
Image by: Maison Margiela
「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」は、クリエイティブディレクターのグレン・マーティンス(Glenn Martens)による3シーズン目のプレタポルテとなる2027年春夏コレクションを、パリの歴史的なコンサートホール、エリゼ・モンマルトル(Élysée Montmartre)で発表した。「HARD and SOFT」をテーマに、硬さと柔らかさの対比を探求。時が経過して萎れた花々がショー会場に飾られ、マルタン・マルジェラの初期の発想やメゾンの歴史を手がかりに、ラディカルな再解釈を試みた。
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会場はラフ・シモンズへのオマージュ
ショー会場に入り、まず目に飛び込んできたのは壁一面を覆う花々。チープなラッピングの花束、土に植えられたもの、生花が抜き取られた後のようなフローラルフォーム、箱に詰められたもの、そしてドライフラワーまで、さまざまな状態の花が並び、時間の経過を感じさせた。


セットを手がけたのは、マルタン・マルジェラやグレン・マーティンスと同じくベルギー出身のフローラルアーティスト、マーク・コル(Mark Colle)。壁一面に花を飾った演出は、ラフ・シモンズ(Raf Simons)が2012年に「ディオール(Dior)」で発表したオートクチュールのデビューショーへのオマージュだという(ドキュメンタリー映画「ディオールと私」でも印象的に描かれている)。
そこには、ベルギーのファッションをめぐる系譜も重なる。マルジェラとマーティンスはともにアントワープ王立芸術アカデミーの卒業生。ラフ・シモンズもまた、マルジェラのショーを見てデザイナーを志したことで知られ、過去には自身のブランドでマルタンへのオマージュを捧げている。
なぜマーティンスがシモンズを参照したのか、その明確な理由は示されていないが、マーティンスが学生だった頃には、シモンズはすでにベルギーを代表するデザイナーの一人として、強い存在感を放っており、その姿を少なからず意識していたのではないだろうか。今回の演出からは、そうしたクリエイションの記憶や影響関係も読み取れる。


メゾンによれば、その根底にあるのは「複製(replication)」という考えだ。過去をそのまま再現するのではなく、記憶やアーカイヴを現在の視点で別の形へと変換する。花々はコレクションのフローラルプリントとも呼応し、ランウェイ全体を包み込んだ。
メゾンの分業に着目
コレクションの着想源となったのは、パリのクチュールアトリエに受け継がれてきた分業の伝統。一般的に、緻密なテーラリングを担う「タイユール」と、シフォンなどの柔らかな素材を用いたドレスメイキングやドレーピングを担う「フルー」に役割が分かれている。マーティンスはこの二つの技法をそれぞれ“ハード”と“ソフト”に見立て、一着の中で掛け合わせた(偶然にも、ジョナサン・アンダーソンによる「ディオール(Dior)」も、今季この分業に着目したコレクションを発表している)。

Image by: Maison Margiela

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ショーノートの記された「私たちの使命は、創設以来、ファッションの歴史そのもの、そしてそれを支えてきたシステムをラディカルに再解釈することにあります」という言葉通り、クチュールの技法や分業のあり方を、新たな構造やシルエットへと置き換える試みが見られた。
硬い構造が生む、柔らかなシルエット
序盤のトレンチコートは、ウエストに硬質なパネルを仕込み、コルセットのような張りを生み出した。ジャージートップの胸元には、湾曲したパネルで“バルコニー”をつくり、ドレープを形成。背中のタイは、メゾンのスタッフが着る白衣「ブルーズ・ブランシュ」の紐を思わせる。硬い構造によって、柔らかな布に流れるような動きを与えている。

Image by: Maison Margiela

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テーラードジャケットには、マーティンスがメゾンでのデビューコレクションから続けている、襟や前身頃を折り込むアイデアを採用。ボタン部分を内側へ折り込むことでノーカラーのように見せながら、広げて着ても折り目が新たなラインとして残る。
花や鳥のモチーフをひとひねり
会場を埋め尽くした花々と呼応し、レトロな趣のフローラルプリントが今季を象徴する。ジャカードやプリントだけでなく、樹脂やフォイルで表面を硬化させたり、柔らかなライニングと組み合わせたりと、素材の扱いにも変化をつけた。

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Image by: Maison Margiela
深いカウルドレープのドレスには、スプレーペイントで描いた鷲や鶴をプリント。ドレープを閉じた状態で描いているため、開くと絵が分断されて見える仕掛けだ。鳥は、マーティンスがメゾンでの初コレクションから取り入れてきたモチーフでもある。

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「MARGIELA」のロゴをTシャツの内側に反転してプリントし、表から生地越しに正しく読めるようにしたアイテムや、フィッシュネットをまとったように見えるドレスやTシャツも、実はプリントによるトロンプルイユ(だまし絵)。見慣れたものを少しずらして見せる、メゾンらしいウィットが効いている。
時の経過を刻んだ裏地
メゾンが長く用いてきたライニング(裏地)には、新たなアレンジを加わった。ライニングで仕立てたパンツには着用ジワのような痕跡を残し、誰かが着ていた時間そのものをデザインに取り込む。フォイル加工で表面を硬化させたドレスでは、裏地特有の柔らかさとのコントラストも際立たせた。

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前後を反転して着るアイデアを反映。背中の開いたドレスを逆向きに着用し、開いた部分をフロントで再びドレープすることで、同じ一着に異なる表情を生み出した。

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脱構築の美学
割れた皿やワインのコルクなど、創業者のマルタンが日用品や蚤の市で見つけたものを服へと転換した発想も引き継がれている。ショー終盤には、ティーポットや皿、スプーンといったシルバーウェアを平らに打ち延ばし、ボディの形に成形したピースが目を引いた。白いノースリーブドレスの上に重ね、究極の“ハード”を表現した。

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フローラルプリントを樹脂で覆った後にあえて割れを生じさせたスカートや、プラスチック加工によってひび割れを生んだドレスには、完成形を崩すことで新たな表情を引き出す、メゾンらしい脱構築の美学が感じられた。
ウィットに溢れるアクセサリー
アクセサリーにも、“ハード”と“ソフト”の対比が見られる。新作バッグ「ゴースト(Ghost)」は、ブリーフケースやバニティケースなどクラシックなバッグの硬い構造を取り除き、柔らかなレザーで再構築。アイコンバッグ「5AC」には、よりくったりとしたしなやかなフォルムの新たに加わった。古いパーティーバッグに着想を得たという、リングに指を通して持つシルバーのバッグなども発表。

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フットウェアは「ヒールレス」シリーズを軸に、オープントゥブーツやパンプス、ローファーなどをラインアップ。パーティーグッズの紐をヒントにしたカラフルなレザーコードを束ねたストラップの新作ミュール「スライド」や、ギャザー素材でアーカイヴを再解釈した「タビ」のヒールクロッグも登場した。

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ジュエリーでは、メッシュで包んだチェーンや、ネットに捕らえられたようなクリスタル、メゾンの4本ステッチで縁取ったグリッター入りのペンダントなどがラインナップ。服にも用いられたネットのモチーフが、アクセサリーにも広がっている。

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本格始動はここから
今季「ディーゼル(DIESEL)」でのラストショーを終え、いよいよマルジェラでの仕事に専念できる環境が整ったマーティンス。裏地を表に出す、ボタン部分を折り込む、ドレスを前後逆に着るといった手法からは、マルタンの初期のアイデアを参照しながら、新たな解釈を加えようとする試みが見て取れる。

Image by: Maison Margiela

Image by: Maison Margiela
ベルギーのデザイナーらしいシュールなひねりは健在。一方で、既視感を超える新しさや、心を強く動かす美しさには、まだ伸びしろを感じさせる部分もある。メゾンの歴史と自らの感性のバランスを、まさに今チューニングしている段階なのだろう。マーティンスによるメゾン マルジェラの次章は、これから本格的に動き出しそうだ。
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