「図書館でショーを開くことは夢でした」——クリエイティブ ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)は、「ヴァレンティノ(VALENTINO)」2027年春夏コレクションの舞台裏でそう語った。会場となったのは、フランス初の公共図書館として歴史のある、サント=ジュヌヴィエーヴ図書館。コレクションのテーマは「ANTIBIBLIOTECA(=アンチライブラリー)」だ。決して図書館に反するといった意味ではなく、未読の本の集合体、いわゆる"積ん読"を指している。まだ知らないことや、これから広がる可能性をたたえた概念であり、ミケーレはそれを、まだ着られていない服が秘める価値に重ねた。
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架空の本と、未読の本
ショーの招待状として届いたのは、一冊の薄く汚れた冊子。表紙にはテーマと、「catalogue of the unread(=未読のカタログ)」とが記され、「A fashion show dedicated to what remains possible(=残された可能性に捧げるファッションショー)」の一文が添えられている。中には68冊の本のリストが並ぶが、全て人工知能によって作られた架空の本だという。その仕掛けは、まだ見ぬ物語を想像するという主題を伝えていた。

ショーの招待状

さらに招待客には、新しい本、または自身の蔵書から一冊を持参するよう呼びかけられた。集まった本は、協力団体を通じて都市の公共図書館に寄贈されるという。日本から招待されたブランドアンバサダーの道枝駿佑は、「一番好きな漫画本」だという「ドラゴンボール 1巻(DRAGON BALL 1)」を、日本からパリに持ち込んだ。











"反図書館"とファッションを重ねて
ミケーレが着想源としたのは、ナシーム・ニコラス・タレブが『ブラック・スワン』で紹介した「アンチライブラリー」の考え方。ウンベルト・エーコの膨大な蔵書をめぐるこの概念では、読了した本よりも、まだ読んでいない本が、これから知りうることの広がりを示す。ミケーレはその発想を服に重ね、「ランウェイを一度だけ通り過ぎるもの、イメージの中に残るもの、ワードローブに収まり、ほとんど着られないまま大切にされるものなど、それぞれ異なる運命を辿る」とコレクションノートに記している。



ランウェイには、サテンのビスチェに膝丈のスカートを合わせたミニマルな装いにはじまり、レースや刺繍のブラウス、羽根やフリンジをあしらったスカート、そしてボウやプリーツ加工のフリルといった装飾の華やかなドレスまで、多彩に登場。深く開いたネックラインには、ゴールドやパールの大ぶりなネックレスを合わせた。






メンズウェアでは、上下が異なる素材のテーラードスタイルをベースに、袖のみにスパングルを飾ったシャツをずらして着用したり、ウエストからボクサーショーツをのぞかせるといった崩しを加えた。チュールのケープに包まれたルックは、クローゼットに仕舞われたままの衣服を想起させる。華やかなスタイルに、2027年クルーズコレクションに登場した「VILLAIN TEEN(=悪役の十代)」のフレーズを刺繍したキャップを合わせるなど、ユニークな掛け合わせも特徴だ。






「服には人生を変えていく力がある」
ミケーレは、創設者ヴァレンティノ・ガラヴァーニ(Valentino Garavani)のコードを受け継ぎながら、「今の時代におけるヴァレンティノの考えを届けること」を使命としている。「ドレスは本のようなもの。ファッションについて語るための、私なりの方法です」と、ショーの後に語った。それは整った美ではなく、「完璧な場所に、あえて違ったものを置く」ことから、エレガンスを見出したいという。



メンズウェアについては、父や祖父から受け継いだようなエレガンスを「ひっくり返した形」で表現したと振り返る。複雑にするのではなく、「本当に好きなものを、これまでとは違うやり方で遊ぶ」というピュアな感覚が込められている。






「深い意味が必要です。そうでなければ、ただ布を切るだけになってしまう」。豊かな色彩とフォルム、クリエイティビティを注いだ一着は意味を持ち、着る人の生き方まで想像させる。「服には、身体や人生を変えていく力がある」とミケーレ。過去と今、架空の世界と現実が交差する図書館で、コレクションという創造の物語の一章を開いて見せた。

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