
鈴木健ニューバランスジャパン マーケティング本部ディレクター
Image by: FASHIONSNAP

鈴木健ニューバランスジャパン マーケティング本部ディレクター
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「ニューバランス(New Balance)」が、ランニングを単なる「走る行為」の外側へ広げようとしている。東京・原宿のシェアオフィス「WeWork アイスバーグ」で8月に開催した「New Balance Run Office」では、働く時間の中にランニングを取り込むライフスタイルを提案。一方、2025年に東京・代々木に開いた「New Balance Run Hub Yoyogi Park(以下、ランハブ)」では、ランナー自身がイベントを企画し、ランニングと食やアートなど異なるカルチャーを結び付ける動きが生まれているという。コロナ禍以降、国内外で再び盛り上がっているランニングを、一過性のブームで終わらせないために必要なことは何か。鈴木健ニューバランスジャパン マーケティング本部ディレクターに聞いた。
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「ランニングの社会からの見られ方を変えていく」
⎯⎯8月下旬に、WeWork アイスバーグで「New Balance Run Office」を実施しました。「仕事」とランニングを掛け合わせた理由を改めて教えてください。
鈴木健ニューバランスジャパン マーケティング本部ディレクター(以下、鈴木):ランニングについて考える時、メーカー側はどうしても走ることを起点にしがちです。それで、ソリューションとしてランニングステーションを作ったり、シャワーや着替えの場所を用意したりする。しかし、本当に生活者の文脈で考えるのであれば、その人の生活全体の中でランニングがどう位置付けられているのかを見ていく必要があると思っています。
ランニングは、他のスポーツに比べて自由度が高い。その一方で、いつ走るのか、どう時間を作るのかを自分自身でマネジメントしなければいけません。社会人の場合、生活の中で大きな割合を占めるのが仕事。コロナ禍以降、リモートワークなどの働き方の自由も一定広がりました。その分、自分の時間をどう使うのかも重要になりました。
そこで、「働く」という時間の中に、ランニングや自身を整える時間をどう組み込めるのかを考えてみたかった。それがRun Officeの出発点です。Run Officeのような提案が生活者にとっての新しいウェルビーイングの形になるのであれば、都市圏が前提にはなりますが、東京以外でも同様の取り組みを横展開できるかもしれないとも考えました。




8月下旬に開催した「New Balance Run Office」から
Image by: New Balance
⎯⎯Run Officeは、ランナーの生活を知るための実験場という位置付けでした。
鈴木:そうですね。例えば、「こういう環境なら仕事の合間でも走りやすい」「こういうサービスがあれば運動を取り入れやすい」といったことを、参加した方たち自身に考えてもらいたかったんです。それを通して、われわれメーカー側もランナーに対する理解が深まります。代々木のランハブで精力的に実施しているコミュニティイベントも、われわれにとってはある意味では調査なんです。なぜ人はランニングを楽しいと思うのか。ランニングという共通点で集まった人たちは、そこで何を話し、何に価値を感じているのか。そういうことには常に興味のアンテナを張っています。
⎯⎯現在はシューズの試し履きやグループランなどのイベントを多くのブランドが実施しており、ランニングイベントそのものは飽和しているようにも感じます。仕事という切り口を設けることは、他社のイベントとの差別化にもつながりますね。
鈴木:メーカーとして他社との差別化は当然考えますが、ランニングイベントが一般的になること自体は世の中にとって非常に良いことです。その上で、われわれの役割はランニングが社会からどう見られるかを変えていくこと。例えば、仕事中に走っている人を見ると、「仕事をサボって遊んでいる」と思う人もいるかもしれません。でも、走ることで自分自身を整え、それが仕事にもフィードバックされ、生産性が上がるのであれば、それも働き方の一つとして認められていい。
そういう思いから、Run Officeではあえてワークスペースの中にトレッドミルを置いて、働いている人からよく見えるようにしました。普段走っていない人にも、そうした働き方を知ってもらい、驚きはありながらも文脈として受け入れてもらう。スポーツメーカーとして、スポーツを単なる個人の楽しみにとどめるのではなく、社会にとってプラスになるものにしていきたいという思いがあります。
現代人が好むのは、「短時間✖️高強度の運動」
⎯⎯近頃はHYROXのような競技も人気です。生活者のスポーツとの関わり方に変化を感じますか。
鈴木:興味深いと思っています。以前であれば、運動のハードルは低い方が初心者も含めて参加しやすいという考え方が一般的だったと思います。でもHYROXのように、短時間でかなり強い負荷をかけるスポーツが支持されるようになっている。
忙しい現代人にとっては、短い時間で強度の高い運動をした方が達成感を感じられるのかもしれない。それを一人ではなくグループで行うことにも楽しさがあるのだと思います。スポーツ業界では、アスリートやシリアスに競技に取り組んでいる人を三角形の頂点に置いて、その下に初心者がいるという捉え方をしがち。でも、初心者の方が、その競技のカルチャーに深く浸かっていない分、新しい楽しみ方のアイデアを持っている可能性もあるんですよね。ランニングのことをあまり知らないからこそ、「こういう楽しみ方もあるんじゃないか」と考えられる。そこを固定観念で見ないことが、ランニング全体を活性化する上でも重要だと思っています。

2025年3月にランニング専門店としてオープンした「New Balance Run Hub Yoyogi Park」
Image by: New Balance
⎯⎯2025年3月にオープンしたランハブでも、そうした新しい楽しみ方が生まれていますか。
鈴木:ランハブで一番面白いと感じているのは、ニューバランス側が仕掛けるイベントではなく、コミュニティ側が主催しているイベントです。例えば、年に一度ニューバランスを象徴するカラーであるグレーにフォーカスする「Grey Days」の期間には、みんなでグレーのTシャツを着てランニングをした後、ランハブの店舗中央の什器をすべて動かし、空間をレストランのようにしてディナー会をしました。参加者の中に飲食関係者がいて、そのつながりから実現した企画です。ほかにも、クリエイターが写真展を開いたり、海外のレースで撮影した写真を共有したりしています。
ランニング領域だけを見ていては、こうしたアイデアは出てきません。コミュニティにいる人たちがもともと持っている文化や背景をランニングと組み合わせることで、ランニングそのものが豊かになる。それがランハブで実際に起きていることだと思います。



2026年5月にランハブで開催したディナーイベントから
Image by: New Balance
⎯⎯ランハブの今後の強化ポイントを教えてください。
鈴木:店舗ですから、当然ながら売り上げを作ることも大切です。その意味では、ランハブがビジネスとしてすでに大きな成功を収めているかというと、まだそこまでではありません。ただ、コミュニティとのつながり、そこから生まれるクリエイティビティはランハブの大きな魅力。コミュニティからエネルギーをもらい、ニューバランスが彼らのやりたいことを実現できる環境を整えていけば、ビジネスは後からついてくると思っています。
ランハブに新しい人が入ってくる入り口となるイベントは、もっと増やしていきたいですね。既に集まっているコミュニティだけではなく、これまでランニングとつながりのなかった人にも、「こういう場所がある」「こんな楽しみ方がある」と知ってもらえる入り口を作る必要があります。
「生活の中にランニングを定着させる」
⎯⎯2025年11月には、原宿のフラッグシップストアもリニューアルしました。リニューアル以降の進捗は。
鈴木:かなり思い切ってリニューアルしましたが、中国からの訪日客がマーケット全体で減っている中でも、売り上げは悪くありません。特に1階の「ステージ」と呼ぶ売り場は、時期に合わせて野球、サッカー、バスケットボールなど打ち出しを大きく変えていて、かなりポジティブな反応が出ています。新しいお客さまとの接点です。





2025年12月にリニューアルオープンした旗艦店の「ニューバランス原宿」
Image by: New Balance
⎯⎯ランニングはいま、国内外でブーム化しています。ブームが過ぎ去ってしまうリスクはないのでしょうか。
鈴木:ランニングは、これまでにも何度かブームと言われたタイミングがありました。例えば2005年前後には、女性誌がランニングをファッションや美容の文脈でも盛んに取り上げた時期がありました。ただ、その後は盛り上がりは落ち着き、本当に走ることが好きな人だけが残った。特にコロナ禍直後には、各地のマラソン大会が集客に苦労するケースも見られました。そうした中で、ここ数年でランニングコミュニティが改めて活発になっていることは、メーカーとしてとてもうれしいことです。
これを単なるブームで終わらせないためには、「ランコミュニティが格好いいから」「流行っているから」だけではなく、自分の生活を有意義にしたり、ウェルビーイングを高めたりする手段としてランニングを定着させることが重要。そのためにも、Run Officeのように生活の中にランニングを置く取り組みが有効だと考えています。
⎯⎯ランニングが盛り上がっている要因として、“ソーシャルスポーツ”(スポーツを通したコミュニティ形成)の側面にも光が当たっています。
鈴木:少し極端な言い方かもしれませんが、「みんな孤独なんじゃないか」と思うことがあります。スポーツを通じて友達を作ること自体は昔からありましたが、以前はサッカーや野球のようなチームスポーツが中心でした。ランニングは個人スポーツなのに、人とつながることができる。しかも、チームスポーツのような強い連携はいらない。ものすごく仲が良いわけではなくても、「走る」という共通項だけで緩くつながることができます。そこが今の時代に合っているのではないでしょうか。
HYROXもそうですし、ピックルボールもそうですが、都市生活の中で取り組みやすく、それを介して人と緩くつながれるスポーツは、これからもいろいろな形で出てくると思います。特に夏の暑さの問題を考えると、時間や環境に左右されにくいスポーツや、室内で楽しめるスポーツへの需要も高まると思います。
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