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【あの人の東京1年目】エバース 佐々木隆史と上石神井

Image by: FASHIONSNAP

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【あの人の東京1年目】エバース 佐々木隆史と上石神井

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 地方出身の著名人たちが、上京当時を振り返る連載企画「あの人の東京1年目」。8人目は、2023年「M-1グランプリ」敗者復活、そして2024年「M-1グランプリ」決勝で大きな爪痕を残し、同大会のネクストチャンピオンの座に今最も近いと期待されるお笑いコンビ「エバース」の佐々木隆史さん。小学校から大学まで野球に打ち込み、高校時代は宮城県の強豪校でキャプテンを務めた学生時代から一転、大学卒業に合わせて上京しお笑いの道へ。上京当時によくネタ合わせをしていたという公園を舞台に語ってくれた言葉には、振るわない時期にも淡々と芯を持って積み上げ続けた、野球部時代から現在までに通じるストイックさが垣間見えました。上京して夢を追いかけた若き日の表現者たちは、新しい環境での挫折や苦悩をどのように乗り越えたのか? 夢追い人たちへ贈る、明日へのヒント。

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元芸人の不動産屋に勧められるがままに

 出身は宮城県登米市で、石ノ森章太郎さんと同じです。子どもの頃からずっとお笑いは好きでしたが、芸人になることは、大学3年生くらいのころからうっすらと考え始めました。大学は野球推薦で入学したので、大学でも野球部に入っていたんですが、あまり合わなくて、そのうち行かなくなりました。でもだからと言って別に他の大学のサークルに入るとか、そういうのは全くなくて。バイトするか、大学行くか、家にいるか。本当に暇な時間が多くて、そうした空いた時間にお笑いを見るようになりました。その時期にダイアンさんのラジオをよく聴いていて、「自分も(芸人に)なろうかな」と思い始めた感じです。あとは「にけつッ!!」もめっちゃ観てました。ゲオでDVDを片っ端から借りて。本当に暇だったので、家にいる時は借りてきたお笑いのDVDを観ながらゲームしたりとか、そんな感じでした。

 就職活動をみんなが始める時期に「芸人になりたいなぁ」と思っていたから、就活にもそんなに本気では取り組んでいなかったんです。そのうち4年生になり、周りはみんな就職先が決まったり内定をもらったりしている中でも、僕は特に何もせず。このまま行ったらもう「本当に芸人になるしかないな」って。どんどん現実味を帯びていったというか。

「ソロの取材?ほとんどないんじゃないですかね。(地元)宮城の新聞とかはたまにありますけど」(佐々木)

 NSCに入るために上京し、東京でアパートを探すために行った不動産屋で担当してくれた人が元芸人で、「芸人やるんだったら、西武新宿線沿いは(家賃が)安いし、新宿も1本で行ける」と薦められ、特に利便性などは考えず、とにかく何もわからなかったので、その人に言われるがまま決めました。上石神井では、家の近所の公園でよくネタ合わせをしていました。この公園はいつもそんなに人がいなかったから、やりやすくて。あとは、公園のすぐそばの「びっくりドンキー」で飯食って、そのままネタ合わせをしたりもしていました。

ネタ合わせをしていた公園。定位置は丸い背もたれの椅子。エバースのネタづくりは全て佐々木さんが担当している。


 大学時代から仙台で一人暮らしをしていたので、上京後の苦労はそこまで多くはなかったですが、やっぱり東京は大都会なので「すごく離れた地に来た」という感覚はありました。あとは、上京してすぐ、歌舞伎町の漫画喫茶でバイトをはじめて、思ったより、まあ当然なんですけど客層が悪くて、マジでダルかったですね……。

「お前が面白いのはわかったから、町田を面白くしろよ」

 NSCに入学してまず最初にあるネタ見せの授業には、授業の一環で行われる「相方探しの会」をきっかけに知り合った別の人とお試しでコンビを組んで出ました。その授業の中では、僕たちのコンビが一番ウケたと思ったんですが、その時の相方がその1回だけで「もう芸人を目指すのを辞める」と言い出して。でも「急に辞めるのは申し訳ないから、代わりに友達を紹介するよ」と言って、連れてこられたのが今の相方の町田(和樹)でした。同じネタ見せの授業の時に町田が組んでいたコンビは一番スベッていたので「うわ、一番スベってたヤツだ!」と思いました。その元相方に紹介されなかったら町田とは知り合いにもなっていなかったと思います。町田との漫才は自分たちでは面白いと思ってやっていたけど、NSC時代は全然評価されなくて、選抜クラスに選ばれたこともなかったし、同期にもろくに知られていなかったと思います。

結成当初のエバース(左:佐々木、右:町田)、相方の町田さんは神奈川県出身。

1年目の舞台の様子。

 3〜4年目くらいまでは、「こうやったらウケるんだ」というやり方がよくわからないままに、ただ闇雲にやっていました。でもある時、今でもお世話になってる作家の山田ナビスコさんから、「そのネタはツッコミが(相方の)町田じゃなくてもいい」って言われたんです。その時まで作っていたのは、どちらかというと僕の大喜利ボケというか、言ってしまえばツッコミが誰でも成立するネタだった。だから、「お前が面白いのはわかったから、町田を面白くしろよ」って。

 同時に「町田ってどういう時が一番面白いの」と聞かれて。それまでは考えたこともなかったんですけど、いじられたり、困っていたり、追い詰められていたりする時かなって考えるようになってから、結構大きくネタの作り方を変えました。そうしてイチから作り直したネタが一番ウケたんですよ。それまで結果を出していなかったので、「これで行こう」と。

4年目まで所属していたヨシモト∞ホール(現在は「渋谷よしもと漫才劇場」)。

 もともと今みたいな日常会話の延長線のようなしゃべくり漫才で、自分たちでは面白いと思ってやっていましたが、昔は「伝え方」が下手くそだったからお客さんに全然聞く耳を持ってもらえなかったんだと思います。例えば「ケンタウロス*」は、6年目か7年目くらいの時に作ったネタなんですけど、例えばあのネタを思いついたとして、以前だったら町田じゃなくて「僕がケンタウロスになる」と言う入りにしていたと思う。「交通費を浮かせたい」という理由が最初にあって、だから「お前をケンタウロスに改造するわ」と言うと、お客さんにとっても設定がわかりやすくなるし、町田のツッコミが熱を帯びるためには「自分が改造される」ってなった方が嫌がるだろうし。

*「交通費を無料にする方法」を見つけたと言う佐々木さん(ボケ)が、町田さん(ツッコミ)の下半身をケンタウロスにする手術をしようと説得する漫才。M-1グランプリ2024年決勝で披露した「桜の木の下」は、「末締めだろ」のツッコミも話題を集め、社会人にとって耳馴染みの良いワードや設定も笑いを誘う。「桜の木の下」はエバース公式YouTubeで、「ケンタウロス」はNetflixで配信中の「M-1グランプリ2023」の敗者復活戦で見ることができる。(2025年6月現在)

 ネタの考え方は日によります。なんとなく歩いていて思いついたり、テレビや動画を見て気になった単語があったらメモる。「気になった」というのは、本当に簡単なことで、たとえば日常生活の中で「忍者」という単語が目に入ってきて「忍者でネタを作ったことないな」と思ったら、メモっておいて後から見返して考えたりします。

 この間パン屋に行った時に、僕のひとり前のお客さんがおじさんだったんですけど、「〇〇で見て、めっちゃ美味しそうだったんで来たんですよ!」って店員さんに話しかけてて、おじさんの後にパンを買って僕も店を出たら、そのおじさんが店の外でパンを取り出して食べ始めていて、「そんなすぐに食いたかったんだ……」と思ったのは面白かったです。そのおじさんは、ふざけているわけじゃなくて、大真面目にマジで早くパンを食いたくて仕方なくて袋を開けたんでしょうけど、こっちからしたらちょっと面白いじゃないですか。家に帰ってから食えばいいのに、みたいな。そういう面白さはネタ作りにおいても意識しています。僕も町田も結構真面目に喋っているのに面白いというか。

 芸人になってからはどうしても、「自分が面白いと思うか」よりも「ウケているか」「ウケた方がいい」という芸人目線が入りそうになりますが、常に「学生時代のひとりのお笑い好きの自分がこのネタを見て、面白いと思うのかな」とは考えています。本当に感覚的な話ですが。


反面教師になった“野球部的”コミュニケーション

 僕は人見知りですが、仲の良い先輩・後輩芸人は比較的多いと思います。人間関係に関して気をつけているのは、特に後輩に対してはこちらから踏み込みすぎないこと。学生時代に野球部だったから特にかもしれませんが、後輩ってあんまり「嫌」って言えないじゃないですか。野球部の頃は遊んでいる時によく仲の良い後輩に対して「あいつ呼ぶか」とか言って電話したりして。そいつは遊んでる時はめっちゃ楽しそうに見えていたんですけど、連絡した時は電話に出ないで、次の日に「すいません、寝てました」とか言われるようになって、「あ、めんどくさいんだな」って気がつきました(笑)。先輩から呼び出されて、後輩が楽しそうにしていても、連絡くるのって基本だるいんだなってことを野球部で学んだので、芸人になってからは自分から後輩に連絡しなくなりました。でも後輩の方から連絡をもらったら、本当に行きたいんだなと思うので、飯にも行きますよ。

NSC東京校21期出身。今年で芸歴10年目。

 先輩に対しては、人によりますけど、相手にとって失礼にならない程度のボケを言う。自分が後輩にされたとしても、めっちゃ気を遣われるよりは、フランクなボケをされた方が心を開いてくれている感じがすると思うので。流石に初対面ではしませんけど、仕事とかライブとかでよく一緒になって、ある程度世間話ができるような仲になったら、そういう踏み込み方をする時もありますね。

気楽にやっている方が目標は見えてくる

 今でも新ネタライブを毎月やっていて、常に「新ネタどうしよう」という頭ではあるので、野球も好きですが、それでも一日の大半を占めるような趣味は特になくて、お笑いのことを考えている時間が一番多いかもしれません。

 「若手芸人は基本的にネタを作った方がいい」という風習もありますし、暇ですし、単純に仕事もなかったので、新ネタを作るしか結果を出す方法がなくて、駆け出しの頃はとりあえずガムシャラにネタを作っていました。今は当時と比べるとペースは落ちていますが、「今年、まだ1本もいいネタができてないな」と思うとちょっと焦ります。去年や一昨年の自分よりネタを作る能力が落ちてるのかなと思っちゃうんで、自分を安心させるため、みたいな感覚かもしれません。

 新しい環境って、最初から頑張らなきゃとか、結果を出さなきゃとか、まだ頑張る方法すらわかっていないのに無理をして、憂鬱になったり、仕事を辞めたくなったりすることもあるじゃないですか。でも、最初はとりあえず気楽にやってるうちに、何となく自分に向いているものとか、目標とか、ここを頑張らなきゃいけないんだっていうのが見えてくるから。肩肘張らずにやった方がいいなって思いますね。

お笑いと野球以外だと、今興味があるのはガールズグループの「HANA」。オーディション番組を初めて観てハマっている。「女の子のグループですけどかっこいいですよね。YouTubeとか、動画とかめっちゃ見てます」(佐々木)

最終更新日:

FASHIONSNAP 編集記者

橋本知佳子

Chikako Hashimoto

東京都出身。映画「下妻物語」、雑誌「装苑」「Zipper」の影響でファッションやものづくりに関心を持ち、美術大学でテキスタイルを専攻。大手印刷会社の企画職を経て、2023年に株式会社レコオーランドに入社。若手クリエイターの発掘、トレンド発信などのコンテンツ制作に携わる。

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