タイやインドネシア、ベトナムといった東南アジアでの新型コロナウイルス感染拡大の余波が、日本のファッション業界に及んでいる。現地のロックダウンに伴う工場の稼働停止によって、衣類などの生産数が激減。特に東南アジアで生産されることが多い、スニーカーやバッグは関係者から「来年にはほとんど商品がない状態になるのではないか」といった声も挙がっており、アトモスを運営するテクストトレーディングカンパニーの代表 本明秀文(ほんみょうひでふみ)氏によると、来年発売する予定の商品についてメーカー側から3割程度入荷数を減らすといった連絡も届いているという。
インドネシアは、日本でロックダウンにあたるPPKMが7月に発令。当初、食品購入のための外出のみが許可されるレベル4を実施していたが、9月から出社制限を30%程度まで緩和し、ショッピングモールなどが営業を再開するレベル3まで段階的に引き下げた。それに伴い一部製造工場が稼働を再開するも、出社制限の影響に加えて、工場内でクラスターが発生するなど、厳しい状態が続いている。アジアファッションコンサルティングで、インドネシアを拠点に活動する横堀良男(よこぼりよしお)氏によると、インドネシア国内で商品の納期遅れの事例はあったが、通年で高温多湿の気候であることから「インドネシアや台湾など季節感のない地域のショップは納期遅れに関して問題視していないことが多い」という。しかし、気温や気候の変化が激しい日本では納期遅れは商機を逃すこととなるため、大きなダメージとなることが予想される。
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タイでは7月から8月末まで首都バンコクを中心にロックダウンを発令。行動制限は9月から段階的に緩和され、感染者数は減少傾向にある。バンコクのセレクトショップ「オニオン(Onion)」でウィメンズバイヤーを務めるKasara Nandasutaは、「ロックダウンなどによって営業できない時期があったが、多くの企業のオーナーが解決策を模索したことでオンラインでの販売が中心となり、オニオンでも前年から売上を落とすことなく推移できた」とコメント。一方で、オニオンではバンコクで生産していたオリジナルブランドの展開を停止。工場の稼働をはじめ、市場が安定した際に再開させる予定だといい、軽微ながらもパンデミックの影響があると話す。
世界貿易機関のデータで、2020年のアパレル輸出額が約3兆1600億円で世界2位のベトナムは、ホーチミンを中心に厳しい外出規制が行われ、一部エリアを除き食料品の買い出しでさえ外出が許されない状況が続いていた。リクルートグループ海外法人に所属し、ベトナムのアパレル企業で約12年間勤務した経験を持つベトナム在住20年以上の泥谷梢(ひじやこずえ)氏によるとドンナイ省やビンズン省にファッション産業の工場が集中しており、ビンズン省はホーチミンの次に感染者が多い都市だという。7月から通勤の移動が制限されていたため、製造業では「労・食・住」を工場内で行うなどのルールを順守した場合のみ稼働が許されるといった状態が続いているが、「『労・食・住』が施設内で行えない工場は休業し、稼働している工場でも30〜50%の稼働率の企業が多い。稼働している場合は優先的なワクチン接種や定期的な感染テストが義務となっているが、感染テストなどの費用が企業負担のため、コスト面で稼働を躊躇している企業もある」と説明する。また、大手ブランドのOEMを請け負う生産工場でクラスターが発生し、稼働停止に追い込まれた事例をはじめ、省をまたぐ移動の制限から新たな資材の入荷や出荷が思うように行えず、ロジスティックに大きな影響が出ているという。現に「ユニクロ(UNIQLO)」が一部商品の販売を延期したことをはじめ、古巣マンチェスター・ユナイテッドFCへ移籍したクリスティアーノ・ロナウドの新ユニフォームの生産が追いつかず、ファンの需要に応えられていないことなど、ビジネスチャンスを逃す企業も出てきている。10月1日から段階的に規制を緩和しており、製造業でも80%の稼働へ引き上げることを目指して生産を再開しつつはあるが、厳しい規制によって帰郷した労働者も多いため、「今後は工場ワーカーを集めることが課題になるだろう」と泥谷氏は解説する。
こういった事例を受け、アトモスの本明氏は「今年のクリスマス商戦頃から在庫不足が顕著に現れると思う」とし、現在は来年以降の在庫集めに注力していると話す。また、一部商品の販売を延期したユニクロでは、東南アジアでの感染が拡大し始めた夏頃からベトナムにおける生産の一部の取引先工場をロックダウンの対象から外れている別の国や地域に一時的に振り変えるなどの対策を取っていたという。緊急事態宣言に伴う休業や時短営業によって大きな影響を受けてきたアパレル業界。日本国内は9月30日に緊急事態宣言が解除されたが、まだまだ課題が山積されている。
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