機材や環境の発達により、1日で数百~数千曲がリリースされる昨今の音楽産業。歓迎すべきことではあるものの、その膨大すぎる量がゆえ自ら触手を伸ばすことを躊躇い、真に評価を受けるべきアーティストとの邂逅が消失し、気付けば過去のお気に入りばかりをリピート再生している......という状況に心当たりがある方に向け、月に1回“ファッションシーンとの親和性も高い”アップカミングなアーティストを紹介する連載【今月の必聴アーティスト】。(文:Internet BoyFriends)
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早耳な音楽フリークの方々にとっては既に知られた存在が登場するだろうが、復習も兼ねてファッション的新情報を得られるという心持ちで読み進めていただければ幸いだ。第15回は、第13回で紹介したプロデューサーでDJのケイトラナダ(Kaytranada)とのユニット「ケイトラミーネ(KAYTRAMINÉ)」を結成したアメリカ・ポートランド出身のラッパー アミーネ(Amine)についてお届け。
バスケ少年からラッパーに
アミーネことアダム・アミネ・ダニエル(Adam Aminé Daniel)は、1994年4月18日にアメリカ・オレゴン州のポートランドで生まれた。父親はエチオピア(注:東アフリカに位置し、北隣がエリトリア)からの移民で、母親はエリトリア(注:アフリカ大陸北東部に位置し、1993年エチオピアから独立)からの移民ということもあり、幼い頃は英語ではなくアムハラ語で育ったという。
学生の頃は、地元を本拠地とするNBAのポートランド・トレイルブレイザーズ(Portland Trail Blazers)でプレーすることを夢見てバスケットボールに勤しんでいたが、チームのスタメンから外されてしまい途方に暮れていたところ、よくライバル校のディスラップを友人に披露していたことから、2014年よりラッパーとしての活動を歩み始める。友人に楽曲をリツイートしてもらったり、街角にリリースを告知するポスターを貼ったりと、地元を中心とした草の根活動に奮闘。また、ミック・ケイプス(Mic Capes)やクール・ナッツ(Cool Nutz)ら地元の先輩ラッパーに直談判したコラボや前座での起用は全て断られてしまったが、自らイベントも企画するようになったことで、ポートランドでは期待の若手ラッパーとして認知されるようになっていった。それでも当時20歳のアミーネは、音楽で成功する将来に確信が持てなかったため、音楽やファッションなどのカルチャーニュースを扱うアメリカの人気メディア「コンプレックス(Complex)」でインターンとして働いていたそうだ。
キャリアを決定付けた楽曲「Caroline」
そして2016年、キャリアを決定付けた転機が訪れる。アウトキャスト(Outkast)の楽曲「Roses」にインスパイアされた「Caroline」という楽曲をリリースしたところ、その独特な浮遊感のあるフロウと中毒性の高いフックでジワジワと再生数を伸ばし、最終的に全米シングルチャートの11位にまで登り詰めたのだ。さらに、その人気から急遽制作したMVもすぐに1000万回再生を達成。全米に彼の名を轟かせ、これを機に彼は大手レーベル「リパブリック・レコード(Republic Records)」との契約を勝ち取った。なおこの頃、音楽活動に専念するためポートランド大学を中退している。
「Caroline」のMVは、アミーネ本人が学生ローンで資金を調達して制作されたのだが、「Let's get gory, like a Tarantino movie」というリリックと呼応するように、映画監督のクエンティン・タランティーノ(Quentin Tarantino)の代表作「パルプ・フィクション(Pulp Fiction)」のTシャツを着用。また、後述する“バナナ”を食べている点にも注目してほしい。
新人ラッパーの登竜門に選出され、人気を世界規模に
「Caroline」で一躍時の人となると、新人ラッパーの登竜門として知られるヒップホップ専門誌「XXL・マガジン(XXL Magazine)」の新人発掘企画「XXL・フレッシュマン・クラス(XXL Freshman Class)」の2017年版にも選出され、勢いそのままにデビューアルバム「Good For You」を2017年7月にリリース。タイ・ダラー・サイン(Ty Dolla $ign)やケラーニ(Kehlani)らが参加したこの作品は、アミーネらしさ全開の軽快なリリックとサウンド、カラフルかつユーモア溢れる世界観を世に知らしめ、USヒップホップシーンにおけるポジションを確立した。
その後、人気ラッパーの前座や音楽フェスに立て続けに呼ばれ、世界各国で場数を踏んだ経験を活かして2018年8月に3rdミックステープ「ONEPOINTFIVE」をリリースし、さらなるプロップスを獲得。また、“旬なラッパー枠”として映画「スパイダーマン: スパイダーバース」にも参加を果たし、その人気を世界規模とした。
ケイトラミーネの結成
2020年8月に待望の2ndアルバム「Limbo」を、その翌年に4thミックステープ「TWOPOINTFIVE」をリリースするなど、止まらない勢いを象徴する圧巻の制作スピードを見せていたアミーネだったが、2022年はソロ作品を一切発表せずファンを心配させていた。しかし、それはあるプロジェクトの準備のためだった──ケイトラナダとのユニット ケイトラミーネの結成である。
実は、2015年にアミーネがサウンドクラウド(SoundCloud)にアップした「La Dance」という楽曲(ストリーミングサービスでは未配信)をケイトラナダがプロデュースしているほか、アミーネが2020年にパンデミックで鬱を患った際には何よりもケイトラナダの存在が助けになったと語るほど、2人は昵懇(じっこん)の仲なのだ。だからこそケイトラミーネの1stアルバム「ケイトラミーネ」は、2人の阿吽の呼吸が感じられる秀逸な作品に仕上がっているので、ぜひとも聴いていただきたい。
シーンを代表するファッションアイコン
アミーネは、ポートランド大学でマーケティングを専攻していたが同時にグラフィックデザインも学んでいたため、自身でディレクションした「Caroline」のMVからも分かるように色使いのセンスが頭抜けている。それがファッションにも顕著に現れており、タイラー・ザ・クリエイター(Tyler, The Creator)とエイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)に並ぶファッションアイコンに推す声は多く、昨今のアウトドアトレンドをけん引する「アークテリクス(ARC'TERYX)」の着こなしは、彼がトリガーの1人と言っても過言ではない。実際、空音や18scottといった日本のラッパーは、彼がスタイル見本であることを公言している。
また地元ポートランドは、ラッパーの足元のユニフォームであるナイキのお膝元であるが、彼は断然「ニューバランス(New Balance)」派。デビュー当初から、「990v3」と「2002R」と「992」の3モデルを着用している姿が頻繁に目撃されている。そして先日、ついにコラボの夢が叶ったことを自身のインスタグラムで報告し、好物の“バナナ”に着想した「610」を披露していた。こちらは2023年中にリリースされるとのことなので、前々からファンだった方も、本稿を機に興味を持った方も、彼のSNSをフォローしておこう。
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