「ストリートウエアの本質が失われている」90年生まれの伊デザイナーが考える今

デザイナーのジャンフランコ・ヴィレガス Photo by: FASHIONSNAP

 「IT'S A STRUGGLE EVERYDAY(=毎日が闘いだ)」「DON'T BELIEVE THE HYPE(=ハイプを信じるな)」「WE GOT SOUL(=俺たちにはソウルがある)」......7月中旬の夜、ソウルフルなメッセージが表参道のショップ「アディッション アデライデ(ADDITION ADELAIDE)」の店内に書き殴られた。多くの観衆を前にライブペインティングを披露したのは、「セルフメイド バイ ジャンフランコ ヴィレガス(SELF MADE BY GIANFRANCO VILLEGAS)」のデザイナー ジャンフランコ・ヴィレガスだ。拠点は欧州だが、立ち上げから数年で日本にもファンが多い。フィリピンとイタリアをルーツに持つ異端児が熱いメッセージに込めた思いとは。

【ジャンフランコ・ヴィレガス】
1990年生まれ。フィリピン人の親のもとイタリアのフィレンツェで生まれ育つ。2013年に伊名門ファッション校ポリモーダ(Polimoda)を卒業。2014年に立ち上げた自身のブランド「セルフメイド」で制作活動を行う傍ら「ラコステ ライブ(LACOSTE L!VE)」や「ダミール ドマ(DAMIR DOMA)」で経験を積み、昨年9月に独立。メッセージを大胆な刺繍で施したアイテムが人気で、国内では「アディッション アデライデ」や「ロイヤルフラッシュ」などで取り扱いがある。今年1月に2017年秋冬コレクションを初めてパリで発表し、6月にはPITTI IMAGINE UOMOが主催する「WHO IS ON NEXT?」のファイナリストにノミネートされるなど世界的に認知を広げている。

◾️拠点はイタリア、メインマーケットは日本

ー 今回は初来日とのことですが、日本では早い時期から展開していますね。

 日本との繋がりはポリモーダの卒業前からですね。学校のアートプロジェクトで制作したフィルムをネットで公開したところ、それを見たアディッション アデライデのショールーム「THE WALL」のチームが連絡をくれて。何かできないか、という話からセルフメイドとして服の販売が決まったんです。

ー 日本のショールームがきっかけになったんですね。

 でも当初は、自分にとってセルフメイドのクリエーションは日記のようなもので、あくまでもサイドプロジェクトでした。昨夏に独立してからセルフメイドに専念するようになって、今年の1月にパリメンズウィークでプレゼンテーションを行ったので、本格的な世界展開は今年から。中でも日本は数年前から取り扱いがあるメインマーケットになりますね。

ー 殴り書きのような字体の刺繍がインパクトあります。

 セルフメイドは自分の日記のようなものなので、それを刺繍という形で表現しています。毎シーズン作っている刺繍Tシャツは、その時のトピックに沿った言葉を刺繍していますね。例えば「YOU'RE MY HERO」と名付けた2015年秋冬コレクションは母に捧げたコレクションなので、母との関係性を表した言葉を多く刺繍したり。

ー パーソナルな経験を反映しているんですね。

 着想源の90%は、自分の人生や過去、感情からきているもので、残りの10%がビンテージやファッションに関するリサーチ、そして個人的にも興味があるコンテンポラリーアートから。いつもメモ帳を持ち歩いて感情を書き込んでいて、制作過程では写真や日記を振り返ることも多いですね。

ー ポエティックで強い言葉が多いようです。

 ネガティブな感情から着想することが多いからかもしれません。そっちの方がよりエモーショナルじゃないですか。僕はシングルマザーの母に育てられて、14歳のころからバイトで自分の学費を稼いだりしていたのですが、頑張ったことや苦労した思い出にインスパイアされることが多いんです。楽しい夏休みの思い出、とかよりも。その頃から継続してきた、自分の努力で一からモノを作り上げる姿勢は「SELF MADE(=自力で作り上げた/自力で出世した)」というブランド名にも繋がっています。

セルフメイドの刺繍Tシャツ


ー 刺繍にも特徴がありますね。

 服を通じて自分の感情を表現する上で、単純にTシャツにプリントするよりもより伝わりやすい方法が他にないか探して、刺繍にたどり着きました。イタリアで特殊な刺繍ができる職人を見つけて、彼女の手法と僕のやり方を掛け合わせて今の形に落ち着いたんです。彼女は40年間も独自の手法で刺繍をしていたので、互いの考えを取り入れた今のスタイルになるなでには少し時間がかかりましたね。

ー 全てイタリア製ですか?

 そうです。僕自身イタリアで育ち、高品質なクラフトマンシップと慣れ親しんで育ってきたので。叔母がトレンチコートで有名なイタリアのブランド「Allegri」のオーナー家族のもとでクリーナーとして働いていて、5歳くらいの頃から彼らが工場に連れいってくれたり。ローカルのクラフトマンシップを守ることもブランドの目的のひとつで、イタリア製には今後もこだわっていきたいと思っています。

◾️「ストリートウエアの本質」とは

ー 6月にパリで発表した2018年春夏コレクションのテーマは「WE GOT SOUL(=僕たちにはソウルがある)」でした。

 セルフメイドではクラフトマンシップを大事にしているので、ソウル(=魂)を込めたアイテムを作っているという思いを込めて制作しました。「DON'T BELIEVE THE HYPE(=ハイプを信じるな)」というメッセージも込めているんです。

パリで発表した2018年春夏コレクション


ー "ハイプ"とは?

 パリのショールームにいると、バイヤーから有名人で誰が着たか、インスタのフォロワー数は何人か、なんてことばかり聞かれて。それに、ストリートウエアはそもそもヒップホップカルチャーありきで発展してきたのに、最近は「売れる」という理由だけでカルチャーに精通してなくても簡単に手を出す人が多い。ストリートウエアの本質が失われてきている気がするんです。実際にスクリーンプリントしただけのカットソーでも、デザイナーがスターと友達だという理由で完売したり、かなり高額なケースもある。みんな"ハイプ(hype=熱狂)"にとらわれ過ぎているんだと思います。

ー ストリートカルチャーがメインストリームになりすぎたのでしょうか?

 残念ながらそうですね。インスタグラムの影響は大きいと思います。"クール"な存在でいることが何より大事で、デザインのディテール云々ではなく「いいね」がどれたけついたかが重要。タグがなければどのブランドのアイテムかわからないようなものも多いですよね。

ー そういったブランドとセルフメイドの違いは?

 ハンドクラフトの要素を取り入れたラグジュアリーなアプローチだと思います。それと、僕のルーツでもあるフィリピンではヒップホップをはじめアメリカのカルチャーが浸透していて、幼少期からアメリカのフィルターを通したフィリピンのストリートカルチャーに触れて育ったというバックグラウンド。そういったフィリピンの独特なストリートカルチャーに、イタリアならではの高品質の素材やクラフトマンシップを掛け合わせています。セルフメイドのアイテムを写真で見ただけだと違いがわからなくても、実際に手に取るとクラフトマンシップへのこだわりの違いに気づいてもらえるはずです。

ー 実際に日本に来てみて、どんな印象ですか?

 日本人は繊細で、好きなものや情熱に純粋な人が多いと感じました。だから、エモーショナルなメッセージに共感してくれているのかもしれません。それと、日本のようにデザイナーが無名だとしてもプロダクトさえ気に入れば買ってくれる層がいる市場というのは、とても珍しいんですよ。ブランド名やタグとかは関係なく、自分が共感できるものへの情熱を持つことは素晴らしいと思います。

ー これからもチャレンジは続きますか?

 「諦めるのは容易すぎる(=It's too easy to give up)」が人生のモットーなんです。個人的な目標としては、毎日ベストを尽くして、ブランドが周りの人と一緒に成長すること。強い意志と向上心を持ちながら、謙虚でいることも大切ですね。僕はドリーマーでもありますが、現実的でもあるんです。

◾️ SELF MADE BY GIANFRANCO VILLEGAS:公式サイト


(聞き手:谷 桃子)