
「グッチ(GUCCI)」が、デムナ(Demna)による2027年春夏コレクション「The Store Show」を発表した。デムナ自身が、「グッチに対する個人的なヴィジョンを初めて完全な形で表現した」と語る今季は、就任後1年間をかけて向き合ってきた「グッチとは何か」への答えを提示するシーズンとなった。
ADVERTISING
グッチという「場所」の原点
その答えの一つが、グッチを単なるブランドではなく、異なる人物や価値観が共存する「場所」として捉えることだ。着想の根底には、創業者グッチオ・グッチ(Guccio Gucci)が若き日に働いたロンドンのサヴォイ・ホテルがある。さまざまな階層や背景を持つ人々が行き交ったホテルのロビーになぞらえ、現代のグッチもまた、貴族的な世界(アリストクラシー)とポップカルチャー、格式と官能性、ヘリテージと大衆性が交わる空間として描いた。そこには、貴族からインフルエンサー、ラッパー、新興富裕層まで、異なる顧客像が内包される。
そして、さまざまな顧客が集い、ブランドの世界観を最も直接的に伝えられる場所として選ばれたのが「ブティック」だ。会場には、今後のショップコンセプトに先行した店舗空間が何部屋にも連なって出現。ラックや棚には商品が並び、実際の店舗スタッフも参加した。窓の外には街を行き交う人々や、日中から夕刻へと移ろう光、晴れ間や通り雨といった一日の風景が投影され、店舗の外側に広がる日常まで含めて再現。観客を新たなグッチの世界へ引き込む没入的な演出となった。










Image by: GUCCI
多様な顧客像を映すワードローブ
コレクションでは、一つの明確な人物像に集約するのではなく、多様な「グッチ像」を連続して描写。古巣の「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や、約1年前に発表したファーストコレクションでも用いた“キャラクター設定”で、「反逆的なアリストクラート」「スノッブ」「エキセントリック」といった人物像を浮かび上がらせた。


店舗の売り場を分けるように、序盤のメンズと後半のウィメンズによる2部構成で展開。クラシックなワードローブにスポーティな要素を重ねながら、今シーズンはメンズ、ウィメンズともにラグビーシャツがキーアイテムとして登場した。シャツと合わせたレイヤードスタイルのほか、ブレザーやパフ状に膨らんだボンバージャケットといったアウターと合わせたり、ウィメンズではタータンチェックのキルトスカート、大ぶりのホースビットやチェーンを重ねたスタイリングで、育ちの良さを思わせるプレッピーなコードにデムナらしい反抗的なムードを加えている。









そのほか、メンズではシワ加工が施されたシャツやデニムシャツ、ジップアップのスウェットやフーディなどのデイリーウェアが多く登場。ウィメンズでは、乗馬服に着想したブルジョワ的な装いに加え、パゴダショルダーを用いたシャープなテーラードなどを展開し、世代問わずさまざまな顧客像を描く。これまで以上に実際に人が着る姿を想像できる、リアルなワードローブの印象を強く残した。







「売ること」もヴィジョンの一部
そして今回、無視できないのが明確な商業性だ。そもそもショーの舞台が「ブティック」であること自体、服を最終的に顧客へ届ける場所として認識させる試みでもあり、ダイレクトなメッセージでもある。日常のワードローブに取り入れやすいものから、ボリュームのあるアウターやイブニングドレスまで、異なる顧客のニーズに応える商品が一堂に並ぶ。ショーと店頭をほぼ地続きのものとして見せ、コレクション自体が売り場の延長のようにも映る。
現にウィメンズの冒頭にモデルが携えていたのは「オフィディア」や「GGマーモント」といった、いわゆる"コマーシャルライン"の定番バッグ。そのほか今シーズンは「ホースビット」の装飾が大小問わずコートやニット、ベルトなどにも多用され、グッチのコードをわかりやすい形で組み込んだ。

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

Image by: ©Launchmetrics Spotlight
ただし、単に「売れるもの」を揃えただけではない。デムナは、洗練されたブルジョワの品格に、エキセントリックさや危うさ、官能性が加わったときにこそ、記憶に残るグッチが生まれてきたと捉えている。その考えを反映するように、マキシサイズのホースビットモチーフや、ホースビットの3連ベルトといった過剰なディテールやバランスの崩しが加えられ、ランジェリーにはボリュームのあるアウターを重ねるなど、デムナが解釈するグッチらしいアンバランスさを生み出した。
終盤には、身体のラインに沿う流麗なイブニングドレスが続き、グッチがトム・フォード期の1990年代に築いた官能的なグラマーにも回帰。フィナーレでは、片方の肩から流れるドレープをティアドロップ型のメタルウェイトの重さによって固定した「グラビティドレス」が登場した。重力そのものを構造に取り込むことで生まれるシルエットは、イタリアングラマーを象徴する一着となった。

Image by: GUCCI
一つではない「グッチらしさ」
「The Store Show」に登場した人物像も、着る服も、決して一様ではない。ブルジョワも、プレッピーも、グラマーも、ストリートも、スタイルとして一つの店舗の中に並べられる。そして、実際に商品を選ぶ顧客がその中から自分のグッチを探し、見つけていく。デムナが言う「誰もが自分のなりたい自分になれる場所」というヴィジョンは、店舗という極めて商業的な場所を舞台にしたことで、より具体的な形となって提示された。
ここ数年、売上をめぐるさまざまな話題が取り沙汰されるなかで、その現実すらブランドのヴィジョンに取り込み、あえて「店」をショーの主役に据えたことは、どこかデムナらしいアイロニーを含んだアンサーとも受け取れる。グッチである以上、避けては通れない「売ること」という使命を正面から引き受けるという覚悟の表れでもあり、ひとつのステイトメントのようでもあった。就任から1年。デムナ自身の手で描くグッチが、本格的に始まった。

Image by: ©Launchmetrics Spotlight
最終更新日:
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【注目コレクション】の過去記事
RELATED ARTICLE















