアイテムを纏ったモデル
黄色いストライプのアイテムを纏ったモデル
プリーツで作られたドレス
プリーツで作られたドレス
プリーツで作られたドレス

FILL THE GAPS OF CLOTHES

Image by: CHIHARU EGAMI

「江上千晴」のクリエイションを紐解くマインドマップ

 デザインする上で軸となる"5つのキーワード"とそこから派生する"3つのワード"を、デザイナー本人がピックアップ。それぞれのキーワードが現在のクリエイションにどのように繋がっているのか、デザイナーの解説と共に紹介していく。

1:10代

一番身近で着慣れた存在だったジャージー

 親の勧めで幼稚園から中学3年生までずっとスポーツクラブに通っていました。休みの日も練習があったので、平日も休日もずっとジャージーで、おしゃれをする時間があるなら練習という感じでした(笑)。私だけではなく周りもスポーツする子が多かったこと、また土地柄ヤンキーが多かったのでジャージーへの拘りが強く、中学生の頃はジャージーの色を変えたり丈を短くしたりと、改造して個性を出す人がたくさんいました。スポーツ仲間の中ではジッパーやフードが付いていると少しチャラい印象を持たれていたので、私はシンプルな半袖やトレーナーを好んで着ていました。あと、ジャージー姿をかっこよく見せる立ち姿も研究していましたね(笑)。

高校時代に熱中したストリートスナップとブランド古着

 スポーツをしていた時もずっとおしゃれへの憧れはあり、そういう気持ちをファッション雑誌を見ることで発散していました。その中でも特に影響を受けたのがストリートスナップです。自分の街では見たことのない格好の人たちにとにかく衝撃を受けてしまって。ストリートスナップに出会ったことで、将来ファッションの道に進みたいと思うようになりました。

 高校生になった頃には、「ストリートスナップに載りたい」という思いが強くなり、スポーツを辞めて、バイトしたお金で服を買ったり原宿に行ったりと、ファッションの世界にのめり込んでいきました。雑誌「フルーツ(FRUiTS)」に載っている人たちの影響もあり、当時は「グッチ(GUCCI)」や「モスキーノ(MOSCHINO)」といったブランドが好きで、下北沢UTAという古着屋によく通っていました。そういったブランド古着にスポーティーなアイテムのミックスが自分の中で流行っていましたね。

ストリートスナップ雑誌「FRUiTS」

江上氏が影響を受けた雑誌「FRUiTS」

2:パッチワーク

空間を埋め尽くしていた母のパッチワーク作品

 子育て中に母がパッチワークにどハマりし、リビング空間がパッチワーク作品で埋まっていた時期がありました。絨毯や壁掛けだけに留まらず、学校に持っていくトートバックなどもすべてパッチワークで手作りしてくれて。キルト展に出せるんじゃないか?と思うほどの物量でした(笑)。私の作品に生地を繋ぎ合わせて作ったものが多いのは、この頃の記憶が反映されているのだと思います。また、母の作業を間近で見ていたこともあり、同じことを繰り返す作業がとても心地よく、自分の体質に馴染みが良いなと感じます。

おもちゃの横に立つ子ども

母が制作したパッチワーク

キルティング

母が制作したパッチワーク

プリーツをひたすら繋げて作り上げたドレスが、国際プロジェクトに選出

 ローマのファッション学校Accademia Costume & Modaに通っていた時に、「TRANSMISSIONS」という国際プロジェクトに選出され、Cristobal Balenciaga Museoaで作品を展示する機会を頂きました。これは、ミュージアム側から選ばれた学校の生徒を対象としたプロジェクトで、バレンシアガのアトリエ視察に行きブランドの成り立ちを学びながら「バレンシアガが育った街」をテーマに各生徒が作品とポートフォリオを制作。500人を超える各校の代表の中から選出された41人にミュージアムで作品を展示する機会が与えられました。私が通っていた学校だけではなく、セントラル・セント・マーチンズやアントワープなどの名門校も参加していたので、クラスメイトみんながバチバチで(笑)。この機会を掴み取る為に、みんな全力で作品制作に挑んでいました。

 私が制作した作品は、スペインの港町を視察した際に見つけた貝殻をモチーフにデザインしています。オーガンジーや廃材となった異なる素材をそれぞれをプリーツにし、ドッキングさせてドレスを制作しており、同じ作業を黙々と繰り返して完成した作品です。真夏だったこともあり汗だくになりながらの作業は大変でしたが、最終選考で選ばれたことはすごく自信に繋がりました。

プリーツのワンピース

「Cristobal Balenciaga Museoa」に展示された作品

Image by: CHIHARU  EGAMI

3:フォルム

"平面"と"立体"を組み合わせて完成したコレクション「FILL THE GAPS OF CLOTHES」

 ここのがっこうに通っていた時に、坂部三樹郎さんから「フォルムを作るのが下手すぎる」と喝を入れられたことがありました。当時はフォルムを作るということが理解できず、指摘をもらってもどう改善していけば良いのか分からなくて。色々と模索していく中で、パッチワークや自分が作ってきたものがすべて平面だということに気づき、平面的なものは作れるのだから「平面を立体に見せる努力をしよう」と気持ちを切り替えていきました。

白いラインが入ったアイテムを身につけた女性

制作風景

ボーンが入った袖

制作風景

 イッセイミヤケの「132 5.」をリサーチしたり、四角い形状のものを立体にする実験をしていく中で、ボーンを使って形状を作ることに可能性を感じ始めました。ただ、最初は一般的にパッチワークで使われているような素材で作品を作っていたので、手芸的な印象が強くなってしまって。山縣さんや講師の先生にも「ファッションとは違うよね」と指摘を受けていました。そこで自分のルーツを見つめ直して出てきたのがジャージー素材。昔から馴染みのあるジャージーと、母から受け継いだパッチワークが組み合わさり、自分にしか出来ないコレクション「FILL THE GAPS OF CLOTHES」が完成したと実感しています。

白いラインが入ったアイテムを纏うモデル

FILL THE GAPS OF CLOTHES

Image by: CHIHARU EGAMI

黒いラインが入ったアイテムを纏うモデル

FILL THE GAPS OF CLOTHES

Image by: CHIHARU EGAMI

4:支え

道標となった"ここのがっこう"と"東京ニューエイジ"

 高校卒業後に文化服装学院に通っていたのですが、ストリートスナップの世界に憧れていたので、デザインではなく技術に重点を置く学校の方針に物足りなさを感じていました。そんな時に東京ニューエイジのショーや渋谷パルコで開催していた「絶命展」に出会い、「私がやりたいのはこれ!」という気持ちが湧き起こり、クリエイションを学ぶ為ここのがっこうに通うことにしました。ニューエイジの中でも、特に「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」の都会的で日常と非日常が混在しているクリエイションにはすごく勇気を頂けて。今でも好きなブランドのひとつです。

 文化で学んでいた時は、どういう身頃で、袖で、衿で…というパーツやディテールのデザインばかり意識していたのですが、ここのがっこうでは自分を掘り下げて向き合い装いや雰囲気を作っていくことに重点を置いていたので、クリエイションがガラリと変わったと思います。あと素直でピュアなものが"一番イケてる"と思うようになりました。

同期の活躍で決断した海外への挑戦

 ここのがっこうの同期にも沢山の刺激をもらいました。特に津野青嵐さんは、布を使ったアプローチをしていた私とは真逆で異素材を使った提案を毎回していて。最終プレゼンでも3Dペンを使い、見たことのないファッションを作ってきて圧倒されました。そして津野さんは国際ファッションコンペティション「ITS」のファイナリストに残りイタリアでショーを開催。毎週同じ空間にいた仲間が頭ひとつどころかすごく遠くの存在になってしまった感覚がありました。そしてその影響で私も絶対に海外で力を試してみたいと思い、留学権が得られる神戸ファッションコンテストに出すことを決めました。

ウィンドウの前に並んだ人たち

ここのがっこうの同期

留学に向けて初めて挑戦した"クラウドファンディング"

 神戸ファッションコンテストで特選を受賞し、その副賞としてローマへの留学が決まったのですが、生活費や語学学校の費用を捻出するのが厳しく、資金を集めるためにクラウドファンディングに挑戦しました。これがうまくいかなければ留学してもダメなのかもしれないという不安もあり、クラファンを決意するまですごく悩んだのですが、ここのがっこうの山縣さんやスタッフの大草さんが背中を押してくれて。結局目標金額は達成できなかったのですが、すごくたくさんの方が応援してくれ勇気づけてくれたので、留学先での厳しい生活も乗り越えることが出来ました。

5:ロックダウン

不安と体調不良が続く中辿り着いた"持続可能”なオートクチュール

 Accademia Costume & Modaではオートクチュール科に通っていたのですが、ローマということもあり講師には「ヴァレンティノ(VALENTINO)」出身の方が入っていて。「オートクチュールをやるならばベースは"ロマンティック"」と指導頂きました。ただ、今まで「ロマンティック」という要素を考えたことがなかったので、課題を進めることにすごく戸惑っていました。そんな時期に、ローマでもロックダウンが始まってしまったんです。

 ローマのロックダウンはすごく厳しく、営業しているのはスーパーや郵便局など生活に必要最低限のお店だけ。文房具も生地屋ももちろん休業していましたが、課題は進めなければいけない。何もない状況と不安な気持ちでかなり精神的に参ってしまい、度々原因不明の体調不良を起こすことも。そんな日々が続く中で、「希望が見出せるロマンティックな服を作りたい」と思うようになりました。素材を買いに行くことも出来ないので、家にあった紙を折ったり繋げたりと試行錯誤を繰り返すうちに少しずつ形になり、「これは上手くいくかも」と思えるようになりました。家にあったただの紙がどんどん華やかになっていく様は、オートクチュールとしてはチープかもしれないけれど、自分自身すごく助けられる感覚があったんです。そして、万が一今後同じような状況がやってきたとしても、「紙さえあれば作れる」という持続可能なデザインに辿り着けたことが自信になりました。

リボンで作られたドレス

紙で作られたリボンドレス

Image by: CHIHARU  EGAMI

リボンドレスのディティール

Image by: CHIHARU EGAMI

"お金の価値"がフラットになり、同じ条件下で試されたデザイン力

 ロックダウンで、お金の価値もすごく考えさせられました。いくらお金があったとしてもロックダウンの最中では出来ないこと買えないものがたくさん。普段であれば製作費の差によって作品のクオリティも変わってきますが、それがロックダウンで一旦フラットになり、全員が同じ条件下で”何を生み出せるのか”を問われていたような気がします。ある生徒はコンピューターグラフィックスを始めたり、工場の稼働に向けて準備を進めたりと、それぞれが自分の制作手段を見つめ直す時間になっていたのかなと思います。

 ロックダウンという期間がなければ紙を使った作品は生まれたなかったと思うので、当時はすごく辛かったけれど振り返るととても大切な期間でした。ロックダウン中に制作していたリボンドレスは、紙で作っていたものを生地で作り直し、今年11月にみなさんに見てもらえるようイベントを企画しています。そして今後も年に1回を目標に展示を行いながら、広告や舞台など様々な機会で衣装を作りたいです。良い機会に巡り合えるよう、これからも自分のペースで制作を続けていきたいと思います。

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