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「抗えない運命を、花で表現してください」 華道家 大谷美香が語る“美しさを超えた表現”

Image by: FASHIONSNAP

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 「抗えない運命を、花で表現してください」。映画やドラマの現場では、そんな依頼が届くことがあるらしい。「憎しみ」、「胡散臭さ」「運命」。華道家・大谷美香は登場人物の感情や物語を、植物に翻訳し、枝ぶりや質感、構成へと落とし込んでいく。そこには空間を「美しく」見せるといういう目的に留まらない表現がある。

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 では、華道における「美しさ」とは何か。そして、なぜ伝統の枠に留まらない挑戦を続けるのか。伝統を次世代へつなぐために彼女が選んだ「革新」とは。

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「身体に溶け込んだ花型が助けに」 華道における視覚的な美しさ

⎯⎯花はそもそも美しいですが、華道における美しさはどのように成り立たせていますか?

 華道では枝を線として捉えていて、その組み合わせによって生まれる空間が美しさに関わってきます。そのため線の間に広がる空間がどんな形であるかを常に意識していけています。

⎯⎯その空間がいわゆる花型と呼ばれるものでしょうか

 そうですね。それぞれの線の角度や構図といった条件が各流派で定められていて、華道ではまずこれの習得を目指します。

⎯⎯習得までにどれくらいの時間がかかるんでしょうか。

 大体1年くらいかかります。この期間は自由な表現をする機会は殆どないですが、こうした伝統の花型を体の中に溶かすことがとても大切なんです。15度、45度、75度とそれに合わせて生け続けることで、教本を見なくても「どの角度で枝を生けるか」「枝と枝とをどれくらい離せばいいか」などが感覚的に分かるようなってきます。こうした知識の蓄積が、自由な表現をする中で美しさを担保する要素となるんです。

Image by: 大谷美香

ただ美しいだけでは足りない “説明できない気配”の存在

⎯⎯花の美しさにこだわる中で、「自分自身の美」へ目を向けることはありますか?

 はい。自分が乱れていると、それはそのまま花にも表れます。だからこそ、美容というより、気”を整えることを大切にしています。

⎯⎯具体的にどんなアイテムを使用していますか?

 最近は、自分でディレクションしているブランド「オブバイフォー(OF BY FOR)」のヘアオイルや香水を愛用しています。これらは、花を生けているときに感じる「森の中で深呼吸しているような香り」をイメージして作ったものです。花に触れることで気持ちが整っていくように、香りにも人の感覚を整える力がある気がしていて。その部分にはこだわっています。

ディレクションしているオブバイフォーの香水。サイプレスとフランキンセンスを中心にさまざまな花の精油をブレンドしたという。

Image by: 大谷美香

⎯⎯華道の表現において「美しさ」は必要不可欠ですか? 

 美しさは欠かせませんが、“整っていること”だけが美しさではないと思っています。少し傾いていたり、不穏さや違和感があったり、儚さが見えたり。人はそういうものに心を動かされることがあります。

⎯⎯色々な美しさがあるんですね。美しいだけでは足りないと感じることはありますか?

 そうですね。というのも見る人の記憶や感情に残るものには、少し危うさや、生々しさが必要なんです。ただ美しいだけだと、記号として消費されてしまう瞬間があります。作品に狂気やユーモア、生命力など、“説明できない気配”が宿った時に、それは急に人の心へ入り込む。私はその“何かが宿る瞬間”をずっと探しながら花を生けています。

「地面師たち」での作品

Image by: 大谷美香

「全裸監督」での作品

Image by: 大谷美香

Netflix「サンクチュアリ」では「胡散臭さ」を

⎯⎯華道には3代流派として「池坊」「小原」「草月流」があります。大谷さんの所属する草月流について教えてください。

 草月流はいけばなをクリエイションとして捉えて、花型(美しさ)に留まらない表現を模索しているのが大きな特徴です。自由な表現を肯定する雰囲気があり、本当に何をやっても怒られないというか...。ただ、何を表現しようとしているのかという点はしっかりと見られます。

 そういった特徴もあり、映画やドラマなどの現場でお仕事をすることもあります。

⎯⎯例えばどのような?

  2018年に放送されたドラマ「高嶺の花」では、いけばな監修をさせていただき、全部で174作品をいけました。その中で、「抗えない運命」というテーマで花をいけた作品があります。少しネタバレになりますが、作中の後編では主人公の出生の秘密が明かされ、自分が両親の実の子ではないと判明します。そのシーンに適したものを手掛けて欲しいと頼まれたんです。

ドラマ 高嶺の花での作品

Image by: 大谷美香

⎯⎯それをどのように表現しましたか?

 テーマが「憎しみ」など感情の時はそれを自分に憑依させて制作をするのですが、「抗えない運命」は特定の状況だったためそのやり方が出来ませんでした。そのため、テーマを分析し「自然の力」こそが抗えないものなんじゃないかと気が付きました。

 そもそも人間は、白亜紀や氷河期といった壮大な地球の歴史のなかに、たまたま適応しているだけの頼りない存在です。自然の変化には決して抗えないし、仮に環境が安定していても、個体としての死はあらかじめ決まっている。ある種、どうしようもない大きな流れのなかに私たちはいます。

 その「抗えない力」の象徴として選んだのが、沖縄のガジュマルの根でした。これは人間が形作ったものではなく、過酷な自然環境そのものが育て上げた造形です。複雑にうねり、分かれていく根の姿は、一本の幹から幾多の選択肢へと分岐し、翻弄されていく「運命」そのものに見えました。その上に勢いよく葉を加えることで、自然の一部をそのまま切り取ったような作品に仕上げました。

⎯⎯Netflix「サンクチュアリ」では「胡散臭さ」をテーマに挑まれました。

 はい。胡散臭さも自分に落とし込めるものではないので、その要素を考えることで具体化していきました。「本物に見えて、本物ではない状態」がその正体なんじゃないかと思って、半分本物というバランスにこだわりました。木蓮の立ち上るような大きな枝を使って“本物っぽさ”を見せながらも、花だけは造花を。全部が偽物だと、胡散臭いよりも単に偽物という印象になってしまうので、本気で偽物を作ることを目指しました。

Netflix サンクチュアリでの作品

Image by: 大谷美香

⎯⎯まずキーワードを分析して伝わる形に落としていくんですね。

 そうですね。一番大切なのは、見ている人に伝わるかどうかです。なのでただ好き勝手に表現すればいいわけではなくて、独りよがりにならないように意識していています。見た人が心に何かを感じるものがないと意味がないと捉えています。

「守破離」を通じて得た表現 いけばなの境界線

⎯⎯華道の魅力は何だと思いますか?

 「花を生ける」ことって、心がリフレッシュして楽しいものなんです。ただそれはやってみないと分かりません。だから、お花屋さんの花でもいいし、雑草でもいいので一度試してみてほしい。

 生きていく上で、花を生けることは必ずしも必要ではないように見えますよね。けど人は昔からいけている。華道が生まれた室町以前でも竹や松を神の拠り所として立てていました。本能的に花をいけたいという気持ちが備わっているんだと思います。

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⎯⎯これをしたら華道ではなくなるという境界線はありますか?

 境界線はないと思っています。極論を言えば、何もいけていなくても、そこに理由や妥当性があり、見る人が理解してくれるなら、それはいけばなの表現として成立する。

 そうは言っても、やはりそれまで花と向き合ってきた時間が重要になります。芸道における修行の過程を指す言葉として守破離があります。守は基本的な型(花型)を身につける段階で、そこに自分なりの工夫や応用を加えるのが破、型(花型)にとらわれずに自分のスタイルを確立させるのが離。感覚的には同じですよね。守で培った土台があるからこそ、それを破り離れた時の表現に深みが生まれる。

⎯⎯自分以外の人がいけたり、自身がパフォーマンスをしたりと、新しい試みを数多くされていますね。

 2023年から北海道・函館の赤レンガ倉庫の35周年記念イベントに関わることなり、その中で1000本のアルストロメリアを1000人のお客さんにいけて貰ったんです。そうすると一人ひとり、ぐるぐると回りながら考え始めて。終わった後の嬉しそうな姿を見て、人はこんなにも花をいけたい生物なんだなって。こうした花をいけようと試行錯誤する姿やその状態そのものがいけばなの表現なのではないかと考えています。

函館・金森赤れんが倉庫でのインスタレーション

Image by: 大谷美香

Image by: 大谷美香

こうした考えの発展系として中国では踊りながら生けるパフォーマンスを実施。「いけばなで物語を語る」という試みだったという。

私の知らない私の花を求めて

⎯⎯大谷さんが「美しい花型に留まらない表現をし続けるのは何故ですか?

 伝統を重視される方からすれば、こんなのいけばなじゃないと言われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その伝統が新しく始める人にとって敷居になっていることも事実です。もともといけばなは床間ありきでしたが、現代において床間は一般的ではなくなっている。形式だけを守っていては人口は減る一方です。私は絶対に若い世代にもいけばなをつないでいきたい。そして、革新を取り入れることでそれができると考えているんです。

⎯⎯いけばなにこだわる理由は?

 海外でパフォーマンスをすると、「こういう花が見たかったんだ」と感動されます。アメリカ、中国、イタリア、インド…どこへ行っても反応は同じです。これってすごいことだと思うんです。日本人は自国の文化に対して謙虚すぎる気がしますが、実は世界が驚くような独自の「美意識」を、私たちは古くから持っている。その価値をもっと大切にしたいんです。

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⎯⎯独自の美意識とはどういうものだと思われますか?

 例えば、色とりどりの花を隙間なく敷き詰める西洋のフラワーアレンジメントは、空間を「埋める」ことで美しさを構築します。それは人生の最も輝かしい一瞬だけを摘み取って、隙間なく押し込めるような、ある種のエゴイスティックさを感じる美しさです。

 対して日本の美意識は、もっと「生命賛歌」に近いというか。花だけじゃなく、うねった根っこや、枯れた松の葉、ただの石にさえ美を見出す。なぜこれらが美しく成立するかといえば、その周囲にある「何もいけていない空間」に意味を持たせているからです。

⎯⎯「足し算」ではなく「引き算」の文化?

 そうです。アメリカの作曲家の方と対談した際、日本の音楽にある「間(ポーズ)」が素晴らしいと絶賛されました。何も音が鳴っていない時間に、意味を込める。この「間」や「空間」を大切にする考え方は、他に類を見ない豊かな文化です。そのことに、もっと誇りを持っていいはずです。

⎯⎯最後に、これからの目標を教えてください。

 教室を始めて15年になりますが、人によって表現が全く違うので、一日として飽きることがありません。私の師匠は90歳を超えても花をいけ続けていました。私も、生涯現役でいたいですね。華道は決して怖いものではありません。花とお話を楽しむくらいの気軽な気持ちで、扉を叩いてほしいです。

 草月流は自由な流派だからこそ何かやるたびに自分の新しい扉が開ける。私は私の知らない私の花を見てみたい。だからこの先も表現を続けていきたいです。

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最終更新日:

FASHIONSNAP 編集記者

平松将

Sho Hiramatsu

青山学院大学経営学部卒業後、大手事業会社を経て文化服装学院に入学。服作りを学んだ後にレコオーランドに入社。
ファッション、アート、カルチャーに加え、人々の暮らしや都市の現実といったテーマにも関心を持つ。日課としてジャーナルとメモをつける記録愛好家兼トレーニー。

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