これからのファッションシーンを担うデザイナーが、自身のルーツを5つのキーワードから紐解いていく新連載「私のマインドマップ」。
第6回は、造形的なシルエットでニットの可能性を拡張する飯野麟太郎(いいの りんたろう)。山縣良和が設立したここのがっこうで学んだ後、セントラル・セント・マーチンズへ入学。2018年にはイギリス最大の百貨店ハロッズとのコラボレーションプロジェクトでグランプリを受賞、2021年にはコペンハーゲンで開催された若手支援を目的としたコンペティション「デザイナーズ・ネスト(Designer’s Nest)」でインターンシップ賞を獲得。国内外で活躍の幅を広げている注目のデザイナーだ。
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No.6 飯野麟太郎(rintaro iinoデザイナー)
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rintaro iino collection
Image by: Dev Dhunsi
「飯野麟太郎」のクリエイションを紐解くマインドマップ
デザインする上で軸となる"5つのキーワード"とそこから派生する"3つのワード"を、デザイナー本人がピックアップ。それぞれのキーワードが現在のクリエイションにどのように繋がっているのか、デザイナーの解説と共に紹介していく。
1:破壊
"コミュニティ"への違和感から芽生えた"自立心"
地元の川崎は田舎でもなく都会でもない、郊外の村社会的な環境でした。周りの人たちがみんな自分のことを知っている環境で育ち、友達も小学校から中学校まで一緒だったり、親同士もみんな知り合いで。物心ついた頃から、自分が意図していないコミュニティに属していることがとても嫌で、そこから抜け出したいという思いが強くありました。昔からずっと"破壊願望"のような反発心があるのですが、それは幼少期の影響が大きいのではないかなと思います。
法政大学在学中にアメリカ留学の機会があり、初めて海外生活を経験しました。言語や文化の違う人たちが集まる環境は、それぞれが自立しながら存在していて、とても居心地が良かったですね。
従来のニットの"イメージ"を覆す彫刻的なフォルム
オスロ国立芸術アカデミー(Oslo National Academy of the Arts)の卒業制作で発表したコレクションでは、分かりやすいニット表現ではなく、彫刻的なフォルムや技法を用いた作品を発表しました。ニットの良さは表現の幅にあると思っています。ニットを布帛と繋げたり、織りと編みを組み合わせたりしながら、今後も良い意味でニットだけに囚われずに自由にデザインをしていきたいと思っています。
日本では"ニット=手芸"のイメージが今でも強いと思うのですが、自分が制作を続けていく中で、そういう観念的な障壁も変わっていけば良いのかなと思います。
2:手編み
"祖母"の影響で興味を持ったニットの世界
祖母が昔から手編みをしていて、幼い頃にチョッキを編んでもらったりしていました。柔らかな感触が好きだったのでニット自体は昔から興味はあったのですが、本格的にニットを学び始めたのは大学4年生の頃。ニットの学校には通っていなかったので独学で勉強しました。叔母がテキスタイルデザインをやっていた繋がりでニッターの方と話す機会があり、今でもお世話になっています。
真夜中に無心で編み続ける"ニッターズハイ"
制作で手編みをする時は、部屋を暗くして夜中に作業をするのが恒例です。ライトで手元だけ照らし作業を進めていくのですが、暗い中で手を動かすとトランス状態に入るようなタイミングがあって。昔のお母さんたちが夜中に古布をつぎはぎしながら淡々と襤褸を作っていた時も、きっとこんな感覚だったんじゃないかなと思います。まさに「ニッターズハイ」の状態ですね(笑)。暗くて静かな環境での作業は、無心になれる大切な時間です。
3:五感
"リアル"の魅力を実感できたドル札ドレス
法政大学では、小説家の島田正彦先生のゼミで学んでいました。卒論を書かなければいけない学部だったのですが、どうしても卒論を書きたくなくて(笑)。島田先生に相談したら「それなら何か作れ」と言われ、卒業制作を発表することになりました。
学生時代ずっとお酒に飲まれていて常にお金が無かったこともあって、お金のことが嫌いになりました(笑)。ただ少しして、価値の歴史に興味を持ち、塩や貝などが貨幣として流通していた時代があったこと、また現代よりも布の価値が高く貨幣としての役割を担っていた時代があったことを知りました。現代の紙幣も早くその役割を終えて、新たな価値あるものに生まれ変わった方が良いと思い、有り金を全てドル紙幣に替えて、ドル札のドレスを制作しました。稚拙ながらも、人体に乗せた初めての作品でした。
大学在学中、グラフィックデザインで仕事をもらったりもしていたのですが、表現が画面内で収まってしまうことに物足りなさを感じていたこともあり、ドレスを作ったことで「リアルなもの」の力と、実際に人間が纏うことで生まれる社会性に興味が沸き、ファッションの道へ挑戦することを決めました。大学に入るまでファッションの道に進むことは全く考えていなかったので、島田先生との出会いが人生の転機だったのかもしれません。
人が纏う"雰囲気"への探究心
ファッションの道に進むことを決めてから、ここのがっこうやセントラル・セント・マーチンズなどに通い、"表現"としてのファッションを勉強してきました。これまでの経験からも、技術的な美しさの追求ではなく、人が纏った時の"雰囲気"を作っていくことが自分が提案できるファッションだと思っているので、その軸がブレないよう創作を続けていきたいです。
4:孤独
コロナ禍で感じた"個"で生きることと、"群"で生きることの"ジレンマ"
新型コロナウイルスが最初に蔓延した時はノルウェーにいたのですが、文化的にも言語的にもマイノリティな存在として生活している中で隔離の日々が続き、友達にも会うことが出来ずずっと1人で過ごしていました。自分と向き合う時間が増えたことで制作に集中できたので、特に苦ではなかったのですが、SNSに費やす時間も増え、真偽のわからない他人の意見が自分の中に滲みてきている感覚が非常に気持ち悪く疲弊していました。
物理的には孤独でも、オンラインでは何億ものポストやニュースに囲まれる状況はやっぱり異常で、とても現代を象徴していると感じました。インターネットやデジタルの本懐である"共有"や"ボーダレス"へのアンチテーゼとして、リアルに個を規定する力を持つ「服」で、もう一度個の持つ自由と孤独を賛美するような作品にしたいと思い、卒業制作に取り掛かりました。
コレクションミューズは6年間行方不明だった羊"シュレック"
オスロ国立芸術アカデミーの卒業制作として発表したコレクション「Black Sheep」は、コロナの時に感じたジレンマが大きく影響しています。デザインのミューズは、飼育場から逃げ出し六年間洞窟で生活していた羊「シュレック」。発見時のとてつもない重量の毛で覆われたシュレックの姿から、彼の自由への渇望と孤独のジレンマを表現したいと思い、毛に覆われたシュレックのフォルムや、毛の重さで弛んでしまった皮膚などから着想を得てデザインを考えていきました。
教授が哲学科の先生だったので、かなり深くまでコンセプトを掘り下げることを求められました。その甲斐もあってか、その年のデザイン科の主席として卒業することができ、とても思い出深いコレクションとなりました。
5:世相
"善悪"が揺らぐ現代とファッションの可能性
世相とファッションは切っても切り離せない関係性だと思っているので、デザインプロセスにおいても生活環境や社会情勢から影響を受けることが多いです。最近は世の中の善悪の軸がすごく揺らいでいる気がしていて、そこに興味があります。コロナ禍でマスクをする、しない、ワクチンを打つ、打たないなど、自分も善悪をジャッジされやすい立場にあるなと。
自分自身は善し悪しを分けることはせず、なるべくフラットな視点で物事を見るよう努めています。そして、そういった社会の柵から解放する為にファッションは存在していると思っているので、「ファッションだからできること」を模索していきたいと考えています。
"トレンド"が生まれにくい"日常"へのアプローチ
SNSの発達で、トレンドが生まれにくい"日常"が今の時代なんだなと思っています。そういう時代に対し、自分がどういったアプローチをできるのかをずっと考えていて。デザイナーズ・ネスト(Designer’s Nest)でインターンシップ賞を獲得し、これからイタリアのトラサルディ(TRUSSARDI)で6ヶ月間デザインチームに参加することが決まっているのですが、今まで自分が経験してこなかった商業的なデザインについて勉強できるという意味でも、とても良い機会を与えてもらったなと思っています。デザインチームでの経験を踏まえながら、自分なりのバランス感覚を見つけていきたいですね。
飯野麟太郎>>instagram
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