プラダ 2021年秋冬メンズコレクション
Image by: PRADA
ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズの協働による初のコレクションとなった2021年春夏は、ラフのグラフィックを長年にわたって手掛けてきたピーター・デ・ボッター(Peter de Potter)のアートワークを前面に押し出したこともあり、想像以上にラフ風味が強い印象を受けた。ピーターのグラフィックを封印した2021年秋冬メンズコレクション(メンズ単体の協業は初)は、2人の天才の強みが高い次元で融合している。
(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎)
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会場はミラノのプラダの複合施設、フォンダツィオーネ・プラダの半地下の部屋。紫のフェイクファーの壁とグリーンの大理石の床、真っ赤なフェイクファーの壁と黒の床、石膏の白壁に水色のフェイクファーの床、ピンク壁に白いフェイクファーの床の4つの部屋を、モデルが順に行き来する。この空間は建築家のレム・コルハース(Rem Koolhaas)と、彼の研究機関であるAMOの手によるもので、ショーの後にこれらのセットはアップサイクルされるという。
コレクションタイトルは「POSSIBLE FEELINGS(ポッシブル フィーリングス)」。2人はプレスリリースで「今回のコレクションは、親密で個人的な接触への願い、交流したい、関係を持ちたいという私たちの衝動を基本としています。すべての基礎となるのは個人、つまり人間の身体とその自由です」と説明している。
今シーズンのキーアイテムとなっているのが、ジャカードニットのボディスーツ。体にピタリと沿った"セカンドスキン"のようなシルエットは、ミリタリーのインナーのようでありクラシックなパジャマのようでもある。様々な色柄で提案されたこのボディスーツを、二の腕まで捲ったジャケットのインナーとして露出したり、トラウザーの裾から覗かせたり。上半身はカーディガンの形をしているので、インナーを挿せば外で着ることも可能で、コロナ禍ならではの"内外兼用着" の提案とも捉えられる。単なるリラックスウェアではなく家着をモードに昇華させていることに、2人のシニカルな視点を感じた。
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アウターで目立つのは、ボタンが不自然なくらい大きいダブルブレストのノーカラーコート。その上にちょこんと被せたような襟は、おそらく付け外しが可能になっているのだろう。ニットの内側が大胆に露出するパターンのモッズコートは、ボディスーツ、Vネックセーター、ニットコートの4つのニットの重ね着で提案。このアウターの内側を大胆に見せる手法は、2018年秋冬のラフ シモンズなどで見せてきたラフの十八番だ。いかにもラフらしいレザーのビッグシルエットのMA-1、バイアスカットされたベルベット調の太畝コーデュロイのコートは、ピンク、パープル、イエローといった華やかな色で提案している。
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小物類も捻りが効いている。レザーグローブには小さなポーチが付属。これにカードを入れておけば、お店のレジや電車での支払いがスマートになり、ウイルスとの接触も回避できそうだ。プラダを象徴する三角タグは、MA-1の袖のポーチになったり、ニットのボディスーツの背上に鎮座したり(素材はニット!)。このあたりの遊び心は、ラフ加入の大きなメリットと言えるだろう。
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靴は90年代後半のプラダを連想させる厚底のボリューミーなレザーシューズ一択。スクエアトゥのUチップは、往年のファンなら涙モノだろう。おむすび型のバックパックを、あえて脇に抱える持ち方も新鮮。演出面では、ボディースーツを着て踊るモデルと音の連動がエグいくらい素晴らしい。音楽は2021年春夏に引き続き、テクノ界の重鎮であるリッチー・ホウティン(Richie Hawtin)が手がけた。
ショーの後は、世界中のファッション学校の学生からの質問に2人が答える公開授業の時間。フィジカルのショーでは、ミウッチャは最後に少し顔を出すだけだから、こういう試みはデジタルならではの良さと言えるだろう。質問者に選ばれた学生の中から、未来のミウッチャやラフが生まれることを今から楽しみにしている。
文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧
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