Image by: FASHIONSNAP(Monami Hayakawa)

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三陽商会が、大きな転換期を迎えている。「バーバリー(BURBERRY)」との契約終了に伴う“バーバリーショック”から経営を立て直し、7期ぶりの営業黒字化に導いた大江伸治氏が代表取締役社長を退任。後任として代表取締役社長に就任したのは、大江氏と同じく三井物産出身で、2025年度は社外取締役として三陽商会を支えた平林義規氏だ。大江氏が代表取締役会長にとどまる「ツートップ体制」のもと、平林新社長は同氏と緊密に連携しながら経営の舵取りを担う。一方で、今年2月には筆頭株主が八木通商からアクティビストとして知られる英アセット・バリュー・インベスターズに異動。同社を取り巻く視線は一段と厳しさを増している。再建から「持続的な成長」へとフェーズが変わるなか、平林新社長は三陽商会をどのようなヴィジョンで導き、成長軌道に乗せていくのか。
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■平林義規
1963年生まれ、愛知県一宮市出身。慶應義塾大学 商学部を卒業し、1986年に三井物産に入社。三井物産モスクワ有限会社への出向から本社に戻ってからは、三井物産の執行役員流通事業本部長、専務執行役員人事総務部長、顧問といった要職を歴任。2025年に三陽商会の社外取締役に就任した。2026年5月から現職。大学時代にハンドボール日本代表に選出され、現在は日本ハンドボール協会副会長を務めるほか、マスターズリーグの選手としてプレー。
“アパレル非専門家”の新社長に求められること
──これまではファッション業界外を中心にキャリアを歩まれてきたかと思いますが、社長に就任された現在の率直な心境をお聞かせください。
厳密に言えば、完全に外という訳ではありません。三井物産での最後の4年間は人事関係でしたが、その前は流通事業本部の本部長をやっていまして、その本部の中にファッション部隊がありました。三陽商会とは「ポール・スチュアート(Paul Stuart)」のライセンサーという立場で取引もしていたんです。
もちろん私はアパレルの専門家ではないので、今回の社長職が新たな領域の仕事というのは間違いありません。ただ、私はこれまでも結構変わったキャリアを歩んできまして、例えば流通事業本部長から人事総務部長への転身など、4年おきくらいで仕事内容がガラッと変わってきました。そういう意味で「また新しい仕事にチャレンジだな」と冷静に受け止めている自分がいます。
──大江前社長からのバトンタッチ。社長交代の経緯を聞かせてください。
交代の経緯について私は打診された側なのでお話できることは限られてしまいますが、後任選びは取締役会の諮問委員会である指名・報酬委員会で、しばらく議論されていたんだと思います。同委員会で複数名候補者が挙げられていて、重要課題であるサクセッションプランについて話し合いを重ねた末、私に白羽の矢が立ったと聞きました。

平林義規社長
──社長交代に伴い、大江前社長は会長に就任。2026年2月期通期の決算説明会では平林社長と大江会長の「ツートップ体制」になると話していました。お二人の役割分担は?
役割を明確に切り分けるのではなく、互いの知見を持ち寄り、対話を通して意思決定を進める体制をとっています。正しい判断を下すには過去の経緯や現場の文脈を深く理解することが不可欠なので、疑問があった場合に実績のある大江会長にアドバイスを仰ぐやり方です。「ツートップ体制」とは、そうした関係性のことだと考えています。
──このタイミングでの社長就任にどのような意図を感じますか?
大江会長は会社の業績が落ち込んでいた2020年に三陽商会に入社し、徹底した構造改革で2023年2月期に7期ぶりの営業黒字化を達成しました。これは本当にすごいことで、会長が構造改革を成し遂げた背景には、長くアパレル業界で仕事してきた経験があると思います。一方で後任の私は、先ほどお話ししたようにアパレルの専門家ではありません。ただ、その分消費者に近い他の領域の仕事をしてきたという強みもあります。
中期経営計画では、既存領域の強化だけでなく、新たな領域への挑戦も掲げています。その点では、間口を広くアパレル以外のことも見てきた私だからこそできることもあると思いますし、それこそが求められていることなのかなと。

【今年4月の決算会見で撮影】(左から)大江伸治会長、平林義規社長
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──大江会長とは三井物産のOB同士ですが、共に仕事をするのは初と聞いています。どのような印象を抱きましたか?
構造改革をやり抜いたことからも分かる通り、意思の強さには傑出したものがあると思います。またそれだけではなく、人に対する洞察力が鋭く、細かいことに気づいたり、気配りしたりもできる。人間として奥行きがある方だなと感じました。
──ご自身の中で「経営トップを目指す」というキャリアプランはお持ちでしたか?
実はそんなことはなく、私はこれまでのキャリアで一度も仕事を選んだり、希望したりしたことがほとんどありません。「自分で選択しても、提示されたお話を受けても、結局やるべきことや結果は大きく変わらない」と考えているからです。唯一、三井物産の駆け出し時代に研修制度でスペイン語圏への派遣を希望したことがありました。当時、学生時代から続けていたハンドボールで身体を徹底的に鍛え上げていたのですが、その面接で「君、いい体してるな。そういうやつにはソ連(現ロシア)に行ってほしいんだよ」と言われて(笑)。「会社に入った以上、言われた場所ならどこへでも行きます」と即答し、翌日にはソ連行きが決まりました。今回の社長就任も同様です。目標としていたわけではありませんが、お話をいただいた以上は与えられた役割を全力で全うするだけだと考えています。
──新体制へ移行し、平林社長が経営において「受け継いでいくこと」「変えていくこと」をそれぞれ教えてください。
この会社が大事にしてきた価値観、例えば「真・善・美」*といった、良いものを作るという根っこの部分は変えるべきではないと思います。ただ、時代は移り変わっていくので、その価値観すらも進化させていく必要があるかもしれない。過去にうまくいったことも、いかなかったことも全て改めてレビューして、時代背景に合わせて適切に判断していくことが大事です。商品価値と価格のバランスや、ブランドの個性の問題など、このビジネスにはゴールがありませんから。
*実用性と美しさを兼ね備えた服作りを追求する経営理念およびものづくりの姿勢であり、三陽商会の社是
百貨店販路が苦戦、ブランド複合店を強化
──夏商戦の商況を聞かせてください。
6月は台風が来たり例年より雨量が多かったりで、商売環境としては惨憺たるものでしたが、7月に入って気温が上がってからは少しずつ回復してきました。当社では夏の長期化に伴い、五季カレンダー*を導入しています。まだまだ夏物の実売期は続くので、しっかり売り上げを確保していきます。
*三陽商会では2024年から、春・夏・秋・冬のほか、夏と秋の間(8〜9月)に「猛暑」という季節を追加した“五季”という独自カレンダーを採用している。
──販路別に見ると、2026年2月期ではEC・通販が全四半期で前年超えを達成している一方で、百貨店販路は前年割れが続いています。
全国的に、地方百貨店の閉鎖が相次いでいるのが要因の一つです。また、百貨店がラグジュアリー売場を増やす一方でアパレル売場を縮小する傾向もあり、そのあおりを受けて当社も店舗数を減らしています。

SANYO Style STORE大丸東京店
Image by: 三陽商会
ただ、我々にとって百貨店は非常に重要な販路ですし、やれることはまだたくさんあります。例えばブランド複合型ショップ「サンヨー・スタイルストア(SANYO Style STORE)」の出店拡大。お客さまからすると1つの店舗で幅広い選択肢の中から買い物できるというメリットがありますし、館側の視点では坪効率が高まります。当社にとっても販売員1人あたりの売り上げ改善が期待できます。今は全国で15店舗を展開していますが、今後もっともっと増やしていきたいですね。


サンヨーコートと「カルーゾ」のコラボレーションアイテム
Image by: 三陽商会
また、好調な外商販路にアプローチするための商品提案でも改善余地は大きいです。特に「三陽山長」や「サンヨーコート(SANYOCOAT)」といった「三陽」の名前を冠したブランドは“ジャパニーズラグジュアリー”としてアプローチできる商材だと見ているので、これらについては今後展開を強化していきます。
──百貨店販路の強化と、ショッピングセンター向けの新業態をはじめとする新しい販路の開拓、今後はどちらに比重を置いていきますか?
どちらか一方ではなく、両方です。とはいえ、どんな会社にも得手不得手というものがありますから現実的にできること、できないことを見極めながら事業を進めていきます。
次なる一手はECのモール化? M&Aも視野に
──次に成長が見込める販路はどこだとお考えでしょうか?
「もったいない」という意味ではECです。現状、三陽商会のオンラインストアでは当社の商品しか取り扱っていないので、お客さまからすると魅力が薄いかもしれません。もっとにぎわいがあってもいいですよね。
──外部ブランドを誘致してモール化を進めていく、ということでしょうか?
そういったことは起こりうると思います。ただ、やはり当社商品との親和性は必要ですし、お互いにメリットがあるというのは前提になってくるでしょうね。現状の顧客さまのボリュームゾーンを考えると、若年層の方にご来店いただけるブランドが加わってくれると面白いかもしれません。

「オーレム」2026年秋冬コレクション
Image by: 三陽商会
──2026年秋冬シーズンに新ブランド「オーレム(AUREME)」が加わり、三陽商会のブランド数は22になりました。
ブランド数が多いというのは、リスクが集中しないということなので経営にとっては非常に大事なポイントです。ただ、それぞれのサイズ感には満足しておらず、まだまだ大きくできる余地があると思っています。各ブランドがそれぞれの個性を持ってポジションを確立することが重要ですが、どうしても保守的になり、少しずつ角が取れて無難な方向に行ってしまうことはブランドを手掛ける上で常に起こりうることです。常に個性を磨きながらブランドスケールも大きくしていくという、大変難しいことをやっていかなければいけません。
──今後のブランド戦略において、既存ブランドの成長と新規ブランドの開拓、どちらに優先順位を置かれますか。
まずは既存の強化ですが、新しいチャレンジをしないわけではありません。ファッションビル・商業施設を主販路とするオーレムのように、現状のポートフォリオでリーチできていないマーケットを開拓する試みは続けていきます。
──アパレル以外の領域での新ブランド開発もあり得ますか?
可能性はあります。その場合は一からブランドを自力で立ち上げる、もしくはM&Aするといった2通りの選択肢がありますが、前者は相当な時間と労力がかかるので後者の方が望ましいかもしれません。具体的に希望の領域というのは現時点ではありませんが、「用の美」という美の定義に基づいて物事を編集してきた当社の能力とシナジーがあるブランドが良いですね。ブランドでなくとも、例えばM&Aを通して三陽商会の美意識で空間を編集するサービスを打ち出すなど、いろいろとできることはあると思います。
「アパレルにも将来性はある」
──アクティビスト勢だけで20%超の株式*を保有されておりプレッシャーもあるかと思いますが、今後どのようにコミュニケーションをとっていきますか?
当社側で特に意識していることはありません。上場会社なので株主は選べませんし、全ての株主の方としっかりコミュニケーションを取っていくということです。株主には、リターンについてさまざまな考え方の方がいらっしゃいますが、我々のスタンスは中期経営計画にも書いている通り、「長期的に安定したリターンを持続的に生み出していく」ということ。今後もみなさまにご理解いただきながら、この方針に則って経営を行っていきます。もちろん、アクティビストを含め株主の方からは大変建設的なご意見を頂戴することも多いので、それらについてはしっかりと精査し、役立てさせていただいています。
*アセット・バリュー・インベスターズ・リミテッドが4月30日に三陽商会株式の13.07%を、サファイアテラ・キャピタルが6月29日に同株式の8.12%を保有したと報告。
──現在のファッションマーケットをどのように見ていますか?
やはり良いとは言えないですね。中東情勢に代表される地政学リスクの顕在化、約40年ぶりとなる163円という円安(7月21日深夜から22日にかけて記録)、それによる物価高など、非常に不確実性が高い。報酬水準が同じように上がるわけではないので、購買行動はコンサバティブになっていくでしょう。安くても本当に必要でないものは買わない、ということが実際に起こっていると思います。
──アパレルへの購買意欲が湧きにくい状況かもしれませんね。
(バブル崩壊後からの)「失われた30年」では食品マーケットは僅かに拡大したのに対し、アパレルマーケットは半減しました。これは販売枚数が減ったわけではなく、単価が下がったことに起因しています。報酬が上がらない中で、消費者は衣料品で節約してきたという側面もあるのでしょう。アパレルには大きく分けて「無難なもの」と、自己表現のための「個性的なもの」という2つのニーズがありますが、「無難なもの」は量産でコストカットする余地が比較的あった分、全体的に安価な方へと流れ、市場で大きな割合を占めていったのです。我々が主戦場としているのは「個性的なもの」なので逆風ですが、長く着ていただける良いものを提供するという方向で頑張っています。消費者はそれぞれ比率が違うだけで「無難なもの」と「個性的なもの」の両方を必要とするので、こうした状況下でもチャンスは十分にあると思いますね。

三陽商会「2026年秋冬総合展」の様子
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──アパレル市場の将来性についてはどのように捉えていますか。
まだ可能性はあると思ってます。今、三陽商会は国内を中心にビジネスを展開していますが、市場はグローバルに存在しており、成長の余地はあります。若い日本人デザイナーたちの活躍を見ても、世界で認知を得るだけの地力がついてきているのは明らかでしょう。
国内にも可能性は大いにありますね。ラグジュアリーブランドは結構日本で素材の調達をしていますが、日本人からすると意外なものだったりします。案外、日本人は日本の良さを見つけるのが得意ではないのかもしれません。シティポップのように海外で人気が高まってから逆輸入的に日本人がその魅力に気づく、といったことがファッションの分野でもありうると思っています。
──5年後、もしくは10年後を中長期的に見据え、三陽商会をどのような会社に成長させていきたいですか?
現時点でヴィジョンを示すのは難しいですが、会社は社員が形作っていくもの。働いている社員がいかに本気になって会社を良くしていくかにかかっています。そういう意味では、社員全員がやりがいのある仕事に取り組める会社にしていくことが、まず大事なことじゃないかなと思いますね。
──社長としてコミュニケーションをとってみて、三陽商会はどのような会社だと感じていますか?
一言で言えば、明朗で穏やかな会社です。商品にも表れているかもしれませんが、朗らかな社員がとても多いと思います。ただ、もちろん競争に勝っていかないとその朗らかさは維持できません。徹底したものづくりをはじめ、顧客にとっての我々の価値を上げていく努力を継続していくこと。秘策があるわけではなく、地道に続けることが大事だと思っています。
──より一層責任と重圧のある立場になられたと思いますが、趣味やリフレッシュ方法を教えてください。
ずっと変わらずハンドボールです。大学生の頃は関東学生リーグというところでプレーしており、今は当時の仲間とチームを作ってマスターズリーグ(生涯スポーツとしてプレーし続ける40歳以上のシニア世代を対象とした競技および大会のカテゴリー)に所属し、年に3回ほど活動しています。本気で勝利を目指すというよりはゆるくプレーしている感じなのですが、気分転換になってすごく楽しいです。

ハンドボールを楽しむ平林社長(後列左から2番目)
Image by: 平林義規
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